118 / 368
第4話:『不実在オークショナー』
◆05:隠された在庫−1
しおりを挟む
一旦池袋から高田馬場の事務所まで戻り、ライトバンを引っ張り出して早稲田通りを東へ。渋滞に悩まされつつ皇居をかすめ山手線を潜り、隅田川へと辿り着いたら浅草方面へ川沿いに北上。すると、昔ながらの住宅街と古めかしい工場が混在する街並みが姿を現す。ちなみに運転中真凛がまた何か言っていたが無視。
「こんな天気のいい日曜の午後だったら、浅草で人形焼でも食い歩きしながらのんびりしたいところなんだがなあ」
おれはぶつぶつと文句を言いながらバンをコインパークに停車する。来音さんに調べて貰った『ナガツマ倉庫』の住所をカーナビに打ち込みここまでやってきたのだ。バンの中でとりあえず作戦会議。
「そこの角から見えるのがナガツマ倉庫、だが……」
「何だかとっても雰囲気が……」
「貧乏臭いなあ」
隣でまだ青い顔をしたままの真凛が頷く。高いブロック塀で囲まれた、小学校とグランドを併せた程度の敷地の中に、巨大な倉庫が三つ建っている。だが、いずれも窓ガラスにヒビが入っていたり壁が煤けていたりで、あまり使われているようには思えない。
「来音さん情報によれば、ナガツマ倉庫の経営は決して良くないらしい」
もっともこれはナガツマ倉庫に限った事ではない。近頃のビジネスの基本は、「なるべく在庫を作らない」だ。欲しいときに欲しいだけ手に入れるのが当たり前。使わないものを大量に保管しておくのは無駄なコストがかさむだけ、という考えである。
こうなると、倉庫業の役目は薄くなってしまう。冷凍設備に特化したり、物流センターとして生まれ変われなかった倉庫会社はみな次々と規模を縮小したり、あるいはお台場や臨海副都心のように、埋立地の再開発計画に合わせ土地を売却したりしているのだ。
「ナガツマはこのいずれの道も選べないまま、景気悪化の一途を辿っていたらしい。んで、昨年とうとうスジのよろしくない金融会社から資本を借り入れるまでになっちまったと」
おれは来音さんが送ってくれたエクセルシートを『アル話ルド君』で表示しつつ解説する。
「まだまだ来音さんに調べて貰っているけどな。おれ達はおれ達で情報を集めていかないと」
「どうやって?」
おれはザックを叩いた。
「名案ってのはな、使いまわせるからこそ名案なのさ」
先ほどまでの変装に加えて、野暮ったいジャンパーを着込むと、とりあえずは業者っぽく見えなくもない。門を通ったのだが、守衛さんは席を外しているのか、そもそも配置されてないのか、不在だった。こちらが不安になるほど易々と敷地内に侵入すると、おれは傍らの、同様に帽子をかぶったちっちゃいのに声をかけた。
「倉庫は三つ。とりあえず西側から順番に探っていくぞ」
「う、うん。わかった」
もちろん、真凛である。
「……もしかして緊張してるのか?」
「ま、まさか!そんな事あるわけないよ」
「そーいや、お前は侵入作戦ならともかく、変装ははじめてだったっけかな」
おれはとりあえず何食わぬ顔で一番西側の倉庫に近づいた。現場のおっちゃんが何人かと、そしてフォークリフトが二台ほど走り回っているのだが、今ひとつ活気が無い。倉庫の中に躊躇わず入ってゆくと、真凛も遅れてついてきた。
ふむ。いわゆるコンピューター操作の自動倉庫ではない。ごく一般的な、フォークリフトで荷物を上げ下ろしするタイプの倉庫だ。荷物のほとんどがダンボール箱。箱にプリントされているのは、ちょっとマイナーなお菓子のロゴだった。
「うわ、こんなのおれが子供の頃に駄菓子屋で売ってたやつだぜ……」
「ダガシって何?」
「……お前それ、ギャグで言ってるんだよな?」
他にも玩具、台所用スポンジやタワシ等のロゴがプリントされているダンボールが幾つか積み上げられていた。ちゃんと在庫捌けてるのかなあ、こういうの。おれ達は手持ちのバインダーを開き、適当に確認して書き込みする振りをしながらダンボールの中身をチェックして周った。と、唐突に背後から声をかけられる。
「おい、兄ちゃん達ここで何やっとんだ」
反射的に飛び上がる真凛。だからビビるなっつーの。おれは落ち着いて振り返る。”ナガツマ倉庫”と刺繍の入った作業服を来た、年季のいったおじさんが一人、おれを見据えていた。
「こんな天気のいい日曜の午後だったら、浅草で人形焼でも食い歩きしながらのんびりしたいところなんだがなあ」
おれはぶつぶつと文句を言いながらバンをコインパークに停車する。来音さんに調べて貰った『ナガツマ倉庫』の住所をカーナビに打ち込みここまでやってきたのだ。バンの中でとりあえず作戦会議。
「そこの角から見えるのがナガツマ倉庫、だが……」
「何だかとっても雰囲気が……」
「貧乏臭いなあ」
隣でまだ青い顔をしたままの真凛が頷く。高いブロック塀で囲まれた、小学校とグランドを併せた程度の敷地の中に、巨大な倉庫が三つ建っている。だが、いずれも窓ガラスにヒビが入っていたり壁が煤けていたりで、あまり使われているようには思えない。
