92 / 368
第3話:『中央道カーチェイサー』
◆13:スーパーソニック・デリバリー−1
しおりを挟む
後ろから眺めやっても、クラウンの暴走っぷりは凄まじいものだった。『隼』と違って小回りが効かない分、強引な割り込みでそれを補っている。いくら今回の件が依頼人の要請に基づくものであり、オービスについてもお目こぼしをもらっていると言っても、さすがにこれでは苦情を覚悟せねばならないだろう。
こちらから仕掛けるとしても、厄介なことになるのは明白だ。時刻はまだ深夜の域を出てはいないが、休憩もなしにひたすらバイクを飛ばしているこちらは体力的にもかなりキツイ。さっきからこれだけは口にしないようにしていたが、おれの尻と尾てい骨はガタガタでとっくに泣き喚いている。痔になりたくないということもあり、八王子を越えて都心に入り込まれる前にカタをつけたかった。
おれ達が後ろにつけたとき、前方のクラウンの挙動はむしろ静かなものになっていた。こちらが追跡しているだろうことは、直樹なり『貫影』なりの連絡で予想がついているはずだ。猛追してくる二輪があれば迎撃の準備を取っていてしかるべきはずなのだが――と思っているところにそれは来た。
「おふっ!」
急な横方向への揺れに肺の中の空気がかきだされる。傾く車体は、だが、玲沙さんが絶妙のタイミングで当てたカウンターに相殺される。先ほどと同様、奴が磁力を使ってこちらの車体を揺さぶりにかかっているのだ。運転席の窓から覗くのは、奴の右腕。
『やはり亘理さんの読みどおりのようです!』
「ですね。よし、何時までも一発芸が通じると思うなよっ!」
「これは予測なんですが」
ここに至るまでに玲沙さんと交わした会話をおれは振り返る。
「『二つ名』からして、あいつが磁力を操る能力者だってのは間違いないと思うんです。そうなると、『どういった磁力使いなのか』が問題になってきます」
超能力か魔術か精霊の力か知らないが、炎使い、雷使い、水使い、といったエージェントは比較的数多い。そしてひとえに炎使いといっても、掌から炎を放つ者、敵を見るだけで発火させる者、まるで生き物のように炎を操る者、さまざまだ。そして奴も、様々な種類が存在する磁力使いの中でもどのタイプかに該当する、という事になる。
「多分、腕から磁力を放射する、って感じでしょう。となれば、当然『引き寄せる』事があいつの得意技となる」
磁石が『反発』するのはあくまで磁石同士だ。奴は恐らく、『鉄を引き寄せる』事のみに一点特化したエージェントと見るべきだろう。能力を一点に絞って鍛え上げた者は、状況しだいでは恐るべき力を発揮するのだ。
『でも、さっきのベアリングは……』
「おそらく、あいつが瞬間的に磁化したんでしょう。『隼』に吸い寄せられる形で飛んできましたからね」
『なるほど……。わかりました。それなら、手はあると思います』
距離を詰めるたびに、磁力の干渉は厳しくなってくる。右に、左に。磁力の攻撃は、いうなれば透明なロープで引っ張られるという妨害の中で走行を維持する事だった。引き倒されない玲沙さんのドライビングテクニックに、改めておれは舌を巻く。
奴は作戦を誤った。おれ達を仕留めたければ、先ほどのように至近距離から最大威力の磁力で一撃で引き倒すべきだったのである。クラウンが先方を走るトラックを抜いたとき、おれ達は仕掛けた。
こちらから仕掛けるとしても、厄介なことになるのは明白だ。時刻はまだ深夜の域を出てはいないが、休憩もなしにひたすらバイクを飛ばしているこちらは体力的にもかなりキツイ。さっきからこれだけは口にしないようにしていたが、おれの尻と尾てい骨はガタガタでとっくに泣き喚いている。痔になりたくないということもあり、八王子を越えて都心に入り込まれる前にカタをつけたかった。
おれ達が後ろにつけたとき、前方のクラウンの挙動はむしろ静かなものになっていた。こちらが追跡しているだろうことは、直樹なり『貫影』なりの連絡で予想がついているはずだ。猛追してくる二輪があれば迎撃の準備を取っていてしかるべきはずなのだが――と思っているところにそれは来た。
「おふっ!」
急な横方向への揺れに肺の中の空気がかきだされる。傾く車体は、だが、玲沙さんが絶妙のタイミングで当てたカウンターに相殺される。先ほどと同様、奴が磁力を使ってこちらの車体を揺さぶりにかかっているのだ。運転席の窓から覗くのは、奴の右腕。
『やはり亘理さんの読みどおりのようです!』
「ですね。よし、何時までも一発芸が通じると思うなよっ!」
「これは予測なんですが」
ここに至るまでに玲沙さんと交わした会話をおれは振り返る。
「『二つ名』からして、あいつが磁力を操る能力者だってのは間違いないと思うんです。そうなると、『どういった磁力使いなのか』が問題になってきます」
超能力か魔術か精霊の力か知らないが、炎使い、雷使い、水使い、といったエージェントは比較的数多い。そしてひとえに炎使いといっても、掌から炎を放つ者、敵を見るだけで発火させる者、まるで生き物のように炎を操る者、さまざまだ。そして奴も、様々な種類が存在する磁力使いの中でもどのタイプかに該当する、という事になる。
「多分、腕から磁力を放射する、って感じでしょう。となれば、当然『引き寄せる』事があいつの得意技となる」
磁石が『反発』するのはあくまで磁石同士だ。奴は恐らく、『鉄を引き寄せる』事のみに一点特化したエージェントと見るべきだろう。能力を一点に絞って鍛え上げた者は、状況しだいでは恐るべき力を発揮するのだ。
『でも、さっきのベアリングは……』
「おそらく、あいつが瞬間的に磁化したんでしょう。『隼』に吸い寄せられる形で飛んできましたからね」
『なるほど……。わかりました。それなら、手はあると思います』
距離を詰めるたびに、磁力の干渉は厳しくなってくる。右に、左に。磁力の攻撃は、いうなれば透明なロープで引っ張られるという妨害の中で走行を維持する事だった。引き倒されない玲沙さんのドライビングテクニックに、改めておれは舌を巻く。
奴は作戦を誤った。おれ達を仕留めたければ、先ほどのように至近距離から最大威力の磁力で一撃で引き倒すべきだったのである。クラウンが先方を走るトラックを抜いたとき、おれ達は仕掛けた。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。


『五十年目の理解』
小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる