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第5話:『六本木ストックホルダー』
◆05:魔人達、惨敗す-2
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株式会社ヨルムンガンド。
北欧神話に登場する、世界樹を取り囲む大蛇の名でもある。これを社名にを冠したのは、『世界をあまねくインターネットで囲う』事に由来するのだとか。二十一世紀初頭のネットワークの飛躍的な進歩、いわゆるIT革命の時流に乗って急成長を成し遂げたベンチャー企業である。
つい先日、東証一部に株式を上場し、その時価総額(……まあ、会社のパワーをお金に換算したものだと思ってくれ)はなんと千六百億円にも及ぶ。
そんな怪物会社の頂点に立つ社長、水池恭介は若干三十一歳。中学校を卒業と同時に渡米。アメリカで伝説の起業家、サイモン・ブラックストンについて経営を学び、その後日本に戻り数人の仲間と会社を立ち上げ、十年かからずに現在の規模まで押し上げた、まさに立志伝の人物である。
「サイモン・ブラックストン?」
「世紀の不動産王だよ。アメリカを中心に、世界中のオイシイ土地を買い占めてる。そこに建てたカジノやホテルの経営なんかもやってるな」
雑誌『フォーブス』に掲載される長者番付の常連でもある。同じくアメリカの大富豪、金融王にして海運王である『錬金術師』ゲオルグ・クレインと並んで、『海のゲオルグ、陸のサイモン』なんて呼び方もされているようだ。
「このゴルゴダ・ヒルズの土地の再開発にも二、三枚噛んでいるんだとよ」
「ほう。とにかくそんな成層圏の彼方の金持ちどもの話は気にしても仕方がないか」
「ま、そりゃそうだ。続けるぞ」
彼にいたく気に入られた水池氏は、サイモン氏を名義上の役員に据え、彼の援助をもとに仕事を始めたのだそうである。ただ優秀な経営者というだけでなく、積極的にマスコミの前に現れるのも大きな特徴だ。経済番組はおろか、最近はバラエティにまで顔を出し、『ITが全てを変える』『既存の企業では遅すぎる』『古いものを壊して何が悪い』『金でたいていの事は出来る』等など強気の発言を繰り返している。
三十一歳の若さ、エネルギッシュな性格、まあそこそこ見れる顔、そして何より巨額の個人資産と揃っては女にモテないはずもない。また、旧来のシステムを傲然と不要と切って捨てるその姿勢は、賛否両論を常に巻き起こしている。
テレビに何度も登場するうち、ついた異名は『ドラゴン水池』。ミズチが『蛟』を連想させる事から、昇り竜に例えた、んだそうで。
また、ネット上に自身のブログを設置し、そこからマスコミを通さずダイレクトに意見を発しており、そちらも様々な意味で大盛況。敵も味方も多い、アクの強い御仁。おれがマスメディアその他から得られるイメージはこんなところだった。
「アメリカに渡ってからは父親とは音信不通。露木恭一郎が水池恭介と名乗ったのは……ふむ、わざわざ改名手続きまでしているのか。『姓名判断でこのままでは不幸が訪れると告げられ、精神的安定を得る為に改名』――おいおい本当かこれは?」
おれが持ってきたイズモの資料をめくり、直樹が呟く。お互い何か飲み物でも欲しいところだが、生憎このエリアには缶コーヒーの自販機さえ無かった。
「テレビであんだけ強気の発言をしてるわけだし、まあウソだろうな。でもそういう理由なら、家庭裁判所も改名を認めてくれやすいらしいぜ。そうまでして父親に会いたくなかったってことかねぇ」
だからこそ露木甚一郎も、世間をさんざんに騒がせている水池恭介が自分の息子だと判らなかったのである。資料には水池、露木両氏の写真があったが、これも到底親子だとは思えないほど似ていなかった。
水池氏自身は渡米以後の経歴は大々的に宣伝しているが、それ以前の事については東京都出身、としか開示しておらず、出生は謎に包まれていた。かつては探ろうとした週刊誌やマスコミもあったようだが、何時の間にか騒がれなくなった。あるいは黙らされたのか。
「『この男を父親の前に連れてくる』か。イズモさんも随分無茶なミッションを投げてくれるよなあ」
おれはぼやいた。水池氏の出生を調べ上げる手腕はさすがイズモというところだが、彼らはあくまで『調査』会社なのである。もちろんイズモは、水池社長に父親である露木氏と会ってくれないかと打診しようとした。
だが、今水池氏は重要な企業買収の真っ最中だとかで、向こう一週間は誰ともアポイントを取るつもりはないとコメントを返した。
イズモが何度か粘り強く交渉したのだが、水池氏の考えは変わらず、それどころかボディーガードを雇ってイズモのメンバーを追い散らすという事までやりだしたらしい。しかし依頼人は依頼人で何としても会いたいと言って聞かない。
……板挟みで右往左往した後、彼らは次のような結論を出した。すなわち。『どうしようもない問題は、どうしようもない問題を扱う連中にやらせれば良い』。ナントカと人災派遣は使いよう、とは誰の言葉だったやら。
