224 / 368
第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆11:ブレイク&リコール(サイドB)−3
しおりを挟む
「ちょい待ってよシドーさん。さすがにそれで納得しろってのはムリだってばよ」
土直神のコメントはもっともだ。問いただすべき事はいくらでもあった。そもそも任務中に私怨で戦闘を行うなど、業界の”仁義”からすれば相当問題のある行為だ。清音が知る限り、派遣社員達の中でも四堂はそういうことには人一倍スジを通す男である。
仁義を無視して遭遇戦を仕掛けたあげく、結果として本来の任務を大きく妨げるような事は、他人にも自分にも許すはずがないのに。そしてもう一つ。清音が駆けつけた時にあの青年から感じた途轍もない違和感。あれは一体なんなのか。
「四堂さん、」
「すまん。これ以上は話せない」
そういうと四堂は、深く頭を垂れた。
「え」
そして四堂は、本当に岩と化したように喋らなくなってしまった。口先だけで誤魔化そうとするならまだしも、こうなってしまっては追求のしようもない。微妙な沈黙の中、土直神が一つタッチペンを弾くと、間抜けな電子音が社内に響いた。
「しょーがない。シドーさんが頭を下げるくらいなら、きっと知らない方がおいら達も幸せなんだろ。とーにーかーく。これからどうするかを決めよっか」
「……そうですね。起こった事は仕方がないとして。これからどうするかを考えましょうか」
完全に納得したわけではないが、確かにここで問答をしていても無意味だ。それに、そもそもの任務の方も、腑に落ちない点が多すぎたのだった。
「まず確実に言えることは、板東山のあの辺りで人がひとり亡くなっていること。そしてその人は、例の落盤事故について知っており、小田切剛史さん本人の可能性が高いと言うことです」
「ただしその幽霊さんは、本人だとは言ってないんだけどな」
対話する形をとりながら話をまとめる土直神。どう推理しても本人だとしか思えない幽霊が、死んだのかどうか、死体を見つけて確認してみろ、と言い放つ。あまりにも不自然な話ではある。
「そんなこと、私の今までの経験からはまずあり得ない事なんですが」
「あのぅ……。私たちのお仕事は、保険金を支払うために死亡を確認することです」
ためらいがちに口を開いたのは徳田だった。
「私は未だに幽霊なんてものは信じられないんですが……とにかく居るとして。こういう言い方はどうかと思いますが、ご本人の幽霊が居るなら、亡骸も近くに埋まっているはずです。掘り起こしてみて、当人だったならば万事解決。そうでなければ身元を照合し、あの事故の関係者であるとわかれば、それはそれで事態は発展するんではないでしょうか」
「……つまり、あの幽霊さんの言うとおりに、ホトケさんを探す、っつうことだぁね」
おそらくそれは正論である。ただしそうなると、そもそもの根本的な問題が浮かび上がってくる。
「でも、どうやって亡骸を見つけるかが問題になります。だいたいそれが可能だったなら、最初から私が霊を呼ぶ必要なんて無かったわけですし」
「そうだーなぁ……おいらが地脈をいじった表層にもホトケさんの反応は居なかったし。埋まっているとすれば結構深いところなんだろなぁ」
なにやら首をひねって考え込んでいる土直神と、黙々と養分の補給を続ける四堂。そして、これ以上の意見が思いつかないままの徳田。しばらく考えた後、膠着状態を断ち切るように清音は声をあげた。
「徳田さん。私、この街で他にも居なくなった方がいないか調査をしてみてもいいですか?」
「え!?それは、なんでまた」
「根拠はないんですが……人生もこれから、という方が亡くなったにしては、やっぱり不自然が過ぎると思うんです」
「巫女の直観、という奴ですか?」
「そうかも知れません。自分が死んでしまったという事実を、あそこまで平然と受け止められるあの霊のイメージは、徳田さんから頂いた小田桐氏のプロフィールとはどうにも重ならない」
かと言って、全くの別人にしては平仄が合いすぎていて、どうにも据わりが悪い。山中での神下ろしから清音がずっと抱いている違和感がこれだった。
土直神のコメントはもっともだ。問いただすべき事はいくらでもあった。そもそも任務中に私怨で戦闘を行うなど、業界の”仁義”からすれば相当問題のある行為だ。清音が知る限り、派遣社員達の中でも四堂はそういうことには人一倍スジを通す男である。
仁義を無視して遭遇戦を仕掛けたあげく、結果として本来の任務を大きく妨げるような事は、他人にも自分にも許すはずがないのに。そしてもう一つ。清音が駆けつけた時にあの青年から感じた途轍もない違和感。あれは一体なんなのか。
「四堂さん、」
「すまん。これ以上は話せない」
そういうと四堂は、深く頭を垂れた。
「え」
そして四堂は、本当に岩と化したように喋らなくなってしまった。口先だけで誤魔化そうとするならまだしも、こうなってしまっては追求のしようもない。微妙な沈黙の中、土直神が一つタッチペンを弾くと、間抜けな電子音が社内に響いた。
「しょーがない。シドーさんが頭を下げるくらいなら、きっと知らない方がおいら達も幸せなんだろ。とーにーかーく。これからどうするかを決めよっか」
「……そうですね。起こった事は仕方がないとして。これからどうするかを考えましょうか」
完全に納得したわけではないが、確かにここで問答をしていても無意味だ。それに、そもそもの任務の方も、腑に落ちない点が多すぎたのだった。
「まず確実に言えることは、板東山のあの辺りで人がひとり亡くなっていること。そしてその人は、例の落盤事故について知っており、小田切剛史さん本人の可能性が高いと言うことです」
「ただしその幽霊さんは、本人だとは言ってないんだけどな」
対話する形をとりながら話をまとめる土直神。どう推理しても本人だとしか思えない幽霊が、死んだのかどうか、死体を見つけて確認してみろ、と言い放つ。あまりにも不自然な話ではある。
「そんなこと、私の今までの経験からはまずあり得ない事なんですが」
「あのぅ……。私たちのお仕事は、保険金を支払うために死亡を確認することです」
ためらいがちに口を開いたのは徳田だった。
「私は未だに幽霊なんてものは信じられないんですが……とにかく居るとして。こういう言い方はどうかと思いますが、ご本人の幽霊が居るなら、亡骸も近くに埋まっているはずです。掘り起こしてみて、当人だったならば万事解決。そうでなければ身元を照合し、あの事故の関係者であるとわかれば、それはそれで事態は発展するんではないでしょうか」
「……つまり、あの幽霊さんの言うとおりに、ホトケさんを探す、っつうことだぁね」
おそらくそれは正論である。ただしそうなると、そもそもの根本的な問題が浮かび上がってくる。
「でも、どうやって亡骸を見つけるかが問題になります。だいたいそれが可能だったなら、最初から私が霊を呼ぶ必要なんて無かったわけですし」
「そうだーなぁ……おいらが地脈をいじった表層にもホトケさんの反応は居なかったし。埋まっているとすれば結構深いところなんだろなぁ」
なにやら首をひねって考え込んでいる土直神と、黙々と養分の補給を続ける四堂。そして、これ以上の意見が思いつかないままの徳田。しばらく考えた後、膠着状態を断ち切るように清音は声をあげた。
「徳田さん。私、この街で他にも居なくなった方がいないか調査をしてみてもいいですか?」
「え!?それは、なんでまた」
「根拠はないんですが……人生もこれから、という方が亡くなったにしては、やっぱり不自然が過ぎると思うんです」
「巫女の直観、という奴ですか?」
「そうかも知れません。自分が死んでしまったという事実を、あそこまで平然と受け止められるあの霊のイメージは、徳田さんから頂いた小田桐氏のプロフィールとはどうにも重ならない」
かと言って、全くの別人にしては平仄が合いすぎていて、どうにも据わりが悪い。山中での神下ろしから清音がずっと抱いている違和感がこれだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
26
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる