126 / 368
第4話:『不実在オークショナー』
◆08:作戦会議(その1)-2
しおりを挟む
「あ、ええー。須江貞さんは、ちゃんと話を聞いてくれます。いつも。でも、私の説明が下手でいつも御迷惑をおかけして、そのう」
いつでも落ち着いた雰囲気の来音さんが取り乱すのは須江貞さん関係の会話の時である。ちなみに須江貞さんとは、うちの正規スタッフで、仁サンのさらに上に位置する、いわば実働部隊の元締めである。
普段はおれ達同様、一、二人で仕事に当たっているが、うちの総力を結集するときは、須江貞さんの指揮の下に仁サンやおれ、直樹が入る事になる。ま、よほどの事がない限りそんな事態はありえないんだけど。おれの表情を見て、からかわれたと気づいた来音さんは顔を赤くする。
「もう!陽司さんからかわないでください。ほら、続けますよっ。……十年ほど前まで『狂蛇』の主な資金源は偽ブランド品の輸出が主でした」
照れ隠しにアイスティーのグラスをくるくると回転させる来音さん。ってあれ?注いであったのはファンタオレンジじゃなかったか?……まあ、多分おれの勘違いだろう。
スクラップブックに貼り付けられた記事を見ると、確かに『偽ブランド品またも店舗で発見される』、『貨物船倉庫から偽ブランド』などの文面が踊っている。ちなみにこのスクラップブックと言うのは以外とバカに出来ない。一つの対象に絞って記事を集めてみると、その対象についての全体的な流れが、まるで物語のように浮かび上がってくることがよくあるのだ。
「しかし……ああ、ここ数年は、摘発された記事の方が多いですね。警察と税関が頑張ったんだろうなあ」
一時期、日本に紛れ込んだとんでもない輸入品を追跡する為に、税関の皆さんと一緒に仕事をしたことがあるのだが、現場で働く人は、皆使命感に燃えた真面目な人だった。
「はい。その分、彼等は密入国、いえ、人身売買の方に基盤を移していくようになりました。以後この流れは変わらず、現在まで到ります」
そういうことか。おれはパソコンでエクセルを立ちあげると、簡単な計算表をつくった。
「ところが、最近異様に安くて、どう考えても本物としか思えないプルトンのブランド品が大量に出回っている。ミサギ・トレーティングを経由して、ナガツマ倉庫にストックしたバッグを捌いているその黒幕がもし『狂蛇』だとすると」
「今までミサギ・トレーディングが出品したブランド品の数は、わかっているだけで三千点です」
「三千ですか!そりゃまた短期間の間にずいぶん手広く捌いたもんですね。いろいろバッグの種類があるけど平均して八万円として。一個当たり六万円の粗利が出るとすれば……」
PCに数字を埋めていく。
「一億八千万円の利益。さらに取引が拡大していけば、利益は倍々で増えていくでしょう」
「『狂蛇』にとっては、今後密入国の手引きよりもオイシイ話、になるかも知れないわけですね」
「ダミーとは言え、現にミサギ・トレーディングという実体がある会社を作っているということは、彼等も本腰を入れていると考えて良いと思います」
それだけの金の卵であれば、何としても守りぬこうとするだろう。『狂蛇』なら海鋼馬とはツーカーの仲だ。かくして『毒竜』と、『定点観測者』鯨井さんがあそこにやってきた、という事か。
「しかし。こうなると、例のバッグが本物である可能性は限りなく低いと言わざるを得ませんね。本物であればどう足掻いてもあの価格で利益が出せるはずがない。盗難品だとしても、三千点も盗まれて何も情報があがってこないなんて事も考えられない」
「では、導き出される疑問点は、どこでどうやって偽物を製造しているか、ですねえ」
来音さんが形のよい眉をひそめて腕を組む。
おれはドリンクバーにグラスを持っていってオレンジジュースを注ぐ。その後ろでいつのまにか烏龍茶のグラスを空にしている来音サンナンテ見エルワケナイヨ。
いつでも落ち着いた雰囲気の来音さんが取り乱すのは須江貞さん関係の会話の時である。ちなみに須江貞さんとは、うちの正規スタッフで、仁サンのさらに上に位置する、いわば実働部隊の元締めである。
普段はおれ達同様、一、二人で仕事に当たっているが、うちの総力を結集するときは、須江貞さんの指揮の下に仁サンやおれ、直樹が入る事になる。ま、よほどの事がない限りそんな事態はありえないんだけど。おれの表情を見て、からかわれたと気づいた来音さんは顔を赤くする。
「もう!陽司さんからかわないでください。ほら、続けますよっ。……十年ほど前まで『狂蛇』の主な資金源は偽ブランド品の輸出が主でした」
照れ隠しにアイスティーのグラスをくるくると回転させる来音さん。ってあれ?注いであったのはファンタオレンジじゃなかったか?……まあ、多分おれの勘違いだろう。
スクラップブックに貼り付けられた記事を見ると、確かに『偽ブランド品またも店舗で発見される』、『貨物船倉庫から偽ブランド』などの文面が踊っている。ちなみにこのスクラップブックと言うのは以外とバカに出来ない。一つの対象に絞って記事を集めてみると、その対象についての全体的な流れが、まるで物語のように浮かび上がってくることがよくあるのだ。
「しかし……ああ、ここ数年は、摘発された記事の方が多いですね。警察と税関が頑張ったんだろうなあ」
一時期、日本に紛れ込んだとんでもない輸入品を追跡する為に、税関の皆さんと一緒に仕事をしたことがあるのだが、現場で働く人は、皆使命感に燃えた真面目な人だった。
「はい。その分、彼等は密入国、いえ、人身売買の方に基盤を移していくようになりました。以後この流れは変わらず、現在まで到ります」
そういうことか。おれはパソコンでエクセルを立ちあげると、簡単な計算表をつくった。
「ところが、最近異様に安くて、どう考えても本物としか思えないプルトンのブランド品が大量に出回っている。ミサギ・トレーティングを経由して、ナガツマ倉庫にストックしたバッグを捌いているその黒幕がもし『狂蛇』だとすると」
「今までミサギ・トレーディングが出品したブランド品の数は、わかっているだけで三千点です」
「三千ですか!そりゃまた短期間の間にずいぶん手広く捌いたもんですね。いろいろバッグの種類があるけど平均して八万円として。一個当たり六万円の粗利が出るとすれば……」
PCに数字を埋めていく。
「一億八千万円の利益。さらに取引が拡大していけば、利益は倍々で増えていくでしょう」
「『狂蛇』にとっては、今後密入国の手引きよりもオイシイ話、になるかも知れないわけですね」
「ダミーとは言え、現にミサギ・トレーディングという実体がある会社を作っているということは、彼等も本腰を入れていると考えて良いと思います」
それだけの金の卵であれば、何としても守りぬこうとするだろう。『狂蛇』なら海鋼馬とはツーカーの仲だ。かくして『毒竜』と、『定点観測者』鯨井さんがあそこにやってきた、という事か。
「しかし。こうなると、例のバッグが本物である可能性は限りなく低いと言わざるを得ませんね。本物であればどう足掻いてもあの価格で利益が出せるはずがない。盗難品だとしても、三千点も盗まれて何も情報があがってこないなんて事も考えられない」
「では、導き出される疑問点は、どこでどうやって偽物を製造しているか、ですねえ」
来音さんが形のよい眉をひそめて腕を組む。
おれはドリンクバーにグラスを持っていってオレンジジュースを注ぐ。その後ろでいつのまにか烏龍茶のグラスを空にしている来音サンナンテ見エルワケナイヨ。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。


『五十年目の理解』
小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる