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第一幕 第二話 この世界で盗賊は不遇職!?
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「お客様、申し訳ありませんが冒険者になられるのはお止めになった方がよろしいと思います。」
・・・・・へっ?
頭にはクエスチョンマークが乱舞している
「えーと、何故でしょう?」
そう聞くと、眼鏡の女性は溜息を一つ吐き事情を話し始めた
「この盗賊という職業は、適正職業の中でも基本とされている八個の内の一つとされています。ですがここ百年程でその数は激減し、ここ十年では一人も出ておりません。十年もあれば冒険者を、取り巻く環境も変わります。盗賊の基本スキルとしては『解錠』、『罠看破』などがありますがこのスキルも経験を積めば例え戦士の適正職業の方でも覚える事が可能です。その為数の減少と共に冒険者の皆様方は殆どの方がお持ちになっております。
それに大変言いづらいことなのですが、スキルが簡単に取得できる為「盗賊」という適正職業は、ハズレという認識が冒険者方の間で共通認識として存在しております。
冒険者というものはランクが上がる程個人ではなく多人数での連携などが必要となります、ですがその認識により「盗賊」の適正職業の方を誰もパーティに入れてくれる人は恐らくいらっしゃらないと思います。」
「は、はぁ。」
かなりの長台詞なのに一呼吸で言い切った女性の圧力に押されてしまう
「そのような事情もあり、パーティに入れないので個人でやるしかない、ですが「盗賊」の職業を得ても上がる能力はたかがしれている、かといって個人で出来る依頼は報酬が少ない、なら馬鹿正直に冒険者をやるより貴族でも襲って金品や身代金を頂いたほうがいいという方が三十年前に同じ境遇の方々を集め強盗団を結成してしまったのです。」
「強盗団?」
「はい、その強盗団は十年程で壊滅しましたが、十年の間にかなりの貴族の方々や商隊が強奪、もしくは殺害されてしまったため盗賊=悪党みたいな図式が出来てしまっているのです。そしてそれは、当然平民の方々の中でも広く知れ渡っています。「盗賊」の職業持ちというだけで攻撃してくるような輩も実際にいます。」
「攻撃って、そんな・・・」
「そんなも何もありません。さて、これらの理由から盗賊の適正職業であるあなたに冒険者になるのは、お止めになったほうがよろしいとお勧めしました。それで、いかがなさいますか?」
俺の適正職業を取り巻く環境はよほど悪いらしい。だが、冒険者になる以外にこの世界で生きていくあてはない。
例え最悪の状況からのスタートでもだ
「俺には、記憶がありませんし冒険者以外にこんな俺がなれる職はないでしょうから、冒険者をやらしていただけるとありがたいのですが・・・。」
そう告げると眼鏡の女性は俺の目をじーっと見てくる
それに負けじとこちらも見返す。
「・・・・・。はぁー、決意は固いようですね。分かりました。それではあちらのテーブルに移動しましょう。」
「ここで手続きをするんじゃないんですか?」
「先程もいいましたが冒険者の皆様方は盗賊という職業に対していい印象を持っていません。ここで手続きをしてもよろしいですがおそらく高い確率で他の冒険者から絡まれる可能性がありますので移動してくださいとお願いしております。」
「そういうことですか、分かりました。」
「ディオあなたも来なさい。」
「は、はい!」
そう言って眼鏡の女性は、最初にカウンターで対応してくれていた女性と俺を引き連れてカウンターから見えない位置にあるテーブルへと向かった
三人が椅子に座ると眼鏡の女性が話を切りだした
「それでは、ウェストさんの冒険者になる意思を確認しましたので、手続きを再会します。まず、私は受付嬢達を束ねる立場、嬢長をしていますライアと申します。
よろしくお願いします。そしてこちらがあなたの担当になるディオです。」
「担当ですか?」
「はい、普通は担当などないのですが、ウェストさんの場合、他の冒険者に知られた場合の事を考えまして、事情を知る者をつけたほうがよろしいと私の権限で判断致しました。ディオ挨拶して。」
「・・・・・・。」
あれっ?ディオさんがライアさんが話している時からずっとしたを向いたままだ
「ディオ、早くしなさい。」
ライアさんはあくまで冷静にディオさんに告げる
だが、ライアさんの言葉にディオさんはビクッとなり震えながら顔を上げた
「ああああああの、うううう受付嬢を、ししししています
デデデディオともも申します。よよよろしくしてください!」
何故かディオさんが挙動不審だ
「やっ、やっぱり私には無理です嬢長!」
「いい機会です。そろそろ男性に慣れなさい。」
「わ、私も受付業務は大丈夫です!で、ですが、だっ、男性の方とマニュアル以外の会話は出来ません!」
「だから、この機会に慣れなさいと言っています。私に何度も同じ事を言わせないで下さい。」
あくまでも冷静にだ、ライアさんは冷静にディオさんに話しているつもりなのだろうがオーラというか圧力が半端ない。心のメモにこの人に逆らわないと書いておこう
「あの、ライアさん大丈夫ですから、ディオさんでいいんですよね?やりたくないかもしれませんがご迷惑は、かけないようにしますのでよろしくお願いします。」
「ははははい、こここちらこそ、よよよろしくです!」
なんかもうディオさんの震えながら瞳を潤ませている姿が子犬のようにしか見えなくなってきた。
実際ディオさんの容姿は淡い桜色のボブカットに大きくクリッとした瞳は黄緑色で身長も俺より頭一個分低い。全体的にみて幼いといったイメージだ。それになんだか受付の時のキリッとした感じとは違い震えているディオさんはなんか守ってあげたくなる可愛らしさがある
そんな事を考えていると、ライアさんが溜息一つ吐き話を進め始めた。
「ディオ、私の決定です 大人しく従いなさい。」
「・・・・はい。」
なんか無性に頑張れって言ってあげたくなる
「さて、担当も決まったところで話を戻します。お名前、年齢、出身地はお聞きしましたので次に、ウェストさん
現在のご自分の能力はご存知ですか?」
「えーと、分からないです。」
「そういえば記憶喪失でしたね。それでは、お手数ですがこちらの水車玉に触れて下さい。」
そう言ってライアさんはカウンターから持って来ていた水晶玉をテーブルの上に置いた。
「あの、そもそもこれってなんなんですか?」
「この水晶玉は正式名を『万能を判断する水晶』と申します。王都にある魔法科学研究所である研究者が開発した魔導具です。これに触れると自分の能力、いわゆるステータスがわかります。ステータスの中には先程調べて貰いました、適正職業やスキルも含まれています。」
「そうなんですか、便利な水晶玉なんですね。えっと、さっきと一緒で手を乗せればいいんですよね?」
「はい、手を乗せていただければよろしいです。」
ライアさんのの言葉を聞き再び水晶玉に触れようとした瞬間今まで沈黙を守っていたシークとハイドが話しかけてきた。
『主殿、その水晶に触れるのであれば、両手で触れてもらえませんか。』
「なんでだよ?」
『いいから、言う通りにしろって!』
「お、おう。」
よくはわからないがシークの言う通り両手で水晶玉に触れる
「?ウェストさん触れるのは片手でかまいませんが。」
ライアさんに突っ込まれ苦笑いで答える
「え~と、ですね、なんか両手で触れなきゃいけないような気がして・・・。」
苦しい、苦しすぎる言い訳だ
ライアさんは明らかに不審な目線で見てきてる
「そう、ですか・・・まぁいいでしょう。さて、結果がでたようです。」
不審そうな目線は変わらないがなんとか誤魔化せたようだ
あとでハイドとシークを問い詰めよう
「それでどうですか?」
「少々お待ちください今書き起こします。」
そう言ってライアさんはテーブルの引き出しから紙を取り出し書き始めた
・・・五分後
・・・気まずい、ディオさんはさっきのライアさんの担当宣言から下を向いてぶつぶつ言ってるし、ライアさんは、集中して紙に書き起こしてくれている
はぁ~、なんかこれからこの人達とうまく付き合っていけるか不安になってきた
そんな不安に悩まされていると、ライアさんがペンを置いた
「出来ました。こちらがウェストさんの能力になります。」
そう言ってライアさんは記入していた紙をこちらに渡してきた
ざっと自分の能力に目を通すと
ーーーー
ウェスト 適正職業 「盗賊」
Lv.1
HP 80/80
MP 20/20
・筋力 30
・防御 20
・敏捷 60
・知力 40
・魔力 15
・魔防 15
【スキル】
なし
【称号】
なし
ーーーー
といった感じだ
「えっと、出来れば説明を頂けるとありがたいのですが。」
「はい、もちろんです、まずHPとはご自身の体力です。これが0になると死亡します。MPとは潜在魔力の事です
筋力、防御、敏捷、知力はそのままの意味です。ちなみに知力が高いほど魔法の構築速度や器用さが高いという事になります。魔力は、先程の潜在魔力とは違いこちらは、魔法を使用した際の威力となります。魔防はその逆魔法に対する耐久力となります。」
ライアさんはそこで一度言葉を切ると、スキルの説明を言いづらそうに話しだした
「そして大変申し上げにくいのですが、ウェストさんあなたにはスキルがありません。」
「その言い方はやっぱりスキルがないとまずいってことですよね。」
「はい、おっしゃる通りです。スキルは才能の有無にもより数は違いますがどの職業の方にも最低でも一つ備わっているものです。それがウェストさんにはありません。
ごく稀にそのような方がいるとは聞いたことがありますがそれでも歴史上でも確か三人ほどだと記憶しております。
ですのでウェストさんは四人目ということになります。」
「ははは、俺ってそこまでダメダメなんですね。」
「ですが、ご安心ください。先程カウンターでの話のなかにもでましたがスキルは後から覚える事も可能です。」
「えっ、覚えれるんですか!」
「はい、覚えることができます。スキルとは言ってしまえば経験です。人は経験を多くすればその事柄に強くなります。ですので覚えたいスキルに対して練習をすれば覚える事も可能です。ただし、覚える事の出来るスキルの数は魂の器に比例すると言われています。ですので後から覚えるスキルは考えて習得する事をお勧めします。」
「魂の器ですか・・・。」
「そうです。しかし、そう言われているだけで限界がはっきりと分かるわけではありません。ですが、あまりに多くのスキルを持ちすぎるとスキルの成長が遅くなります。ですので皆さん最高でも5個から6個に抑えています。」
「その中に盗賊のスキルも入っているのですか?」
「いえ、スキルとしてお持ちの方も確かに多いですが全員が持っているというわけではありません。先程話の中に出てきた盗賊の基本スキル『解錠』などはパーティの中に一人でも持っていればいいですし、いなくてもスキルに昇化しない程度に練習すればできるようになりますので。」
「ほんと、話を聞けば聞くほど盗賊っていう職業はハズレだと思えてきますね。」
ほんと笑ってしまうほどにね
「ですから最初にハズレだと説明させていただきました。
次に称号ですが取得方法は様々です。少しの事でも得ることはできますし物によっては能力に補正がかかったりします。例えばスライムという魔物をひたすら倒せばスライム系の魔物に対してダメージに補正のかかるスライムキラーを取得できます。」
「へぇ、じゃあ称号は積極的に取得したほうがいいんですね。」
「その通りではありますが、補正がかかるほどの称号はそれなりに手間がかかりますよ。」
「はぁ、意外と大変なんですね。」
