人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆08:赤焼けた記憶-3

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 一分一秒を争う高速道路での戦いの後、事務所に戻った途端にぶっ倒れてしまったおれはろくに彼女の顔を見ることもなかったのだが……改めて意識を取り戻した彼女と向き合うと、端正な容貌と、伝わってくる静かな気品に驚嘆せざるを得ない。資料によればもうすぐ十八歳、日本なら遊び盛りの女子高生なのだが、いやはや。

「桜庭のおじさまから伺いました。高速道路で私を助けて頂いたのは、貴方がた二人だったのですね」

 ありがとうございます、と日本語で礼を述べ、丁寧に頭を下げる皇女様。その仕草と発音、そこらの女子高生では十年かかっても真似できる気がしない。

「い、いえいえいえ!ボク達仕事ですから!ねえ陽司!?」
「そうだな。依頼人をきちんと事務所に連れてくるのもサービスのうち。当然のことさ」

 おれはつとめてぞんざいな口調で返答した。今後のことを考えると、あまり堅苦しい敬語を使わない方がいいだろう。

「このような格好で失礼します。本来ならば改めて――」
「ああ、無理しないほうがいいぜ。さすがにエコノミーで何日も飛行機旅のうえ、到着したとたんに誘拐未遂と交通事故に遭遇したんだ。すぐに起き上がれって方が無茶な話さ」

 そもそも目を覚ました途端に貴人の寝室にどやどやと押しかける事の方が無礼というものだ。本来であれば、十分に休養を摂った後、応接室でゆっくり話を聞かせてもらうべきなのだが。

「あまり時間的な猶予がない仕事、ってわけですね?所長」

 彼女の傍らに立つ、おれ達フレイムアップの主、嵯峨野浅葱所長に問いかける。このところ渉外関係の仕事が多く事務所を空けていることが多かったのだが、今回は所長と、そして彼女の後見人でもある桜庭さんの緊急の招集を受け、おれ達は現場に急行させられたのである。

「そ。今回はいつもよりちょっと急ぎで、ちょっと話が大きくて、ちょっと気合の入った仕事になりそうってワケ。君たちにもがっつり働いてもらうことになるからね」

 前菜にラーメン、メインでステーキ、デザートにギョウザをつける食生活と激務を繰り返しているにもかかわらず、ちっとも崩れていないプロポーションをスーツに身を包み、あっけらかんと言ってくれやがる所長サマ。

「ちょっと、ねぇ……」

 所長が「ちょっと」と口にするのは稀な事態である。「いつも」の仕事で絞殺未遂やカーチェイスや銃撃戦をこなしている身としては、「ちょっと」がどれほどの負荷の上積みになるか、あまり深く考えたくないものだ。

「――追加報酬、出るんでしょうね?」

 緊急招集で報酬の交渉をする暇もなかったのだ。派遣といえど、これくらいは要求する権利はある、と思う。さてここから依頼人の前で醜い交渉を繰り広げなければならんか、とおれは密かに腹に気合いを入れる。しかし。

「ええ、出すわよ~。報酬ランクA、プラス特急料金」

 拍子抜けするほどあっさりと返答なされる所長。

「……マジですか」

 その言葉に、おれとしては喜びよりも危機感を覚えざるを得なかった。つまりはかなり「でかい」仕事と覚悟せねばならないと言う事だ。

「決まり、ですね」

 となれば、本当に時間がないのだろう。報酬が確定した以上、所長と駄弁っている場合ではない。おれは早々にアタマを切り替え、仕事モードに入ることにした。

「じゃあ、ファリス、すまないが改めて、依頼の内容を聞かせてもらえないかな。あの・・ルーナライナのお姫様がわざわざこの時期にやってくるんだ。ただの観光旅行、ってわけじゃあないんだろう?」

 おれの言葉に、ファリスはしばしの逡巡の後、こくり、と明確に頷き、今回の依頼の内容を語り始めた。
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