「来音さん情報によれば、ナガツマ倉庫の経営は決して良くないらしい」
もっともこれはナガツマ倉庫に限った事ではない。近頃のビジネスの基本は、「なるべく在庫を作らない」だ。欲しいときに欲しいだけ手に入れるのが当たり前。使わないものを大量に保管しておくのは無駄なコストがかさむだけ、という考えである。
こうなると、倉庫業の役目は薄くなってしまう。冷凍設備に特化したり、物流センターとして生まれ変われなかった倉庫会社はみな次々と規模を縮小したり、あるいはお台場や臨海副都心のように、埋立地の再開発計画に合わせ土地を売却したりしているのだ。
「ナガツマはこのいずれの道も選べないまま、景気悪化の一途を辿っていたらしい。んで、昨年とうとうスジのよろしくない金融会社から資本を借り入れるまでになっちまったと」
おれは来音さんが送ってくれたエクセルシートを『アル話ルド君』で表示しつつ解説する。
「まだまだ来音さんに調べて貰っているけどな。おれ達はおれ達で情報を集めていかないと」
「どうやって?」
おれはザックを叩いた。
「名案ってのはな、使いまわせるからこそ名案なのさ」
先ほどまでの変装に加えて、野暮ったいジャンパーを着込むと、とりあえずは業者っぽく見えなくもない。門を通ったのだが、守衛さんは席を外しているのか、そもそも配置されてないのか、不在だった。こちらが不安になるほど易々と敷地内に侵入すると、おれは傍らの、同様に帽子をかぶったちっちゃいのに声をかけた。
「倉庫は三つ。とりあえず西側から順番に探っていくぞ」
「う、うん。わかった」
もちろん、真凛である。
「……もしかして緊張してるのか?」
「ま、まさか!そんな事あるわけないよ」
「そーいや、お前は侵入作戦ならともかく、変装ははじめてだったっけかな」
おれはとりあえず何食わぬ顔で一番西側の倉庫に近づいた。現場のおっちゃんが何人かと、そしてフォークリフトが二台ほど走り回っているのだが、今ひとつ活気が無い。倉庫の中に躊躇わず入ってゆくと、真凛も遅れてついてきた。
ふむ。いわゆるコンピューター操作の自動倉庫ではない。ごく一般的な、フォークリフトで荷物を上げ下ろしするタイプの倉庫だ。荷物のほとんどがダンボール箱。箱にプリントされているのは、ちょっとマイナーなお菓子のロゴだった。
「うわ、こんなのおれが子供の頃に駄菓子屋で売ってたやつだぜ……」
「ダガシって何?」
「……お前それ、ギャグで言ってるんだよな?」
他にも玩具、台所用スポンジやタワシ等のロゴがプリントされているダンボールが幾つか積み上げられていた。ちゃんと在庫捌けてるのかなあ、こういうの。おれ達は手持ちのバインダーを開き、適当に確認して書き込みする振りをしながらダンボールの中身をチェックして周った。と、唐突に背後から声をかけられる。
「おい、兄ちゃん達ここで何やっとんだ」
反射的に飛び上がる真凛。だからビビるなっつーの。おれは落ち着いて振り返る。”ナガツマ倉庫”と刺繍の入った作業服を来た、年季のいったおじさんが一人、おれを見据えていた。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~
さとう
ファンタジー
町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。
結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。
そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!
これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

私、事務ですけど?
フルーツパフェ
経済・企業
自動車業界変革の煽りを受けてリストラに追い込まれた事務のOL、霜月初香。
再就職先は電気部品の受注生産を手掛ける、とある中小企業だった。
前職と同じ事務職に就いたことで落ち着いた日常を取り戻すも、突然社長から玩具ロボットの組込みソフトウェア開発を任される。
エクセルマクロのプログラミングしか経験のない元OLは、組込みソフトウェアを開発できるのか。
今話題のIoT、DX、CASE――における日本企業の現状。

JOKER
札幌5R
経済・企業
この物語は主人公の佐伯承夏と水森警察署の仲間との対話中心で進んでいきます。
全体的に、アクション、仲間意識、そして少しのユーモアが組み合わさった物語であり、水森警察署の警察官が日常的に直面する様々な挑戦を描いています。
初めて書いた作品ですのでお手柔らかに。
なんかの間違えでバズらないかな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる