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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆11:静謐なる原種吸血鬼の孤城-5
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「騒々しいぞ亘理氏。この六畳間で大声なぞ上げんでも充分聞こえるわ」
「すいませんね、コイツ、ストロボを閃光弾モードで使用したら動かなくなっちまいまして」
そう言っておれは、支給されている多機能携帯『アル話ルド君』を差し出した。最近ではバージョンアップの末、ほとんど高性能なデスクトップPCと変わりない機能を獲得しつつある。
「また壊したのかね?フラッシュバンモードはオマケ機能だから使うなと言っておいただろうに」
「オマケ機能でも何でも、あれば使うのが家電ってものじゃないですか。すみませんが予備との交換お願いしますよ」
「常々言っておるが亘理氏、小生はフレイムアップの技術支援担当であって、小道具の修理係ではないぞ」
ぶつぶつ言いつつも、手際よく『アル話ルド君』のケースをこじ開ける羽美さん。そこにはバッテリーやカメラ、そしてびっしりと電子部品が敷き詰められたプリント基板が整然と収められていた。
「コンデンサが破損しておるな。やはりタンタルコンデンサといえどもこの電圧ではもたんか」
「これがコンデンサですか?ずいぶん小さいですね」
物珍しげに問うてくるファリス。だんだん判ってきたのだが、どうやらこのお姫様、結構機械ものに興味があるらしい。
「コンデンサって?」
「電流を蓄えて、必要時に大容量で放出する部品だな。カメラを撮影するときに使うフラッシュなんかは、このコンデンサがバッテリーの電気を蓄えて、一気に発行させることであの眩しい光を作り出す」
予備のコンデンサをつまみあげて、ファリスに見せる。
「君を助けた時はこれを応用して、本来の限界値以上に電気をため込んで、相手の眼を潰すくらい強力な光を放ったのさ」
「おかげでコンデンサどころか、周囲の部品までまとめてお陀仏であるがな!」
「限界以上のチャージが出来るよう実装したのは羽美さんでしょうに」
「だって仕方ないであろう!?携帯電話が閃光弾になったらちょっと面白いかなとか、誰でも一度は考えることがあるだろう?」
「……否定はしませんよ」
まだ試してはいないが、同様に本体の破損覚悟でスタンガンやレーザー照射、音響爆弾も使用可能だそうである。
「噂には聞いていましたが、日本のケータイの進化というのは凄いものですね」
「あ、あくまで例外だからね?こんな物騒な機能がついているのは日本でも多分これだけだからさ」
まあ、色々と妙な機能がつくのは、進化に行き詰まった電化製品の宿命でもある。日本のケータイのガラパゴス的進化は果たして今後どうなるのであろうか。
「……でもまあ、結果として、その機能に助けられたわけだしね。君がそれで連絡をくれなかったら、到底間に合わなかった」
おれはそう言って、ファリスの携帯を指差した。
彼女はさらわれそうになったとき、とっさに登録したまま画面に残っていたうちの事務所の番号をワンコールしていたのである。このタイミングで海外ナンバーのワンコールが何を意味するか気づけないほどウチの事務所は間抜けではない。
そしてあとは羽美さんがGPSをアレして位置情報をコレして場所を特定し、おれ達が動いたというわけである。
「しかし、ルーナライナで私が持っている携帯電話とは性能が違いすぎます」
「そりゃやっぱり、部品の高性能化、小型化が大きいかな。このタンタルコンデンサ一つ取っても、従来のセラミックコンデンサと比べて格段に性能が上がっているからねえ」
「ま、その分値段はしっかりお高くなるわけだがな、亘理氏。修理代は報酬から天引きでよいな?」
「実験費、ってことで落ちませんかねえ?」
「そう交渉してみるかね?」
「遠慮しておきます」
……さすがにこればかりは仕方がない。経費をケチってどうにかなる状況ではなかったのだから。
「ねぇ、陽司、これからどうするの?」
真凛が問うてくる。ふむ。そう言えば朝からバタバタだったせいですっかり時間感覚を失っていたが、時刻はまだ昼を回った程度。本格的に調査をするには遅く、明日に持ち越しするには早い時間だった。
「どうせなら、今夜の映画で――」
「じゃあ、ちょっと大学に顔を出すとするか」
おれは羽美さんから受け取った予備の『アル話ルド君』をポケットに収めると立ち上がった。
「大学、って、陽司の?」
「ああ。東京都高田馬場、相盟大学。ここから歩いても十五分程度だからな」
「それは知ってるけど……今日、なんか特別な用あったっけ?」
「ああ、そりゃあね。仕事も仕事、こちらが本命さ」
そう言っておれはファリス王女を見つめる。
「じゃあ案内するよ、ファリス。おれ達の大学、相盟大学を。君の留学先に相応しければいいんだが」
おれの言葉を半分予期していたのだろう。ファリスはどこか思い詰めたような表情で頷いた。
