351 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆25:オープン・セサミ-2
しおりを挟む
「……やれやれ。やはり気分転換をしたほうがいいぞ。二人揃って云々唸られていても、こちらの気が散るだけだ」
「二人?」
言われてはじめて気がついた。隅っこの方で体育座りをして鬱々と何やらつぶやいている真凛に。
「お前、まだ帰ってなかったのかよ。門限が厳しいんだ、そこは割り切って、とりあえずお疲れ様でした続きはまた明日から、って感じで……」
いけるはずもないか。決してあいつのせいではないのだが、自分が催眠術にひっかかってファリス王女を捕まえて敵に差し出した、となれば自責の念もひとしおだ。
いつもなら転げ回って後悔しているところ、どうやらさらに一段階悪化しているようで、壁の模様を見つめながら「無能者め」「技が鈍い。あと一拍削れた」「会話をしようと思ったのが間違いだった。まず初手で目を抉るべきだった」などと、物騒なひとり反省会を声出ししながら脳内で繰り広げているのだった。
「暗号が解けないなら、せめてセゼルの思考が読めればな……」
倉庫でアルセスの隠した『箱』を見つけたように、モノを隠したときの人間の心理がトレースできればある程度の絞り込みはできる。だが、ほとんど歴史上の人物として生き、すでに数年前にこの世を去った異国の人物の心理を洞察するのはさすがに不可能だった。
「そもそも!そもそもぜんぶセゼルさんが悪いんじゃないか!」
突如なにかのスイッチが入ったかのように、真凛が叫ぶ。
「うおい、どうした急に」
「アルセスさんって、ファリスさんの話からして、優しいいい人だったんでしょ?そういう人を捕まえて処刑しておいて、なんで今さらその人が残した『箱』なんて探させるのさ。いっそ最初から全部掘り出しとけば、ファリスさんがこんな目に合うはずもなかったのに」
「いい人だからって、国の機密を国外に漏らせばそりゃ犯罪だからな……」
それに金脈が掘り出されていれば、ファリスが日本に派遣されることはなかっただろうが、ルーナライナの資金は枯渇し、国として詰んでいたことだろう。
セゼルが何を考えていたのかがわからない、か。
おれはため息をついた。わからないといえば、『箱』の裏側に書いてあった妙に長い詩の意味も不明だった。一応、内容の推測は出来ているが、その意図がさっぱりわからない。『箱』をさらに解読するための『鍵』かと思いソフトで解析をかけてみてはいるが、結果はさっぱりだった。
「それにアルセスさんのことだってわからないことが多すぎるよ。いい人だったのに、なんで国の情報を売ろうとしたのさ」
「そりゃあ、単純にカネに目がくらんだか、彼は彼なりの思うところがあって金脈の情報を――」
待て。
よく考えろ。
ループしていたおれの思考回路に亀裂が走り、新たな方向へと展開する。
必要なのは、暗号の解読じゃない。これまで先送りにしていた疑問への回答だ。
セゼル大帝は、虎の子の金脈の情報を後継者候補であるアルセスに教えた。だがアルセスはそれを漏らそうとした罪で捕らえられ、処刑された。ならば、そもそも。
「羽美さん、ちょっとメインフレーム借りますね」
作業用PCからLANを介して解析ソフトを立ち上げ、おれは二つの数列を投入した。
解析ソフトは……あっさりと、解読結果を吐き出した。
「陽司、これ……!!」
「はっはっは、なるほど、これは一本取られたものだ。いやいや電算任せの力技では解けんわけだ」
「羽美さん、この数字、関連データと照合できます?」
「もともと答えが出たときに備えて紐づけてある。自動で出来とるよ。ほれ」
「…………わかりました。ええ、わかりましたよ、すべて」
ディスプレイに映し出された解析結果を、おれは脳裏に収めた。
「……さてと」
おもむろに立ち上がり、背伸び。ラジオ体操でこわばった関節をほぐすと、冷めきった牛丼を給湯室のレンジに放り込む。
立ち上がりざまに、画面の前で固まっているアシスタントに声をかけた。
「真凛、タクシー呼んでやるから今夜はもう帰って寝ろ」
おれの命令に、真凛は逆らわなかった。
「……了解。ちゃんと食べてお風呂入って寝る。で、集合は?」
ふふん、わかってきたじゃないか。
「そうさな、学校終わってからでいいぞ。午後三時に、またここで」
お泊り用の洗面キットを机の引き出しから引っ張り出す。そう、飯を食って、風呂に入って、十分な睡眠を取る必要がある。何しろ。
「気合入れろよ?明日はそのまま横浜、MBSの本拠地に殴り込みだからな」
「二人?」
言われてはじめて気がついた。隅っこの方で体育座りをして鬱々と何やらつぶやいている真凛に。
「お前、まだ帰ってなかったのかよ。門限が厳しいんだ、そこは割り切って、とりあえずお疲れ様でした続きはまた明日から、って感じで……」
いけるはずもないか。決してあいつのせいではないのだが、自分が催眠術にひっかかってファリス王女を捕まえて敵に差し出した、となれば自責の念もひとしおだ。
