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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆13:国際交流(未成年お断り)-4
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サホタは彼お気に入りのAcer製の大振りなノートパソコンをその場で拡げると、寮の管理に使用していると思しき幾つかのエクセルファイルを拡げた。
『デキる奴はレスポンスが早くて助かるよ。どうだ?』
『えぇっと……部屋番号はわかるな。っておい、香雪とナターシャの部屋じゃねぇか』
『マジか?』
『ああ。なるほど、ルーナライナの留学生が来なくなったところに、ロシアからの初めての留学生だったナターシャの数代前の先輩が部屋を割り当てられたらしいな』
『あちゃぁ、となると部屋は空かないかな?』
『いやいや。おあつらえ向けに、ナターシャが寮を出るという話がある』
『ほう、マンションにでも引っ越すのか?景気のいい話だな』
『いや、どうやら彼氏の部屋で同棲するらしい』
『それはそれは。誰だか知らんが、同棲するスペースがあるとは学生にしちゃずいぶんいい部屋に住んでるじゃないか』
『学生じゃないぞ、一文の里村准教授だ』
『――それは、それは』
思わぬところで友人の個人情報を仕入れてしまったが、それはさておき。
『部屋の下見は可能か?』
『日本語で”ツバをつけておく”というヤツだな。かまわんぞ。――おおいナターシャ!』
『呼びました?サホタさん』
ファリスを囲む輪から離れ、ナターシャがこちらに来る。往年のナディア・コマネチを彷彿とさせる容貌と不釣り合いな物堅い表情のロシア美人なのだが。
『――なるほど、そういう事ならかまいませんよ。私の後輩達は親御さんが石油発掘で儲けてまして、赤坂のマンション暮らしな方ばかりですから、引き継ぐ人もいませんし』
『こちらも景気のいい話だこと。資源のある国は強いねぇ』
『一時間ほどしたら、私と香雪が出かけますので、その後は自由に見学して下さいな』
『ありがとさん、じゃあ鍵借りるわ』
『どういたしまして。それより亘理さん、来週の講義こそはちゃんと出席されるのでしょうね?』
「そこは可及的前向きに善処する可能性を粛々と検討するのもやぶさかでなく」
ジャパニーズ・エンキョク表現で煙に巻きつつ、おれは戦術的撤退を決め込んだ。
センターから外に出ると、おれは二人に手早く事情を説明した。
「ってことで、部屋が空くまで一時間ほどあるんだが、とりあえず他の校舎でもぶらぶら歩き回ってみるかい?」
「うーん。どうだろう」
「ええと、そうですね……」
「まぁ、またセンターの中で駄弁りつつ時間を潰してても構わんけどさ」
「行こう!行こう!」
「ぜひお願いします」
即答する二人。いきなりうちの大学の一番濃い部分を見せてしまったので致し方なしとも言えるが。しかし授業に忍び込むにも間の悪い時間帯だし、どこに行ったものか。
と、その時、ロビーの向こうから流れる音楽にも負けないほど大きな腹の音が、はっきりと鳴り響いた。もちろん、誰のものかは言うまでもない。
「……お前ねぇ。昼飯は食っただろ?」
「あ、あは、あははははは」
「笑って頭を掻けばごまかせると思ったら大間違いだ」
真凛の額を人差し指で軽く押す。と、今一度、先ほどよりもさらに大きな腹の音が鳴り響いた。
「……お前、いくら何でも……」
「ボ、ボクじゃないよ!?」
全力で首を振って否定する真凛。
「じゃぁ他に誰がいるってんだよ」
すると、視界の端にそろそろと挙がる手。振り向くと、顔を真っ赤にさせてうつむいたファリス王女が、小さく挙手をしていたのだった。
「その……すみません」
「あ、いや。これは気づかなくて悪かった」
「なんだよその差は!」
そういえば、片や朝から午前にかけては高速道路で戦闘。片や地球を半周する時差のきつい飛行機旅。腹が減るのもやむ無しではある。
「ふむ。食欲があるのはいいこと、か」
おれはばつが悪そうに顔を見合わせる女性陣二人を前に、首をひねった。
「じゃあちと遅いが、昼飯にしようか」
『デキる奴はレスポンスが早くて助かるよ。どうだ?』
『えぇっと……部屋番号はわかるな。っておい、香雪とナターシャの部屋じゃねぇか』
『マジか?』
『ああ。なるほど、ルーナライナの留学生が来なくなったところに、ロシアからの初めての留学生だったナターシャの数代前の先輩が部屋を割り当てられたらしいな』
『あちゃぁ、となると部屋は空かないかな?』
『いやいや。おあつらえ向けに、ナターシャが寮を出るという話がある』
『ほう、マンションにでも引っ越すのか?景気のいい話だな』
『いや、どうやら彼氏の部屋で同棲するらしい』
『それはそれは。誰だか知らんが、同棲するスペースがあるとは学生にしちゃずいぶんいい部屋に住んでるじゃないか』
『学生じゃないぞ、一文の里村准教授だ』
『――それは、それは』
思わぬところで友人の個人情報を仕入れてしまったが、それはさておき。
『部屋の下見は可能か?』
『日本語で”ツバをつけておく”というヤツだな。かまわんぞ。――おおいナターシャ!』
『呼びました?サホタさん』
ファリスを囲む輪から離れ、ナターシャがこちらに来る。往年のナディア・コマネチを彷彿とさせる容貌と不釣り合いな物堅い表情のロシア美人なのだが。
『――なるほど、そういう事ならかまいませんよ。私の後輩達は親御さんが石油発掘で儲けてまして、赤坂のマンション暮らしな方ばかりですから、引き継ぐ人もいませんし』
『こちらも景気のいい話だこと。資源のある国は強いねぇ』
『一時間ほどしたら、私と香雪が出かけますので、その後は自由に見学して下さいな』
『ありがとさん、じゃあ鍵借りるわ』
『どういたしまして。それより亘理さん、来週の講義こそはちゃんと出席されるのでしょうね?』
「そこは可及的前向きに善処する可能性を粛々と検討するのもやぶさかでなく」
ジャパニーズ・エンキョク表現で煙に巻きつつ、おれは戦術的撤退を決め込んだ。
センターから外に出ると、おれは二人に手早く事情を説明した。
「ってことで、部屋が空くまで一時間ほどあるんだが、とりあえず他の校舎でもぶらぶら歩き回ってみるかい?」
「うーん。どうだろう」
「ええと、そうですね……」
「まぁ、またセンターの中で駄弁りつつ時間を潰してても構わんけどさ」
「行こう!行こう!」
「ぜひお願いします」
即答する二人。いきなりうちの大学の一番濃い部分を見せてしまったので致し方なしとも言えるが。しかし授業に忍び込むにも間の悪い時間帯だし、どこに行ったものか。
と、その時、ロビーの向こうから流れる音楽にも負けないほど大きな腹の音が、はっきりと鳴り響いた。もちろん、誰のものかは言うまでもない。
「……お前ねぇ。昼飯は食っただろ?」
「あ、あは、あははははは」
「笑って頭を掻けばごまかせると思ったら大間違いだ」
真凛の額を人差し指で軽く押す。と、今一度、先ほどよりもさらに大きな腹の音が鳴り響いた。
「……お前、いくら何でも……」
「ボ、ボクじゃないよ!?」
全力で首を振って否定する真凛。
「じゃぁ他に誰がいるってんだよ」
すると、視界の端にそろそろと挙がる手。振り向くと、顔を真っ赤にさせてうつむいたファリス王女が、小さく挙手をしていたのだった。
「その……すみません」
「あ、いや。これは気づかなくて悪かった」
「なんだよその差は!」
そういえば、片や朝から午前にかけては高速道路で戦闘。片や地球を半周する時差のきつい飛行機旅。腹が減るのもやむ無しではある。
「ふむ。食欲があるのはいいこと、か」
おれはばつが悪そうに顔を見合わせる女性陣二人を前に、首をひねった。
「じゃあちと遅いが、昼飯にしようか」
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