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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆13:スーパーソニック・デリバリー−1
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後ろから眺めやっても、クラウンの暴走っぷりは凄まじいものだった。『隼』と違って小回りが効かない分、強引な割り込みでそれを補っている。いくら今回の件が依頼人の要請に基づくものであり、オービスについてもお目こぼしをもらっていると言っても、さすがにこれでは苦情を覚悟せねばならないだろう。
こちらから仕掛けるとしても、厄介なことになるのは明白だ。時刻はまだ深夜の域を出てはいないが、休憩もなしにひたすらバイクを飛ばしているこちらは体力的にもかなりキツイ。さっきからこれだけは口にしないようにしていたが、おれの尻と尾てい骨はガタガタでとっくに泣き喚いている。痔になりたくないということもあり、八王子を越えて都心に入り込まれる前にカタをつけたかった。
おれ達が後ろにつけたとき、前方のクラウンの挙動はむしろ静かなものになっていた。こちらが追跡しているだろうことは、直樹なり『貫影』なりの連絡で予想がついているはずだ。猛追してくる二輪があれば迎撃の準備を取っていてしかるべきはずなのだが――と思っているところにそれは来た。
「おふっ!」
急な横方向への揺れに肺の中の空気がかきだされる。傾く車体は、だが、玲沙さんが絶妙のタイミングで当てたカウンターに相殺される。先ほどと同様、奴が磁力を使ってこちらの車体を揺さぶりにかかっているのだ。運転席の窓から覗くのは、奴の右腕。
『やはり亘理さんの読みどおりのようです!』
「ですね。よし、何時までも一発芸が通じると思うなよっ!」
「これは予測なんですが」
ここに至るまでに玲沙さんと交わした会話をおれは振り返る。
「『二つ名』からして、あいつが磁力を操る能力者だってのは間違いないと思うんです。そうなると、『どういった磁力使いなのか』が問題になってきます」
超能力か魔術か精霊の力か知らないが、炎使い、雷使い、水使い、といったエージェントは比較的数多い。そしてひとえに炎使いといっても、掌から炎を放つ者、敵を見るだけで発火させる者、まるで生き物のように炎を操る者、さまざまだ。そして奴も、様々な種類が存在する磁力使いの中でもどのタイプかに該当する、という事になる。
「多分、腕から磁力を放射する、って感じでしょう。となれば、当然『引き寄せる』事があいつの得意技となる」
磁石が『反発』するのはあくまで磁石同士だ。奴は恐らく、『鉄を引き寄せる』事のみに一点特化したエージェントと見るべきだろう。能力を一点に絞って鍛え上げた者は、状況しだいでは恐るべき力を発揮するのだ。
『でも、さっきのベアリングは……』
「おそらく、あいつが瞬間的に磁化したんでしょう。『隼』に吸い寄せられる形で飛んできましたからね」
『なるほど……。わかりました。それなら、手はあると思います』
距離を詰めるたびに、磁力の干渉は厳しくなってくる。右に、左に。磁力の攻撃は、いうなれば透明なロープで引っ張られるという妨害の中で走行を維持する事だった。引き倒されない玲沙さんのドライビングテクニックに、改めておれは舌を巻く。
奴は作戦を誤った。おれ達を仕留めたければ、先ほどのように至近距離から最大威力の磁力で一撃で引き倒すべきだったのである。クラウンが先方を走るトラックを抜いたとき、おれ達は仕掛けた。
こちらから仕掛けるとしても、厄介なことになるのは明白だ。時刻はまだ深夜の域を出てはいないが、休憩もなしにひたすらバイクを飛ばしているこちらは体力的にもかなりキツイ。さっきからこれだけは口にしないようにしていたが、おれの尻と尾てい骨はガタガタでとっくに泣き喚いている。痔になりたくないということもあり、八王子を越えて都心に入り込まれる前にカタをつけたかった。
おれ達が後ろにつけたとき、前方のクラウンの挙動はむしろ静かなものになっていた。こちらが追跡しているだろうことは、直樹なり『貫影』なりの連絡で予想がついているはずだ。猛追してくる二輪があれば迎撃の準備を取っていてしかるべきはずなのだが――と思っているところにそれは来た。
「おふっ!」
急な横方向への揺れに肺の中の空気がかきだされる。傾く車体は、だが、玲沙さんが絶妙のタイミングで当てたカウンターに相殺される。先ほどと同様、奴が磁力を使ってこちらの車体を揺さぶりにかかっているのだ。運転席の窓から覗くのは、奴の右腕。
『やはり亘理さんの読みどおりのようです!』
「ですね。よし、何時までも一発芸が通じると思うなよっ!」
「これは予測なんですが」
ここに至るまでに玲沙さんと交わした会話をおれは振り返る。
「『二つ名』からして、あいつが磁力を操る能力者だってのは間違いないと思うんです。そうなると、『どういった磁力使いなのか』が問題になってきます」
超能力か魔術か精霊の力か知らないが、炎使い、雷使い、水使い、といったエージェントは比較的数多い。そしてひとえに炎使いといっても、掌から炎を放つ者、敵を見るだけで発火させる者、まるで生き物のように炎を操る者、さまざまだ。そして奴も、様々な種類が存在する磁力使いの中でもどのタイプかに該当する、という事になる。
「多分、腕から磁力を放射する、って感じでしょう。となれば、当然『引き寄せる』事があいつの得意技となる」
磁石が『反発』するのはあくまで磁石同士だ。奴は恐らく、『鉄を引き寄せる』事のみに一点特化したエージェントと見るべきだろう。能力を一点に絞って鍛え上げた者は、状況しだいでは恐るべき力を発揮するのだ。
『でも、さっきのベアリングは……』
「おそらく、あいつが瞬間的に磁化したんでしょう。『隼』に吸い寄せられる形で飛んできましたからね」
『なるほど……。わかりました。それなら、手はあると思います』
距離を詰めるたびに、磁力の干渉は厳しくなってくる。右に、左に。磁力の攻撃は、いうなれば透明なロープで引っ張られるという妨害の中で走行を維持する事だった。引き倒されない玲沙さんのドライビングテクニックに、改めておれは舌を巻く。
奴は作戦を誤った。おれ達を仕留めたければ、先ほどのように至近距離から最大威力の磁力で一撃で引き倒すべきだったのである。クラウンが先方を走るトラックを抜いたとき、おれ達は仕掛けた。
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