人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆09:”勇者よ、国を救ってください”(出題編)-1

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「ご存知かもしれませんが、私達の国、ルーナライナは、……今存亡の危機にあります」 

 開口一番、彼女が発したのはそんな重苦しい言葉だった。

「やっぱり、状況は悪いのか?」

 おれの返答に、驚きの声をあげる真凛。

「ええ!?だってさっき、ルーナライナは王様が金を掘り当てて国を建て直した、って言ってたじゃない」
「ああ。確かに大帝と呼ばれたセゼル王によって、ルーナライナは国としての基盤を確立したんだ。だが……」

 おれは言葉を濁した。新聞を読んで国際情勢を論評するのならともかく、当事者の前であまり無神経なことは言えない。おれの逡巡を引き取るように、言葉を続けるファリス皇女。

「ですが、その繁栄はセゼル大帝が生きている間だけだった……ですよね?」

 彼女の言葉。そこには深い悲しみと、わずかな自嘲がこめられていた。

 

 シルクロードに埋もれて中世のまま時間が止まった一都市を、ソ連や中国に併合される前に、その脅威と渡り合えるような近代国家に造り替える――それがセゼルの目指した為政である。

 彼は掘り当てた膨大な黄金に裏打ちされた力をバックとして、政、官、財、軍の近代化に着手した。当然のことながら反発は凄まじかったらしい。門閥の貴族達、数百年前の法律と慣習を唯一絶対とする官吏達、他国の息がかかった交易商達と、彼らの供給する銃器を有する軍人達。

 ……そして、旧勢力の利権を代表する、ルーナライナの皇族達。

「私が生まれる前から、ルーナライナでは幾度となく内乱の動きがありました」

 税制の改革、国営企業の民営化、あるいは皇族やその親族が経営する偽りの民間企業の解体。近代化とはシステムの変更であり、旧システムの支配者達が抱え込んでいる利権と冨を吐き出させることでもある。

 いつの世も、いずれ他国に併呑されるかもしれない危機を、現在の自分の利権が侵害される不利益より優先できる者は少ない。ほとんどの皇族は、セゼルを暴君、圧制者、裏切り者と罵り、ある者は積極的に、ある者は軍部や他国に唆されて反乱を企てた。

 当時のセゼルは「奴らがいる限り、ルーナライナの近代化は三十世紀になっても来ない」という発言を残している。

 これに対してセゼルが採った策は、懐柔でも和解でもなかった。

 徹底した弾圧と粛清。多くの皇族が反乱者として討たれ、反乱を企てたとして逮捕、処刑された。セゼルは民衆に対しては寛大で公正な王だったが、身内に対しては恐ろしいほどに容赦がなかった。

 国外に逃亡した者、他国と通じた者、ルーナライナの生命線である金鉱の情報や現物を諸外国に売り渡した者、王の許可無く軍備を拡張した者等は即刻死刑を申し渡し、一切の例外なく執行した。

 血で血を洗う、皇族同士の争い。そんな時代が二十年ほど続き、謀反の芽は摘まれ、産出される金によって産業は成長し国政は潤い、ようやくルーナライナの近代化は果たされた、かに思えた。
 
「しかし、セゼル大帝の崩御の後、その後継者を巡ってふたたび内乱が起こったのです。三ヶ月の後、セゼルが後継者に指名したルベリア第四王子が爆弾テロによって殺害されると、第一王子イシュルが即位を宣言。しかしセゼル派の大臣達はそれを認めず、イシュルをテロの主犯として逮捕、銃殺。その後も王位を巡ってしばらくクーデターやテロ、投獄が相次ぐこととなりました」

 それこそ新聞記事のように淡々と語るファリス。

「で、でも、そのルベリアさんとかイシュルさんとかって」
「――私にとっては、親族ということになりますね」

 彼女の穏やかな紫水晶が、その時だけ、硬質で冷たい輝きを放った。
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