「――はい。ご案内よろしくお願いします、亘理さん」
おれは将来の後輩候補生に向かって笑ってみせる。
事情を飲み込めない真凛が、不思議そうにおれ達を交互に見やっていた。
「すいませんね、コイツ、ストロボを閃光弾モードで使用したら動かなくなっちまいまして」
そう言っておれは、支給されている多機能携帯『アル話ルド君』を差し出した。最近ではバージョンアップの末、ほとんど高性能なデスクトップPCと変わりない機能を獲得しつつある。
「また壊したのかね?フラッシュバンモードはオマケ機能だから使うなと言っておいただろうに」
「オマケ機能でも何でも、あれば使うのが家電ってものじゃないですか。すみませんが予備との交換お願いしますよ」
「常々言っておるが亘理氏、小生はフレイムアップの技術支援担当であって、小道具の修理係ではないぞ」
ぶつぶつ言いつつも、手際よく『アル話ルド君』のケースをこじ開ける羽美さん。そこにはバッテリーやカメラ、そしてびっしりと電子部品が敷き詰められたプリント基板が整然と収められていた。
「コンデンサが破損しておるな。やはりタンタルコンデンサといえどもこの電圧ではもたんか」
「これがコンデンサですか?ずいぶん小さいですね」
物珍しげに問うてくるファリス。だんだん判ってきたのだが、どうやらこのお姫様、結構機械ものに興味があるらしい。
「コンデンサって?」
「電流を蓄えて、必要時に大容量で放出する部品だな。カメラを撮影するときに使うフラッシュなんかは、このコンデンサがバッテリーの電気を蓄えて、一気に発行させることであの眩しい光を作り出す」
予備のコンデンサをつまみあげて、ファリスに見せる。
「君を助けた時はこれを応用して、本来の限界値以上に電気をため込んで、相手の眼を潰すくらい強力な光を放ったのさ」
「おかげでコンデンサどころか、周囲の部品までまとめてお陀仏であるがな!」
「限界以上のチャージが出来るよう実装したのは羽美さんでしょうに」
「だって仕方ないであろう!?携帯電話が閃光弾になったらちょっと面白いかなとか、誰でも一度は考えることがあるだろう?」
「……否定はしませんよ」
まだ試してはいないが、同様に本体の破損覚悟でスタンガンやレーザー照射、音響爆弾も使用可能だそうである。
「噂には聞いていましたが、日本のケータイの進化というのは凄いものですね」
「あ、あくまで例外だからね?こんな物騒な機能がついているのは日本でも多分これだけだからさ」
まあ、色々と妙な機能がつくのは、進化に行き詰まった電化製品の宿命でもある。日本のケータイのガラパゴス的進化は果たして今後どうなるのであろうか。
「……でもまあ、結果として、その機能に助けられたわけだしね。君がそれで連絡をくれなかったら、到底間に合わなかった」
おれはそう言って、ファリスの携帯を指差した。
彼女はさらわれそうになったとき、とっさに登録したまま画面に残っていたうちの事務所の番号をワンコールしていたのである。このタイミングで海外ナンバーのワンコールが何を意味するか気づけないほどウチの事務所は間抜けではない。
そしてあとは羽美さんがGPSをアレして位置情報をコレして場所を特定し、おれ達が動いたというわけである。
「しかし、ルーナライナで私が持っている携帯電話とは性能が違いすぎます」
「そりゃやっぱり、部品の高性能化、小型化が大きいかな。このタンタルコンデンサ一つ取っても、従来のセラミックコンデンサと比べて格段に性能が上がっているからねえ」
「ま、その分値段はしっかりお高くなるわけだがな、亘理氏。修理代は報酬から天引きでよいな?」
「実験費、ってことで落ちませんかねえ?」
「そう交渉してみるかね?」
「遠慮しておきます」
……さすがにこればかりは仕方がない。経費をケチってどうにかなる状況ではなかったのだから。
「ねぇ、陽司、これからどうするの?」
真凛が問うてくる。ふむ。そう言えば朝からバタバタだったせいですっかり時間感覚を失っていたが、時刻はまだ昼を回った程度。本格的に調査をするには遅く、明日に持ち越しするには早い時間だった。
「どうせなら、今夜の映画で――」
「じゃあ、ちょっと大学に顔を出すとするか」
おれは羽美さんから受け取った予備の『アル話ルド君』をポケットに収めると立ち上がった。
「大学、って、陽司の?」
「ああ。東京都高田馬場、相盟大学。ここから歩いても十五分程度だからな」
「それは知ってるけど……今日、なんか特別な用あったっけ?」
「ああ、そりゃあね。仕事も仕事、こちらが本命さ」
そう言っておれはファリス王女を見つめる。
「じゃあ案内するよ、ファリス。おれ達の大学、相盟大学を。君の留学先に相応しければいいんだが」
おれの言葉を半分予期していたのだろう。ファリスはどこか思い詰めたような表情で頷いた。
「――はい。ご案内よろしくお願いします、亘理さん」
おれは将来の後輩候補生に向かって笑ってみせる。
事情を飲み込めない真凛が、不思議そうにおれ達を交互に見やっていた。
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