北欧神話に登場する、世界樹を取り囲む大蛇の名でもある。これを社名にを冠したのは、『世界をあまねくインターネットで囲う』事に由来するのだとか。二十一世紀初頭のネットワークの飛躍的な進歩、いわゆるIT革命の時流に乗って急成長を成し遂げたベンチャー企業である。
つい先日、東証一部に株式を上場し、その時価総額(……まあ、会社のパワーをお金に換算したものだと思ってくれ)はなんと千六百億円にも及ぶ。
そんな怪物会社の頂点に立つ社長、水池恭介は若干三十一歳。中学校を卒業と同時に渡米。アメリカで伝説の起業家、サイモン・ブラックストンについて経営を学び、その後日本に戻り数人の仲間と会社を立ち上げ、十年かからずに現在の規模まで押し上げた、まさに立志伝の人物である。
「サイモン・ブラックストン?」
「世紀の不動産王だよ。アメリカを中心に、世界中のオイシイ土地を買い占めてる。そこに建てたカジノやホテルの経営なんかもやってるな」
雑誌『フォーブス』に掲載される長者番付の常連でもある。同じくアメリカの大富豪、金融王にして海運王である『錬金術師』ゲオルグ・クレインと並んで、『海のゲオルグ、陸のサイモン』なんて呼び方もされているようだ。
「このゴルゴダ・ヒルズの土地の再開発にも二、三枚噛んでいるんだとよ」
「ほう。とにかくそんな成層圏の彼方の金持ちどもの話は気にしても仕方がないか」
「ま、そりゃそうだ。続けるぞ」
彼にいたく気に入られた水池氏は、サイモン氏を名義上の役員に据え、彼の援助をもとに仕事を始めたのだそうである。ただ優秀な経営者というだけでなく、積極的にマスコミの前に現れるのも大きな特徴だ。経済番組はおろか、最近はバラエティにまで顔を出し、『ITが全てを変える』『既存の企業では遅すぎる』『古いものを壊して何が悪い』『金でたいていの事は出来る』等など強気の発言を繰り返している。
三十一歳の若さ、エネルギッシュな性格、まあそこそこ見れる顔、そして何より巨額の個人資産と揃っては女にモテないはずもない。また、旧来のシステムを傲然と不要と切って捨てるその姿勢は、賛否両論を常に巻き起こしている。
テレビに何度も登場するうち、ついた異名は『ドラゴン水池』。ミズチが『蛟』を連想させる事から、昇り竜に例えた、んだそうで。
また、ネット上に自身のブログを設置し、そこからマスコミを通さずダイレクトに意見を発しており、そちらも様々な意味で大盛況。敵も味方も多い、アクの強い御仁。おれがマスメディアその他から得られるイメージはこんなところだった。
「アメリカに渡ってからは父親とは音信不通。露木恭一郎が水池恭介と名乗ったのは……ふむ、わざわざ改名手続きまでしているのか。『姓名判断でこのままでは不幸が訪れると告げられ、精神的安定を得る為に改名』――おいおい本当かこれは?」
おれが持ってきたイズモの資料をめくり、直樹が呟く。お互い何か飲み物でも欲しいところだが、生憎このエリアには缶コーヒーの自販機さえ無かった。
「テレビであんだけ強気の発言をしてるわけだし、まあウソだろうな。でもそういう理由なら、家庭裁判所も改名を認めてくれやすいらしいぜ。そうまでして父親に会いたくなかったってことかねぇ」
だからこそ露木甚一郎も、世間をさんざんに騒がせている水池恭介が自分の息子だと判らなかったのである。資料には水池、露木両氏の写真があったが、これも到底親子だとは思えないほど似ていなかった。
水池氏自身は渡米以後の経歴は大々的に宣伝しているが、それ以前の事については東京都出身、としか開示しておらず、出生は謎に包まれていた。かつては探ろうとした週刊誌やマスコミもあったようだが、何時の間にか騒がれなくなった。あるいは黙らされたのか。
「『この男を父親の前に連れてくる』か。イズモさんも随分無茶なミッションを投げてくれるよなあ」
おれはぼやいた。水池氏の出生を調べ上げる手腕はさすがイズモというところだが、彼らはあくまで『調査』会社なのである。もちろんイズモは、水池社長に父親である露木氏と会ってくれないかと打診しようとした。
だが、今水池氏は重要な企業買収の真っ最中だとかで、向こう一週間は誰ともアポイントを取るつもりはないとコメントを返した。
イズモが何度か粘り強く交渉したのだが、水池氏の考えは変わらず、それどころかボディーガードを雇ってイズモのメンバーを追い散らすという事までやりだしたらしい。しかし依頼人は依頼人で何としても会いたいと言って聞かない。
……板挟みで右往左往した後、彼らは次のような結論を出した。すなわち。『どうしようもない問題は、どうしようもない問題を扱う連中にやらせれば良い』。ナントカと人災派遣は使いよう、とは誰の言葉だったやら。
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