「はい、意外と大変なんです。これでステータスの説明は以上になります。・・・もう一度確認しますがここまで聞いて冒険者になるという意思に心変わりはありませんか?」
「・・・・ありません。俺は冒険者になります。」
まっすぐにライアさんの瞳を見ながら言う
「・・・わかりました。意思は固いようですね。
・・・申し訳ありません。」
「えっ、なんで突然謝るんですか?」
突然ライアさんに謝られて慌ててしまう
「私はここまで話せばあなたの意思が変わり冒険者になるのを止めると言い出すと思っておりました。それほどまでにあなたの適正職業を取り巻く環境は悪いからです。ですが、ウェストさんの瞳には固い決意が見えます。勝手な想像とはいえ私の考えはウェストさんを卑下するものでした。ですから謝罪いたしました。」
「いっ、いいですよそんな。・・・それにもう決めた事ですから冒険者になるって。環境がどうとか周りがどう思ってるとか関係ないじゃないですか、楽観視していると思われるかもしれませんが結構ワクワクしてるんですよ俺。」
「ワクワク・・ですか・・・。ふふっ、あなたはやはり変わった方のようですね。」
そう言ってライアさんは俺に向かって微笑んだ
さっきまで凛とした表情だった女性が急にそんな表情をしたもんだから不覚にもドキッとしてしまう
「これ以上はウェストさんの意志を試すような事は致しません。それでは次にギルドについて説明させていただきます。よろしいですか?」
「はい、お願いします。」
「それでは、説明させていただきます。まず、冒険者ギルドとは依頼者の方からのご依頼を冒険者の方々に斡旋する場です。簡単な依頼では草むしりから難しい依頼では古龍などの大型魔物の討伐などの依頼まで請負、斡旋しています。ここまでは、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。」
「まず冒険者の方々にはギルドに登録した際こちらのギルドカードをお渡ししております。このカードは最先端の技術魔法を搭載しておりますのでなくされた場合、再発行の手数料として2万ルド発生します。ですのでギルドカードは厳重な管理の元所持する事をお勧めします。」
「あの、こいつ何言ってんだと思われるかもしれませんが
ルドってなんでしょうか?」
「はい?ああ、そういえばウェストさんは記憶喪失でしたね。少々お待ちください。」
そう言うとライアさんはテーブルに三枚の紙幣と五枚のコインを置いた
「まず、こちらの青い紙幣が一万ルド紙幣となります。それから順に赤が五千ルド紙幣、黄色が千ルド紙幣となっております。それとこの銀色のコインが五百ルド、緑色のコインが百ルド、紫色が五十ルド、茶色が一ルドとなっています。紙幣、コイン共に偽造対策の技術魔法が組み込まれておりますので間違っても変な事はなさらなきようにしてください。偽造した場合、国の法により実刑が降りますので。」
「も、もちろんです。」
「ご理解いただけたようですね。それでは説明に戻らしていただきます。ギルドの依頼にはそれぞれ適正ランクというものが定められています。適正ランクはギルドカードを見て頂ければお分かりになると思いますが、星で表されています。最初は星一つから始まり最高で十二まであります。星五つで中級、星九つで上級、それ以上は常識外の方々と覚えて下さい。」
「じょ、常識外ですか・・・。」
「はい、常識外です。後は色々細かいルールなどがありますが、説明していたら一日かかっても説明が終わりませんので手が空いた時にでもこちらの冊子をお読み下さい。
それでは、長くなりましたがこれで説明は以上となります。何かご質問はありますか?」
「そうですね・・・能力のレベルを上げるのは魔物を倒せばいいんですか?」
「はい、その通りです。レベルは戦闘での経験値で上昇します。弱い魔物は少なく、強い魔物ほど多いですね。」
「なるほど・・・あっ、戦い方を教えてくれる方とかいますか?」
ライアさんは少し悩んで告げた
「基本的に初心者の方は職業が同じ先輩から戦い方を学ぶのが通例となっていますが、さっきお伝えした通り盗賊の職業の方は十年出てない上に先輩と呼べる方も存在しないのです。」
「存在しない?」
「はい、強盗団の壊滅以降その肩身の狭さから軒並み引退せれてしまいまして、今ではギルドに登録している盗賊の職業持ちは一人もいません。」
「そう・・ですか・。」
「申し訳ありません、他の職業の方を紹介してもいいんですが頼む際は職業を伝えなければいけないのでそれも止めておいた方がよろしいかと思います。」
「・・・分かりました。なんとか我流でやってみます。」
「決して無理はなさらないでくださいね。あとは、何かごさいますか?」
少し考えてみるが思いつかない
「いえ、今のところはありません。また、何か分からない事があったら聞きに来ます。
「分かりました、その際はディオに聞いてもいいですし、私がいるようでしたら私を呼んで頂いても構いませんので。それでは少しお待ちください」
そう言ってライアは立ち上がりカウンターの奥の扉を開けて中に入って行った
・・・十分後
「お待たせしました。ウェストさん、この板に血を一滴落として頂けますか?」
「血、ですか?分かりました。」
ライアさんから小さいナイフを借りて人指し指の先端に当てる。数秒もすると血が出てきて重力に従い板に落ちる。
すると、その血は板に波紋を浮かべ消えていく
「これでこの板、ギルドカードはウェストさん専用になりました。このカードは、街の通行証にもなりますので、なくさないようお願いします。」
「分かりました。」
そう言ってポケットにしまい込む
「これで冒険者登録はお終いです。大変な事も多いと思いますが頑張ってください。ほら、ディオいつまで下を向いているの、もう決まった事なんですからいい加減しっかりしなさい。」
結局、ディオさんは俺とライアさんが話している間ずっと下を向いたままだった。そんなに男性が怖いのか?
「ですが嬢長・・・」
「ですが、なんですか。これはあなたの為でもあります。
ギルドで働く以上男性と話す事、接する事は避けては通れません、それにこのまま男性が怖いままだと将来結婚も出来ませんよ。」
「それを言うなら嬢長だって、もう二十代も半ばだっていうのに男性との噂がない・・・・ひっ!」
反論しようとして途中でディオさんは固まってしまった
顔面蒼白で震えている
目の前には一人の修羅がいる
「私が・・なんですか・・・ねぇ、ディオ教えて欲しいわ?」
顔は笑っているのに目が殺気立っている
その光景にライアさんに結婚の話は禁句と心に刻む
ライアさんは綺麗な黒髪に整った顔立ちをしている、瞳も少し切長だが綺麗な鳶色をしている。言ってしまえば凛とした知的美人って感じだ
「まぁ、いいでしょう。ディオは後で話があります。
改めてウェストさんこれで登録は終わりました。そういえばウェストさんはルドを知らなかったみたいですが入街税はどうされたのですか?」
「えっ!街に入るのにお金がいるんですか?」
「はい、商人などはまた値段がかわりますが旅人などは街に入るのに五百ルドかかりますよ。」
「俺は、門番らしい中年の男性に冒険者になりたいと伝えたらさっきの紙をくれて中に入れてくれましたが。」
「中年の男性?・・・ああ、ポンドさんですか。そういう事ですか、冒険者登録する場合登録した街の入街税は免除になりますからそれで通してくれたのでしょう。」
「そうなんですね。」
「そうなんです。・・・ウェストさんこれを。」
そう言ってライアさんは俺の前に一万ルド紙幣を二枚置いた
「これは?」
「これから、依頼を受けるにしても今日一日で終わるとは限りませんし、ルドがないと困るでしょう。これをあなたに差し上げます。」
「いえ、そんな悪いです。」
「このルドはあなたへの期待と謝罪の気持ちです。」
「期待と謝罪ですか?」
「あなたは十年ぶりの盗賊の職業持ちです。それにあなたには何かやってくれそうな雰囲気があります。それが期待の部分、謝罪は先程あなたを疑っていた事です。」
「そんな、謝罪だなんて記憶喪失ってだけで疑われても仕方がないですし、さらに盗賊の職業持ちなんだったらなおさらですよ。」
「そう言っていただけるとありがたいです。ですがこのルドにはもう一つの打算もあります。」
「打算?」
「はい、打算です。私の第六感があなたと縁を繋いでいた方がいいと言っています。嬢長の感というやつです。このルドはあなたへの先行投資だとでも思っていただければ。」
「・・・わかりました、ありがとうございます。頂くのでは悪いのでお借りします。」
そう言って頭を下げる
「ふふっ、あなたは真面目な方ですね。これから頑張ってください先程も言いましたが私はあなたに期待しています。」
「はい、頑張ります。」
ライアさんが立ち上がって右手を差し出して来たのでこちらも立ち上がり右手を差し出す。
・・・ライアさんも普段から笑っていたらすぐにいい人に巡り会えると思うんだけどな、そう思える程ライアさんの微笑みは心が温かくなる
「ライアさん、ディオさんありがとうございました。なんとかこれからやっていけそうです。」
「はい、ウェストさんはこれからどうされるのですか?」
「とりあえずは門番さんのところに行こうと思っています。このカードを見せに行かなくてはいけませんから。」
「そうですね、仮の通行証で通していただいたなら日没までは大丈夫ですが急ぐに越した事はありません。それと宿屋を利用するならギルドから三軒隣の『安らぎの日向亭』が安くて料理も美味しいですからオススメですよ。」
「わかりました、ありがとうございます。それじゃライアさん、ディオさんこれで失礼します。」
二人に挨拶してから冒険者ギルドを後にする
ギルドを出るとハイドが話しかけてきた
『相棒の丁寧語なんか気持ち悪いな』
「うっせ、これからお世話になる人達なんだからそこら辺はしっかりしとかないとな」
『主殿の言う通りです。ハイドも見習いなさい。』
『ちっ、ヤブヘビかよ。』
「さて、門番のポンドさんだっけ?のところに急ぐか。」
そう言って人で混雑する大通りを歩き出した・・・・
◇◇
ウェストが去った後ライアとディオは説明に使った書類を片付けていた
「そういえば嬢長。」
「なんですかディオ?」
「ウェストさんにこの国のカースト制度の事説明しなくて良かったんですか?」
ディオに言われてハッとする
「・・・・完全に失念していました。」
「おっちょこちょいですね、嬢長って」
「私がおっちょこちょい?・・・言ってくれますねディオ先程の私に対する発言も含めて少しお話ししましょうか」
あくまでライアは優しい笑顔で言っているつもりなのだが
ディオはその言葉を聞いて震えだし逃げ出そうとした。
だがその肩をライアの右手が捕まえる
「私が逃すと思いますか?・・・ディオ」
「いや~~~~~!」
ギルドにはディオの悲痛な叫びが響き渡った・・・
・・・・・へっ?
