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第4話:『不実在オークショナー』
◆03:イミテーションの憂鬱-3
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「どうしたものかなぁ」
小栗さんは忙しい人らしく、すぐにまた会社へと戻ってしまった。おれはと言えば、とりあえず引き受けたものの、まず打つべき第一手が思いつかず、自分の席であてどもなくペンを回している次第。今、来音さんがネット上で該当するオークションのログを集めてくれているので、それを見て方針を決定したいところ。
「……また仕事?」
気がつくと七瀬真凛がおれの後ろに立っていた。先ほどのような怒りのオーラはとりあえず也を潜めたようだ。……ていうか、その。餌をくれるのかいじめるのか判らないながらもこっちににじり寄ってくる犬のような表情はいかがなものか。
まあ、おれとて分別のない大人ではない。泥を洗い落としてまっとうな思考を取り戻せば、譲歩する大人の余裕も無きにしもアラズ。
「あ、ああ。まーな。土日で二本っつーのも久しぶりなわけだが」
「ボクは……どーすればいいのかな」
……むぅ。こいつも来音さんに何か言われたクチか。怒りのオーラは抜けたらしいが、なんだかしゅんとしている。普段が普段なだけに、あんまり元気がないとこちらも調子が狂う。
「ああ。今回は地道な調査任務だし。お前は帰ってゆっくり休んでくれ」
それはおれなりの謝意だったのだが。
「どうして……?」
何故か真凛は視線を床に落としていた。
「そんなにボクは役立たずかな?喧嘩にならないから居ても意味が無いってこと!?」
「べ、別にそんな事は言ってねえよ」
「言ってるじゃないか!」
……あ、ムカ。
「ンだよ。さっきまで散々おれと組むのはイヤだとか言ってたくせに。希望どおり帰れって言ってやってるんだから帰れよ!」
真凛がこっちに一歩詰め拠る。おれは飛び退って構えた。
「や、やる気かよ」
だが、予想されていた打撃は飛んで来なかった。
「言われなくても帰るよ」
とだけ呟くと、おれに背を向けた。
「何だよ、せっかく……」
語尾はよく聞き取れなかった。机の上に置いてあった自分の荷物を掴むと、真凛はとっとと事務所を出ていった。
「何怒ってんだよ、あのバカ」
……んなつもりじゃあ、なかったんだがなあ。
「亘理さーん?」
のんびりした声だが、おれはまるで雷に撃たれたように飛び跳ねる。プリントアウトした書類の束を手にした来音さんがそこにいた。
「な、なんでしょう、来音さん」
「今回の仕事に必要な情報はプリントアウトしてここにファイルしてあります。電子情報も順次社内のサーバーに集めておきますので、必要に応じて『アル話ルド君』でダウンロードしてください」
「りょ、了解です」
「まず捜査すべきポイントも目星をつけましたので、明朝九時にそちらに向かってください。あとは亘理さんのやり方でどうそ」
「……はい」
「それでですね~」
……なんでこの人の声は間延びしている時の方が迫力があるのだろうか。
「真凛さんにはあ、ちゃんと謝れたんですかね~?」
「い、いえまあその善処はしたのですが」
「うふふふふ」
え、笑顔だけでおれの言葉を否定しないでくださいっ。
「真凛さんがね、さっき亘理さんが商談中の時、私に相談しに来たんですよお」
「……何をです?」
おれの疑問に直接は答えず、来音さんは何故か、はあ、とため息をついた。
「所長からは通常どおり二人一組で仕事にあたるように指示が来ています。あの子には私から連絡しておきますから。今日は亘理さんも帰ってゆっくり休んでください~」
「……わかりました」
どのみちこれ以上ここにいても出来る事はなさそうだ。処置なし、とおれは口の中で呟いて、事務所を後にした。
小栗さんは忙しい人らしく、すぐにまた会社へと戻ってしまった。おれはと言えば、とりあえず引き受けたものの、まず打つべき第一手が思いつかず、自分の席であてどもなくペンを回している次第。今、来音さんがネット上で該当するオークションのログを集めてくれているので、それを見て方針を決定したいところ。
「……また仕事?」
気がつくと七瀬真凛がおれの後ろに立っていた。先ほどのような怒りのオーラはとりあえず也を潜めたようだ。……ていうか、その。餌をくれるのかいじめるのか判らないながらもこっちににじり寄ってくる犬のような表情はいかがなものか。
まあ、おれとて分別のない大人ではない。泥を洗い落としてまっとうな思考を取り戻せば、譲歩する大人の余裕も無きにしもアラズ。
「あ、ああ。まーな。土日で二本っつーのも久しぶりなわけだが」
「ボクは……どーすればいいのかな」
……むぅ。こいつも来音さんに何か言われたクチか。怒りのオーラは抜けたらしいが、なんだかしゅんとしている。普段が普段なだけに、あんまり元気がないとこちらも調子が狂う。
「ああ。今回は地道な調査任務だし。お前は帰ってゆっくり休んでくれ」
それはおれなりの謝意だったのだが。
「どうして……?」
何故か真凛は視線を床に落としていた。
「そんなにボクは役立たずかな?喧嘩にならないから居ても意味が無いってこと!?」
「べ、別にそんな事は言ってねえよ」
「言ってるじゃないか!」
……あ、ムカ。
「ンだよ。さっきまで散々おれと組むのはイヤだとか言ってたくせに。希望どおり帰れって言ってやってるんだから帰れよ!」
真凛がこっちに一歩詰め拠る。おれは飛び退って構えた。
「や、やる気かよ」
だが、予想されていた打撃は飛んで来なかった。
「言われなくても帰るよ」
とだけ呟くと、おれに背を向けた。
「何だよ、せっかく……」
語尾はよく聞き取れなかった。机の上に置いてあった自分の荷物を掴むと、真凛はとっとと事務所を出ていった。
「何怒ってんだよ、あのバカ」
……んなつもりじゃあ、なかったんだがなあ。
「亘理さーん?」
のんびりした声だが、おれはまるで雷に撃たれたように飛び跳ねる。プリントアウトした書類の束を手にした来音さんがそこにいた。
「な、なんでしょう、来音さん」
「今回の仕事に必要な情報はプリントアウトしてここにファイルしてあります。電子情報も順次社内のサーバーに集めておきますので、必要に応じて『アル話ルド君』でダウンロードしてください」
「りょ、了解です」
「まず捜査すべきポイントも目星をつけましたので、明朝九時にそちらに向かってください。あとは亘理さんのやり方でどうそ」
「……はい」
「それでですね~」
……なんでこの人の声は間延びしている時の方が迫力があるのだろうか。
「真凛さんにはあ、ちゃんと謝れたんですかね~?」
「い、いえまあその善処はしたのですが」
「うふふふふ」
え、笑顔だけでおれの言葉を否定しないでくださいっ。
「真凛さんがね、さっき亘理さんが商談中の時、私に相談しに来たんですよお」
「……何をです?」
おれの疑問に直接は答えず、来音さんは何故か、はあ、とため息をついた。
「所長からは通常どおり二人一組で仕事にあたるように指示が来ています。あの子には私から連絡しておきますから。今日は亘理さんも帰ってゆっくり休んでください~」
「……わかりました」
どのみちこれ以上ここにいても出来る事はなさそうだ。処置なし、とおれは口の中で呟いて、事務所を後にした。
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