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第4話:『不実在オークショナー』
◆10:一人では-2
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自分に向けられた眩いライトを認識した瞬間、七瀬真凛は自分の失敗を悟った。撮影モードにしていた『アル話ルド君ライトエディション』をナップザックに放り込みつつ、猛然とダンボールと壁の隙間を疾走する。
ここまでで一挙動。呼吸を整え、自身を戦闘態勢へと切り変えてゆく。その行く手に立ち塞がる二人の『狂蛇』構成員。作業着の内ポケットから銃を引き抜こうとしている。
「遅いっ!」
二人の中間を一気に駆け抜けた。すれ違い様に左右の手刀をそれぞれの右手首に叩きこみ、銃を叩き落している。片方は既にセーフティーが外れていたらしく、地面に落ちた拍子に弾丸が撃ち出された。倉庫の鉄骨に当たり、火花と金属音の残響を撒き散らす。
作業に当たっていた密入国者達が悲鳴を上げて一斉に浮き足立ち、乏しい明かりの中、たちまち倉庫内はパニックの坩堝と化した。その隙に真凛は一気に倉庫出口、正門側の通用口まで駆けよる。だが、まざに真凛が手を触れようとしたそのタイミングで、がしゃんと音を立ててドアの防犯用オートロックがかかった。
「う、嘘?」
「一人でここまで入り込んでくる度胸は見上げたものですが」
その背後からかけられる、穏やかな声。遠隔サイコメトリーの使い手『定点観測者』鯨井和磨。だが真凛はその名も、己が触れていたドアに彼の『受信器』が焼き付けてあった事も、知る由は無い。
「所詮それだけです。最初から監視されていた事にも気づけないような半熟者には」
鯨井の指がリモコンを押す直前、真凛の脳裏に突如、危険な『円錐』が浮かぶ。銃弾の弾道を予測しうる彼女の能力は、前方の鯨井の挙動から、彼が仕掛けようとしている攻撃の範囲を瞬時に読み取った。
「警告を無視した報いを与えねばなりません」
「……!!」
全力で横に飛ぶ。途端、ドアの上方に仕掛けられた指向性の地雷が起動し、真凛に向けて超高速のゴム弾のシャワーを撒き散らした。銃弾なら避けきれる娘も、広範囲をカバーする攻撃の不意打ちは完全には避け切れない。右足にゴム弾が数発被弾する。
「ぅくっ!」
ゴム弾が周囲にはじけ、ダンボールを引き裂き鉄骨にぶち当たる。民間の建造物の屋内で地雷を作動させるなど正気の沙汰ではないが、物質の情報を読み取る『定点観測者』の能力を使用すれば、最大の効果範囲を引き出しつつ、建物への被害を最小に留める事は造作も無い。
間髪いれずリモコンのボタンを次々と押していく。壁際にしかけられた幾つもの地雷。真凛の視界に、次々にレッドゾーンが形勢されていく。
「でやああああああっ!!」
右足のダメージを無視して一気に疾走。炸裂するゴム弾のシャワーを紙一重で追い抜いてゆく。だが、走り続けている以上、前方にしか進む事は許されない。そして、その行きつく先は。
「はっはははは。いいぞ『定点観測者』。前座の余興としてはなかなか面白い」
裏門、トラックの搬出口に待ち構える『毒竜』の巣だった。
ここまでで一挙動。呼吸を整え、自身を戦闘態勢へと切り変えてゆく。その行く手に立ち塞がる二人の『狂蛇』構成員。作業着の内ポケットから銃を引き抜こうとしている。
「遅いっ!」
二人の中間を一気に駆け抜けた。すれ違い様に左右の手刀をそれぞれの右手首に叩きこみ、銃を叩き落している。片方は既にセーフティーが外れていたらしく、地面に落ちた拍子に弾丸が撃ち出された。倉庫の鉄骨に当たり、火花と金属音の残響を撒き散らす。
作業に当たっていた密入国者達が悲鳴を上げて一斉に浮き足立ち、乏しい明かりの中、たちまち倉庫内はパニックの坩堝と化した。その隙に真凛は一気に倉庫出口、正門側の通用口まで駆けよる。だが、まざに真凛が手を触れようとしたそのタイミングで、がしゃんと音を立ててドアの防犯用オートロックがかかった。
「う、嘘?」
「一人でここまで入り込んでくる度胸は見上げたものですが」
その背後からかけられる、穏やかな声。遠隔サイコメトリーの使い手『定点観測者』鯨井和磨。だが真凛はその名も、己が触れていたドアに彼の『受信器』が焼き付けてあった事も、知る由は無い。
「所詮それだけです。最初から監視されていた事にも気づけないような半熟者には」
鯨井の指がリモコンを押す直前、真凛の脳裏に突如、危険な『円錐』が浮かぶ。銃弾の弾道を予測しうる彼女の能力は、前方の鯨井の挙動から、彼が仕掛けようとしている攻撃の範囲を瞬時に読み取った。
「警告を無視した報いを与えねばなりません」
「……!!」
全力で横に飛ぶ。途端、ドアの上方に仕掛けられた指向性の地雷が起動し、真凛に向けて超高速のゴム弾のシャワーを撒き散らした。銃弾なら避けきれる娘も、広範囲をカバーする攻撃の不意打ちは完全には避け切れない。右足にゴム弾が数発被弾する。
「ぅくっ!」
ゴム弾が周囲にはじけ、ダンボールを引き裂き鉄骨にぶち当たる。民間の建造物の屋内で地雷を作動させるなど正気の沙汰ではないが、物質の情報を読み取る『定点観測者』の能力を使用すれば、最大の効果範囲を引き出しつつ、建物への被害を最小に留める事は造作も無い。
間髪いれずリモコンのボタンを次々と押していく。壁際にしかけられた幾つもの地雷。真凛の視界に、次々にレッドゾーンが形勢されていく。
「でやああああああっ!!」
右足のダメージを無視して一気に疾走。炸裂するゴム弾のシャワーを紙一重で追い抜いてゆく。だが、走り続けている以上、前方にしか進む事は許されない。そして、その行きつく先は。
「はっはははは。いいぞ『定点観測者』。前座の余興としてはなかなか面白い」
裏門、トラックの搬出口に待ち構える『毒竜』の巣だった。
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