いつもなら転げ回って後悔しているところ、どうやらさらに一段階悪化しているようで、壁の模様を見つめながら「無能者め」「技が鈍い。あと一拍削れた」「会話をしようと思ったのが間違いだった。まず初手で目を抉るべきだった」などと、物騒なひとり反省会を声出ししながら脳内で繰り広げているのだった。
「暗号が解けないなら、せめてセゼルの思考が読めればな……」
倉庫でアルセスの隠した『箱』を見つけたように、モノを隠したときの人間の心理がトレースできればある程度の絞り込みはできる。だが、ほとんど歴史上の人物として生き、すでに数年前にこの世を去った異国の人物の心理を洞察するのはさすがに不可能だった。
「そもそも!そもそもぜんぶセゼルさんが悪いんじゃないか!」
突如なにかのスイッチが入ったかのように、真凛が叫ぶ。
「うおい、どうした急に」
「アルセスさんって、ファリスさんの話からして、優しいいい人だったんでしょ?そういう人を捕まえて処刑しておいて、なんで今さらその人が残した『箱』なんて探させるのさ。いっそ最初から全部掘り出しとけば、ファリスさんがこんな目に合うはずもなかったのに」
「いい人だからって、国の機密を国外に漏らせばそりゃ犯罪だからな……」
それに金脈が掘り出されていれば、ファリスが日本に派遣されることはなかっただろうが、ルーナライナの資金は枯渇し、国として詰んでいたことだろう。
セゼルが何を考えていたのかがわからない、か。
おれはため息をついた。わからないといえば、『箱』の裏側に書いてあった妙に長い詩の意味も不明だった。一応、内容の推測は出来ているが、その意図がさっぱりわからない。『箱』をさらに解読するための『鍵』かと思いソフトで解析をかけてみてはいるが、結果はさっぱりだった。
「それにアルセスさんのことだってわからないことが多すぎるよ。いい人だったのに、なんで国の情報を売ろうとしたのさ」
「そりゃあ、単純にカネに目がくらんだか、彼は彼なりの思うところがあって金脈の情報を――」
待て。
よく考えろ。
ループしていたおれの思考回路に亀裂が走り、新たな方向へと展開する。
必要なのは、暗号の解読じゃない。これまで先送りにしていた疑問への回答だ。
セゼル大帝は、虎の子の金脈の情報を後継者候補であるアルセスに教えた。だがアルセスはそれを漏らそうとした罪で捕らえられ、処刑された。ならば、そもそも。
「羽美さん、ちょっとメインフレーム借りますね」
作業用PCからLANを介して解析ソフトを立ち上げ、おれは二つの数列を投入した。
解析ソフトは……あっさりと、解読結果を吐き出した。
「陽司、これ……!!」
「はっはっは、なるほど、これは一本取られたものだ。いやいや電算任せの力技では解けんわけだ」
「羽美さん、この数字、関連データと照合できます?」
「もともと答えが出たときに備えて紐づけてある。自動で出来とるよ。ほれ」
「…………わかりました。ええ、わかりましたよ、すべて」
ディスプレイに映し出された解析結果を、おれは脳裏に収めた。
「……さてと」
おもむろに立ち上がり、背伸び。ラジオ体操でこわばった関節をほぐすと、冷めきった牛丼を給湯室のレンジに放り込む。
立ち上がりざまに、画面の前で固まっているアシスタントに声をかけた。
「真凛、タクシー呼んでやるから今夜はもう帰って寝ろ」
おれの命令に、真凛は逆らわなかった。
「……了解。ちゃんと食べてお風呂入って寝る。で、集合は?」
ふふん、わかってきたじゃないか。
「そうさな、学校終わってからでいいぞ。午後三時に、またここで」
お泊り用の洗面キットを机の引き出しから引っ張り出す。そう、飯を食って、風呂に入って、十分な睡眠を取る必要がある。何しろ。
「気合入れろよ?明日はそのまま横浜、MBSの本拠地に殴り込みだからな」
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

私、事務ですけど?
フルーツパフェ
経済・企業
自動車業界変革の煽りを受けてリストラに追い込まれた事務のOL、霜月初香。
再就職先は電気部品の受注生産を手掛ける、とある中小企業だった。
前職と同じ事務職に就いたことで落ち着いた日常を取り戻すも、突然社長から玩具ロボットの組込みソフトウェア開発を任される。
エクセルマクロのプログラミングしか経験のない元OLは、組込みソフトウェアを開発できるのか。
今話題のIoT、DX、CASE――における日本企業の現状。

JOKER
札幌5R
経済・企業
この物語は主人公の佐伯承夏と水森警察署の仲間との対話中心で進んでいきます。
全体的に、アクション、仲間意識、そして少しのユーモアが組み合わさった物語であり、水森警察署の警察官が日常的に直面する様々な挑戦を描いています。
初めて書いた作品ですのでお手柔らかに。
なんかの間違えでバズらないかな

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる