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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆23:閉幕−2
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「でも正直、伊勢冨田流と決着がつかなかったのは残念だなあ」
「組み手なら受ける」
「ありがとうございます。……でもいいです。多分四堂さんにとって、戦いは目的じゃなくて手段なんですよね。そういう人と技比べをやっても、多分練習にしかならないだろうし」
「……かも知れん」
「結局途中で戦闘どころではなくなってしまったしな」
「ホント、陽司がいきなり、『停戦だ停戦!土直神が危ない!』って言いだしたときはビックリしたよ。それまでは本気で決着をつけるつもりだったのに」
「そーそー。オイラも気になってたんだよね。どうやってあの場に駆けつけることが出来たのかとか。あのワケのわかんねー幽霊の正体とかさあ」
「そうですよ。一体いつから状況を把握していたんですか亘理さん?」
「確かに、説明が欲しい」
「そういうワケで、全体像のネタばらしってやつが欲しいんだけどね、亘理の兄サン」
「兄サン、って同い年だろうがおれ達。……まあいいや。じゃあ、順を追って解説するとしましょうか。……すいませーん!」
「はーい、ご注文ですか?」
「ええ。ざるをもう一枚。それとこの人達に、ちょっと挨拶をしてもらえませんか。貴方の存在抜きでは、どう説明したところで消化不良だし、そもそも幕引きは貴方がすべきでしょう」
「…………へ?」
おれの言葉に、他の五人がそれぞれに間抜けな反応を示し、一斉に七人目の人物……今の今までおれ達のソバの注文をとりまとめてくれていた女性店員さんに注目する。ごく普通の中年女性と見えるソバ屋の店員さんは、おれの言葉を聞くと観念したように顔を伏せた。
「そうですね。それではご挨拶させていただきます」
「……ってぇ言われても……」
唖然とした表情のままの土直神。
「……陽司、えっと。この人、誰?」
真凛の素朴な疑問に、おれはやれやれ、とわざとらしく肩をすくめてみせる。
「誰、とは失礼な話だな。そもそもおれ達は、この人を探すためにここに来たんだぜ?」
「え?っていうと」
真凛が顎に手を当てて考え込むのも無理はない。思えばずいぶん、当初の任務からねじれた結末になったものだ。
「じゃあこの人が、元城町に現れていた、小田桐さんの幽霊?でも――」
ぜんぜん似てない、と言葉を続けることは出来なかった。女性の店員さんが顔を上げたとき、そこにはすでに中年の女性の面影は微塵もなかった。
そこにあったのは、驚くほど整った、だが驚くほど印象が薄い女性の顔立ちだった。通常これほどの端正な顔の持ち主ならば、またたく間に衆目を集めても良いはずなのに、そんな気にはどうしてもなれない。
その顔は、ただ整っているだけ。こう言っては失礼だが、あくまでもパーツの配置バランスが良い、というだけでしかないのだ。一流のスターやアイドル、女優が持ち合わせているような、強烈な”個性”が一切欠如していた。……いや、あえて巧妙に、印象を消しているのだ。
「おれも知らなかったんですが。業界最高峰の潜入捜査官だった『役者』には、その技術を全て受け継いだ秘蔵の弟子がいたんだそうです」
「――技術だけですよ。能力は到底及ぶものではありません」
隣の女性が注釈を入れる。
「ええ。師匠のように異能の力を持つわけではない。しかし弟子はそれを補う技を身につけた」
完璧なまでの『演技』。変身ではなく、変装の達人になったのだった。
「そしてその弟子は、師匠の遺志を継ぎ、本物の小田桐剛史の暗躍を阻止するためにこの街を訪れた。そしてその技術で小田桐になりすました。それが幽霊騒ぎの発端ですよ」
おれが促すと、女性は立ち上がる。その瞬間、わずかに表情が変化する。それだけで、無個性に思えた容貌は、たちまちに人を惹きつける美しさと危うさを備えたものへと、まさしく”変貌”していた。
「初めまして皆様。人材派遣会社CCC第二営業部所属。高須碧と言います」
一流の舞台挨拶を思わせる、歯切れのよい台詞と優雅な一礼。
「つい先日、師の遺言により『役者』の名を継承いたしました」
「組み手なら受ける」
「ありがとうございます。……でもいいです。多分四堂さんにとって、戦いは目的じゃなくて手段なんですよね。そういう人と技比べをやっても、多分練習にしかならないだろうし」
「……かも知れん」
「結局途中で戦闘どころではなくなってしまったしな」
「ホント、陽司がいきなり、『停戦だ停戦!土直神が危ない!』って言いだしたときはビックリしたよ。それまでは本気で決着をつけるつもりだったのに」
「そーそー。オイラも気になってたんだよね。どうやってあの場に駆けつけることが出来たのかとか。あのワケのわかんねー幽霊の正体とかさあ」
「そうですよ。一体いつから状況を把握していたんですか亘理さん?」
「確かに、説明が欲しい」
「そういうワケで、全体像のネタばらしってやつが欲しいんだけどね、亘理の兄サン」
「兄サン、って同い年だろうがおれ達。……まあいいや。じゃあ、順を追って解説するとしましょうか。……すいませーん!」
「はーい、ご注文ですか?」
「ええ。ざるをもう一枚。それとこの人達に、ちょっと挨拶をしてもらえませんか。貴方の存在抜きでは、どう説明したところで消化不良だし、そもそも幕引きは貴方がすべきでしょう」
「…………へ?」
おれの言葉に、他の五人がそれぞれに間抜けな反応を示し、一斉に七人目の人物……今の今までおれ達のソバの注文をとりまとめてくれていた女性店員さんに注目する。ごく普通の中年女性と見えるソバ屋の店員さんは、おれの言葉を聞くと観念したように顔を伏せた。
「そうですね。それではご挨拶させていただきます」
「……ってぇ言われても……」
唖然とした表情のままの土直神。
「……陽司、えっと。この人、誰?」
真凛の素朴な疑問に、おれはやれやれ、とわざとらしく肩をすくめてみせる。
「誰、とは失礼な話だな。そもそもおれ達は、この人を探すためにここに来たんだぜ?」
「え?っていうと」
真凛が顎に手を当てて考え込むのも無理はない。思えばずいぶん、当初の任務からねじれた結末になったものだ。
「じゃあこの人が、元城町に現れていた、小田桐さんの幽霊?でも――」
ぜんぜん似てない、と言葉を続けることは出来なかった。女性の店員さんが顔を上げたとき、そこにはすでに中年の女性の面影は微塵もなかった。
そこにあったのは、驚くほど整った、だが驚くほど印象が薄い女性の顔立ちだった。通常これほどの端正な顔の持ち主ならば、またたく間に衆目を集めても良いはずなのに、そんな気にはどうしてもなれない。
その顔は、ただ整っているだけ。こう言っては失礼だが、あくまでもパーツの配置バランスが良い、というだけでしかないのだ。一流のスターやアイドル、女優が持ち合わせているような、強烈な”個性”が一切欠如していた。……いや、あえて巧妙に、印象を消しているのだ。
「おれも知らなかったんですが。業界最高峰の潜入捜査官だった『役者』には、その技術を全て受け継いだ秘蔵の弟子がいたんだそうです」
「――技術だけですよ。能力は到底及ぶものではありません」
隣の女性が注釈を入れる。
「ええ。師匠のように異能の力を持つわけではない。しかし弟子はそれを補う技を身につけた」
完璧なまでの『演技』。変身ではなく、変装の達人になったのだった。
「そしてその弟子は、師匠の遺志を継ぎ、本物の小田桐剛史の暗躍を阻止するためにこの街を訪れた。そしてその技術で小田桐になりすました。それが幽霊騒ぎの発端ですよ」
おれが促すと、女性は立ち上がる。その瞬間、わずかに表情が変化する。それだけで、無個性に思えた容貌は、たちまちに人を惹きつける美しさと危うさを備えたものへと、まさしく”変貌”していた。
「初めまして皆様。人材派遣会社CCC第二営業部所属。高須碧と言います」
一流の舞台挨拶を思わせる、歯切れのよい台詞と優雅な一礼。
「つい先日、師の遺言により『役者』の名を継承いたしました」
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