頭にはクエスチョンマークが乱舞している
「えーと、何故でしょう?」
そう聞くと、眼鏡の女性は溜息を一つ吐き事情を話し始めた
「この盗賊という職業は、適正職業の中でも基本とされている八個の内の一つとされています。ですがここ百年程でその数は激減し、ここ十年では一人も出ておりません。十年もあれば冒険者を、取り巻く環境も変わります。盗賊の基本スキルとしては『解錠』、『罠看破』などがありますがこのスキルも経験を積めば例え戦士の適正職業の方でも覚える事が可能です。その為数の減少と共に冒険者の皆様方は殆どの方がお持ちになっております。
それに大変言いづらいことなのですが、スキルが簡単に取得できる為「盗賊」という適正職業は、ハズレという認識が冒険者方の間で共通認識として存在しております。
冒険者というものはランクが上がる程個人ではなく多人数での連携などが必要となります、ですがその認識により「盗賊」の適正職業の方を誰もパーティに入れてくれる人は恐らくいらっしゃらないと思います。」
「は、はぁ。」
かなりの長台詞なのに一呼吸で言い切った女性の圧力に押されてしまう
「そのような事情もあり、パーティに入れないので個人でやるしかない、ですが「盗賊」の職業を得ても上がる能力はたかがしれている、かといって個人で出来る依頼は報酬が少ない、なら馬鹿正直に冒険者をやるより貴族でも襲って金品や身代金を頂いたほうがいいという方が三十年前に同じ境遇の方々を集め強盗団を結成してしまったのです。」
「強盗団?」
「はい、その強盗団は十年程で壊滅しましたが、十年の間にかなりの貴族の方々や商隊が強奪、もしくは殺害されてしまったため盗賊=悪党みたいな図式が出来てしまっているのです。そしてそれは、当然平民の方々の中でも広く知れ渡っています。「盗賊」の職業持ちというだけで攻撃してくるような輩も実際にいます。」
「攻撃って、そんな・・・」
「そんなも何もありません。さて、これらの理由から盗賊の適正職業であるあなたに冒険者になるのは、お止めになったほうがよろしいとお勧めしました。それで、いかがなさいますか?」
俺の適正職業を取り巻く環境はよほど悪いらしい。だが、冒険者になる以外にこの世界で生きていくあてはない。
例え最悪の状況からのスタートでもだ
「俺には、記憶がありませんし冒険者以外にこんな俺がなれる職はないでしょうから、冒険者をやらしていただけるとありがたいのですが・・・。」
そう告げると眼鏡の女性は俺の目をじーっと見てくる
それに負けじとこちらも見返す。
「・・・・・。はぁー、決意は固いようですね。分かりました。それではあちらのテーブルに移動しましょう。」
「ここで手続きをするんじゃないんですか?」
「先程もいいましたが冒険者の皆様方は盗賊という職業に対していい印象を持っていません。ここで手続きをしてもよろしいですがおそらく高い確率で他の冒険者から絡まれる可能性がありますので移動してくださいとお願いしております。」
「そういうことですか、分かりました。」
「ディオあなたも来なさい。」
「は、はい!」
そう言って眼鏡の女性は、最初にカウンターで対応してくれていた女性と俺を引き連れてカウンターから見えない位置にあるテーブルへと向かった
三人が椅子に座ると眼鏡の女性が話を切りだした
「それでは、ウェストさんの冒険者になる意思を確認しましたので、手続きを再会します。まず、私は受付嬢達を束ねる立場、嬢長をしていますライアと申します。
よろしくお願いします。そしてこちらがあなたの担当になるディオです。」
「担当ですか?」
「はい、普通は担当などないのですが、ウェストさんの場合、他の冒険者に知られた場合の事を考えまして、事情を知る者をつけたほうがよろしいと私の権限で判断致しました。ディオ挨拶して。」
「・・・・・・。」
あれっ?ディオさんがライアさんが話している時からずっとしたを向いたままだ
「ディオ、早くしなさい。」
ライアさんはあくまで冷静にディオさんに告げる
だが、ライアさんの言葉にディオさんはビクッとなり震えながら顔を上げた
「ああああああの、うううう受付嬢を、ししししています
デデデディオともも申します。よよよろしくしてください!」
何故かディオさんが挙動不審だ
「やっ、やっぱり私には無理です嬢長!」
「いい機会です。そろそろ男性に慣れなさい。」
「わ、私も受付業務は大丈夫です!で、ですが、だっ、男性の方とマニュアル以外の会話は出来ません!」
「だから、この機会に慣れなさいと言っています。私に何度も同じ事を言わせないで下さい。」
あくまでも冷静にだ、ライアさんは冷静にディオさんに話しているつもりなのだろうがオーラというか圧力が半端ない。心のメモにこの人に逆らわないと書いておこう
「あの、ライアさん大丈夫ですから、ディオさんでいいんですよね?やりたくないかもしれませんがご迷惑は、かけないようにしますのでよろしくお願いします。」
「ははははい、こここちらこそ、よよよろしくです!」
なんかもうディオさんの震えながら瞳を潤ませている姿が子犬のようにしか見えなくなってきた。
実際ディオさんの容姿は淡い桜色のボブカットに大きくクリッとした瞳は黄緑色で身長も俺より頭一個分低い。全体的にみて幼いといったイメージだ。それになんだか受付の時のキリッとした感じとは違い震えているディオさんはなんか守ってあげたくなる可愛らしさがある
そんな事を考えていると、ライアさんが溜息一つ吐き話を進め始めた。
「ディオ、私の決定です 大人しく従いなさい。」
「・・・・はい。」
なんか無性に頑張れって言ってあげたくなる
「さて、担当も決まったところで話を戻します。お名前、年齢、出身地はお聞きしましたので次に、ウェストさん
現在のご自分の能力はご存知ですか?」
