245 / 368
第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆17:死闘ふたたび-2
しおりを挟む
昨日から数えればすでに何度目の対峙か。こちらは木刀もどきを八相に構えた真凛が、ややあって感嘆の声を漏らす。
「”彼ノ勢ヲ制シ我ガ勢ト為ス之太極乃構エ”……小刀で大刀を制する受けの術理、だったっけ?口で言う人は沢山いたけど、まさか実戦で使える人がいるなんて」
柔術、回復能力、そして剣の心得。これ程己とかみ合い、かつ底の知れない相手にはまず出会えるものではない。戦闘者としての真凛の貪欲な本能が悦びに震え、新しいおもちゃ箱を与えられた子供のようにその瞳が輝く。鉄塊じみたシドウの硬い気配が、ふと緩んだ。
「……それはこちらの台詞だ。七瀬が組討以外を使えるなど聞いていないぞ」
シドウの言葉。真凛が苦笑する。
「専門じゃないんだけどね。剣を防ぐには剣を知らないといけないから一応練習はするんだ」
「その力量を一応で済ませるか」
わずかに唇をゆがめたシドウの口調に、おれは我が耳を疑った。まさか、アイツが。
「”苦笑”しやがった……」
我知らず漏れたおれの呟きは、誰の耳にも入ることがなかった。そこでふと、シドウの眼がまともに真凛を捉えた。
「奴とチームを組んでいるそうだな」
おれは、今更ながらに気づいた。今の今までこの男は、真凛を徹底して『亘理陽司を殺す目的の障害物』としか見なしていなかった……いや、敢えて見なそうとしていなかった、ということに。
「……そう、だけど?」
真凛の表情が厳しさを増す。シドウの目的はおれの殺害。その事実を真凛は忘れたわけではない。シドウの気配は再び鉄塊じみたそれに戻っていた。
「ならば問う。その男は、貴様がその背に庇う価値がある者か」
――殺戮の記憶。そういえばあれは己の罪だったのだろうか。それとも生まれる前から引き継いだ自身の原罪だっただろうか。
「アンタが昔アイツと何があったかは知らないけど」
己の罪は己で拭う。それは人として在るべき象であり、なればこそ、己の為すべき何かを他者に見せる必要などあるはずもなく、他者の安易な踏み込みなど絶対に許すべきではない。
「ボクはボクが知ってる今までのコイツを信じるよ」
そう誓ったからこそ、今この場所まで辿り着いたというのに、今さら。
「――ならば」
シドウが片手正眼の構えに左手を添え、ずい、と歩を進める。八方に張り巡らされた剣気、いかなる太刀筋も受け払い斬り返すその所存。
「貴様の信ずるところにかけて、俺を止めてみせろ」
「……わかった」
対する真凛は八相から大上段に。腰を据え手首を外に向けた姿勢、小癪な護りそのものを撃ち割り捨てるその覚悟。
「伊勢冨田流小太刀術、四堂蔵人」
「七瀬式殺捉術、七瀬真凛」
両者の得物が描き出す制圧圏が球状を描く。互いの死を招くはずのそれが、まるで吸い込まれるように次第にその距離を詰めなお交錯し。互いをその圏内に捉えたその刹那、必殺の太刀筋が深々と交錯した。
「”彼ノ勢ヲ制シ我ガ勢ト為ス之太極乃構エ”……小刀で大刀を制する受けの術理、だったっけ?口で言う人は沢山いたけど、まさか実戦で使える人がいるなんて」
柔術、回復能力、そして剣の心得。これ程己とかみ合い、かつ底の知れない相手にはまず出会えるものではない。戦闘者としての真凛の貪欲な本能が悦びに震え、新しいおもちゃ箱を与えられた子供のようにその瞳が輝く。鉄塊じみたシドウの硬い気配が、ふと緩んだ。
「……それはこちらの台詞だ。七瀬が組討以外を使えるなど聞いていないぞ」
シドウの言葉。真凛が苦笑する。
「専門じゃないんだけどね。剣を防ぐには剣を知らないといけないから一応練習はするんだ」
「その力量を一応で済ませるか」
わずかに唇をゆがめたシドウの口調に、おれは我が耳を疑った。まさか、アイツが。
「”苦笑”しやがった……」
我知らず漏れたおれの呟きは、誰の耳にも入ることがなかった。そこでふと、シドウの眼がまともに真凛を捉えた。
「奴とチームを組んでいるそうだな」
おれは、今更ながらに気づいた。今の今までこの男は、真凛を徹底して『亘理陽司を殺す目的の障害物』としか見なしていなかった……いや、敢えて見なそうとしていなかった、ということに。
「……そう、だけど?」
真凛の表情が厳しさを増す。シドウの目的はおれの殺害。その事実を真凛は忘れたわけではない。シドウの気配は再び鉄塊じみたそれに戻っていた。
「ならば問う。その男は、貴様がその背に庇う価値がある者か」
――殺戮の記憶。そういえばあれは己の罪だったのだろうか。それとも生まれる前から引き継いだ自身の原罪だっただろうか。
「アンタが昔アイツと何があったかは知らないけど」
己の罪は己で拭う。それは人として在るべき象であり、なればこそ、己の為すべき何かを他者に見せる必要などあるはずもなく、他者の安易な踏み込みなど絶対に許すべきではない。
「ボクはボクが知ってる今までのコイツを信じるよ」
そう誓ったからこそ、今この場所まで辿り着いたというのに、今さら。
「――ならば」
シドウが片手正眼の構えに左手を添え、ずい、と歩を進める。八方に張り巡らされた剣気、いかなる太刀筋も受け払い斬り返すその所存。
「貴様の信ずるところにかけて、俺を止めてみせろ」
「……わかった」
対する真凛は八相から大上段に。腰を据え手首を外に向けた姿勢、小癪な護りそのものを撃ち割り捨てるその覚悟。
「伊勢冨田流小太刀術、四堂蔵人」
「七瀬式殺捉術、七瀬真凛」
両者の得物が描き出す制圧圏が球状を描く。互いの死を招くはずのそれが、まるで吸い込まれるように次第にその距離を詰めなお交錯し。互いをその圏内に捉えたその刹那、必殺の太刀筋が深々と交錯した。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説


万永千年宇宙浮遊一万年後地球目指
Mar
経済・企業
一万年後の地球。想像できるだろうか。 長い年月が経ち、人類の痕跡はほとんど見当たらない地球かもしれない。もしかしたら、自然の力が再び支配する中で、新たな生命や文明が芽生えているかもしれない。 人間ではなく、きっと我々の知らない生命体。 それが一万年後に生きている人間かもしれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる