人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
353 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆25:王の子供達-2

しおりを挟む
 美玲とワンシムの会話を尻目にドラゴン・スイートを後にすると、颯真は皇女の監禁場所に向かった。

 この横浜でもっとも警備が厳重で、かつ脱出が困難、尋問が容易なところ。すなわち、ホテル内に設けられた美玲の私室である。

 ノックをして暫く待つと返事があった。

「……どうぞ」

 私室内の簡易的なリビング、それでも並の住宅よりよほど広いそこのソファに、ファリスは腰掛けていた。

「よく眠れたか?」

 リビングに近づかず、ドアの傍に立ったままの颯真。

「ええ、美玲さんがよくしてくれましたので……」

 夜明け前を思わせる紫色の瞳に見つめられ、颯真はややたじろいだ。視線を窓にそらす。

「ふ、ふん。気を許すなよ、捕虜に情けをかけて警戒心を緩めるのは、俺達の常套手段だからな」

 颯真の皮肉っぽい発言に、皇女は力なく笑った。実際のところはまともに眠れたとは思えない。いかにスイートルームとはいえ敵地だ。

 ファリスを捉えた美玲は、短慮なワンシムの危害が及ぶことを恐れ、尋問にかけると称し早々に自室に隔離したのである。以後は軟禁状態ながらも賓客待遇を施され、不自由はなかった。もっとも、

「実際にアンタが情報を隠し持っていなかったからこそだ。アレの瞳術で洗いざらい自白した上で、さらに拷問をするのは時間の無駄だからな」

 昨夜のうちに美玲による催眠を用いた尋問を受けて、彼女はここに来た動機、いままでの活動などを包み隠さず話すこととなった。強力な暗示で抵抗は不可能だったが、すでに亘理達に告げていた事ばかりだったので、そもそも抵抗する必要もなかった。


「亘理さんたちが『鍵』と『箱』の謎を解いたというのは本当でしょうか?」
「ハッタリだ、と言いたいが恐らくは事実だろうな。午後からは身柄交換の交渉となる。その前に美玲がそれっぽい青痣のメイクでもするはずだ。ワンシムが喜ぶよう、せいぜい弱ったフリでもしておけ」
「そうですね……」

 部屋に気まずい沈黙が満ちた。颯真は扉の前でしばらく腕を組んで突っ立っていたが、やがていたたまれなくなったように咳払いを何度かすると、やや根負けしたように口を開いた。

「……美玲から一通りは聞いた。アンタは国を立て直すために日本にやってきたそうだな」
「ええ。正直に言って、亘理さんには私のことなんか放っておいて、そのまま『箱』を欧米でも日本にでも持ち込んで、公開して欲しいと思っています。そうすれば少なくとも、ワンシム叔父様の背後にいる国家に一方的に搾取されることはなくなるでしょうから」

「だが、連中は交渉を求めてきた。である以上、アンタにも参加してもらう。ああ、自死しようなどとくだらないことは考えるなよ?その場合はアンタは寝込んで部屋にいるとでもして、そのまま交渉を進めるからな」
「そのつもりはありません。ここで私が逃げ出しては、力を尽くしてくれた亘理さんに報いることができなくなります。それに、きっと亘理さんなら、ここからでも最善の結果を出してくれるはずです」

「ほう。解せんな。亘理の事をずいぶんと信用しているようだが、日本に来てから、会ったばかりなのだろう?」
「そう、ですね。確かに不思議ですね」
「ま、俺にはどうでもいいことだがな」
「似ているのかもしれません」
「……誰にだ?」
「私の、兄にです」

「……アルセス皇子とやらか。ふん、あんな運動不足で寝不足なツラをしていたのか?」
「いいえ。顔立ちは、特に似ていません」
「では声か。背丈か?」
「いいえ。……たぶん、考え方だと思います」
「考え方?それはまた、あんなひねくれ者が他にいるとはな」
「颯真さん、ですね。亘理さんとは何度か会ったことがあると聞きましたが」

 颯真は眉をしかめた。

「対して楽しい記憶じゃあない。それがどうかしたか」
「亘理さんの考え方。……ちょっと、私達にも似ていると思いませんか」
「私、達?俺と、アンタということか」
「ええ。我々、王族の人間に。いつも何か、本人の望まないところで、もっと大きな目標を持っている人間の考え方。どこか大局的な視点をもっているところ」

「買いかぶり過ぎではないか?そこまで頭が回る男とは思えんが」
「私の兄も、そういう人でした。普段は決して、そんな事を顔には出さない人。でもいつも先を見て考えていて、必要な時に必要なことが出来る。そういう人でした」
「ふん……」

 私室に据え付けられた内線電話が鳴り響き、会話は打ち切られた。

『美玲か』
『ご準備を、坊ちゃま。亘理さんたちが、下のロビーに到着したとのことです』
しおりを挟む
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

私がこの株を買った訳 2024

ゆきりん(安室 雪)
経済・企業
2024もチマチマと株主優待や新たに買った株の話し、貧乏作者の貧乏話しを書いて行きたいなぁ〜と思います。 株の売買は自己責任でお願いします。 よろしくお願いします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

私、事務ですけど?

フルーツパフェ
経済・企業
自動車業界変革の煽りを受けてリストラに追い込まれた事務のOL、霜月初香。 再就職先は電気部品の受注生産を手掛ける、とある中小企業だった。 前職と同じ事務職に就いたことで落ち着いた日常を取り戻すも、突然社長から玩具ロボットの組込みソフトウェア開発を任される。 エクセルマクロのプログラミングしか経験のない元OLは、組込みソフトウェアを開発できるのか。 今話題のIoT、DX、CASE――における日本企業の現状。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

JOKER

札幌5R
経済・企業
この物語は主人公の佐伯承夏と水森警察署の仲間との対話中心で進んでいきます。 全体的に、アクション、仲間意識、そして少しのユーモアが組み合わさった物語であり、水森警察署の警察官が日常的に直面する様々な挑戦を描いています。 初めて書いた作品ですのでお手柔らかに。 なんかの間違えでバズらないかな

処理中です...