人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆14:灼熱の死闘−3

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「まぁ、それはこっちで何とかするよ。それよりもう一つ、もっと重要で根幹的な問題がある」
「なん、でしょう?」
「……おれが口を出していいものかどうかは、わからないけど。たぶん、依頼に取りかかる前に、この問題はクリアしておく必要がある」
「どういうこと?陽司」

 不思議そうにおれを見る真凛とは対照的に、視線を赤いカレーうどんに落とし沈黙するファリス。おれは腹に一つ力を入れ、いずれしなければならない話を、ここで切り出すこととした。

「仮に『箱』が見つかり、暗号が解け、ルーナライナの最後の大金脈が見つかったとして。……それで、君の国は救われるのかい?」

 ファリスは頭を上げなかった。

 そう、この聡明な王女が、そもそもこんな簡単な問題に気がつかないはずがないのだ。

 視線を落としたまま、膝の上に置いた両の拳を、微かに震わせた。


 
 根源的な問題。

 もしも、最後の金脈の在処が彼女の国にもたらされたとしたら、何が起こるか。

 何も変わらない。分裂した諸勢力は歓喜の声を上げて金脈に殺到し、銃でその土地を奪い合い、勝ち取った者がまた、老若男女を問わず民衆を奴隷のように働かせ採掘させるだろう。

 金鉱が何年持つのかは解らないが、それで終わりだ。黄金は同胞を撃ち殺す銃と引き替えに諸外国に吸い上げられ、ルーナライナには凶器と廃墟と死体と怨恨しか残らない。

「君はおれ達に、『箱』を見つけて、ルーナライナを救って欲しいと言った。でも『箱』を見つけてもたぶんルーナライナは救えない、んじゃないかな」

 なるべく言葉を選んでいるつもりだが、彼女を傷つける事になることも覚悟していた。結局のところ彼女の依頼は、一つの国の内戦を収めて欲しいということでもある。そして、身も蓋もないことを言えば、しょせん遠く離れた日本の学生バイトになど解決できるはずがないのである。例え、おれ達に今以上に常人離れした力があったとしても。

 だからここではっきりさせておかなければならない。『箱』を見つけることが国を救う事にはならないという事を。おれ達に出来るのは『箱』を探すことまでだという事を。

 国の危機を救うのは、通りすがりの冒険者ではない。国を支配する者と、その国で生きる人々でなければならないのだ。魔王を倒したり伝説の秘宝を手に入れることでは、現実の戦争は終わらせられない。

「……隠された『箱』を見つけて、ルーナライナを救って欲しい、というのは父の命令でした。それは間違いありません」

 しばりの沈黙を、ファリスが割った。

「対となる『鍵』も確かに、父から受けとったものです。でも、父はこうも言っていました。……見つかるまで、帰ってこなくていい、と」
「帰ってこなくていい?ちょっとそれって……」

 ひどい、と言いかけた真凛が口をつぐんだ。そう、ひどくはないのだ。今の彼女の故郷の状態を思えば。

「父も、この金脈の在処をそこまで信じていたわけではなかったと思います。私が見つけられる可能性も。私を海外に逃がす口実と半分半分。たぶんそんなところじゃないでしょうか」
「ファリスさん……」
「父の意志にはすぐに気づきました。成功は期待されていない、ということも」

 寂しげに笑う皇女。

「なら、受けないことも出来たかもな」
「……はい。もしかしたら、断ってルーナライナに残ることも出来たかも知れませんね……」
「でも、結局君は日本に向かうことにした。それはなぜ?」

 おれの質問に、彼女は驚いたようだった。もしかしたら、彼女自身も己にその問いかけをしたことがなかったのかも知れない。

「……あそこに居ても、私に出来ることは何もないんです」
「それは、どういう意味かな?」

 おれは意図的に、反応をシンプルなものへと絞っていった。彼女に必要なのは、たぶん、自問自答のための、鏡だ。

「王族の仕事は、その立場を利用して国の役に立つことです。その財力を利用して産業を興したり、文化を保護したり、国の広告をしたり」

 真凛がおずおずと手を挙げた。

「あのぅ、お姫様ってこう、お城の中でおいしいご飯を食べて、毎晩舞踏会をしてるものかなあ、と」
「お前それ、幼稚園の頃読んだ絵本のイメージしか頭の中にないだろ!?」

 ちなみに食事や舞踏会も、人脈を築くという重要な仕事の一つである。パーティーを仕切り、人を人に紹介したりするホストとしての器量が求められ、なまなかな実力では務まらないのだ。
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