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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆27:開陳-4
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なまじ簡単にカネになる資源があると、それにあぐらをかいて国の成長が阻害されるということは多々ある。石油の需要が高まり、産油国として経済成長しながらも、その次のステップに進めず、石油の枯渇と同時に破綻した……そんな国はいくつもある。
「これだけの重要事項を任されていたという事実から、ひとつの推測が導き出されます。
アルセス皇子は後継者候補、と言いつつも、実際には、すでに後継者だったんじゃないかと」
少なくとも、最有力候補だったのは間違いないだろう。
『そんなものは妄想だ!ただのこじつけに過ぎない』
「ええ。証拠はありません。でもこの仮説から、謎の解き方が見つかりました。アルセス皇子が後継者だとしたら。セゼル大帝が彼に与えたものは金脈の情報だけだったのでしょうか。将来を見据えた手を打っていた大帝が、後継者にただカネと権力のみを与えたわけではないとしたら」
おれはそう言うと、画面を操作した。今となっては双方の陣営が所持しているアルセスが残した『箱』の数列。
『まさか、いや、信じられん……』
心当たりがあったのは、意外にもワンシム氏のようであった。
『あの猜疑心の塊のような陛下が、まさか……!』
「そのまさか、ですよ」
おれはその数列をドラッグしてみせた。
「アルセス皇子の残したこの数列は、金脈の情報を記した『箱』なんかじゃない。アルセス自身が次代の王となるために、自身の暗号を作り出し解読するための『鍵』だったのさ」
『ふざけるな!ありえん!!』
ワンシムががなりたてる。その怒りはおれよりも、故人であるセゼルに向けられたようだった。
「えっ……と。いまいち、わからないんだけど。セゼルさんが自分にしかわからない暗号を使って情報を集めていて。アルセスさんはアルセスさんで、自分だけの暗号を持っていた、ってことだよね。それの何がおかしいの?」
「考えてみな。アルセスが彼だけの暗号を使用するということは、セゼルにもその情報を知ることが出来ないということだ。それはセゼルの知らないところに、情報、秘密、……権力が蓄積することになる。きっとそれは、王族たちの間では絶対のタブーだったんじゃないかな?」
『……陛下は、我々に指示を下す時は必ず国元に呼び出し、口頭で指示を与えた。我々はそれに従い、目的に準じて各自の判断でセゼル陛下に情報をひたすら送り続けた。それは一方通行で、決して陛下から指示がくることはないし、横のつながりもなかった』
「……だからこそ、いずれくる権力の移譲に向けて、準備を進めていたのだと思います。まずはアルセスに暗号を作らせる。そして、何よりもまず、セゼル自身がその暗号の初めて使用してみせた」
「それでは、私が持ってきたこちらの数列は……」
「そう。セゼルが他の王族達に授けて、最終的に君が持ってくることとなったこの数列は、暗号解読のための『鍵』じゃない。アルセスの『秘密鍵』によって作られた暗号なのさ」
「ええっと。つまりその。……『箱』と『鍵』が逆だったってこと?」
「そのとおりだ。我々は滑稽にも、一生懸命『鍵』に『箱』を突っ込んで開かない開かないと騒いでいたってわけさ」
「じゃあ、暗号の解き方って」
「わかってしまえば簡単。今まで『鍵』だと思ってたものを『箱』に。『箱』を『鍵』に入れ替えて解読すればいい。いやあ思い込みって怖いもんだね。デジタルで総当たりしてたからこそ却って気づかなかった」
『陛下が、アルセスの『鍵』で暗号を作り、送っていた、だと……ばかな』
「それこそが、彼が後継者だった証拠じゃないでしょうかね。他の候補者達ヘは一方的な連絡だったのに、アルセスに対してはお互いに『鍵』を持ち、事細かに連絡を取り合っていた」
正直、いつMBS側に気づかれたらどうしようと内心焦っていたのは内緒である。
「だからね、半分以上はおれの推測なんですけど。セゼル大帝は、日本でこの『箱』……いや、『鍵』を見つけ出し、アルセス皇子こそが自らの後継者だったことに気づいた者に、情報が伝わるように仕向けたんじゃないでしょうか」
『ふ、ふん。くだらん妄想だ。仮にそれが真実だとしても。すでにアルセスは刑死し、セゼル大帝すらもこの世には居ない。後継者が誰だったかなど、もはやどうでもいいことだ』
「確かにどうでもいいことかもしれませんね。ま、以上。これが『鍵』と『箱』の種明かしです。疑問に思うなら、そちらでもお手持ちの数列を組み合わせれば同じ結果が出るはずですよ」
おれは一通りしゃべり倒すと、再度普洱茶を口に含んだ。実際ずいぶん長いこと独演会をやった気がする。実際の交渉時間は十分程度だったのだし、せっかくメンツが顔を揃えた以上、それなりの身のある雑談を提供するのは発案者の義務というわけである。
「どうでもいいことでは、ありません……!!」
血を吐くような叫び。
それは壁際にずっと佇んでいたファリス皇女のものだった。
「これだけの重要事項を任されていたという事実から、ひとつの推測が導き出されます。
アルセス皇子は後継者候補、と言いつつも、実際には、すでに後継者だったんじゃないかと」
少なくとも、最有力候補だったのは間違いないだろう。
『そんなものは妄想だ!ただのこじつけに過ぎない』
「ええ。証拠はありません。でもこの仮説から、謎の解き方が見つかりました。アルセス皇子が後継者だとしたら。セゼル大帝が彼に与えたものは金脈の情報だけだったのでしょうか。将来を見据えた手を打っていた大帝が、後継者にただカネと権力のみを与えたわけではないとしたら」
おれはそう言うと、画面を操作した。今となっては双方の陣営が所持しているアルセスが残した『箱』の数列。
『まさか、いや、信じられん……』
心当たりがあったのは、意外にもワンシム氏のようであった。
『あの猜疑心の塊のような陛下が、まさか……!』
「そのまさか、ですよ」
おれはその数列をドラッグしてみせた。
「アルセス皇子の残したこの数列は、金脈の情報を記した『箱』なんかじゃない。アルセス自身が次代の王となるために、自身の暗号を作り出し解読するための『鍵』だったのさ」
『ふざけるな!ありえん!!』
ワンシムががなりたてる。その怒りはおれよりも、故人であるセゼルに向けられたようだった。
「えっ……と。いまいち、わからないんだけど。セゼルさんが自分にしかわからない暗号を使って情報を集めていて。アルセスさんはアルセスさんで、自分だけの暗号を持っていた、ってことだよね。それの何がおかしいの?」
「考えてみな。アルセスが彼だけの暗号を使用するということは、セゼルにもその情報を知ることが出来ないということだ。それはセゼルの知らないところに、情報、秘密、……権力が蓄積することになる。きっとそれは、王族たちの間では絶対のタブーだったんじゃないかな?」
『……陛下は、我々に指示を下す時は必ず国元に呼び出し、口頭で指示を与えた。我々はそれに従い、目的に準じて各自の判断でセゼル陛下に情報をひたすら送り続けた。それは一方通行で、決して陛下から指示がくることはないし、横のつながりもなかった』
「……だからこそ、いずれくる権力の移譲に向けて、準備を進めていたのだと思います。まずはアルセスに暗号を作らせる。そして、何よりもまず、セゼル自身がその暗号の初めて使用してみせた」
「それでは、私が持ってきたこちらの数列は……」
「そう。セゼルが他の王族達に授けて、最終的に君が持ってくることとなったこの数列は、暗号解読のための『鍵』じゃない。アルセスの『秘密鍵』によって作られた暗号なのさ」
「ええっと。つまりその。……『箱』と『鍵』が逆だったってこと?」
「そのとおりだ。我々は滑稽にも、一生懸命『鍵』に『箱』を突っ込んで開かない開かないと騒いでいたってわけさ」
「じゃあ、暗号の解き方って」
「わかってしまえば簡単。今まで『鍵』だと思ってたものを『箱』に。『箱』を『鍵』に入れ替えて解読すればいい。いやあ思い込みって怖いもんだね。デジタルで総当たりしてたからこそ却って気づかなかった」
『陛下が、アルセスの『鍵』で暗号を作り、送っていた、だと……ばかな』
「それこそが、彼が後継者だった証拠じゃないでしょうかね。他の候補者達ヘは一方的な連絡だったのに、アルセスに対してはお互いに『鍵』を持ち、事細かに連絡を取り合っていた」
正直、いつMBS側に気づかれたらどうしようと内心焦っていたのは内緒である。
「だからね、半分以上はおれの推測なんですけど。セゼル大帝は、日本でこの『箱』……いや、『鍵』を見つけ出し、アルセス皇子こそが自らの後継者だったことに気づいた者に、情報が伝わるように仕向けたんじゃないでしょうか」
『ふ、ふん。くだらん妄想だ。仮にそれが真実だとしても。すでにアルセスは刑死し、セゼル大帝すらもこの世には居ない。後継者が誰だったかなど、もはやどうでもいいことだ』
「確かにどうでもいいことかもしれませんね。ま、以上。これが『鍵』と『箱』の種明かしです。疑問に思うなら、そちらでもお手持ちの数列を組み合わせれば同じ結果が出るはずですよ」
おれは一通りしゃべり倒すと、再度普洱茶を口に含んだ。実際ずいぶん長いこと独演会をやった気がする。実際の交渉時間は十分程度だったのだし、せっかくメンツが顔を揃えた以上、それなりの身のある雑談を提供するのは発案者の義務というわけである。
「どうでもいいことでは、ありません……!!」
血を吐くような叫び。
それは壁際にずっと佇んでいたファリス皇女のものだった。
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