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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆11:ダメ学生(チート)VSダメ人間(吸血鬼)-3
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闇を切り裂いて疾走する『隼』のタンデムシートに跨りつつ、おれは自分の中の残ったコインをかき集めてみる。だが、やはり随分無理をしたのが祟ったのか、当分は『鍵』を引っ張り出すのは無理のようだ。先程の直樹の追撃を防いだ時点で、おれの札は打ち止めだった。ここから先はスピード勝負になる以上、もう無用な荷重でしかないおれを降ろしていくべきだろうとも思ったのだが、
『いや、亘理君は引き続き乗っていくべきだ。ただのレースならともかく、原稿を奪還するには二輪の運転手が一人では何かと不利だからな』
という見上さんの判断により、おれも引き続き追跡にあたっている。残るは、二対二。いよいよ大詰めだ。だが緊張とは裏腹に、タンデムシートに跨る身では出来る事など大してない。おれは気分転換のため、ちょいと話しかけることにした。
「……玲沙さんって、お住まいはどちらで?」
『え、と。調布です』
やはり玲沙さんも幾分緊張していたようだ。
「じゃあ、自宅の前を通ることになるんですね」
『自宅って言っても、会社が借り上げたアパートですよ』
「てことは、仕事三昧の日々?メシなんてどうしてるんですか?」
『えっと、朝は自炊、昼はお弁当で。夜は……近所のコンビニのお弁当になりますね。今日みたいな深夜の仕事があると、どうしても生活が不規則になりがちですし。知らないお店に入るのは怖くって……。毎日都内を走り回ってるのに、交差点と抜け道しか知らないんですよ』
ちょっと寂しそうな玲沙さんの声であった。
「神田の『古時計』の近くに、『椋鳥』って喫茶店があるんですよ。良く神田に本を買いに行くときはそこのお世話になるんですが。あそこね、コーヒーもたいしたものですが、何故か喫茶店のくせに和食のメニューを出してくれるんすよ。そしてそれがまたやたらうまい。焼き鮭と卵で三杯はいけますね」
『はあ……』
「えっと、だから、まあ。今日の朝飯は、そこできちんと食べましょうって事です。勝利をおかずにして」
我ながら胡乱な物言いだな。
「あと、まあこう見えても暇な大学生ですから。池袋、新宿、神田あたりの食い物なら多少知ってます。昼に弁当以外を食べたくなった時は電話ででも聞いてください」
玲沙さんからコメントが返ってくるまでにはちょっと間があった。
『そうですね、さすがに休憩なしでずっと走っているとお腹が空いてしまいますしね』
「そういうこと。それじゃあ、」
『「もうひと踏ん張りがんばりましょう!!」』
気合をひとつ入れると、おれは彼女の腰にしがみつき、荷重に徹して彼女の妨げにならないよう努めた。見上さんから送られてくる敵の位置と道路状況を参照しつつ、はるか上空から見つけた獲物めがけて落下する隼のように、前方の車両を抜き去り、談合坂を越え、闇に浮かぶ灯火に縁取られた相模湖に目もくれることなくただただひた疾走る――。
……ついに前方にトヨタ・クラウンアスリートを捉えた時。
おれ達は神奈川県を抜け、八王子の市内に到達していた。
『いや、亘理君は引き続き乗っていくべきだ。ただのレースならともかく、原稿を奪還するには二輪の運転手が一人では何かと不利だからな』
という見上さんの判断により、おれも引き続き追跡にあたっている。残るは、二対二。いよいよ大詰めだ。だが緊張とは裏腹に、タンデムシートに跨る身では出来る事など大してない。おれは気分転換のため、ちょいと話しかけることにした。
「……玲沙さんって、お住まいはどちらで?」
『え、と。調布です』
やはり玲沙さんも幾分緊張していたようだ。
「じゃあ、自宅の前を通ることになるんですね」
『自宅って言っても、会社が借り上げたアパートですよ』
「てことは、仕事三昧の日々?メシなんてどうしてるんですか?」
『えっと、朝は自炊、昼はお弁当で。夜は……近所のコンビニのお弁当になりますね。今日みたいな深夜の仕事があると、どうしても生活が不規則になりがちですし。知らないお店に入るのは怖くって……。毎日都内を走り回ってるのに、交差点と抜け道しか知らないんですよ』
ちょっと寂しそうな玲沙さんの声であった。
「神田の『古時計』の近くに、『椋鳥』って喫茶店があるんですよ。良く神田に本を買いに行くときはそこのお世話になるんですが。あそこね、コーヒーもたいしたものですが、何故か喫茶店のくせに和食のメニューを出してくれるんすよ。そしてそれがまたやたらうまい。焼き鮭と卵で三杯はいけますね」
『はあ……』
「えっと、だから、まあ。今日の朝飯は、そこできちんと食べましょうって事です。勝利をおかずにして」
我ながら胡乱な物言いだな。
「あと、まあこう見えても暇な大学生ですから。池袋、新宿、神田あたりの食い物なら多少知ってます。昼に弁当以外を食べたくなった時は電話ででも聞いてください」
玲沙さんからコメントが返ってくるまでにはちょっと間があった。
『そうですね、さすがに休憩なしでずっと走っているとお腹が空いてしまいますしね』
「そういうこと。それじゃあ、」
『「もうひと踏ん張りがんばりましょう!!」』
気合をひとつ入れると、おれは彼女の腰にしがみつき、荷重に徹して彼女の妨げにならないよう努めた。見上さんから送られてくる敵の位置と道路状況を参照しつつ、はるか上空から見つけた獲物めがけて落下する隼のように、前方の車両を抜き去り、談合坂を越え、闇に浮かぶ灯火に縁取られた相模湖に目もくれることなくただただひた疾走る――。
……ついに前方にトヨタ・クラウンアスリートを捉えた時。
おれ達は神奈川県を抜け、八王子の市内に到達していた。
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