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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆04:オープン・コンバット(β)-3
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『お取り込み中のところ失礼します!ってかそんなおいしいシーン。ギャラリーが童貞の颯馬だけ、ってのは勿体ないにも程がある!とここでおれは力説したいわけなんですよ!』
美玲が反射的に音の方向へと視線を逸らす。その瞬間、ファリスは幻惑の檻から解放され、正気を取り戻した。とたんに、まるで数キロを泳ぎ切ったかのような疲労感が脳裏に押し寄せてくるが、声の方向を確かめないわけにはいかなかった。
そこにあったのは、リムジンに備え付けのハイビジョンテレビとオーディオセットである。だが先ほどまでニュースと地図を写し出していたはずのその画面には、ノイズの砂嵐が踊り、オーディオセットから最大音量で、皮肉っぽい青年の声が流されていた。
『……あらその声。どなたかと思えば『人災派遣』の亘理さんじゃありませんの。お呼びした覚えはありませんけれど?』
恐らくは不慮の事態のはずなのに、おくびにも出さず嫣然と笑みを浮かべる美玲――そして、先ほどから一言も発しないまま、への字をかすかに笑みの角度に釣り上げる劉颯馬。
『すみませんね、おれもお騒がせをするつもりはなかったんですが。実は先ほど、遠路はるばる来日いただいたウチのお客さんが、空港に着いたとたん、土地勘のない外国人を相手にするタチの悪いポン引きに絡まれたってえ話を伺いまして、あちこち探し回っていたというわけですよ』
まるで原稿でもあるかのように、すらすらと並べ立てる青年の声。
『んでまあ、調べてみれば、ウチのお客さんが美玲さん達の車に保護されているじゃあありませんか。さっすが、華僑の流れを汲み、義と侠を重んじる好漢武侠が集まるマンネットブロードサービス社のエース社員。ココロイキからしてひと味もふた味も違いなさる』
颯馬の唇は、いまやはっきりと笑みの形を作っていた。
『そのうえわざわざ『|双睛(そうせい)』と『|朝天吼(ちょうてんこう)』の二人までが護衛についていただけるとは、ありがたいことこの上ない。イヤほんと、空港のしょうもないポン引きどもに爪の垢でも飲ませてあげたくてしょうがないですね』
『そうですか、この方は貴方のお客さんでしたの。たまたま空港でお知り合いになったのですけど、それはまさしく奇遇ですわ。ではいったん弊社にお連れした後、せっかくですから少しお話しして、改めて御社に送り届けさせていただきましょう』
『あーいえいえ!美玲さんにわざわざそんなお手間を取らせるのは申し訳ないですよ。たまたまおれ達も近くにいましたので……』
そこで一拍置く、亘理と呼ばれた青年の声。颯馬が組んでいた足を解き、かすかに呟く。――「来るか」と。
『ウチの若いのを迎えに寄こしました』
申し合わせたように、運転席から入る通信。
『美玲様!高速道路の路上に人影が……!こ、子供……いや、学生?』
『轢きなさい』
即答であった。
『は!……は!?いや、しかし!』
『それでちょうどいいくらいよ』
『で、ですが……ば、ばかな、子供がこっちに向かって走って――!』
それ以上の報告は必要なかった。
何しろ、轟音と共に通信そのものを遮って、粉々に砕け散ったフロントガラスの吹雪と、叩き割られた仕切り板を巻き散らかし、『殺捉者』――七瀬真凛がドロップキックの体勢まま後部座席に飛び込んできたので。
美玲が反射的に音の方向へと視線を逸らす。その瞬間、ファリスは幻惑の檻から解放され、正気を取り戻した。とたんに、まるで数キロを泳ぎ切ったかのような疲労感が脳裏に押し寄せてくるが、声の方向を確かめないわけにはいかなかった。
そこにあったのは、リムジンに備え付けのハイビジョンテレビとオーディオセットである。だが先ほどまでニュースと地図を写し出していたはずのその画面には、ノイズの砂嵐が踊り、オーディオセットから最大音量で、皮肉っぽい青年の声が流されていた。
『……あらその声。どなたかと思えば『人災派遣』の亘理さんじゃありませんの。お呼びした覚えはありませんけれど?』
恐らくは不慮の事態のはずなのに、おくびにも出さず嫣然と笑みを浮かべる美玲――そして、先ほどから一言も発しないまま、への字をかすかに笑みの角度に釣り上げる劉颯馬。
『すみませんね、おれもお騒がせをするつもりはなかったんですが。実は先ほど、遠路はるばる来日いただいたウチのお客さんが、空港に着いたとたん、土地勘のない外国人を相手にするタチの悪いポン引きに絡まれたってえ話を伺いまして、あちこち探し回っていたというわけですよ』
まるで原稿でもあるかのように、すらすらと並べ立てる青年の声。
『んでまあ、調べてみれば、ウチのお客さんが美玲さん達の車に保護されているじゃあありませんか。さっすが、華僑の流れを汲み、義と侠を重んじる好漢武侠が集まるマンネットブロードサービス社のエース社員。ココロイキからしてひと味もふた味も違いなさる』
颯馬の唇は、いまやはっきりと笑みの形を作っていた。
『そのうえわざわざ『|双睛(そうせい)』と『|朝天吼(ちょうてんこう)』の二人までが護衛についていただけるとは、ありがたいことこの上ない。イヤほんと、空港のしょうもないポン引きどもに爪の垢でも飲ませてあげたくてしょうがないですね』
『そうですか、この方は貴方のお客さんでしたの。たまたま空港でお知り合いになったのですけど、それはまさしく奇遇ですわ。ではいったん弊社にお連れした後、せっかくですから少しお話しして、改めて御社に送り届けさせていただきましょう』
『あーいえいえ!美玲さんにわざわざそんなお手間を取らせるのは申し訳ないですよ。たまたまおれ達も近くにいましたので……』
そこで一拍置く、亘理と呼ばれた青年の声。颯馬が組んでいた足を解き、かすかに呟く。――「来るか」と。
『ウチの若いのを迎えに寄こしました』
申し合わせたように、運転席から入る通信。
『美玲様!高速道路の路上に人影が……!こ、子供……いや、学生?』
『轢きなさい』
即答であった。
『は!……は!?いや、しかし!』
『それでちょうどいいくらいよ』
『で、ですが……ば、ばかな、子供がこっちに向かって走って――!』
それ以上の報告は必要なかった。
何しろ、轟音と共に通信そのものを遮って、粉々に砕け散ったフロントガラスの吹雪と、叩き割られた仕切り板を巻き散らかし、『殺捉者』――七瀬真凛がドロップキックの体勢まま後部座席に飛び込んできたので。
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