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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆12:ルート・ジャンクション-3
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ちょいと注視すれば一人は世にも類い希な高貴さ漂わす美少女であると気づいたはずだが(もう片方のお子様も少年に見えるがまぁ面立ちは整っていると認めてやらんでもない)、大分煮詰まっている雰囲気の先輩はそーか、と呟いたのみで、すぐに手元の昼食とエントリーシートに没入してしまった。
おれは軽く会釈すると、引き続き二人を連れてさらに奥へと案内した。
「ねぇ陽司」
道すがら真凛が問うてくる。
「なんだよ」
「陽司も、来年はああやってシューショク活動するの?」
「……どうだろうな」
今現在、おれは二年生。欠席による留年さえなければ来年には三年だ。三年生となればそろそろ”大学以後”を真面目に考えなければならない時期だ。――真っ当な学生なら。
「例えばさ、なんかやりたいことがあるぞ、とか、おれの夢はこれ!とか」
「夢、ねぇ」
おれは視線を遠くへ飛ばす。そういやそろそろ、学生には『面接官を説得するためのエントリーシートの書き方~志望動機を明確にしましょう~』なんて資料が回ってくる頃合いだ。
「そうさなぁ~若ぇ頃はそんなのも持ってたような気がするのぅ~」
ダメ学生よろしく韜晦してみせる。
「冗談なしで。どうなの?」
「……おおい、そこは『なに年寄り臭いこと言ってんの』とかツッコむところだろうがよ」
苦笑いしながらふり返り――真凛の表情が存外にマジだった事に気がつく。
「陽司ってさ、アタマはいいと思うけど、逆に得意な教科も苦手な教科もなさそうだよね。文学部ってことは、現国、とか?」
「おまえさん妙に食い下がるね」
教科だの現国だのという言い方に、ああコイツ高校生なんだなぁと妙に実感もしたり。
「だってさ。……シューショク活動するんだったら、いつまでもフレイムアップの仕事を続けるわけにもいかないんじゃない?それに――」
語尾はアヤツらしからぬもごもごとした言葉に化けてしまって聞き取れなかった。先ほどの先輩のコメントにあてられたか、おれも少し態度を改める。
「……そうだな。いずれマジメに考えなきゃいかんよなあ」
――嘘をつくな。
ヒビの入った欠陥品の分際で。何が、いずれ、だ。
脳裏から覗き込む、俺の声。
それを努めて無視し、思考を走らせる。
夢。
一生をかけて捧げてもよいと言えるだけの目的。
それに関わり続ければ幸せだと信じられるだけの趣味や嗜好。さて、そんなものおれにあっただろうか。現国……いわゆる現代文学なんぞには実のところとんと興味はない。はて、じゃあおれは何で相盟大学文学部に入学したんだっけか。確かに進学の際は文学部を志望していたはずなのだが。
――いいや、それも偽りだ。
勉強なんてどうでもよかった。
ただ、前みたいに三人で居られれば。
姉みたいな晴霞さん、そして、兄みたいな、彼女とお似合いの――
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
脳裏に走ったノイズに顔をしかめる。いかんいかん、くだらないことを思い出すところだった。話題を転換する必要があるな。
「人に夢云々を聞く前に、お前はどうなんだよ真凛」
「え!?ボ、ボク?」
「ふふん、そうだ。お前の夢ってヤツも、まだおれは聞かせてもらってないぜ」
どうせ宇宙最強とかそんなだろうが。
「えっと、それはその……」
何故そこで顔を赤くするのだろうか。ともかく話をそらすことに成功したおれは質問をたたみかける。
「進路はどうなるんだ?お前のところは確か大学まで一直線だったはずだが」
気を抜くとすぐ忘れてしまいがちになるが、こいつはこれでも元士族のお嬢様であり、学校は小中高大一貫のエスカレーター教育。本来であれば、朝の挨拶はごきげんようでもおかしくないのである。
「あ、うん。……大学にはいかないかも。家を継ぐから」
「ああ、そうか」
おれは納得した。コイツは元士族のお嬢様である以前に、武術の流派の後継者なのだ。流派本来の姿は情無用の殺人技術だが、オモテの顔として一般向けの『普通の』護身術道場、またその理にかなった立ち居振る舞いに基づく礼法の家元としての顔も持っている。
格式はかなり高いらしく、上流階級の子女を中心に門弟の数も中々。真凛はいずれ伝統に則り正式な頭首となり、以後は門弟の指導、公式行事や神事への出席が義務づけられることとなる。ある意味おれなぞよりずっと、社会に『組み込まれて』いるのかも知れない。
「そう考えると、おれ達が組む期間も、長くてあと一年前後ってとこかー」
おれが就職活動するにせよ、コイツが家を継ぐにせよ。
「そう、だよね」
「やれやれ、こりゃあ尚更さっさと一人前になってもらわないと困るな。頼むぜおい?」
