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第4話:『不実在オークショナー』
◆05:隠された在庫−2
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「え、えーと、ボク達は……」
「ワタクシども、空調システムの『ダイカネ』の者です」
真凛を遮っておれは前に出る。
「空調システムの会社の人間がここに何の用だ」
「ええ、ワタクシども、かねがねこちらの倉庫にぜひ我が社の空調設備を導入して頂きたいと思っておりまして、はい。この度一度現場を見せて貰おうと思った次第です、はい」
営業スマイル第二弾。
「俺はそんな連絡は受けとらんぞ」
効果は期待できない模様。
「はい。不躾とは思いましたが、この度御社の営業様に飛び込みで訪問させて頂きまして、はい。二時間ほどお話しさせて頂いたところ、じゃあ現場でも見てくれば、との言葉を頂いたのものですから、はい」
反射的に嘘がつける自分が時々怖い。これなら、飛び込んできた押し売り紛いの販売員を、営業部が体よく都合をつけて倉庫に追い払ったように見えなくも無い。果たしてこのハッタリ、通用するかどうか。
「……押し売りの類か。あまり仕事の邪魔をするなよ」
「押し売りなど、とんでもないですう、はい」
実はもっとロクでもないんです、ハイ。……もうちょっと踏み込んでみるか。
「こちらではどのような品物をお預かりされているんでしょう。温度や湿気の管理が必要なものなら、ぜひともワタクシどもの……」
おじさんは鬱陶しそうに手を振った。
「ここと、隣の倉庫で扱ってるのは菓子と玩具、台所用品。どれも古くからのお得意さんの品物だ。空調が必要なものはない」
ここと、隣の、ねぇ。
「では、一番東の倉庫は?」
「お前さん、何者だ?」
「ですから『ダイカネ』の営業の……」
「そんな胡散臭い営業がいるか」
手厳しいお言葉。……まずったかな。
「……まあいい。東倉庫はな、貸し出し中なんだよ」
「貸し出し中?」
「ウチもいよいよ首が周らなくなってきた。融資と引き換えによくわからん連中に貸し出ししているらしい。余計な詮索はするな、とな」
「よくわからん連中に、って。そんなのが隣に居たら仕事にならないじゃないですか」
おじさんは皮肉っぽく笑った。
「仕事なんて最近あって無きが如しだ。フォークも錆びついちまってるよ。連中は裏門から二十四時間出入りしている。役員連中が自由に使わせる許可を出したんだ」
「それはどうも……。貴重なお話をありがとうございました」
「もう一つ」
「はい?」
「連中、相当タチが悪い。くれぐれも気をつけてな」
……バレてますなあ、これ。
「御忠告感謝いたします。いくぞ、真凛」
「あ、うん。じゃあ、ありがとうございましたっ」
「怪しいところ、無し……と」
念のため、真ん中の倉庫も調べて見たが、これも特に不審な点はなし。となると、怪しいのは東倉庫という事になるわけだが。
「こっからはなるべく気配を消せ。お前、そーいうのそれなりに得意だろ」
「仁サンと一緒にしないで欲しいなあ。一挙手一投足の動きは消せても、気配を消すのはまた別の話なのに」
ぶつぶつ言いながらも真凛は忍び足に切りかえる。何のかんの言ってもそこは武道家、重心を制御してほとんど足音を立てない。おれは頷くと、何気なさそうな挙動で東倉庫に近づいていった。ざっと見回したところ、見張りの類は無し。おれは腹を決めた。
「行くぞ」
「うん」
トラックが出入りする巨大なシャッターの隣の通用扉を開けて中へ。他の二つの倉庫と比べると、照明の類は一応点いているものの、視界が悪いことこの上ない。
「……嫌な臭いだな」
視界が悪い理由はすぐに判明した。体育館ほどの大きさの倉庫の中に、プレハブ小屋の壁のような仕切りがいくつも立てられ、小さな部屋に分割されていたせいだった。
「ビンゴだぜ、どうやら」
おれは目の前に作りつけられたスチール棚を見上げる。そこには、ビニール袋でぞんざいに包まれたプルトンのバッグが、壁一面にずらりと並べられている。
「ワタクシども、空調システムの『ダイカネ』の者です」
真凛を遮っておれは前に出る。
「空調システムの会社の人間がここに何の用だ」
「ええ、ワタクシども、かねがねこちらの倉庫にぜひ我が社の空調設備を導入して頂きたいと思っておりまして、はい。この度一度現場を見せて貰おうと思った次第です、はい」
営業スマイル第二弾。
「俺はそんな連絡は受けとらんぞ」
効果は期待できない模様。
「はい。不躾とは思いましたが、この度御社の営業様に飛び込みで訪問させて頂きまして、はい。二時間ほどお話しさせて頂いたところ、じゃあ現場でも見てくれば、との言葉を頂いたのものですから、はい」
反射的に嘘がつける自分が時々怖い。これなら、飛び込んできた押し売り紛いの販売員を、営業部が体よく都合をつけて倉庫に追い払ったように見えなくも無い。果たしてこのハッタリ、通用するかどうか。
「……押し売りの類か。あまり仕事の邪魔をするなよ」
「押し売りなど、とんでもないですう、はい」
実はもっとロクでもないんです、ハイ。……もうちょっと踏み込んでみるか。
「こちらではどのような品物をお預かりされているんでしょう。温度や湿気の管理が必要なものなら、ぜひともワタクシどもの……」
おじさんは鬱陶しそうに手を振った。
「ここと、隣の倉庫で扱ってるのは菓子と玩具、台所用品。どれも古くからのお得意さんの品物だ。空調が必要なものはない」
ここと、隣の、ねぇ。
「では、一番東の倉庫は?」
「お前さん、何者だ?」
「ですから『ダイカネ』の営業の……」
「そんな胡散臭い営業がいるか」
手厳しいお言葉。……まずったかな。
「……まあいい。東倉庫はな、貸し出し中なんだよ」
「貸し出し中?」
「ウチもいよいよ首が周らなくなってきた。融資と引き換えによくわからん連中に貸し出ししているらしい。余計な詮索はするな、とな」
「よくわからん連中に、って。そんなのが隣に居たら仕事にならないじゃないですか」
おじさんは皮肉っぽく笑った。
「仕事なんて最近あって無きが如しだ。フォークも錆びついちまってるよ。連中は裏門から二十四時間出入りしている。役員連中が自由に使わせる許可を出したんだ」
「それはどうも……。貴重なお話をありがとうございました」
「もう一つ」
「はい?」
「連中、相当タチが悪い。くれぐれも気をつけてな」
……バレてますなあ、これ。
「御忠告感謝いたします。いくぞ、真凛」
「あ、うん。じゃあ、ありがとうございましたっ」
「怪しいところ、無し……と」
念のため、真ん中の倉庫も調べて見たが、これも特に不審な点はなし。となると、怪しいのは東倉庫という事になるわけだが。
「こっからはなるべく気配を消せ。お前、そーいうのそれなりに得意だろ」
「仁サンと一緒にしないで欲しいなあ。一挙手一投足の動きは消せても、気配を消すのはまた別の話なのに」
ぶつぶつ言いながらも真凛は忍び足に切りかえる。何のかんの言ってもそこは武道家、重心を制御してほとんど足音を立てない。おれは頷くと、何気なさそうな挙動で東倉庫に近づいていった。ざっと見回したところ、見張りの類は無し。おれは腹を決めた。
「行くぞ」
「うん」
トラックが出入りする巨大なシャッターの隣の通用扉を開けて中へ。他の二つの倉庫と比べると、照明の類は一応点いているものの、視界が悪いことこの上ない。
「……嫌な臭いだな」
視界が悪い理由はすぐに判明した。体育館ほどの大きさの倉庫の中に、プレハブ小屋の壁のような仕切りがいくつも立てられ、小さな部屋に分割されていたせいだった。
「ビンゴだぜ、どうやら」
おれは目の前に作りつけられたスチール棚を見上げる。そこには、ビニール袋でぞんざいに包まれたプルトンのバッグが、壁一面にずらりと並べられている。
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