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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆23:極東の地に眠りし秘宝−4
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倉庫の片隅の作業机をLEDの懐中電灯で照らし、おれ達は広げた羊皮紙を覗き込んだ。『アル話ルド君』のカメラを起動。羊皮紙も痛みが激しく、何はともあれデータにしてしまわないと安心できない。
「あれ、陽司。裏にもなにか書いてあるよ?」
「なんだと?……本当だ。ルーナライナ語か?」
暗くて見落としていたが、確かに裏面に何やら文字列が書き連ねられていた。文字の読み書きには多少自信はあったが、これは解読できなかった。
「……これは古代ルーナライナ語ですね」
「読めるんですか?ファリスさん」
「多少は。ルーナライナは紀元前頃までは、交易都市として独自の文化や文字を持っていたそうです。今は王にのみ、読み書きの技術が伝えられれ、公文書に署名する際に使用されています。他の王族も、読める程度には一通りの教育を受けるのです」
「筆跡はそこまで古くはない。となると、書いたのはセゼル大帝ってことになるかね。……読みあげてもらって構わないかい?」
「はい。私も、音読しながらの方が思い出せると思うので」
星の瞬きにも例えられる、ルーナライナ語の韻律。皇女の声で、走り書きの内容が読み上げられていく。
『水辺の果樹に吊された男がひとり。
その水は、男が口を近づければ潮の如く下へ引き。
その果実は、男が身を起こせば風の如く上へ舞う』
『果実と水を目の前にしながら、
死ぬことも出来ず永遠の飢(かつ)えに苛(さいな)まれる。
それがこの男に課せられた罰である』
『虚無は必ずしも罰とはなりえない。
悦びを知らねば、それを望むこともないのだから。
悦びを知っているからこそ、
決して手に入らないそれが、罰となりえる』
『なればこそ、この男には相応しい。
人の身にありながらあらゆる悦びを極め、
そしてついには神の座を望み。
あまつさえ我が子を殺め、神々を試したこの男には』
『もはや天地が終わろうと、男の罪は赦されることなどない。
それは当然の報いだ。
だがしかし。
気づいていた者が果たしていたのであろうか。
男が永劫の罪に問われたのは、彼が神々を試したがゆえの罰であり。
けっして、彼が我が子を殺めたがゆえの罰ではなかったことを』
「……詩、か?」
「おそらくは……」
「ファリス、君たち王族はみな古代ルーナライナ語の読み書きができる?」
「いいえ。読み上げるくらいならできますが、自分で文章を……まして詩を書くのは不可能です」
ふむ。となると、昔の詩をそのまま写したか。どこかで聞いたような話の気もするが。
「いずれにせよ後で調べよう。また追手に絡まれる前に撤収するぞ、真凛ーー?」
そこでふと気がついた。真凛がじっとこちらを見つめている。
「……真凛さん、どうかしましたか?」
こちらを見ているのに、焦点があっていない。背後になにかあるのかと思ったが、窓もなく壁があるだけ。虚ろな表情で、瞬きすらしていない。いつもの闊達な表情が抜け落ちたその顔は、日本人形のように端正で、空おそらしさすら感じさせるものだった。
「おいおい、また腹でも下したか?今日はあんまり変なものは食ってないはずだが」
真凛はおれの質問の意味が理解できない、といった体で小首を傾げると、つかつかと近寄り。
その拳を、おれの腹に叩き込んだ。
「ご、……ほっ……!」
「あれ、陽司。裏にもなにか書いてあるよ?」
「なんだと?……本当だ。ルーナライナ語か?」
暗くて見落としていたが、確かに裏面に何やら文字列が書き連ねられていた。文字の読み書きには多少自信はあったが、これは解読できなかった。
「……これは古代ルーナライナ語ですね」
「読めるんですか?ファリスさん」
「多少は。ルーナライナは紀元前頃までは、交易都市として独自の文化や文字を持っていたそうです。今は王にのみ、読み書きの技術が伝えられれ、公文書に署名する際に使用されています。他の王族も、読める程度には一通りの教育を受けるのです」
「筆跡はそこまで古くはない。となると、書いたのはセゼル大帝ってことになるかね。……読みあげてもらって構わないかい?」
「はい。私も、音読しながらの方が思い出せると思うので」
星の瞬きにも例えられる、ルーナライナ語の韻律。皇女の声で、走り書きの内容が読み上げられていく。
『水辺の果樹に吊された男がひとり。
その水は、男が口を近づければ潮の如く下へ引き。
その果実は、男が身を起こせば風の如く上へ舞う』
『果実と水を目の前にしながら、
死ぬことも出来ず永遠の飢(かつ)えに苛(さいな)まれる。
それがこの男に課せられた罰である』
『虚無は必ずしも罰とはなりえない。
悦びを知らねば、それを望むこともないのだから。
悦びを知っているからこそ、
決して手に入らないそれが、罰となりえる』
『なればこそ、この男には相応しい。
人の身にありながらあらゆる悦びを極め、
そしてついには神の座を望み。
あまつさえ我が子を殺め、神々を試したこの男には』
『もはや天地が終わろうと、男の罪は赦されることなどない。
それは当然の報いだ。
だがしかし。
気づいていた者が果たしていたのであろうか。
男が永劫の罪に問われたのは、彼が神々を試したがゆえの罰であり。
けっして、彼が我が子を殺めたがゆえの罰ではなかったことを』
「……詩、か?」
「おそらくは……」
「ファリス、君たち王族はみな古代ルーナライナ語の読み書きができる?」
「いいえ。読み上げるくらいならできますが、自分で文章を……まして詩を書くのは不可能です」
ふむ。となると、昔の詩をそのまま写したか。どこかで聞いたような話の気もするが。
「いずれにせよ後で調べよう。また追手に絡まれる前に撤収するぞ、真凛ーー?」
そこでふと気がついた。真凛がじっとこちらを見つめている。
「……真凛さん、どうかしましたか?」
こちらを見ているのに、焦点があっていない。背後になにかあるのかと思ったが、窓もなく壁があるだけ。虚ろな表情で、瞬きすらしていない。いつもの闊達な表情が抜け落ちたその顔は、日本人形のように端正で、空おそらしさすら感じさせるものだった。
「おいおい、また腹でも下したか?今日はあんまり変なものは食ってないはずだが」
真凛はおれの質問の意味が理解できない、といった体で小首を傾げると、つかつかと近寄り。
その拳を、おれの腹に叩き込んだ。
「ご、……ほっ……!」
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