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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆10:疾風と濁流と−2
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頭から冷や水をぶっかけられたようだった。
――何をやっているのか、おれは。
森の奥から攻撃をしかけてきた場違いな二人は、明らかにおれ達の同業者。つまりはシドウの仲間と考えるべきだろう。真凛に突き飛ばされなければ、さっきの矢の一撃で即リタイヤしているところだった。
……バカが。冷静になれ。
真凛に言いきかせるどころではない。おれはまず自分自身のアタマをクールダウンさせなければならなかった。先ほど感情にまかせて、おれは何をしようとしていたのか。
アレは、アレと同質のモノに関する戦いの時だけ呼び出すべきもの。力欲しさに感情にまかせて振るうのであれば、おれのメンタリティはキャンディ欲しさにライフル銃をぶっぱなす子供と大差がないことになってしまう。
正直まだシドウの野郎は殺してやりたいが、だとしてもそれは別の手段によってでなければならない。
絞められた首の跡が痛む。くそっ、認めなきゃいけないんだろうな。たぶんおれは今、焦って集中を欠いている。全く偶然に旧知の人間に出くわし、殺されかけた事。そして。
シドウと斬り結ぶ真凛の背中が目に入る。
組み技は危険と見た真凛が、徹底的に腕や足など先端部分に攻撃を加えるのに対し、シドウはもはや隠す必要の無くなった回復能力を全開にし、文字通り肉を斬らせて骨を断つ機会を伺っていた。
……とにかく、今は目の前の事態を切り抜けることを考えなければならない。現れた増援のうち、妙なファッションの男の方は撤退し、巫女姿の少女の方は、すでに第二射をつがえようとしていた。どうやら男の方は戦闘系の能力者ではないようだ。となれば、増援はこの子一人ということになる。
真凛とシドウが高速で接近戦を演じている以上、狙ってくるのはまず間違いなくおれだろう。おれはひとまず獣道から森の下生えの中へと飛び込み、立木を盾にして身を隠した。腰までが下生えに埋もれ、むっとする草いきれの臭いが鼻をつく。
「さすがに飛び道具は卑怯だと思うんだよなあ」
おれはぼやいた。銃で狙われるのは、悲しくもずいぶん慣れてしまった身であるが、弓矢で狙われるというのはまた別の恐怖である。何しろ相手とこれだけ離れていても、ぴりぴりと張り詰めた空気がはっきりと伝わってくるのだから。
一流のハンターと対峙した野生動物の気分だった。対策を練ろうにも、とにかく相手の情報が足りない。銃ならいざしらず、弓矢ならば木の幹を貫通することは出来ないはずだ。時間を稼ぎながら、少しでも状況を打開するヒントを見つけださなければならない。木立の影から様子を伺う。
「……あれ?」
すると、獣道の奥で弓を引き絞った巫女の少女は、おれが森の中に逃げ込んだことを気にも止めず、無造作におれのいる方向に矢を向け――そして、放った。
刹那。
おれの前にあったはずの立木が消失した。
耳の奥で、わずかにきぃんと不快な音がなったような気がした。
そしてそんな事を知覚する余裕はまったくなく。
おれは、爆発に巻き込まれ土砂ごと無様に宙を舞った。
――何をやっているのか、おれは。
森の奥から攻撃をしかけてきた場違いな二人は、明らかにおれ達の同業者。つまりはシドウの仲間と考えるべきだろう。真凛に突き飛ばされなければ、さっきの矢の一撃で即リタイヤしているところだった。
……バカが。冷静になれ。
真凛に言いきかせるどころではない。おれはまず自分自身のアタマをクールダウンさせなければならなかった。先ほど感情にまかせて、おれは何をしようとしていたのか。
アレは、アレと同質のモノに関する戦いの時だけ呼び出すべきもの。力欲しさに感情にまかせて振るうのであれば、おれのメンタリティはキャンディ欲しさにライフル銃をぶっぱなす子供と大差がないことになってしまう。
正直まだシドウの野郎は殺してやりたいが、だとしてもそれは別の手段によってでなければならない。
絞められた首の跡が痛む。くそっ、認めなきゃいけないんだろうな。たぶんおれは今、焦って集中を欠いている。全く偶然に旧知の人間に出くわし、殺されかけた事。そして。
シドウと斬り結ぶ真凛の背中が目に入る。
組み技は危険と見た真凛が、徹底的に腕や足など先端部分に攻撃を加えるのに対し、シドウはもはや隠す必要の無くなった回復能力を全開にし、文字通り肉を斬らせて骨を断つ機会を伺っていた。
……とにかく、今は目の前の事態を切り抜けることを考えなければならない。現れた増援のうち、妙なファッションの男の方は撤退し、巫女姿の少女の方は、すでに第二射をつがえようとしていた。どうやら男の方は戦闘系の能力者ではないようだ。となれば、増援はこの子一人ということになる。
真凛とシドウが高速で接近戦を演じている以上、狙ってくるのはまず間違いなくおれだろう。おれはひとまず獣道から森の下生えの中へと飛び込み、立木を盾にして身を隠した。腰までが下生えに埋もれ、むっとする草いきれの臭いが鼻をつく。
「さすがに飛び道具は卑怯だと思うんだよなあ」
おれはぼやいた。銃で狙われるのは、悲しくもずいぶん慣れてしまった身であるが、弓矢で狙われるというのはまた別の恐怖である。何しろ相手とこれだけ離れていても、ぴりぴりと張り詰めた空気がはっきりと伝わってくるのだから。
一流のハンターと対峙した野生動物の気分だった。対策を練ろうにも、とにかく相手の情報が足りない。銃ならいざしらず、弓矢ならば木の幹を貫通することは出来ないはずだ。時間を稼ぎながら、少しでも状況を打開するヒントを見つけださなければならない。木立の影から様子を伺う。
「……あれ?」
すると、獣道の奥で弓を引き絞った巫女の少女は、おれが森の中に逃げ込んだことを気にも止めず、無造作におれのいる方向に矢を向け――そして、放った。
刹那。
おれの前にあったはずの立木が消失した。
耳の奥で、わずかにきぃんと不快な音がなったような気がした。
そしてそんな事を知覚する余裕はまったくなく。
おれは、爆発に巻き込まれ土砂ごと無様に宙を舞った。
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