「えーと、分からないです。」
「そういえば記憶喪失でしたね。それでは、お手数ですがこちらの水車玉に触れて下さい。」
そう言ってライアさんはカウンターから持って来ていた水晶玉をテーブルの上に置いた。
「あの、そもそもこれってなんなんですか?」
「この水晶玉は正式名を『万能を判断する水晶』と申します。王都にある魔法科学研究所である研究者が開発した魔導具です。これに触れると自分の能力、いわゆるステータスがわかります。ステータスの中には先程調べて貰いました、適正職業やスキルも含まれています。」
「そうなんですか、便利な水晶玉なんですね。えっと、さっきと一緒で手を乗せればいいんですよね?」
「はい、手を乗せていただければよろしいです。」
ライアさんのの言葉を聞き再び水晶玉に触れようとした瞬間今まで沈黙を守っていたシークとハイドが話しかけてきた。
『主殿、その水晶に触れるのであれば、両手で触れてもらえませんか。』
「なんでだよ?」
『いいから、言う通りにしろって!』
「お、おう。」
よくはわからないがシークの言う通り両手で水晶玉に触れる
「?ウェストさん触れるのは片手でかまいませんが。」
ライアさんに突っ込まれ苦笑いで答える
「え~と、ですね、なんか両手で触れなきゃいけないような気がして・・・。」
苦しい、苦しすぎる言い訳だ
ライアさんは明らかに不審な目線で見てきてる
「そう、ですか・・・まぁいいでしょう。さて、結果がでたようです。」
不審そうな目線は変わらないがなんとか誤魔化せたようだ
あとでハイドとシークを問い詰めよう
「それでどうですか?」
「少々お待ちください今書き起こします。」
そう言ってライアさんはテーブルの引き出しから紙を取り出し書き始めた
・・・五分後
・・・気まずい、ディオさんはさっきのライアさんの担当宣言から下を向いてぶつぶつ言ってるし、ライアさんは、集中して紙に書き起こしてくれている
はぁ~、なんかこれからこの人達とうまく付き合っていけるか不安になってきた
そんな不安に悩まされていると、ライアさんがペンを置いた
「出来ました。こちらがウェストさんの能力になります。」
そう言ってライアさんは記入していた紙をこちらに渡してきた
ざっと自分の能力に目を通すと
ーーーー
ウェスト 適正職業 「盗賊」
Lv.1
HP 80/80
MP 20/20
・筋力 30
・防御 20
・敏捷 60
・知力 40
・魔力 15
・魔防 15
【スキル】
なし
【称号】
なし
ーーーー
といった感じだ
「えっと、出来れば説明を頂けるとありがたいのですが。」
「はい、もちろんです、まずHPとはご自身の体力です。これが0になると死亡します。MPとは潜在魔力の事です
筋力、防御、敏捷、知力はそのままの意味です。ちなみに知力が高いほど魔法の構築速度や器用さが高いという事になります。魔力は、先程の潜在魔力とは違いこちらは、魔法を使用した際の威力となります。魔防はその逆魔法に対する耐久力となります。」
ライアさんはそこで一度言葉を切ると、スキルの説明を言いづらそうに話しだした
「そして大変申し上げにくいのですが、ウェストさんあなたにはスキルがありません。」
「その言い方はやっぱりスキルがないとまずいってことですよね。」
「はい、おっしゃる通りです。スキルは才能の有無にもより数は違いますがどの職業の方にも最低でも一つ備わっているものです。それがウェストさんにはありません。
ごく稀にそのような方がいるとは聞いたことがありますがそれでも歴史上でも確か三人ほどだと記憶しております。
ですのでウェストさんは四人目ということになります。」
「ははは、俺ってそこまでダメダメなんですね。」
「ですが、ご安心ください。先程カウンターでの話のなかにもでましたがスキルは後から覚える事も可能です。」
「えっ、覚えれるんですか!」
「はい、覚えることができます。スキルとは言ってしまえば経験です。人は経験を多くすればその事柄に強くなります。ですので覚えたいスキルに対して練習をすれば覚える事も可能です。ただし、覚える事の出来るスキルの数は魂の器に比例すると言われています。ですので後から覚えるスキルは考えて習得する事をお勧めします。」
「魂の器ですか・・・。」
「そうです。しかし、そう言われているだけで限界がはっきりと分かるわけではありません。ですが、あまりに多くのスキルを持ちすぎるとスキルの成長が遅くなります。ですので皆さん最高でも5個から6個に抑えています。」
「その中に盗賊のスキルも入っているのですか?」
「いえ、スキルとしてお持ちの方も確かに多いですが全員が持っているというわけではありません。先程話の中に出てきた盗賊の基本スキル『解錠』などはパーティの中に一人でも持っていればいいですし、いなくてもスキルに昇化しない程度に練習すればできるようになりますので。」
「ほんと、話を聞けば聞くほど盗賊っていう職業はハズレだと思えてきますね。」
ほんと笑ってしまうほどにね
「ですから最初にハズレだと説明させていただきました。
次に称号ですが取得方法は様々です。少しの事でも得ることはできますし物によっては能力に補正がかかったりします。例えばスライムという魔物をひたすら倒せばスライム系の魔物に対してダメージに補正のかかるスライムキラーを取得できます。」
「へぇ、じゃあ称号は積極的に取得したほうがいいんですね。」
「その通りではありますが、補正がかかるほどの称号はそれなりに手間がかかりますよ。」
「はぁ、意外と大変なんですね。」
「はい、意外と大変なんです。これでステータスの説明は以上になります。・・・もう一度確認しますがここまで聞いて冒険者になるという意思に心変わりはありませんか?」
「・・・・ありません。俺は冒険者になります。」
まっすぐにライアさんの瞳を見ながら言う
「・・・わかりました。意思は固いようですね。
・・・申し訳ありません。」
「えっ、なんで突然謝るんですか?」
突然ライアさんに謝られて慌ててしまう
「私はここまで話せばあなたの意思が変わり冒険者になるのを止めると言い出すと思っておりました。それほどまでにあなたの適正職業を取り巻く環境は悪いからです。ですが、ウェストさんの瞳には固い決意が見えます。勝手な想像とはいえ私の考えはウェストさんを卑下するものでした。ですから謝罪いたしました。」
「いっ、いいですよそんな。・・・それにもう決めた事ですから冒険者になるって。環境がどうとか周りがどう思ってるとか関係ないじゃないですか、楽観視していると思われるかもしれませんが結構ワクワクしてるんですよ俺。」
「ワクワク・・ですか・・・。ふふっ、あなたはやはり変わった方のようですね。」
そう言ってライアさんは俺に向かって微笑んだ
さっきまで凛とした表情だった女性が急にそんな表情をしたもんだから不覚にもドキッとしてしまう
「これ以上はウェストさんの意志を試すような事は致しません。それでは次にギルドについて説明させていただきます。よろしいですか?」
「はい、お願いします。」
「それでは、説明させていただきます。まず、冒険者ギルドとは依頼者の方からのご依頼を冒険者の方々に斡旋する場です。簡単な依頼では草むしりから難しい依頼では古龍などの大型魔物の討伐などの依頼まで請負、斡旋しています。ここまでは、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。」
「まず冒険者の方々にはギルドに登録した際こちらのギルドカードをお渡ししております。このカードは最先端の技術魔法を搭載しておりますのでなくされた場合、再発行の手数料として2万ルド発生します。ですのでギルドカードは厳重な管理の元所持する事をお勧めします。」
「あの、こいつ何言ってんだと思われるかもしれませんが
ルドってなんでしょうか?」
「はい?ああ、そういえばウェストさんは記憶喪失でしたね。少々お待ちください。」
そう言うとライアさんはテーブルに三枚の紙幣と五枚のコインを置いた
「まず、こちらの青い紙幣が一万ルド紙幣となります。それから順に赤が五千ルド紙幣、黄色が千ルド紙幣となっております。それとこの銀色のコインが五百ルド、緑色のコインが百ルド、紫色が五十ルド、茶色が一ルドとなっています。紙幣、コイン共に偽造対策の技術魔法が組み込まれておりますので間違っても変な事はなさらなきようにしてください。偽造した場合、国の法により実刑が降りますので。」
「も、もちろんです。」
「ご理解いただけたようですね。それでは説明に戻らしていただきます。ギルドの依頼にはそれぞれ適正ランクというものが定められています。適正ランクはギルドカードを見て頂ければお分かりになると思いますが、星で表されています。最初は星一つから始まり最高で十二まであります。星五つで中級、星九つで上級、それ以上は常識外の方々と覚えて下さい。」
「じょ、常識外ですか・・・。」
「はい、常識外です。後は色々細かいルールなどがありますが、説明していたら一日かかっても説明が終わりませんので手が空いた時にでもこちらの冊子をお読み下さい。
それでは、長くなりましたがこれで説明は以上となります。何かご質問はありますか?」
「そうですね・・・能力のレベルを上げるのは魔物を倒せばいいんですか?」
「はい、その通りです。レベルは戦闘での経験値で上昇します。弱い魔物は少なく、強い魔物ほど多いですね。」
「なるほど・・・あっ、戦い方を教えてくれる方とかいますか?」
ライアさんは少し悩んで告げた
「基本的に初心者の方は職業が同じ先輩から戦い方を学ぶのが通例となっていますが、さっきお伝えした通り盗賊の職業の方は十年出てない上に先輩と呼べる方も存在しないのです。」
「存在しない?」
「はい、強盗団の壊滅以降その肩身の狭さから軒並み引退せれてしまいまして、今ではギルドに登録している盗賊の職業持ちは一人もいません。」
「そう・・ですか・。」
「申し訳ありません、他の職業の方を紹介してもいいんですが頼む際は職業を伝えなければいけないのでそれも止めておいた方がよろしいかと思います。」
「・・・分かりました。なんとか我流でやってみます。」
「決して無理はなさらないでくださいね。あとは、何かごさいますか?」
少し考えてみるが思いつかない
「いえ、今のところはありません。また、何か分からない事があったら聞きに来ます。
「分かりました、その際はディオに聞いてもいいですし、私がいるようでしたら私を呼んで頂いても構いませんので。それでは少しお待ちください」
そう言ってライアは立ち上がりカウンターの奥の扉を開けて中に入って行った
・・・十分後
「お待たせしました。ウェストさん、この板に血を一滴落として頂けますか?」
「血、ですか?分かりました。」
ライアさんから小さいナイフを借りて人指し指の先端に当てる。数秒もすると血が出てきて重力に従い板に落ちる。
すると、その血は板に波紋を浮かべ消えていく
「これでこの板、ギルドカードはウェストさん専用になりました。このカードは、街の通行証にもなりますので、なくさないようお願いします。」
「分かりました。」
そう言ってポケットにしまい込む
「これで冒険者登録はお終いです。大変な事も多いと思いますが頑張ってください。ほら、ディオいつまで下を向いているの、もう決まった事なんですからいい加減しっかりしなさい。」
結局、ディオさんは俺とライアさんが話している間ずっと下を向いたままだった。そんなに男性が怖いのか?
