人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
226 / 368
第6話:『北関東グレイヴディガー』

◆12:ブレイク&リコール(サイドA)−1

しおりを挟む
 切断する。

 切断する。切断する。切断する。

 男を切断する。女を切断する。若者を切断する。老人を切断する。幼子を切断する。

 俺の認識に応え、意識野に召喚ダウンロードされた魔神――禍々しい銀色に輝く、無骨な刃を纏った独楽――が、縦横自在にその鋼の刃を巡らせる。俺が意識野で引いた線の通りに空間が裁たれ、その延長線上にあるものが切り離される。

 無謬の切り裂くための手段は持っていても、対象を探す方法は人の身のそれだ。

 だから歩いて探した。見つけたら切った。女を切ったら、たぶんつれあいだろう、男が叫びを上げてこちらに向かってきたからこれも切った。

 家の中に入ったら赤子が泣いていたので、親に残されたら可哀相だと思ったから切っておいた。遺体をさらしておくのは当人達も望んでいないだろうと思ったので、三人とも原型が無くなるまで切りきざんでり潰した。

 
 山奥の小さな寒村に、突如現れた不可思議な力を使う殺人鬼――傍から見ればそんなところか。十人切ったところで村人達が事態を把握し、一斉に悲鳴を上げて逃げまどい始めた。

 ありがたいことだ。

 隠れているのを探すのは手間だが、そちらから出てきてくれる分には効率的に仕事が出る。とりあえず、村の外へと逃げ出そうとしている村人達の、アキレス腱のあたりを視線で縫う。
 
 俺の視線を正確にトレースして空間が断ち割れ、全員の両の足首を綺麗に切り落とす。まずは移動出来なくしておいて後の工程で処理。仕事は段取り良く、だ。俺は優先順位の通り、目先の村人、俺に向けて鍬を振り下ろそうとしている三人に向けて線を引きその首を裁つ。
 

 べつだん、たいしたことをしているという認識はない。
 

 子供の頃は友達の住む隣街でさえ遠い異世界だが、大人になって海外を訪問するようになれば、地球の裏側だろうとごく近い世界でしかならなくなる。

 
 少年時代はあれこれと女性に対して妄想したり憧れてみたりもするが、何人かの女と寝床をともにしてみれば、慣れと同時に目新しさは失われていく。

 
 単純なことだ。

 体験は多かれ少なかれ、人を変える。

 
 人を殺すというのはもちろん良くないことだ。人間にとっては・・・・・・・

 それは人間達を形成する社会というものに不安定をもたらすからだし、同族を減らすのは、種の繁栄から見てもあまり賢い選択肢ではない。それは全く健全な思考だ。だがそれも、人間以外|《・・・・》を経験すれば、当然のようにその価値観は、多かれ少なかれ変化する。意識野に人ならざるモノを召喚ダウンロードするというのは、そういうことなのだ。幾つもの世界に呼び出され、そこで得た情報を”記憶”する36の道具達。

 彼らを使役するとき、俺の脳には彼らが蓄えてきた知識がダイレクトに展開され焼きつく。それはすなわち、一秒の間に一万の人生を――いや、人ならざる異世界の生き物の体験を――引き継ぐと言うことであり、そうなれば必定、判断基準も変わってくる。

 今の俺は、蓄えた経験とそれによってもたらされる価値観から総合的・・・に判断して、ここにいる村人達を全数、処理・・するのが良い、との結論を導き出していた。

 
 これは、理解してもらうのは難しいかも知れない。

 子供に、行ったことのない異国の話をしても、本質的には理解をしてはもらえまい。
 童貞に、女と寝ることの愉しさ、あるいは虚しさを説いてみたとしても、やはり本質的には理解をしてはもらえまい。


 説明の技術の善し悪しの問題ではない。ある種の経験談というのは、受け手側にも経験がないと、認識を共有してもらえないのだ。

 だから、今の亘理陽司の価値観を他者に説明しても――人間に、人間を処理・・することの正当性と必然性を情熱を以て説いてみたとしても――やはり、本質的には理解をしてはもらえないのだろう。

 だから、説明はしない。弁解も、言い訳ももちろんしない。恐怖にさらすためにやっているわけではないのだから、ひたすら迅速に、効率性だけを考えて処理・・していった。

 
 ようするに。

 亘理陽司が今、人を殺しているのは、狂気に走ったわけでも絶望に心が壊れてしまったからでもない。

 
 ただ単に。

 経験を積んで成長し価値観が変わり、人を殺しても大丈夫になったというだけの事。

 それだけなのだ。
しおりを挟む
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
感想 1

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『五十年目の理解』

小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...