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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆17:死闘ふたたび-3
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「それにしてもなー。フレイムアップの連中はもうちょっと頭が良いと思ってたんだけどなー」
ぼやきを口にしながら、苛烈な戦闘を背にして遺体のあるはずの場所へと向かうのは土直神と徳田だった。
「と、土直神さん、置いていかないでください……!」
森の中、瓦礫と流木で抉られた即席の獣道では全速力で走ると言うわけにもいかず、まして素人同然の徳田もついてきているとなればそうそう無理は出来ない。直線距離で百三十メートルとは言っても、実際にはその倍近い距離を駆け足程度のペースで移動して、ようやく目指す場所に到着したのだった。
こちらからふり返ると、ほんの百三十メートルしか離れていないはずの、四堂や清音達の戦闘の様子はまったく窺い知ることは出来ない。
「百三十メートル先の赤い岩。……ま、これだろうね」
堆積した土砂と石の中に、一回り大きな岩が埋もれていた。不吉さを感じさせる暗い赤色の、重苦しい花崗岩のカタマリ。自然石のはずなのに妙に四角いその岩は、まるで森の奥地に作られた何者かの墓を思わせる。――いや、現地に来てみて確実にわかった。間違いない。これは確かに墓標なのだ。
この巨大岩のために小田桐氏の遺体が見つからなかったと言うことは。
「……つまりあれか。土砂崩れの時に崖から吹っ飛んで落ちてきたこの岩に……」
「は、はやく退かしましょう、土直神さん」
わかってますって、と徳田に応じると、早速タッチペンを取り出し、岩の周囲の土砂をマークし始めた。
「地盤が緩いとはいえずいぶん深く埋まってるねぇ。いったいどんだけの衝撃だったのやら。はいはい、か、ご、め、か、ご、めっと」
岩そのものをどかすことはできないので、地脈のツボを打ち、岩の周囲の土砂を押し流す術を織り上げていく。
「もし、お、小田桐さんがその下にいるならその……潰れて……」
「いついつ、えーっと、こっちか、でやる、っと。……そもそも下にいるのは本当に小田桐さんなんですかね?」
「え?」
手際よく術を組み上げながら、いつしか土直神の意識は昨夜見つけた情報を思い返していた。四年前行方不明になったというエージェント『役者』。その任務の内容は相当シビアなものだった。
当時、昂光社が開発していた次世代三次元測定器『TKZ280』。転用すれば核開発を飛躍的に容易にするであろうその装置を、政情不安な某国に密輸しようとする動きがある、という情報がさる筋からその筋へとリークされたのだった。
これを受けて国連と、その息のかかった日本国内のNPO法人ががなんのかんのと動いた結果、そのNPOと専属契約を結んでいたウルリッヒ保険が隠密で調査に当たることになる。そしてそのために派遣されたのが当時のウルリッヒのエース……誰にでも化けることの出来る最強の潜入捜査官、『役者』だった。
「徳田さんには悪いと思ったんすけど、昨夜遅くのことなんで、許可取らずにウルリッヒのデータベースを漁らせてもらったんですよ」
ウルリッヒの共用サーバーを漁ってみたら、四年前に『役者』が送ったと思われる、中間報告書とその下書きが残っていた。『役者』は、その変身能力を遺憾なく発揮し昂光に潜入、かなり事件の核心に迫っていたようだった。
「……でね。その密輸の犯人が誰かと言いますと」
「ま、まさか」
土砂に無造作にペンを突き立て、板東川がある方向に向けて矢印を刻むその様は、校庭で遊ぶ小学生と大差はなかった。
「そう。営業担当の小田桐剛史部長。そもそも海外への売り込みの責任者だった人だから、いわば最有力容疑者、一番の信頼を裏切ってたって事になるんスね」
ぼやきを口にしながら、苛烈な戦闘を背にして遺体のあるはずの場所へと向かうのは土直神と徳田だった。
「と、土直神さん、置いていかないでください……!」
森の中、瓦礫と流木で抉られた即席の獣道では全速力で走ると言うわけにもいかず、まして素人同然の徳田もついてきているとなればそうそう無理は出来ない。直線距離で百三十メートルとは言っても、実際にはその倍近い距離を駆け足程度のペースで移動して、ようやく目指す場所に到着したのだった。
こちらからふり返ると、ほんの百三十メートルしか離れていないはずの、四堂や清音達の戦闘の様子はまったく窺い知ることは出来ない。
「百三十メートル先の赤い岩。……ま、これだろうね」
堆積した土砂と石の中に、一回り大きな岩が埋もれていた。不吉さを感じさせる暗い赤色の、重苦しい花崗岩のカタマリ。自然石のはずなのに妙に四角いその岩は、まるで森の奥地に作られた何者かの墓を思わせる。――いや、現地に来てみて確実にわかった。間違いない。これは確かに墓標なのだ。
この巨大岩のために小田桐氏の遺体が見つからなかったと言うことは。
「……つまりあれか。土砂崩れの時に崖から吹っ飛んで落ちてきたこの岩に……」
「は、はやく退かしましょう、土直神さん」
わかってますって、と徳田に応じると、早速タッチペンを取り出し、岩の周囲の土砂をマークし始めた。
「地盤が緩いとはいえずいぶん深く埋まってるねぇ。いったいどんだけの衝撃だったのやら。はいはい、か、ご、め、か、ご、めっと」
岩そのものをどかすことはできないので、地脈のツボを打ち、岩の周囲の土砂を押し流す術を織り上げていく。
「もし、お、小田桐さんがその下にいるならその……潰れて……」
「いついつ、えーっと、こっちか、でやる、っと。……そもそも下にいるのは本当に小田桐さんなんですかね?」
「え?」
手際よく術を組み上げながら、いつしか土直神の意識は昨夜見つけた情報を思い返していた。四年前行方不明になったというエージェント『役者』。その任務の内容は相当シビアなものだった。
当時、昂光社が開発していた次世代三次元測定器『TKZ280』。転用すれば核開発を飛躍的に容易にするであろうその装置を、政情不安な某国に密輸しようとする動きがある、という情報がさる筋からその筋へとリークされたのだった。
これを受けて国連と、その息のかかった日本国内のNPO法人ががなんのかんのと動いた結果、そのNPOと専属契約を結んでいたウルリッヒ保険が隠密で調査に当たることになる。そしてそのために派遣されたのが当時のウルリッヒのエース……誰にでも化けることの出来る最強の潜入捜査官、『役者』だった。
「徳田さんには悪いと思ったんすけど、昨夜遅くのことなんで、許可取らずにウルリッヒのデータベースを漁らせてもらったんですよ」
ウルリッヒの共用サーバーを漁ってみたら、四年前に『役者』が送ったと思われる、中間報告書とその下書きが残っていた。『役者』は、その変身能力を遺憾なく発揮し昂光に潜入、かなり事件の核心に迫っていたようだった。
「……でね。その密輸の犯人が誰かと言いますと」
「ま、まさか」
土砂に無造作にペンを突き立て、板東川がある方向に向けて矢印を刻むその様は、校庭で遊ぶ小学生と大差はなかった。
「そう。営業担当の小田桐剛史部長。そもそも海外への売り込みの責任者だった人だから、いわば最有力容疑者、一番の信頼を裏切ってたって事になるんスね」
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