人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆11:静謐なる原種吸血鬼の孤城-4

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 RSA暗号とは、『秘密鍵』『公開鍵』という二種類の数列を使用する暗号である。

 詳しい計算式は省略するが、他人に知られたくない文章や数字を『公開鍵』と組み合わせることで暗号文を作る。そしてその暗号文を『秘密鍵』と組み合わせることで、元の文章や数字に戻すことが出来るのである。

 この暗号の便利なところは、『公開鍵』(と計算式)さえ知っていれば世界中の誰もが簡単に暗号を作ることができ、かつ、『秘密鍵』を知らないと(暗号を作った本人でさえ)元に戻すことができないという点である。
 
 実は我々も、日常生活でこのRSA暗号を頻繁に使用している。たとえばネットショップで注文をする際、『お客様の送信する情報は、SSL暗号化により保護されています』なんて表示を見たことはないだろうか。このSSL暗号化(の一部)に使用されているのがRSA暗号である。

 注文の内容や住所やクレジットカード番号。もしもこれらを送信するとき他人に読み取られてしまったら大変なことになる。それを防止するため、パソコンは情報を『鍵』によって暗号化して送信する必要がある。

 だが、『鍵』で暗号化するにせよ、受け取った相手が『鍵』を使って暗号を解読できなければ意味がない。

 かといって、相手に「こういう『鍵』を使って暗号化しましたよ」あるいは相手から「こういう『鍵』で暗号化してくださいね」などという情報をやりとりしていたのでは、その『鍵』を読み取られてしまえば意味がないのである。

 そこで使用されるのが、このRSA暗号である。


 ネットショップで注文をする際、パソコンはそのショップがインターネットで全世界にオープンにしている『公開鍵』を読み取り、それを元に、『注文内容や番号、住所など』を暗号化する。

 仮にこの暗号を盗まれても、『公開鍵』だけでは暗号を解読することはできない。ネットショップが持っている『秘密鍵』を使用して初めて、元の情報に戻すことができるのである。

 世界中のどこから注文しても簡単に暗号化できて、かつ、『秘密鍵』を知らない限り誰も解読できない。まさにインターネットでの情報のやりとりにうってつけの暗号と言えるだろう。

 
「まあ、正確に言うとネットショップが直接『秘密鍵』を持っているわけじゃなく、間のネットワークにあったり、他にも色々細かいところがあるんだけどねー」
「……でも亘理さん、腑に落ちません。『公開鍵』で誰でも暗号を作ることができるのであれば、『公開鍵』をコンピューターなどで解析すれば、暗号を解読することも出来そうな気がするのですが?」
「理屈の上では可能だよ。実際、『秘密鍵』と『公開鍵』はもともと同じ数から作られているしね」
「じゃあちっとも安全じゃないじゃない!?」
「ただし時間がかかる。今のネットショッピングで使われている標準レベルの『公開鍵』を解析して暗号を解読しようと思ったら、一秒間に億や兆の回数を計算できる現代のコンピューターを駆使してさえ、何年、もしかしたら何十年何百年もかかるのさ」

 ここらへんは数学の世界の奥深いところである。

「……まあ、そんな細かい話は興味があれば調べればいいだけのこと。問題は」

 おれは紙片に羅列された数字を見やる。羽美さんが言葉を継いだ。

「左様、これがRSA暗号である以上、もう一つの『箱』がないと解読するのは事実上不可能に近い、ということであるな」
「もう一つの、『箱』……」
「ファリスの言うことが正しいのであれば、二つの数列のうち、『箱』とやらは、ネットショップで言うところの注文内容……つまりは『暗号化された金脈の情報』。そして『鍵』はそれを解読するための『秘密鍵』ということになるな」
 
 
 
「秘密の鍵、ですか……」

 解析ソフトを終了した羽美さんがLANを繋ぎ直す作業に入ってしまうと、ぽそりとファリスは呟いた。

「確かに聞いたことがあります。セゼル大帝の敵は、皇族や親族。近しい者ほど信用できなかったと。セゼル大帝は敵対する派閥や海外に部下達を潜ませ、暗号で連絡を取り合っていたそうです。しかも部下達は暗号を作る事が出来ても、解読はセゼル大帝本人にしか出来なかったとか」
「……そりゃあまた、徹底したもんだ」

 そうでもしなければ、陰謀と諸外国の思惑が渦巻く国の中で王などやっていられないのかも知れない。王様なんぞ、つくづくなるものではないと思う。

「ってことは、セゼルから受け継いだっていう君の『鍵』は、セゼルが暗号解読に使っていた『秘密鍵』ってことか。……しかしそうなると、なんでまた遠く離れた日本に『暗号化された金脈の情報』なんてものが残されたのかがわからんなあ」
「……それは……」
「ところで陽司、『アル話ルド君』の修理頼まなくて良かったの?」
「おっ、いかんいかん、暗号話をしていたらもう一つの用件を忘れるところだったぜ。羽美さーん!」
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