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第6話:『北関東グレイヴディガー』
◆07:遭遇-encounter!- −2
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物陰でバックパックから取り出した小袖と緋袴に着替え、シャンプーの宣伝にも出られるよと友人達からお墨付きをもらった自慢の黒髪を水引で束ねる。
それだけでごく普通の女子高生は、霊験すら匂わす巫女となっていた。そのまま清音は楚々と進み出で、現場、つまりは土砂の崩れた場所に降り立つ。
「本来なら巫女というものは神社にあってこそ巫女なのですけれども」
巫女というものにも様々あるが、もっとも一般的な『巫女さん』は、神様に奉仕する存在である。その神様が神社におわす以上、巫女が巫女として活動するのは、通常は神社の中だけだ。
「ウチは人が足りませんので」
嘆く清音。つまりは、一人で何でもやらなければいけないと言うことだ。神楽からお賽銭の管理、託宣、お祓い、悪霊退散等々。
次に清音が取りだしたものを見て、徳田が驚きの声を上げる。それは、何枚かの微妙に反った板だった。いずれも細長い。材質はそれぞれ異なり、アルミ合金、カーボン、それに竹で出来ているものもある。道具と言うより機械のパーツを連想させるそれは、
「もしかして、弓……いや、アーチェリーの部品、ですか?」
頷く清音。そう、それは確かにアーチェリーの弓。正確にはリカーブボウと称されるものだった。弓道で使われる和弓とは異なり、パーツごとに分解して持ち運べるという利点がある。清音は慣れた手つきでパーツを接続し、ボウを組み立ててゆく。
「しかし……巫女さんが、アーチェリー、ですか?」
徳田の疑問も無理はない。事実、巫女さんが和弓ならともかく、洋弓を構えている姿はミスマッチこの上なかった。清音ははぁ、と遠い目をする。
「本当は、神社に代々伝わる御弓だったんですよ。でも、折れてしまいまして」
「高校の後夜祭で酔っぱらって石段踏み外して、尻餅でへし折ったんだよなー」
茶々を入れる土直神。
「ほっといてくださいよ!で、結局、洋弓に再生することにしたんです」
そう言って清音が指した弓の上端と下端の部品は、よく見ると確かに、和弓のそれを切り離したものだった。
何しろ先祖代々の御弓は取り替えのきくものではないし、かといって折れた弓はどう接着してみても、とても実用に耐えられるものではない。
試行錯誤の末、高校のアーチェリー部の顧問と商店街のスポーツ店と町内の鉄工所の協力を得て、折れてしまった胴部を切除し、鳥打から上をアッパーリムに、大越から下をロウアーリムに、それぞれカーボンで補強を施して仕立てた。
これをアルミ合金から削りだしたハンドルに接続し、アラミド繊維の弦をかける。ついでにスタビライザーとVバーもセット。
こうして風早の神社に代々伝わる不浄祓いの霊弓は、最新技術を詰め込んだものごっついアーチェリーへと魔改造を施されたのであった。ちなみに経費は月賦五年払いである。
「まあ、見てくれは巫女らしくありませんが、ちゃんと祭具としては機能しますし」
すいと背筋をただし、大の男でも引くのが難しい強さの弓を、流れるように引き分け。筋肉ではなく姿勢で引く、理想に近い射姿だった。
そのまま矢をつがえずに左手を放すと、キャン、と鋭い音を立てて弦が鳴った。
「和弓より、こちらの方が何かと使い勝手がいいんですよね。とくに実戦では」
物騒で清楚な微笑を浮かべ、清音はそのまま繰り返し矢をつがえずに弦を引き、放す。東北を向いて弦打ち。次に西南を向いてまた弦打ち。そして東西南北、四方へと。鋭く甲高い弦の音が、静かな森の中に響いていく。
「あの、一体何を、」
「静かに」
徳田を小声で制したのは、土直神だった。
「鳴弦の儀。弦鳴りで穢れを追い払って、神様を迎えるんだぁよ」
上を指す土直神。そこでようやく、徳田も気がついた。
「風が……」
それだけでごく普通の女子高生は、霊験すら匂わす巫女となっていた。そのまま清音は楚々と進み出で、現場、つまりは土砂の崩れた場所に降り立つ。
「本来なら巫女というものは神社にあってこそ巫女なのですけれども」
巫女というものにも様々あるが、もっとも一般的な『巫女さん』は、神様に奉仕する存在である。その神様が神社におわす以上、巫女が巫女として活動するのは、通常は神社の中だけだ。
「ウチは人が足りませんので」
嘆く清音。つまりは、一人で何でもやらなければいけないと言うことだ。神楽からお賽銭の管理、託宣、お祓い、悪霊退散等々。
次に清音が取りだしたものを見て、徳田が驚きの声を上げる。それは、何枚かの微妙に反った板だった。いずれも細長い。材質はそれぞれ異なり、アルミ合金、カーボン、それに竹で出来ているものもある。道具と言うより機械のパーツを連想させるそれは、
「もしかして、弓……いや、アーチェリーの部品、ですか?」
頷く清音。そう、それは確かにアーチェリーの弓。正確にはリカーブボウと称されるものだった。弓道で使われる和弓とは異なり、パーツごとに分解して持ち運べるという利点がある。清音は慣れた手つきでパーツを接続し、ボウを組み立ててゆく。
「しかし……巫女さんが、アーチェリー、ですか?」
徳田の疑問も無理はない。事実、巫女さんが和弓ならともかく、洋弓を構えている姿はミスマッチこの上なかった。清音ははぁ、と遠い目をする。
「本当は、神社に代々伝わる御弓だったんですよ。でも、折れてしまいまして」
「高校の後夜祭で酔っぱらって石段踏み外して、尻餅でへし折ったんだよなー」
茶々を入れる土直神。
「ほっといてくださいよ!で、結局、洋弓に再生することにしたんです」
そう言って清音が指した弓の上端と下端の部品は、よく見ると確かに、和弓のそれを切り離したものだった。
何しろ先祖代々の御弓は取り替えのきくものではないし、かといって折れた弓はどう接着してみても、とても実用に耐えられるものではない。
試行錯誤の末、高校のアーチェリー部の顧問と商店街のスポーツ店と町内の鉄工所の協力を得て、折れてしまった胴部を切除し、鳥打から上をアッパーリムに、大越から下をロウアーリムに、それぞれカーボンで補強を施して仕立てた。
これをアルミ合金から削りだしたハンドルに接続し、アラミド繊維の弦をかける。ついでにスタビライザーとVバーもセット。
こうして風早の神社に代々伝わる不浄祓いの霊弓は、最新技術を詰め込んだものごっついアーチェリーへと魔改造を施されたのであった。ちなみに経費は月賦五年払いである。
「まあ、見てくれは巫女らしくありませんが、ちゃんと祭具としては機能しますし」
すいと背筋をただし、大の男でも引くのが難しい強さの弓を、流れるように引き分け。筋肉ではなく姿勢で引く、理想に近い射姿だった。
そのまま矢をつがえずに左手を放すと、キャン、と鋭い音を立てて弦が鳴った。
「和弓より、こちらの方が何かと使い勝手がいいんですよね。とくに実戦では」
物騒で清楚な微笑を浮かべ、清音はそのまま繰り返し矢をつがえずに弦を引き、放す。東北を向いて弦打ち。次に西南を向いてまた弦打ち。そして東西南北、四方へと。鋭く甲高い弦の音が、静かな森の中に響いていく。
「あの、一体何を、」
「静かに」
徳田を小声で制したのは、土直神だった。
「鳴弦の儀。弦鳴りで穢れを追い払って、神様を迎えるんだぁよ」
上を指す土直神。そこでようやく、徳田も気がついた。
「風が……」
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