人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第6話:『北関東グレイヴディガー』

◆21:セクスタブル・コンボ(インスタント)−1

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「ば、馬鹿な……」

 ”小田桐剛史”がおれ達五人・・を驚愕の表情で見つめている。獣道をようよう歩きながら、おれ達は小田桐と土直神の元へと近づいていった。

「お前達がなんでここにいる。それも一緒に!?」
「そりゃあ、一緒にここまで移動してきたからさ」

 他人に化けて姿を隠し、事態を自分の思うように誘導する。おれ達を共食いさせて事件の黒幕を気取っていたつもりの小田桐の声は、全くの想定外の事態にすっかりとうろたえていた。

「そ、それに――さっきのアレはなんだ。お前達の誰かの能力か?」
「さあ?」

 そんな彼に、おれは冷たく返答してやる。

幽霊でも・・・・見たんじゃないの・・・・・・・・?」

 小田桐の喉のあたりが引きつる。その全てをあえて無視して、おれはさっさと話を進めることにした。倒れている土直神の顔色は相当ヤバイ。おれ達の到着まで時間稼ぎをしていた幽霊さんとは違う。いちいち小田桐に懇切丁寧にネタバラしをしてやる理由も余裕も、おれにはなかったのだ。

「これで終わりだよ、『貼り付けた顔ティエクストラ』。こっちの『風の巫女』の術のおかげで、アンタの話してた内容は把握してる。あとはその密輸の証拠さえ押収すればもう幽霊は出ない。ウチフレイムアップの仕事も解決。アンタ自身をとっつかまえれば、どういう形であれ、『小田桐剛史の安否を確認する』ってウルリッヒの仕事も解決する」
「来るんじゃない!」

 近寄ろうとしていたおれ達に、小田桐が鋭く警告を発する。その左手に掲げられた、何かのスイッチのようなソレを見て、おれ達は息を呑んだ。

「陽司、もしかしてあれって……」
「おいおいおい、正気かよ?」

 そのまま己のスーツとシャツのボタンを引きちぎる小田桐。そこにあったのは、ごく薄いメッシュ素材で作られた軍用ベストだった。そのポケット全てに何かが詰め込まれている。メッシュの編み目に絡ませるように細いコードが配されており、ポケットの何かに接続されていた。それを見たチーフが、かすかに目を細める。

「爆弾ベストだな。テロ屋が人質に着せたり自爆に使うものだ。無理に脱がせようとすればポケットに詰め込まれたプラスチック爆薬が爆発するし、ものによっては、装着者の心音が止まると爆発する」
「ほぅ、察しがいいな!その通りだよ。迂闊に俺に近づいてみろ。お前達も一緒に……」

 ドカンだぜ、という言葉は発するまでもなく全員が了解していた。

「ってえか、アンタ普段からそんなもの着込んでいるのかよ」

 おれの呆れ半分のツッコミに、奴は自嘲気味に笑った。

「ふん、こちらは一般人あがり、ろくな戦闘手段も持ってないんだよ。貴様等のような生まれついてのバケモノどもと互角に渡り合うには、このくらいの手札を常備するのは当然だろう?」

 おれだって別に生まれつきこうだったわけじゃあないんだがな。おれが舌打ちする間にも、奴は起爆装置を持ったまま、倒れている土直神の身体をひきずり上げて抱え込み、右手のナイフを突きつける。

「土直神さん!」

 血の気の失せた顔の土直神に巫女さんが声をかけるが、返事はない。彼の背中からは、見ただけでわかる程の出血があり、早めに手を打たないと正直ヤバそうだった。

「どけよ。俺がこの山を下りるまでこいつは人質だ。俺をさっさと通して、麓でこいつを解放させれば、まだ助かるかも知れないぞ?」

 このまんま奴におめおめと核兵器製造のネタを渡してやる気にはなれない。それに、ここまで内情を知られた土直神を、奴が素直に解放するとは到底思えなかった。

「あいつに自爆する度胸がありますかね?」
「度胸はどうか知らんが、奴は恐らく追い詰められている。必要とあれば押すかも知れん」
「くそっ」

 膠着状態がしばし続く。何とか奴と土直神を引き離し、かつ、おれ達も奴の爆弾から身を守らなければならない。ふと視線を横にやると、こちらを見ている巫女さんと目があった。どうやら考えることは同じらしい。

「それと、もう一つ。あいつの持っているナイフは、多分スペツナズナイフだ」
「マジですか?厄介な骨董品を持ち出しやがって」

 ロシアの特殊部隊スペツナズ。真偽の程は確かではないが、奴らが旧ソ連時代に使用したナイフの中には、グリップの内部に強力なバネが内蔵されているものがあったという。

 いざというときは鍔のレバーで刀身を十メートルも撃ち出すことが出来、奇襲や暗殺に使用されたのだと。真偽いずれにせよ、最近ではロシア軍の装備の近代化に伴いほとんど使われることはないと聞くが、それでも海外への持ち出しが比較的容易で、火薬を使用せず、音もせず、意表も衝ける飛び道具の利点が消えたわけではない。

 マフィア崩れの武器商人グループなんぞにはおあつらえ向きの武器だろう。つまりは、土直神に刃を向けつつ、飛び道具も所有している事となる。

「どうした、どけよ。……さっさとどけと言っているだろう!」

 土直神を盾に突き出す小田桐。本当に、手はないのか。そう思った時。血の気の失せた土直神が、こちらを見ているのに気づいた。その視線を追っておれが彼の足下に目を動かすと――そこに勝機が見えた。
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