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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆20:ルート・ダウンポート−2
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昨日のファリス皇女歓迎会はたいそう盛り上がった。ドラッグストアで買い込んだ発泡酒とおつまみとケータリングのチキン類を事務所に持ち込んだだけのものだったが、奇跡的に事務所メンバーが全員集まったため、ずいぶんとひどいことになったのである。
「陽司!やっぱりボクが帰った後ファリスさんにお酒飲ませたの!?」
「一度は休んでもらったんだがなあ。桜庭さんが地下からワインを持ち出したんで」
「ファリスさん未成年なんだからお酒だめだって言ったのはアンタじゃない!」
「まぁそういうな。ルーナライナでは酒は十七歳から飲んでよいのだそうだ。王族とは実質的に外交官、しからばこれは外交官特権が暫定的に随時適用されているようなもの、皇女殿下にわざわざ日本のつまらぬ規制を当てはめる必要はあるまいよ」
「よくわからないけど、アンタが屁理屈を言ってるって事はわかるよ」
「それになおまえ、ファリス皇女殿下の肝臓はな……」
「亘理さん、昨日の勝負については、後日余計なことはおっしゃらないと約束していただいたはずですよ」
「ハイ」
まばゆい笑みに、酔った勢いで始めた飲み比べで無様に撃沈した間抜けは引きつった笑顔で応じる。くそっ、途中で焼酎とビールをちゃんぽんしていなければここまで無様な負けはさらさなかったというに。
ちなみに直樹は悪酔いしたあげく自前のノートPCでカラオケソフトを走らせダウンロードした最新アニソン(PVつき)を歌い出し、連続で六曲まで歌ったところで来音さんにしめやかに超人絞殺刑に処されて昏倒した。
羽美さんはここぞとばかりに特撮ヒーローに影響を受けて作成した怪しげなガジェットを宙に飛ばし大顰蹙を買い、仁サンはビキニパンツ一丁になって鉄板の宴会芸の分身ボディービルで受けを取った後、さらなる高みを目指しパンツも脱ぎ捨てようとしたところで青少年への悪影響を懸念したチーフの魔術で次元の狭間に放り込まれた。
そのチーフは手を滑らせて床に灰を落としてしまい、桜庭さんの笑みに屈して外階段でさみしく火を灯すホタル族と化し、来音さんはこれまた悪酔いして泣きながら延々と恋愛論という名のダメンズ遍歴を語り、それに二時間つきあった所長が開き直って生き残りを連れて夜の町へと二次会に出撃することでようやくカオスは収束を見た。
「えぇー、なんかみんな楽しそうじゃない。ボクも残ってればよかったかな」
「私も、真凛さんとはいつか一緒にお酒を飲んでみたいですね」
「はははー絶対ダメ!です」
「まあそりゃあ、お酒はまだダメだってわかってるけどさあ」
こいつの酒癖は人としても武道家としても最低最悪の部類である。何しろ酔っ払うと他人に技をかけたくなってたまらなくなるのだ。
いつぞやの忘年会でおれは危うく因幡の白ウサギめいて背中の皮を剥がれて泣きながら布団にくるまって眠る羽目になるところだった。こいつが成人した後、いつか将来酒で深刻な問題をやらかさないか、おれはひたすらに不安である。
「ってかおまえこそ、途中で帰ったけど、無事に家につけたんだろうな?」
「へ?」
「そう、来音さんも心配されてました。真凛さんは無事に帰れたのかと」
「あ、その、うんもちろん帰れたよ。ちゃんと学校にも遅刻しなかったし」
「ま、地下鉄で一本だし、無事につけなきゃ困るんだが」
「うん。無事無事。なんにもなかったよ」
それならいいが。傷害事件だけは勘弁してほしいものである。
「さて、研究棟についたぞ」
おれは受付に学生証をかざし、アポを取っていることを告げた。
「陽司!やっぱりボクが帰った後ファリスさんにお酒飲ませたの!?」
「一度は休んでもらったんだがなあ。桜庭さんが地下からワインを持ち出したんで」
「ファリスさん未成年なんだからお酒だめだって言ったのはアンタじゃない!」
「まぁそういうな。ルーナライナでは酒は十七歳から飲んでよいのだそうだ。王族とは実質的に外交官、しからばこれは外交官特権が暫定的に随時適用されているようなもの、皇女殿下にわざわざ日本のつまらぬ規制を当てはめる必要はあるまいよ」
「よくわからないけど、アンタが屁理屈を言ってるって事はわかるよ」
「それになおまえ、ファリス皇女殿下の肝臓はな……」
「亘理さん、昨日の勝負については、後日余計なことはおっしゃらないと約束していただいたはずですよ」
「ハイ」
まばゆい笑みに、酔った勢いで始めた飲み比べで無様に撃沈した間抜けは引きつった笑顔で応じる。くそっ、途中で焼酎とビールをちゃんぽんしていなければここまで無様な負けはさらさなかったというに。
ちなみに直樹は悪酔いしたあげく自前のノートPCでカラオケソフトを走らせダウンロードした最新アニソン(PVつき)を歌い出し、連続で六曲まで歌ったところで来音さんにしめやかに超人絞殺刑に処されて昏倒した。
羽美さんはここぞとばかりに特撮ヒーローに影響を受けて作成した怪しげなガジェットを宙に飛ばし大顰蹙を買い、仁サンはビキニパンツ一丁になって鉄板の宴会芸の分身ボディービルで受けを取った後、さらなる高みを目指しパンツも脱ぎ捨てようとしたところで青少年への悪影響を懸念したチーフの魔術で次元の狭間に放り込まれた。
そのチーフは手を滑らせて床に灰を落としてしまい、桜庭さんの笑みに屈して外階段でさみしく火を灯すホタル族と化し、来音さんはこれまた悪酔いして泣きながら延々と恋愛論という名のダメンズ遍歴を語り、それに二時間つきあった所長が開き直って生き残りを連れて夜の町へと二次会に出撃することでようやくカオスは収束を見た。
「えぇー、なんかみんな楽しそうじゃない。ボクも残ってればよかったかな」
「私も、真凛さんとはいつか一緒にお酒を飲んでみたいですね」
「はははー絶対ダメ!です」
「まあそりゃあ、お酒はまだダメだってわかってるけどさあ」
こいつの酒癖は人としても武道家としても最低最悪の部類である。何しろ酔っ払うと他人に技をかけたくなってたまらなくなるのだ。
いつぞやの忘年会でおれは危うく因幡の白ウサギめいて背中の皮を剥がれて泣きながら布団にくるまって眠る羽目になるところだった。こいつが成人した後、いつか将来酒で深刻な問題をやらかさないか、おれはひたすらに不安である。
「ってかおまえこそ、途中で帰ったけど、無事に家につけたんだろうな?」
「へ?」
「そう、来音さんも心配されてました。真凛さんは無事に帰れたのかと」
「あ、その、うんもちろん帰れたよ。ちゃんと学校にも遅刻しなかったし」
「ま、地下鉄で一本だし、無事につけなきゃ困るんだが」
「うん。無事無事。なんにもなかったよ」
それならいいが。傷害事件だけは勘弁してほしいものである。
「さて、研究棟についたぞ」
おれは受付に学生証をかざし、アポを取っていることを告げた。
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