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第4話:『不実在オークショナー』
◆05:隠された在庫−1
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一旦池袋から高田馬場の事務所まで戻り、ライトバンを引っ張り出して早稲田通りを東へ。渋滞に悩まされつつ皇居をかすめ山手線を潜り、隅田川へと辿り着いたら浅草方面へ川沿いに北上。すると、昔ながらの住宅街と古めかしい工場が混在する街並みが姿を現す。ちなみに運転中真凛がまた何か言っていたが無視。
「こんな天気のいい日曜の午後だったら、浅草で人形焼でも食い歩きしながらのんびりしたいところなんだがなあ」
おれはぶつぶつと文句を言いながらバンをコインパークに停車する。来音さんに調べて貰った『ナガツマ倉庫』の住所をカーナビに打ち込みここまでやってきたのだ。バンの中でとりあえず作戦会議。
「そこの角から見えるのがナガツマ倉庫、だが……」
「何だかとっても雰囲気が……」
「貧乏臭いなあ」
隣でまだ青い顔をしたままの真凛が頷く。高いブロック塀で囲まれた、小学校とグランドを併せた程度の敷地の中に、巨大な倉庫が三つ建っている。だが、いずれも窓ガラスにヒビが入っていたり壁が煤けていたりで、あまり使われているようには思えない。
「来音さん情報によれば、ナガツマ倉庫の経営は決して良くないらしい」
もっともこれはナガツマ倉庫に限った事ではない。近頃のビジネスの基本は、「なるべく在庫を作らない」だ。欲しいときに欲しいだけ手に入れるのが当たり前。使わないものを大量に保管しておくのは無駄なコストがかさむだけ、という考えである。
こうなると、倉庫業の役目は薄くなってしまう。冷凍設備に特化したり、物流センターとして生まれ変われなかった倉庫会社はみな次々と規模を縮小したり、あるいはお台場や臨海副都心のように、埋立地の再開発計画に合わせ土地を売却したりしているのだ。
「ナガツマはこのいずれの道も選べないまま、景気悪化の一途を辿っていたらしい。んで、昨年とうとうスジのよろしくない金融会社から資本を借り入れるまでになっちまったと」
おれは来音さんが送ってくれたエクセルシートを『アル話ルド君』で表示しつつ解説する。
「まだまだ来音さんに調べて貰っているけどな。おれ達はおれ達で情報を集めていかないと」
「どうやって?」
おれはザックを叩いた。
「名案ってのはな、使いまわせるからこそ名案なのさ」
先ほどまでの変装に加えて、野暮ったいジャンパーを着込むと、とりあえずは業者っぽく見えなくもない。門を通ったのだが、守衛さんは席を外しているのか、そもそも配置されてないのか、不在だった。こちらが不安になるほど易々と敷地内に侵入すると、おれは傍らの、同様に帽子をかぶったちっちゃいのに声をかけた。
「倉庫は三つ。とりあえず西側から順番に探っていくぞ」
「う、うん。わかった」
もちろん、真凛である。
「……もしかして緊張してるのか?」
「ま、まさか!そんな事あるわけないよ」
「そーいや、お前は侵入作戦ならともかく、変装ははじめてだったっけかな」
おれはとりあえず何食わぬ顔で一番西側の倉庫に近づいた。現場のおっちゃんが何人かと、そしてフォークリフトが二台ほど走り回っているのだが、今ひとつ活気が無い。倉庫の中に躊躇わず入ってゆくと、真凛も遅れてついてきた。
ふむ。いわゆるコンピューター操作の自動倉庫ではない。ごく一般的な、フォークリフトで荷物を上げ下ろしするタイプの倉庫だ。荷物のほとんどがダンボール箱。箱にプリントされているのは、ちょっとマイナーなお菓子のロゴだった。
「うわ、こんなのおれが子供の頃に駄菓子屋で売ってたやつだぜ……」
「ダガシって何?」
「……お前それ、ギャグで言ってるんだよな?」
他にも玩具、台所用スポンジやタワシ等のロゴがプリントされているダンボールが幾つか積み上げられていた。ちゃんと在庫捌けてるのかなあ、こういうの。おれ達は手持ちのバインダーを開き、適当に確認して書き込みする振りをしながらダンボールの中身をチェックして周った。と、唐突に背後から声をかけられる。