「ですが嬢長・・・」
「ですが、なんですか。これはあなたの為でもあります。
ギルドで働く以上男性と話す事、接する事は避けては通れません、それにこのまま男性が怖いままだと将来結婚も出来ませんよ。」
「それを言うなら嬢長だって、もう二十代も半ばだっていうのに男性との噂がない・・・・ひっ!」
反論しようとして途中でディオさんは固まってしまった
顔面蒼白で震えている
目の前には一人の修羅がいる
「私が・・なんですか・・・ねぇ、ディオ教えて欲しいわ?」
顔は笑っているのに目が殺気立っている
その光景にライアさんに結婚の話は禁句と心に刻む
ライアさんは綺麗な黒髪に整った顔立ちをしている、瞳も少し切長だが綺麗な鳶色をしている。言ってしまえば凛とした知的美人って感じだ
「まぁ、いいでしょう。ディオは後で話があります。
改めてウェストさんこれで登録は終わりました。そういえばウェストさんはルドを知らなかったみたいですが入街税はどうされたのですか?」
「えっ!街に入るのにお金がいるんですか?」
「はい、商人などはまた値段がかわりますが旅人などは街に入るのに五百ルドかかりますよ。」
「俺は、門番らしい中年の男性に冒険者になりたいと伝えたらさっきの紙をくれて中に入れてくれましたが。」
「中年の男性?・・・ああ、ポンドさんですか。そういう事ですか、冒険者登録する場合登録した街の入街税は免除になりますからそれで通してくれたのでしょう。」
「そうなんですね。」
「そうなんです。・・・ウェストさんこれを。」
そう言ってライアさんは俺の前に一万ルド紙幣を二枚置いた
「これは?」
「これから、依頼を受けるにしても今日一日で終わるとは限りませんし、ルドがないと困るでしょう。これをあなたに差し上げます。」
「いえ、そんな悪いです。」
「このルドはあなたへの期待と謝罪の気持ちです。」
「期待と謝罪ですか?」
「あなたは十年ぶりの盗賊の職業持ちです。それにあなたには何かやってくれそうな雰囲気があります。それが期待の部分、謝罪は先程あなたを疑っていた事です。」
「そんな、謝罪だなんて記憶喪失ってだけで疑われても仕方がないですし、さらに盗賊の職業持ちなんだったらなおさらですよ。」
「そう言っていただけるとありがたいです。ですがこのルドにはもう一つの打算もあります。」
「打算?」
「はい、打算です。私の第六感があなたと縁を繋いでいた方がいいと言っています。嬢長の感というやつです。このルドはあなたへの先行投資だとでも思っていただければ。」
「・・・わかりました、ありがとうございます。頂くのでは悪いのでお借りします。」
そう言って頭を下げる
「ふふっ、あなたは真面目な方ですね。これから頑張ってください先程も言いましたが私はあなたに期待しています。」
「はい、頑張ります。」
ライアさんが立ち上がって右手を差し出して来たのでこちらも立ち上がり右手を差し出す。
・・・ライアさんも普段から笑っていたらすぐにいい人に巡り会えると思うんだけどな、そう思える程ライアさんの微笑みは心が温かくなる
「ライアさん、ディオさんありがとうございました。なんとかこれからやっていけそうです。」
「はい、ウェストさんはこれからどうされるのですか?」
「とりあえずは門番さんのところに行こうと思っています。このカードを見せに行かなくてはいけませんから。」
「そうですね、仮の通行証で通していただいたなら日没までは大丈夫ですが急ぐに越した事はありません。それと宿屋を利用するならギルドから三軒隣の『安らぎの日向亭』が安くて料理も美味しいですからオススメですよ。」
「わかりました、ありがとうございます。それじゃライアさん、ディオさんこれで失礼します。」
二人に挨拶してから冒険者ギルドを後にする
ギルドを出るとハイドが話しかけてきた
『相棒の丁寧語なんか気持ち悪いな』
「うっせ、これからお世話になる人達なんだからそこら辺はしっかりしとかないとな」
『主殿の言う通りです。ハイドも見習いなさい。』
『ちっ、ヤブヘビかよ。』
「さて、門番のポンドさんだっけ?のところに急ぐか。」
そう言って人で混雑する大通りを歩き出した・・・・
◇◇
ウェストが去った後ライアとディオは説明に使った書類を片付けていた
「そういえば嬢長。」
「なんですかディオ?」
「ウェストさんにこの国のカースト制度の事説明しなくて良かったんですか?」
ディオに言われてハッとする
「・・・・完全に失念していました。」
「おっちょこちょいですね、嬢長って」
「私がおっちょこちょい?・・・言ってくれますねディオ先程の私に対する発言も含めて少しお話ししましょうか」
あくまでライアは優しい笑顔で言っているつもりなのだが
ディオはその言葉を聞いて震えだし逃げ出そうとした。
だがその肩をライアの右手が捕まえる
「私が逃すと思いますか?・・・ディオ」
「いや~~~~~!」
ギルドにはディオの悲痛な叫びが響き渡った・・・
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