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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆17:死闘ふたたび-2
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昨日から数えればすでに何度目の対峙か。こちらは木刀もどきを八相に構えた真凛が、ややあって感嘆の声を漏らす。
「”彼ノ勢ヲ制シ我ガ勢ト為ス之太極乃構エ”……小刀で大刀を制する受けの術理、だったっけ?口で言う人は沢山いたけど、まさか実戦で使える人がいるなんて」
柔術、回復能力、そして剣の心得。これ程己とかみ合い、かつ底の知れない相手にはまず出会えるものではない。戦闘者としての真凛の貪欲な本能が悦びに震え、新しいおもちゃ箱を与えられた子供のようにその瞳が輝く。鉄塊じみたシドウの硬い気配が、ふと緩んだ。
「……それはこちらの台詞だ。七瀬が組討以外を使えるなど聞いていないぞ」
シドウの言葉。真凛が苦笑する。
「専門じゃないんだけどね。剣を防ぐには剣を知らないといけないから一応練習はするんだ」
「その力量を一応で済ませるか」
わずかに唇をゆがめたシドウの口調に、おれは我が耳を疑った。まさか、アイツが。
「”苦笑”しやがった……」
我知らず漏れたおれの呟きは、誰の耳にも入ることがなかった。そこでふと、シドウの眼がまともに真凛を捉えた。
「奴とチームを組んでいるそうだな」
おれは、今更ながらに気づいた。今の今までこの男は、真凛を徹底して『亘理陽司を殺す目的の障害物』としか見なしていなかった……いや、敢えて見なそうとしていなかった、ということに。
「……そう、だけど?」
真凛の表情が厳しさを増す。シドウの目的はおれの殺害。その事実を真凛は忘れたわけではない。シドウの気配は再び鉄塊じみたそれに戻っていた。
「ならば問う。その男は、貴様がその背に庇う価値がある者か」
――殺戮の記憶。そういえばあれは己の罪だったのだろうか。それとも生まれる前から引き継いだ自身の原罪だっただろうか。
「アンタが昔アイツと何があったかは知らないけど」
己の罪は己で拭う。それは人として在るべき象であり、なればこそ、己の為すべき何かを他者に見せる必要などあるはずもなく、他者の安易な踏み込みなど絶対に許すべきではない。
「ボクはボクが知ってる今までのコイツを信じるよ」
そう誓ったからこそ、今この場所まで辿り着いたというのに、今さら。
「――ならば」
シドウが片手正眼の構えに左手を添え、ずい、と歩を進める。八方に張り巡らされた剣気、いかなる太刀筋も受け払い斬り返すその所存。
「貴様の信ずるところにかけて、俺を止めてみせろ」
「……わかった」
対する真凛は八相から大上段に。腰を据え手首を外に向けた姿勢、小癪な護りそのものを撃ち割り捨てるその覚悟。
「伊勢冨田流小太刀術、四堂蔵人」
「七瀬式殺捉術、七瀬真凛」
両者の得物が描き出す制圧圏が球状を描く。互いの死を招くはずのそれが、まるで吸い込まれるように次第にその距離を詰めなお交錯し。互いをその圏内に捉えたその刹那、必殺の太刀筋が深々と交錯した。
「”彼ノ勢ヲ制シ我ガ勢ト為ス之太極乃構エ”……小刀で大刀を制する受けの術理、だったっけ?口で言う人は沢山いたけど、まさか実戦で使える人がいるなんて」
柔術、回復能力、そして剣の心得。これ程己とかみ合い、かつ底の知れない相手にはまず出会えるものではない。戦闘者としての真凛の貪欲な本能が悦びに震え、新しいおもちゃ箱を与えられた子供のようにその瞳が輝く。鉄塊じみたシドウの硬い気配が、ふと緩んだ。
「……それはこちらの台詞だ。七瀬が組討以外を使えるなど聞いていないぞ」
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わずかに唇をゆがめたシドウの口調に、おれは我が耳を疑った。まさか、アイツが。
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我知らず漏れたおれの呟きは、誰の耳にも入ることがなかった。そこでふと、シドウの眼がまともに真凛を捉えた。
「奴とチームを組んでいるそうだな」
おれは、今更ながらに気づいた。今の今までこの男は、真凛を徹底して『亘理陽司を殺す目的の障害物』としか見なしていなかった……いや、敢えて見なそうとしていなかった、ということに。
「……そう、だけど?」
真凛の表情が厳しさを増す。シドウの目的はおれの殺害。その事実を真凛は忘れたわけではない。シドウの気配は再び鉄塊じみたそれに戻っていた。
「ならば問う。その男は、貴様がその背に庇う価値がある者か」
――殺戮の記憶。そういえばあれは己の罪だったのだろうか。それとも生まれる前から引き継いだ自身の原罪だっただろうか。
「アンタが昔アイツと何があったかは知らないけど」
己の罪は己で拭う。それは人として在るべき象であり、なればこそ、己の為すべき何かを他者に見せる必要などあるはずもなく、他者の安易な踏み込みなど絶対に許すべきではない。
「ボクはボクが知ってる今までのコイツを信じるよ」
そう誓ったからこそ、今この場所まで辿り着いたというのに、今さら。
「――ならば」
シドウが片手正眼の構えに左手を添え、ずい、と歩を進める。八方に張り巡らされた剣気、いかなる太刀筋も受け払い斬り返すその所存。
「貴様の信ずるところにかけて、俺を止めてみせろ」
「……わかった」
対する真凛は八相から大上段に。腰を据え手首を外に向けた姿勢、小癪な護りそのものを撃ち割り捨てるその覚悟。
「伊勢冨田流小太刀術、四堂蔵人」
「七瀬式殺捉術、七瀬真凛」
両者の得物が描き出す制圧圏が球状を描く。互いの死を招くはずのそれが、まるで吸い込まれるように次第にその距離を詰めなお交錯し。互いをその圏内に捉えたその刹那、必殺の太刀筋が深々と交錯した。
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