人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆23:極東の地に眠りし秘宝−2

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「……ファリスさん。その……。形見分け、みたいなことはしなかったんですか?」
「いいえ。彼の……アルセス王子の処分が決まった後、彼の所有物はすべてセゼル大帝の直轄機関によって没収されました。すべて……。彼の手紙、衣服、書物。そういったものもすべて。私達の目に触れることは一切なかったのです」

 ファリスの口調が虚ろになりかける。だが今、箱を見つめるその眼差しには、過去に抗う意志が確かに感じられた。ならば状況を前に進めるのがおれに出来ることというもの。現場でよくお世話になってるカッター様を取り出すと、一気に湿気たガムテ―プを切り裂いた。

「…………ゴミ?」
「……いや、ゴミ、ではないが……」
「ですね……」

 ダンボールの中には、スーパーのビニール袋が一つ。開けると、電話線のケーブル、電源タップ、使いかけの文房具やマグカップ、メガネ、サンダルなどが無造作に詰め込まれていただけだった。

「私物というか、これは本当に異動になった人の忘れ物、って感じだな」

 おれは以前立ち会った倒産企業の債権処理の任務を思い出した。明日からもう会社にこなくていいと言われた社員の机にはこういったケーブル類や文房具が取り残されており、一応勝手に捨てるわけにはいかず保管せざるを得なかったのである。

「ええと、パソコンとか、ノートとか。そういうのはないの?」
「ないな。パソコンは研究室のものだろうし」

 ノートや個人用メディア……当時ならフロッピーディスクだろうか?そんなものがあったらまっさきに回収されただろう。ここにあるのは、おそらくアルセスが拘禁された後にやってきたセゼルの手の者があらかた持ち去った後の残りなのだろう。

「じゃあ、やはり『箱』はすでに奪われた後なのでしょうか?」
「いや、そう結論するのは早い」

 考えろ。捜し物のコツは、当時の状況と隠した人間の心理をトレースすることだ。

 極東の地に在りし、うずもれたもう一つの『箱』……ファリスの父は、セゼル本人から日本に『箱』があるとの伝言を受けたという。ここは大前提として、日本に『箱』がまだ残っていると仮定する。

 そのうえで、まずはセゼルの立場だ。海外に留学させたもっとも信頼する曾孫が海外に内通していると発覚した。

 おれが彼だったらどうする?当然、自分が動かせるコマ、大使館の人員あたりに連絡を取り、皇子を物理的に拘束し本国に送還する。次に、皇子が漏らした情報をどう収集するか?例えば、皇子を尋問して誰、あるいはどんな企業と取引したかを吐かせ、それらを密かに裏で口封じする。あるいは表のルートで日本政府なり企業なりを糾弾するか。

 ……いや、いずれも現実的ではない。諜報部員が何十人も駐在していればともかく、細かい謀略を編むにはルーナライナの国力は低く、遠く離れすぎていた。そして日本を糾弾するにはまず金脈がまだあるという情報をオープンにせねばならず、当然これは自殺行為のため不可。

「となれば、機密情報だろうが日常会話だろうが、これ以上情報が拡散しないようかたっぱしから皇子の人脈を遮断するしかない」

 手紙や私物は処分、回収。メールは凍結する。これであれば、日本に駐在している数人のスタッフでも出来る。そして回収すべき情報。まずは大本命たる、金脈の位置を記した情報。そしてアルセス皇子が記した暗号の数列、すなわち『箱』。当然、これの回収が至上命題となるはずだ。

 晩年のセゼルが日本に『箱があると述べたということは、どちらもついに回収できなかったということだろうか。

 だが、金脈の位置そのものはセゼル本人も知っていて当然だ。なぜファリスの父に直接伝えず、わざわざ日本に『箱』を探しに行かせるような真似をさせた?

 ここは考えていても結論は出なさそうだ。次に、アルセス皇子の立場だ。先述のようなことは当然、皇子も熟知していただろう。おれが彼だったらどうする?
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