人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆16:路地裏遁走劇−5

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「はぎゃっ!?」

 異様に小気味の良い破裂音。助走と落下と回転の勢いを全部乗せた踵がチンピラの鎖骨を容赦なくへし折ったのだ。

 しかもそのまま体勢を崩すことなく、苦悶に反り返った胸を蹴って真横に跳躍。後続のチンピラ……おれが電撃をかました長髪ピアスに襲いかかる。

 空中から無造作に左手で長髪、右手でピアスをひっつかみ、そのまま背骨を軸として全身の筋肉をうねらせ、ぐるんっと一回転した。

「うっわ」

 おれは思わず声を漏らしてしまった。長髪とピアスをハンドル代わりにされて首を捻られ、ちょっと言及できないほど凄惨な状態になったチンピラ二号が顔を覆って悶絶する。残心しつつバックステップ、おれ達を背後にかばうその様はまさしくヒーローのそれであった。

「なんだテメェ!?」
「ガキか?今何しやがった?」

 後続のチンピラ達が呆気に取られ、足を止める。その一瞬、魔法の杖のように伸びた真凛のつま先がさらに一人の鳩尾を蹴込んでいた。これで三人。

「集団戦?いいよ」

 ぞっとするほど冷たい声。この娘の本質、刃物じみた美貌が垣間見える。

「そういうのは得意だから」
「真凛さん!!」
「遅くなりましたファリスさん!もう大丈夫ですよ!」
「もう腹痛はよくなったのか?」
「おかげさまで!休んだあと御礼言って一度事務所に戻ったんだよ。そしたらあんた達が来たから――」
「ああ。それでパンツも履き替えてたのか」
「…………な」

 うん、まあなんだ。いくら色気よりも食い気とは言え、スカート履いて飛んだり跳ねたりは、ちょっとな――って、

「痛ッてえじゃねぇか!?普通顔面蹴るか?」

 さっきのパンチよりよっぽど痛ぇぞ!?

「うっさいバカ!普通助けてもらってその台詞はないでしょ!?バカでしょアンタ!?あのまま死んでればよかったのに!バカ!」
「おいお前今バカって三回言いやがっただろ?」
「亘理さん、さすがに今のはどうかと」
「え………まずかったかな?」
「ルーナライナでしたらその場で射殺されても無罪判決のレベルです」
「……ま、まあそれよりアレだ。真凛、そいつらをやっつけてしまえ!」

 自分がダメな悪の幹部になった気がする。四天王最弱とかそういう奴。

「……あとできっちり話しよっか」

 猛獣めいた視線の女子高生。小娘一人、だが異様に喧嘩慣れしたその雰囲気と、何より三人を瞬殺してのけた技量。チンピラ達は明らかにひるんだ様子だった。



『あらあら、これは良くない状況ですわね』

 胸の下で腕を組んだ美玲が言う。暗闇を見通す彼女の視界の中では、七瀬真凛に突っかかっていった与太者達が、ほとんど鎧袖一触の状態で次々と戦闘不能に追い込まれている。

『当然だ。小銭をばらまいて雑魚を集めたところで所詮は雑魚。戦闘要員のエージェントが出てくればそれで終わり。自明の事だ』

 そう言って颯真が横目でビトールを睨んだのには当然、無断行動への非難もあるが――

『まさかこれで終わりか、とでも思っているのだろう?』

 陽が殆ど沈み、あたりを覆い尽くす夜の帳の向こうから、ビトールの声が響いた。

『違うのか?』
『当然、終わりではない。与太者どもをかき集めてけしかける程度ならば子供でも思いつく方法だ。本番はこれからよ』

 闇の中、その瞳のみが異様なぎらつきを放つ。金色の輝きの中で、瞳孔が縦に裂け、そして拡がった。

 筋肉質の大男の輪郭が黄昏ににじみ、ぼやける。陽炎のようにゆらいだそれは、やがて二足歩行のままに、全身の毛を炎のように逆立てた異形のけだもののそれとなった。

 闇の中、それ・・は己が歯を食いしばり、そのまま大きく呼気を吐きだした。口腔内で一度せき止められた呼気が圧をかけられ歯と歯の隙間から幾条も吹き出す――朦々たる黒煙となって。

『――”ルーナライナとトウキョウとでは条件が異なる?”』

 再び男の姿がかき消える。夜の闇よりなお暗い、光を呑む靄によって。

『――”兵隊もいないのに?”――いかにも人間が口にしそうな言い訳よな』

 しばらく黒い靄の中に眼を凝らしていた美玲が、やがて得心がいったように組んでいた腕を開いた。

『これはこれは――そういう筋の方でしたか。こう言っては何ですが、我々の反りが最初から合わなかったのは仕方のないことだったのかも知れませんね』

 闇の向こうで空気が震える。牙を軋らせた笑い声。

『そうさな。本来は俺は喰う側、お前達は喰われる側――だ。女、貴様のししむらを食い千切れなかった事は心残りだが、それはまたいつかの楽しみとしよう』

 轟、と突風が一つ。

 黒い靄が風に散る。美玲が風になぶられた髪をかき上げた時には、すでにルーナライナ軍大佐ビトール
の姿は雑居ビルの屋上からかき消えていた。

「行ったか」
「追いますカ?」 
「それこそまさか、だ」
「一応確認ですケド、我々ビトール殿を止めに来たコトデスヨ?」

 己の忠臣の言葉に、若き暴君は鼻を一つだけならした。

「気が変わった。ビトールの奴、頭はともかく腕はそこそこ立つようだからな」

 先ほどビトールが凭れていた手すりに身を乗り出し、劉颯馬は言った。

「七瀬め。『竜殺し』、どこまでやるのか見せて貰おう」
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