「おい、兄ちゃん達ここで何やっとんだ」
反射的に飛び上がる真凛。だからビビるなっつーの。おれは落ち着いて振り返る。”ナガツマ倉庫”と刺繍の入った作業服を来た、年季のいったおじさんが一人、おれを見据えていた。
「こんな天気のいい日曜の午後だったら、浅草で人形焼でも食い歩きしながらのんびりしたいところなんだがなあ」
おれはぶつぶつと文句を言いながらバンをコインパークに停車する。来音さんに調べて貰った『ナガツマ倉庫』の住所をカーナビに打ち込みここまでやってきたのだ。バンの中でとりあえず作戦会議。
「そこの角から見えるのがナガツマ倉庫、だが……」
「何だかとっても雰囲気が……」
「貧乏臭いなあ」
隣でまだ青い顔をしたままの真凛が頷く。高いブロック塀で囲まれた、小学校とグランドを併せた程度の敷地の中に、巨大な倉庫が三つ建っている。だが、いずれも窓ガラスにヒビが入っていたり壁が煤けていたりで、あまり使われているようには思えない。
「来音さん情報によれば、ナガツマ倉庫の経営は決して良くないらしい」
もっともこれはナガツマ倉庫に限った事ではない。近頃のビジネスの基本は、「なるべく在庫を作らない」だ。欲しいときに欲しいだけ手に入れるのが当たり前。使わないものを大量に保管しておくのは無駄なコストがかさむだけ、という考えである。
こうなると、倉庫業の役目は薄くなってしまう。冷凍設備に特化したり、物流センターとして生まれ変われなかった倉庫会社はみな次々と規模を縮小したり、あるいはお台場や臨海副都心のように、埋立地の再開発計画に合わせ土地を売却したりしているのだ。
「ナガツマはこのいずれの道も選べないまま、景気悪化の一途を辿っていたらしい。んで、昨年とうとうスジのよろしくない金融会社から資本を借り入れるまでになっちまったと」
おれは来音さんが送ってくれたエクセルシートを『アル話ルド君』で表示しつつ解説する。
「まだまだ来音さんに調べて貰っているけどな。おれ達はおれ達で情報を集めていかないと」
「どうやって?」
おれはザックを叩いた。
「名案ってのはな、使いまわせるからこそ名案なのさ」
先ほどまでの変装に加えて、野暮ったいジャンパーを着込むと、とりあえずは業者っぽく見えなくもない。門を通ったのだが、守衛さんは席を外しているのか、そもそも配置されてないのか、不在だった。こちらが不安になるほど易々と敷地内に侵入すると、おれは傍らの、同様に帽子をかぶったちっちゃいのに声をかけた。
「倉庫は三つ。とりあえず西側から順番に探っていくぞ」
「う、うん。わかった」
もちろん、真凛である。
「……もしかして緊張してるのか?」
「ま、まさか!そんな事あるわけないよ」
「そーいや、お前は侵入作戦ならともかく、変装ははじめてだったっけかな」
おれはとりあえず何食わぬ顔で一番西側の倉庫に近づいた。現場のおっちゃんが何人かと、そしてフォークリフトが二台ほど走り回っているのだが、今ひとつ活気が無い。倉庫の中に躊躇わず入ってゆくと、真凛も遅れてついてきた。
ふむ。いわゆるコンピューター操作の自動倉庫ではない。ごく一般的な、フォークリフトで荷物を上げ下ろしするタイプの倉庫だ。荷物のほとんどがダンボール箱。箱にプリントされているのは、ちょっとマイナーなお菓子のロゴだった。
「うわ、こんなのおれが子供の頃に駄菓子屋で売ってたやつだぜ……」
「ダガシって何?」
「……お前それ、ギャグで言ってるんだよな?」
他にも玩具、台所用スポンジやタワシ等のロゴがプリントされているダンボールが幾つか積み上げられていた。ちゃんと在庫捌けてるのかなあ、こういうの。おれ達は手持ちのバインダーを開き、適当に確認して書き込みする振りをしながらダンボールの中身をチェックして周った。と、唐突に背後から声をかけられる。
「おい、兄ちゃん達ここで何やっとんだ」
反射的に飛び上がる真凛。だからビビるなっつーの。おれは落ち着いて振り返る。”ナガツマ倉庫”と刺繍の入った作業服を来た、年季のいったおじさんが一人、おれを見据えていた。
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