おれは真凛の肩をかるく肘でつついた。真凛は少しだけ大人っぽい表情で、わかってる、と言うと、
「あ、ほら、あれがそうじゃない?」
そう言って、真新しい建物を指さした。金属のプレートには『相盟大学国際留学センター』と刻まれていた。
おれは軽く会釈すると、引き続き二人を連れてさらに奥へと案内した。
「ねぇ陽司」
道すがら真凛が問うてくる。
「なんだよ」
「陽司も、来年はああやってシューショク活動するの?」
「……どうだろうな」
今現在、おれは二年生。欠席による留年さえなければ来年には三年だ。三年生となればそろそろ”大学以後”を真面目に考えなければならない時期だ。――真っ当な学生なら。
「例えばさ、なんかやりたいことがあるぞ、とか、おれの夢はこれ!とか」
「夢、ねぇ」
おれは視線を遠くへ飛ばす。そういやそろそろ、学生には『面接官を説得するためのエントリーシートの書き方~志望動機を明確にしましょう~』なんて資料が回ってくる頃合いだ。
「そうさなぁ~若ぇ頃はそんなのも持ってたような気がするのぅ~」
ダメ学生よろしく韜晦してみせる。
「冗談なしで。どうなの?」
「……おおい、そこは『なに年寄り臭いこと言ってんの』とかツッコむところだろうがよ」
苦笑いしながらふり返り――真凛の表情が存外にマジだった事に気がつく。
「陽司ってさ、アタマはいいと思うけど、逆に得意な教科も苦手な教科もなさそうだよね。文学部ってことは、現国、とか?」
「おまえさん妙に食い下がるね」
教科だの現国だのという言い方に、ああコイツ高校生なんだなぁと妙に実感もしたり。
「だってさ。……シューショク活動するんだったら、いつまでもフレイムアップの仕事を続けるわけにもいかないんじゃない?それに――」
語尾はアヤツらしからぬもごもごとした言葉に化けてしまって聞き取れなかった。先ほどの先輩のコメントにあてられたか、おれも少し態度を改める。
「……そうだな。いずれマジメに考えなきゃいかんよなあ」
――嘘をつくな。
ヒビの入った欠陥品の分際で。何が、いずれ、だ。
脳裏から覗き込む、俺の声。
それを努めて無視し、思考を走らせる。
夢。
一生をかけて捧げてもよいと言えるだけの目的。
それに関わり続ければ幸せだと信じられるだけの趣味や嗜好。さて、そんなものおれにあっただろうか。現国……いわゆる現代文学なんぞには実のところとんと興味はない。はて、じゃあおれは何で相盟大学文学部に入学したんだっけか。確かに進学の際は文学部を志望していたはずなのだが。
――いいや、それも偽りだ。
勉強なんてどうでもよかった。
ただ、前みたいに三人で居られれば。
姉みたいな晴霞さん、そして、兄みたいな、彼女とお似合いの――
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
脳裏に走ったノイズに顔をしかめる。いかんいかん、くだらないことを思い出すところだった。話題を転換する必要があるな。
「人に夢云々を聞く前に、お前はどうなんだよ真凛」
「え!?ボ、ボク?」
「ふふん、そうだ。お前の夢ってヤツも、まだおれは聞かせてもらってないぜ」
どうせ宇宙最強とかそんなだろうが。
「えっと、それはその……」
何故そこで顔を赤くするのだろうか。ともかく話をそらすことに成功したおれは質問をたたみかける。
「進路はどうなるんだ?お前のところは確か大学まで一直線だったはずだが」
気を抜くとすぐ忘れてしまいがちになるが、こいつはこれでも元士族のお嬢様であり、学校は小中高大一貫のエスカレーター教育。本来であれば、朝の挨拶はごきげんようでもおかしくないのである。
「あ、うん。……大学にはいかないかも。家を継ぐから」
「ああ、そうか」
おれは納得した。コイツは元士族のお嬢様である以前に、武術の流派の後継者なのだ。流派本来の姿は情無用の殺人技術だが、オモテの顔として一般向けの『普通の』護身術道場、またその理にかなった立ち居振る舞いに基づく礼法の家元としての顔も持っている。
格式はかなり高いらしく、上流階級の子女を中心に門弟の数も中々。真凛はいずれ伝統に則り正式な頭首となり、以後は門弟の指導、公式行事や神事への出席が義務づけられることとなる。ある意味おれなぞよりずっと、社会に『組み込まれて』いるのかも知れない。
「そう考えると、おれ達が組む期間も、長くてあと一年前後ってとこかー」
おれが就職活動するにせよ、コイツが家を継ぐにせよ。
「そう、だよね」
「やれやれ、こりゃあ尚更さっさと一人前になってもらわないと困るな。頼むぜおい?」
おれは真凛の肩をかるく肘でつついた。真凛は少しだけ大人っぽい表情で、わかってる、と言うと、
「あ、ほら、あれがそうじゃない?」
そう言って、真新しい建物を指さした。金属のプレートには『相盟大学国際留学センター』と刻まれていた。
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