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第5話:『六本木ストックホルダー』
◆08:凶蛇猛襲−3
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「おい!『スケアクロウ』!?」
細長い体躯で胸板を貫いた『絞める蛇』はそのままの状態で、背中に抜けた上半分をスケアクロウの右腕に、胸板に埋まっている下半分をその腰に巻き付けた。次の瞬間、胸が悪くなるような光景が展開された。
けたたましい金属音が鳴り響く。『絞める蛇』が巻き付いた『スケアクロウ』の右腕を締め上げ、右腕と、支点となった胸の穴と腰とをいっぺんにねじ切ったのだ。
「…………!!」
悲鳴を上げることすら出来ず、右腕と胴を切断された『スケアクロウ』は絨毯の上に転がった。ここでようやく、おれが突き飛ばされた水池氏と『絞める蛇』との間に割り込むことに成功する。
「なんだ!なんなんだこれは一体!?」
その疑問を発したくなる気持ちはよくわかるがとりあえず放置。
「蛇口を閉めろ!こいつは水があればあるほど強くなる!!」
おれの指示は、だが遅きに失した。すでに潜む必要がなくなったと判断したのか、『絞める蛇』はその身をぶるりと震わせる。
蛇口、とはよく言ったもので、はじけ飛んだそこから勢いよく水が噴出……せずに、そのまま蛇の尻尾へと変じてゆく。みるみる巨大になってゆく『絞める蛇』。最初はロープ程度の太さしかなかった胴体が、あっという間に人間の腕くらいの太さに成長し、体長はすでに十メートルを優に超える。
『絞める蛇』の頭がこちらを向く。そこに目や鼻などないのだが、おれはまさしく蛇に睨まれた蛙だった。とたん、『絞める蛇』はその胴体をくねらせ、おれと水池氏双方にしゅるしゅると巻き付いてくる。
透明な水の、ぞっとする冷たさ。その胴体は水のくせに異様な弾力と、そして圧力に富んでいた。消防用の放水ホースを使った事がある人なら、この感覚は理解できるかも知れない。
あいにくとこちとら生身の体である。こんなもので締め上げられて腸詰め肉ならぬ肉詰め腸になるのはごめんこうむる。
「水池さん!」
門宮さんの声が飛ぶ。見れば、長い胴体で締め上げたまま、音もなく『絞める蛇』の頭が水池氏の肩に噛みつこうとしていた。
「直樹!」
おれが叫ぶ前に、奴は動いていた。
「世話の焼ける!」
無愛想な呟きとともに、直樹が吸血鬼の膂力を解放し、蛇の胴体に遠慮ない蹴りをたたき込む。人外の力で蹴り飛ばされさすがに応えたか、おれと水池氏の拘束を解放する。
「大丈夫ですか!?」
「肩が、肩が!」
見ると、肩のあたりにうっすらと血がにじんでいる。傷は浅いようだが……噛まれたのか!?確認するまもなく、今度は蛇の頭がおれを狙って来た。
「――穿て。『紙飛行機』!」
そのタイミングを見計らって、門宮さんの呪が飛ぶ。鋭く折り上げられた紙片は一つの剛弓と化し、『絞める蛇』の頭部に深々と突きたった。だが。
「効いていない!?」
門宮さんの声にわずかに動揺が走る。突き刺さった紙飛行機は、だがそのまま水を吸って形を失い、奴の内部に取り込まれつつあった。
「こいつに内蔵や器官はありません!形状そのものを崩す攻撃を!」
おれは叫びつつ、腰を抜かした水池氏を壁際にひっぱる。くそ、重いなこのオッサン。引き続き直樹がその胴体を殴りつけ、蛇を退ける。『スケアクロウ』が倒れた今、唯一この蛇に力負けしていないのが直樹だ。だが、奴の冷気を発動するにはここは狭すぎる。どうする?
一瞬こちらを振り返った直樹と眼が合う。……了解。おれは壁沿いを走る。
今や二十畳の部屋全体を取り巻くほどの大きさに成長した水の蛇。それは海竜とも思える偉容だった。
壁際の水池氏と、それを庇う直樹達の前で、奴はうねうねと不気味に体をくねらせた。胴体は動かぬまま、頭部だけが右に回転し、結果その細長い蛇身はねじれ上がっていく。凄まじい圧力を、その内に蓄えながら。そしてそのいびつな身体のよじれが、限界まで達した時。
「伏せろっ!!」
直樹が叫ぶ。ねじり上げたゴム紐を解放する要領で、『絞める蛇』の身体が長さ十五メートルの巨大な鞭と化し、部屋中を縦横無尽に乱打した。圧倒的な水の質量と、解放された圧力による凄まじい速度が、純粋な凶器と化して室内を荒れ狂う。
巨大な爆竹に点火したような連続破裂音。デンマーク製のキャビネットが、冷蔵庫が、マホガニーのデスクが、ノートPCが。塵芥のように軽々と吹き飛び、空中で粉砕される光景はもはや悪夢としか思えなかった。
「――啄め。『鶴』!」
吹き荒れる水の嵐の隙を突いて門宮さんが攻撃。
おそらくは『紙飛行機』に並ぶ彼女の必殺の攻撃だったであろう折り鶴の吹雪は、だがいずれも『絞める蛇』の身体に弾かれ傷をつけることが出来ない。広範囲を補足する攻撃の代償として、一撃一撃の威力が低いのが裏目に出たのだ。わずかに舌打ちし、英語で呟く門宮さん。
『固けりゃいいってもんじゃないんですよこのポ○モン野郎』
