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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆04:オープン・コンバット(β)-1
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華僑。
その言葉を聞いて、ファリスの中で膨れあがっていたパニックは急速に収まっていった。不安が解消されたから、ではない。不安が現実のものになったからだ。
わかってはいたことだ。
そもそも気軽な海外旅行などではなかったのだから。
「では、貴方がたは、叔父様の差し金なんですね」
「……さてね。俺から出せる情報はここまでだ。これでイーブン。あとはアンタがアンタなりに知恵を絞るべき事だろ」
少年はひとつ鼻を鳴らすと、今度は視線を窓の向こうを流れる風景へと転じた。すると女の方が困惑したように眉をひそめる。
「坊ちゃま。ソレ、フェア言わないのコトよ。せっかくこちらが先手打ったのに、モッタイナイね」
「坊ちゃまはやめろと言っただろ!いいんだよ、どうせこっちが質問すれば俺達が何者かなぞすぐにバレてしまうんだから」
「だったら、なおさら坊ちゃまが教えるコトないね」
「うっ、……うるさいんだよ美玲は!早く聞き出すことを聞けっての!!」
華僑の差し金。そう聞いて黙って座っているわけにはいかない。たとえ一欠片でも、情報を集めたければ。
「教えていただけませんか、颯馬さん。叔父様はどうして私が――」
「ち、近づくなよ!」
思わずファリスが身を乗り出すと、颯馬と名乗った少年はまるで猛獣に襲われたかのように、狭い車内で大きく飛び退いた。
「……あの、颯馬さん?」
「あ、気を悪くしないでクダサイ。坊ちゃま、いわゆる一つの、女ギライね」
「お、女嫌い……ですか」
すると、颯馬の顔がみるみるしかめっつらになる。
「っせぇな!女なんぞと話をすると、ロクなことがないんだよ。あんな顔を合わせれば食い物と恋愛の話しかしない奴ら!」
「いわゆる一つの、思春期におけるテンプレイトですネ」
「はあ」
「黙れ美玲!そもそもお前が日本に来てから俺につきまとうから、学校で俺が――」
「ヒドイです坊ちゃま、ワタシ坊ちゃまのお世話役として育てられたのコトよ。子供の頃は一緒におフロ、入って、洗ってあげたのに」
「だからそういうことを人前で言うんじゃないっ!」
顔を真っ赤にしてうろたえる、颯馬と呼ばれた少年。
「何やら……その、大変そうですね……」
呆気にとられた態のファリス。だが、颯馬の年相応の仕草に気を弛めてしまったのは、迂闊と言うべきだったろう。
『――ええ、大変なのです。だから仕事は早く終わらせないと、ね』
たどたどしい日本語から一転、ぞくりと肌が泡立つほどの妖艶な英語の発音。
気がつくと、美玲がするり、と身をこちらに寄せてきていた。
『すみませんね、日本語はまだ覚えたてですの。貴女が英語を理解できて助かりますわ』
声のトーンが落ちると同時に、ビジネススーツにつつまれた豪奢な肢体が、肩に、二の腕に、太股に密着する。
『……それでは、お話と参りましょう。まず要求を伝えなければ交渉も始まりませんし』
ファリス・シィ・カラーティ、十七歳と十一ヶ月。今までの人生で女性に性的な興味を覚えたことは断じてない、はずなのだが、思わず息を呑んでしまう。その隙をつくように、鼻腔に侵入してくる匂いが鼓動を早める。香水か。いや、そんなにどぎついものではない。たぶん服に炊き込めた香。それも、自らの肌の匂いを熟知し、それを最大限に活かすよう調整された――
『貴方がはるばる持っていらした、『鍵』……興味がありますの。渡していただけません?』
その言葉を聞いて、ファリスの中で膨れあがっていたパニックは急速に収まっていった。不安が解消されたから、ではない。不安が現実のものになったからだ。
わかってはいたことだ。
そもそも気軽な海外旅行などではなかったのだから。
「では、貴方がたは、叔父様の差し金なんですね」
「……さてね。俺から出せる情報はここまでだ。これでイーブン。あとはアンタがアンタなりに知恵を絞るべき事だろ」
少年はひとつ鼻を鳴らすと、今度は視線を窓の向こうを流れる風景へと転じた。すると女の方が困惑したように眉をひそめる。
「坊ちゃま。ソレ、フェア言わないのコトよ。せっかくこちらが先手打ったのに、モッタイナイね」
「坊ちゃまはやめろと言っただろ!いいんだよ、どうせこっちが質問すれば俺達が何者かなぞすぐにバレてしまうんだから」
「だったら、なおさら坊ちゃまが教えるコトないね」
「うっ、……うるさいんだよ美玲は!早く聞き出すことを聞けっての!!」
華僑の差し金。そう聞いて黙って座っているわけにはいかない。たとえ一欠片でも、情報を集めたければ。
「教えていただけませんか、颯馬さん。叔父様はどうして私が――」
「ち、近づくなよ!」
思わずファリスが身を乗り出すと、颯馬と名乗った少年はまるで猛獣に襲われたかのように、狭い車内で大きく飛び退いた。
「……あの、颯馬さん?」
「あ、気を悪くしないでクダサイ。坊ちゃま、いわゆる一つの、女ギライね」
「お、女嫌い……ですか」
すると、颯馬の顔がみるみるしかめっつらになる。
「っせぇな!女なんぞと話をすると、ロクなことがないんだよ。あんな顔を合わせれば食い物と恋愛の話しかしない奴ら!」
「いわゆる一つの、思春期におけるテンプレイトですネ」
「はあ」
「黙れ美玲!そもそもお前が日本に来てから俺につきまとうから、学校で俺が――」
「ヒドイです坊ちゃま、ワタシ坊ちゃまのお世話役として育てられたのコトよ。子供の頃は一緒におフロ、入って、洗ってあげたのに」
「だからそういうことを人前で言うんじゃないっ!」
顔を真っ赤にしてうろたえる、颯馬と呼ばれた少年。
「何やら……その、大変そうですね……」
呆気にとられた態のファリス。だが、颯馬の年相応の仕草に気を弛めてしまったのは、迂闊と言うべきだったろう。
『――ええ、大変なのです。だから仕事は早く終わらせないと、ね』
たどたどしい日本語から一転、ぞくりと肌が泡立つほどの妖艶な英語の発音。
気がつくと、美玲がするり、と身をこちらに寄せてきていた。
『すみませんね、日本語はまだ覚えたてですの。貴女が英語を理解できて助かりますわ』
声のトーンが落ちると同時に、ビジネススーツにつつまれた豪奢な肢体が、肩に、二の腕に、太股に密着する。
『……それでは、お話と参りましょう。まず要求を伝えなければ交渉も始まりませんし』
ファリス・シィ・カラーティ、十七歳と十一ヶ月。今までの人生で女性に性的な興味を覚えたことは断じてない、はずなのだが、思わず息を呑んでしまう。その隙をつくように、鼻腔に侵入してくる匂いが鼓動を早める。香水か。いや、そんなにどぎついものではない。たぶん服に炊き込めた香。それも、自らの肌の匂いを熟知し、それを最大限に活かすよう調整された――
『貴方がはるばる持っていらした、『鍵』……興味がありますの。渡していただけません?』
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