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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆12:ブレイク&リコール(サイドA)−1
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切断する。
切断する。切断する。切断する。
男を切断する。女を切断する。若者を切断する。老人を切断する。幼子を切断する。
俺の認識に応え、意識野に召喚された魔神――禍々しい銀色に輝く、無骨な刃を纏った独楽――が、縦横自在にその鋼の刃を巡らせる。俺が意識野で引いた線の通りに空間が裁たれ、その延長線上にあるものが切り離される。
無謬の切り裂くための手段は持っていても、対象を探す方法は人の身のそれだ。
だから歩いて探した。見つけたら切った。女を切ったら、たぶんつれあいだろう、男が叫びを上げてこちらに向かってきたからこれも切った。
家の中に入ったら赤子が泣いていたので、親に残されたら可哀相だと思ったから切っておいた。遺体をさらしておくのは当人達も望んでいないだろうと思ったので、三人とも原型が無くなるまで切りきざんで擂り潰した。
山奥の小さな寒村に、突如現れた不可思議な力を使う殺人鬼――傍から見ればそんなところか。十人切ったところで村人達が事態を把握し、一斉に悲鳴を上げて逃げまどい始めた。
ありがたいことだ。
隠れているのを探すのは手間だが、そちらから出てきてくれる分には効率的に仕事が出る。とりあえず、村の外へと逃げ出そうとしている村人達の、アキレス腱のあたりを視線で縫う。
俺の視線を正確にトレースして空間が断ち割れ、全員の両の足首を綺麗に切り落とす。まずは移動出来なくしておいて後の工程で処理。仕事は段取り良く、だ。俺は優先順位の通り、目先の村人、俺に向けて鍬を振り下ろそうとしている三人に向けて線を引きその首を裁つ。
べつだん、たいしたことをしているという認識はない。
子供の頃は友達の住む隣街でさえ遠い異世界だが、大人になって海外を訪問するようになれば、地球の裏側だろうとごく近い世界でしかならなくなる。
少年時代はあれこれと女性に対して妄想したり憧れてみたりもするが、何人かの女と寝床をともにしてみれば、慣れと同時に目新しさは失われていく。
単純なことだ。
体験は多かれ少なかれ、人を変える。
人を殺すというのはもちろん良くないことだ。人間にとっては。
それは人間達を形成する社会というものに不安定をもたらすからだし、同族を減らすのは、種の繁栄から見てもあまり賢い選択肢ではない。それは全く健全な思考だ。だがそれも、人間以外|《・・・・》を経験すれば、当然のようにその価値観は、多かれ少なかれ変化する。意識野に人ならざるモノを召喚するというのは、そういうことなのだ。幾つもの世界に呼び出され、そこで得た情報を”記憶”する36の道具達。
彼らを使役するとき、俺の脳には彼らが蓄えてきた知識がダイレクトに展開され焼きつく。それはすなわち、一秒の間に一万の人生を――いや、人ならざる異世界の生き物の体験を――引き継ぐと言うことであり、そうなれば必定、判断基準も変わってくる。
今の俺は、蓄えた経験とそれによってもたらされる価値観から総合的に判断して、ここにいる村人達を全数、処理するのが良い、との結論を導き出していた。
これは、理解してもらうのは難しいかも知れない。
子供に、行ったことのない異国の話をしても、本質的には理解をしてはもらえまい。
童貞に、女と寝ることの愉しさ、あるいは虚しさを説いてみたとしても、やはり本質的には理解をしてはもらえまい。
説明の技術の善し悪しの問題ではない。ある種の経験談というのは、受け手側にも経験がないと、認識を共有してもらえないのだ。
だから、今の亘理陽司の価値観を他者に説明しても――人間に、人間を処理することの正当性と必然性を情熱を以て説いてみたとしても――やはり、本質的には理解をしてはもらえないのだろう。
だから、説明はしない。弁解も、言い訳ももちろんしない。恐怖にさらすためにやっているわけではないのだから、ひたすら迅速に、効率性だけを考えて処理していった。
ようするに。
亘理陽司が今、人を殺しているのは、狂気に走ったわけでも絶望に心が壊れてしまったからでもない。
ただ単に。
経験を積んで成長し価値観が変わり、人を殺しても大丈夫になったというだけの事。
それだけなのだ。
切断する。切断する。切断する。
男を切断する。女を切断する。若者を切断する。老人を切断する。幼子を切断する。
俺の認識に応え、意識野に召喚された魔神――禍々しい銀色に輝く、無骨な刃を纏った独楽――が、縦横自在にその鋼の刃を巡らせる。俺が意識野で引いた線の通りに空間が裁たれ、その延長線上にあるものが切り離される。
無謬の切り裂くための手段は持っていても、対象を探す方法は人の身のそれだ。
だから歩いて探した。見つけたら切った。女を切ったら、たぶんつれあいだろう、男が叫びを上げてこちらに向かってきたからこれも切った。
家の中に入ったら赤子が泣いていたので、親に残されたら可哀相だと思ったから切っておいた。遺体をさらしておくのは当人達も望んでいないだろうと思ったので、三人とも原型が無くなるまで切りきざんで擂り潰した。
山奥の小さな寒村に、突如現れた不可思議な力を使う殺人鬼――傍から見ればそんなところか。十人切ったところで村人達が事態を把握し、一斉に悲鳴を上げて逃げまどい始めた。
ありがたいことだ。
隠れているのを探すのは手間だが、そちらから出てきてくれる分には効率的に仕事が出る。とりあえず、村の外へと逃げ出そうとしている村人達の、アキレス腱のあたりを視線で縫う。
俺の視線を正確にトレースして空間が断ち割れ、全員の両の足首を綺麗に切り落とす。まずは移動出来なくしておいて後の工程で処理。仕事は段取り良く、だ。俺は優先順位の通り、目先の村人、俺に向けて鍬を振り下ろそうとしている三人に向けて線を引きその首を裁つ。
べつだん、たいしたことをしているという認識はない。
子供の頃は友達の住む隣街でさえ遠い異世界だが、大人になって海外を訪問するようになれば、地球の裏側だろうとごく近い世界でしかならなくなる。
少年時代はあれこれと女性に対して妄想したり憧れてみたりもするが、何人かの女と寝床をともにしてみれば、慣れと同時に目新しさは失われていく。
単純なことだ。
体験は多かれ少なかれ、人を変える。
人を殺すというのはもちろん良くないことだ。人間にとっては。
それは人間達を形成する社会というものに不安定をもたらすからだし、同族を減らすのは、種の繁栄から見てもあまり賢い選択肢ではない。それは全く健全な思考だ。だがそれも、人間以外|《・・・・》を経験すれば、当然のようにその価値観は、多かれ少なかれ変化する。意識野に人ならざるモノを召喚するというのは、そういうことなのだ。幾つもの世界に呼び出され、そこで得た情報を”記憶”する36の道具達。
彼らを使役するとき、俺の脳には彼らが蓄えてきた知識がダイレクトに展開され焼きつく。それはすなわち、一秒の間に一万の人生を――いや、人ならざる異世界の生き物の体験を――引き継ぐと言うことであり、そうなれば必定、判断基準も変わってくる。
今の俺は、蓄えた経験とそれによってもたらされる価値観から総合的に判断して、ここにいる村人達を全数、処理するのが良い、との結論を導き出していた。
これは、理解してもらうのは難しいかも知れない。
子供に、行ったことのない異国の話をしても、本質的には理解をしてはもらえまい。
童貞に、女と寝ることの愉しさ、あるいは虚しさを説いてみたとしても、やはり本質的には理解をしてはもらえまい。
説明の技術の善し悪しの問題ではない。ある種の経験談というのは、受け手側にも経験がないと、認識を共有してもらえないのだ。
だから、今の亘理陽司の価値観を他者に説明しても――人間に、人間を処理することの正当性と必然性を情熱を以て説いてみたとしても――やはり、本質的には理解をしてはもらえないのだろう。
だから、説明はしない。弁解も、言い訳ももちろんしない。恐怖にさらすためにやっているわけではないのだから、ひたすら迅速に、効率性だけを考えて処理していった。
ようするに。
亘理陽司が今、人を殺しているのは、狂気に走ったわけでも絶望に心が壊れてしまったからでもない。
ただ単に。
経験を積んで成長し価値観が変わり、人を殺しても大丈夫になったというだけの事。
それだけなのだ。
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