……なんかちょっとスラングが混じったような気がするけど、気のせいだよね?(pocket monsterをポケ○ンと訳したおれは間違ってないよな?)ああきっと気のせいだ。
細長い体躯で胸板を貫いた『絞める蛇』はそのままの状態で、背中に抜けた上半分をスケアクロウの右腕に、胸板に埋まっている下半分をその腰に巻き付けた。次の瞬間、胸が悪くなるような光景が展開された。
けたたましい金属音が鳴り響く。『絞める蛇』が巻き付いた『スケアクロウ』の右腕を締め上げ、右腕と、支点となった胸の穴と腰とをいっぺんにねじ切ったのだ。
「…………!!」
悲鳴を上げることすら出来ず、右腕と胴を切断された『スケアクロウ』は絨毯の上に転がった。ここでようやく、おれが突き飛ばされた水池氏と『絞める蛇』との間に割り込むことに成功する。
「なんだ!なんなんだこれは一体!?」
その疑問を発したくなる気持ちはよくわかるがとりあえず放置。
「蛇口を閉めろ!こいつは水があればあるほど強くなる!!」
おれの指示は、だが遅きに失した。すでに潜む必要がなくなったと判断したのか、『絞める蛇』はその身をぶるりと震わせる。
蛇口、とはよく言ったもので、はじけ飛んだそこから勢いよく水が噴出……せずに、そのまま蛇の尻尾へと変じてゆく。みるみる巨大になってゆく『絞める蛇』。最初はロープ程度の太さしかなかった胴体が、あっという間に人間の腕くらいの太さに成長し、体長はすでに十メートルを優に超える。
『絞める蛇』の頭がこちらを向く。そこに目や鼻などないのだが、おれはまさしく蛇に睨まれた蛙だった。とたん、『絞める蛇』はその胴体をくねらせ、おれと水池氏双方にしゅるしゅると巻き付いてくる。
透明な水の、ぞっとする冷たさ。その胴体は水のくせに異様な弾力と、そして圧力に富んでいた。消防用の放水ホースを使った事がある人なら、この感覚は理解できるかも知れない。
あいにくとこちとら生身の体である。こんなもので締め上げられて腸詰め肉ならぬ肉詰め腸になるのはごめんこうむる。
「水池さん!」
門宮さんの声が飛ぶ。見れば、長い胴体で締め上げたまま、音もなく『絞める蛇』の頭が水池氏の肩に噛みつこうとしていた。
「直樹!」
おれが叫ぶ前に、奴は動いていた。
「世話の焼ける!」
無愛想な呟きとともに、直樹が吸血鬼の膂力を解放し、蛇の胴体に遠慮ない蹴りをたたき込む。人外の力で蹴り飛ばされさすがに応えたか、おれと水池氏の拘束を解放する。
「大丈夫ですか!?」
「肩が、肩が!」
見ると、肩のあたりにうっすらと血がにじんでいる。傷は浅いようだが……噛まれたのか!?確認するまもなく、今度は蛇の頭がおれを狙って来た。
「――穿て。『紙飛行機』!」
そのタイミングを見計らって、門宮さんの呪が飛ぶ。鋭く折り上げられた紙片は一つの剛弓と化し、『絞める蛇』の頭部に深々と突きたった。だが。
「効いていない!?」
門宮さんの声にわずかに動揺が走る。突き刺さった紙飛行機は、だがそのまま水を吸って形を失い、奴の内部に取り込まれつつあった。
「こいつに内蔵や器官はありません!形状そのものを崩す攻撃を!」
おれは叫びつつ、腰を抜かした水池氏を壁際にひっぱる。くそ、重いなこのオッサン。引き続き直樹がその胴体を殴りつけ、蛇を退ける。『スケアクロウ』が倒れた今、唯一この蛇に力負けしていないのが直樹だ。だが、奴の冷気を発動するにはここは狭すぎる。どうする?
一瞬こちらを振り返った直樹と眼が合う。……了解。おれは壁沿いを走る。
今や二十畳の部屋全体を取り巻くほどの大きさに成長した水の蛇。それは海竜とも思える偉容だった。
壁際の水池氏と、それを庇う直樹達の前で、奴はうねうねと不気味に体をくねらせた。胴体は動かぬまま、頭部だけが右に回転し、結果その細長い蛇身はねじれ上がっていく。凄まじい圧力を、その内に蓄えながら。そしてそのいびつな身体のよじれが、限界まで達した時。
「伏せろっ!!」
直樹が叫ぶ。ねじり上げたゴム紐を解放する要領で、『絞める蛇』の身体が長さ十五メートルの巨大な鞭と化し、部屋中を縦横無尽に乱打した。圧倒的な水の質量と、解放された圧力による凄まじい速度が、純粋な凶器と化して室内を荒れ狂う。
巨大な爆竹に点火したような連続破裂音。デンマーク製のキャビネットが、冷蔵庫が、マホガニーのデスクが、ノートPCが。塵芥のように軽々と吹き飛び、空中で粉砕される光景はもはや悪夢としか思えなかった。
「――啄め。『鶴』!」
吹き荒れる水の嵐の隙を突いて門宮さんが攻撃。
おそらくは『紙飛行機』に並ぶ彼女の必殺の攻撃だったであろう折り鶴の吹雪は、だがいずれも『絞める蛇』の身体に弾かれ傷をつけることが出来ない。広範囲を補足する攻撃の代償として、一撃一撃の威力が低いのが裏目に出たのだ。わずかに舌打ちし、英語で呟く門宮さん。
『固けりゃいいってもんじゃないんですよこのポ○モン野郎』
……なんかちょっとスラングが混じったような気がするけど、気のせいだよね?(pocket monsterをポケ○ンと訳したおれは間違ってないよな?)ああきっと気のせいだ。
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