人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
242 / 368
第6話:『北関東グレイヴディガー』

◆16:決戦の朝-3

しおりを挟む
「ちょっと土直神さん!思いっきりバレてるじゃないですか尾けてたの!」
「ウン。まぁしょうがないでしょ。おいらとシドウさんだけならともかく、こっちには清音ちんや徳田さんまでいるわけだし」

 今日は最初から巫女服で、組立済みの弓を背負った清音の抗議に、こちらは昨日同様ラフな格好に携帯ゲーム機をぶら下げた土直神が応じる。その背後には背広姿の二人、一切の表情を遮断し沈黙を保ったままの四堂と、やっとのことで後についてきた徳田の姿があった。

「さりげなく責任回避してますけど。ゲーム機の音楽鳴らしっばなしでバレないと考える方が甘いんじゃないですか?」

 確かに土直神の携帯ゲーム機からは、この山中に相応しくない電子音が漏れていた。

「ありゃこいつは失礼。まあとにかく、見つかっちゃったものはしょうがないさね」

 憤る清音とは正反対に、一向に危機感のない土直神だった。

「だから私は最初から反対だったんです!あちらの術法の力に頼るなんて」

 今朝早くに宿泊した旅館を出発した清音達は、板東山の入り口付近で一度車を停め、フレイムアップのメンバーがやってくるのを待ち伏せし、そこから尾行していたのだった。

 昨夜土直神が言っていた、『小田桐の遺体を見つけるための方法』とは何のことはない、フレイムアップのチームに遺体の場所を探させてその後を尾けるというものだった。

「それくらいならいっそ、もう一度私にやらせてもらえれば……!」

 清音としても土直神の作戦の有効性は理解している。確かに手としてはアリだろう。だが昨日自分の術で遺体の場所を見つけることが出来なかった清音にとっては、これは屈辱以外の何ものでもない。

「まあそう言わんでよ清音ちん。昨日の旅館でもそうだったけどサ。こういうのは無線と有線の違いだから」

 広域での捜索が可能な反面、環境の影響を受けやすい清音の術と、範囲が特定され、手がかりとなるアイテムが必要とされるかわりに環境の影響を受けない相手の術。どちらが優れた術というわけではなく、使い方と状況次第と言うことだ。

「あのう……お二人とも、あちらの方々がお待ちのようですが……」

 控えめな徳田の声に土直神が慌てて前を向くと、挑戦的な視線をこちらに向けている青年と目があった。傍らに控える少女もすでに臨戦態勢となっている。奥のコートの男はまだ自分が出る幕ではないと思っているのか、こちらに背を向けたままだ。

「昨日は世話になったな、『清めの渦メイルシュトローム』、『風の巫女』、『粛清者パニッシャー』。ここら辺じゃあんたらは結構有名らしい。少し調べればウルリッヒ保険所属だって事もすぐにわかったぜ」

 口調だけは軽薄に青年が言う。三人の中で今ひとつ異能力が判然としないひとり……たしか亘理陽司、とか言ったか。

「それはお互い様。おいら達も兄サン達らの事はすぐ調べがついたよ。だからそこの聖者様の奇跡を当て込んでここまで尾けてきたんだし」

 こちらも口調だけはのんびりと土直神が返す。表情筋だけ笑顔のまま、油断なく視線を交える両者。三秒ほどの沈黙の後、口を開いたのは土直神だった。

「なあ兄サン、協力しないかい?」
「土直神さん!?」
「協力!?」

 清音と、あちらの女子高生、『殺捉者』が同時に眉をひそめる。

「兄サン達はどう思っているかは知らないけどサ。元々昨日の戦闘は、偶然お互いのメンバーに因縁があったから発生したもんだし。純粋にこの任務に限れば、おいら達が戦わなきゃいけない理由は、多分ないよ」

 語りながらさりげなく視線を横に向ける。隣の大男、四堂蔵人は亘理陽司を鷹のように鋭く睨みつけたまま。だが必死に自制しているのだろう、それ以上の行動を起こすつもりはないようだった。

「兄サン達が何のために東京からこの山奥まで来たかってのは知らないよ。でも多分、『幽霊騒ぎの正体を確かめにきた』とかってところじゃないの?そんなら、平和的に協力すれば、すぐにお互いの案件は解決するって話サ」

 亘理はその提案を聞くと、皮肉っぽい笑みを閃かせた。

「はっ!協力したいっつっても、遺体の埋まっている場所はもう判明したんだ。今さらあんた等に手助けなんぞ乞わなきゃいけない義理はないだろ?」
しおりを挟む
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

JOKER

札幌5R
経済・企業
この物語は主人公の佐伯承夏と水森警察署の仲間との対話中心で進んでいきます。 全体的に、アクション、仲間意識、そして少しのユーモアが組み合わさった物語であり、水森警察署の警察官が日常的に直面する様々な挑戦を描いています。 初めて書いた作品ですのでお手柔らかに。 なんかの間違えでバズらないかな

処理中です...