222 / 368
第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆11:ブレイク&リコール(サイドB)−1
しおりを挟む
彼からの手紙を受け取ったとき、私は少なからず驚いた。
彼とはここ数年すっかり音信が途絶えてしまい、こちらからの連絡もとりようがなかった。色々と言葉を取り繕ってはいるが、しょせん、我々のやっていることはやくざな仕事である。
正直なところ、最悪の事態も想定していないでもなかった。だから安堵もしたのだが――手紙の封を開いた途端、そんな安堵も吹き飛んでしまった。
手紙は二通。
一通は、彼から私への贈り物だった。こういう時、彼には到底かなわないな、と思う。彼に学び、彼に近づこうとしていた時、一度でもそれを欲しがったつもりはなかった。だが実際に貰ってみると、晴れがましさと畏れで胸が満たされる。私に演技の道を説き、自分には演技は出来ないなどと言っておきながら、私の知るところ、彼ほど人の心をよく把握している人物はそうはいなかった。
そしてもう一通は、彼の舞台への招待状だった。
そしてそれを一通を開いたとき。なぜ彼が私に贈り物をしたのか、その理由を知った。なればこそ、私にはその招待を断ることなど出来るはずもなかった。勿論、恩義がある人の頼みだからということもある。だが、それだけではない。
舞台の幕が上がったのだ。
限りなく100%に近づくことを可能とし、だがそれ故に100%になることが出来なかった男。その彼が、はじめて100%の向こう側に辿り着くための舞台。
この私にも欲はある。
そのひそやかな、誰にも知られぬ偉大な挑戦の中で、ささやかではあるが役を与えられ、そして同時に観客という名の見届け人を務めることになるのであれば。
彼からの『贈り物』にかけて、これほどの栄誉はないと胸を張って断言できるのだから。
彼とはここ数年すっかり音信が途絶えてしまい、こちらからの連絡もとりようがなかった。色々と言葉を取り繕ってはいるが、しょせん、我々のやっていることはやくざな仕事である。
正直なところ、最悪の事態も想定していないでもなかった。だから安堵もしたのだが――手紙の封を開いた途端、そんな安堵も吹き飛んでしまった。
手紙は二通。
一通は、彼から私への贈り物だった。こういう時、彼には到底かなわないな、と思う。彼に学び、彼に近づこうとしていた時、一度でもそれを欲しがったつもりはなかった。だが実際に貰ってみると、晴れがましさと畏れで胸が満たされる。私に演技の道を説き、自分には演技は出来ないなどと言っておきながら、私の知るところ、彼ほど人の心をよく把握している人物はそうはいなかった。
そしてもう一通は、彼の舞台への招待状だった。
そしてそれを一通を開いたとき。なぜ彼が私に贈り物をしたのか、その理由を知った。なればこそ、私にはその招待を断ることなど出来るはずもなかった。勿論、恩義がある人の頼みだからということもある。だが、それだけではない。
舞台の幕が上がったのだ。
限りなく100%に近づくことを可能とし、だがそれ故に100%になることが出来なかった男。その彼が、はじめて100%の向こう側に辿り着くための舞台。
この私にも欲はある。
そのひそやかな、誰にも知られぬ偉大な挑戦の中で、ささやかではあるが役を与えられ、そして同時に観客という名の見届け人を務めることになるのであれば。
彼からの『贈り物』にかけて、これほどの栄誉はないと胸を張って断言できるのだから。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

プロジェクトから外されて幸せになりました
こうやさい
経済・企業
プロジェクトも大詰めだというのに上司に有給を取ることを勧められました。
パーティー追放ものって現代だとどうなるかなぁから始まって迷子になったシロモノ。
いくらなんでもこんな無能な人は…………いやうん。
カテゴリ何になるかがやっぱり分からない。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる