人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
87 / 368
第3話:『中央道カーチェイサー』

◆10:『貫影』−3

しおりを挟む
 ――真凛に油断があったとは言わない。だが、強者との戦闘を目的とするあいつ自身の趣向が、判断を誤らせたのは事実だろう。敵はあいつよりはプロ意識があるようだ。すなわち、勝てない相手なら、相打ち覚悟でも排除しておくことが、全体の勝利につながる。

 『貫影』の体が傾いたのは、態勢を崩したからではなかった。むしろその逆。態勢を整えたのだ、跳躍するために。――おりしもそこには、我々がラインをせめぎあいながら今まさに追い抜こうとしている大型タンクローリーがあった。『カミキリムシ』が大きく沈みこみ、『貫影』の跳躍の反動を受け止める。

 高々と空を舞った奴は、そのまま危険な液体が満載されたタンクの上に危なげなく着地した。チェーン・デスマッチを挑んだ以上、真凛に可能な行動はひとつしかなかった。張り詰める革紐の方向に合わせて跳躍。だが、あいつの履いた十分に加熱されたローラーブレードは、タンクの上に着地するのは危険すぎる。空中で一回、タイヤの泥除けを蹴って距離をとり、こちらは運転席上の屋根に着地した。

『……ごめん陽司。のせられたみたい』

 デスマッチはまだまだ終わらない。だが、たかだか時速百キロ程度で走るタンクローリーは、加速し続ける『隼』と『カミキリムシ』に抜き去られ、すでにはるか後方にあった。あのまま戦い続けても『貫影』は真凛に勝てないかもしれない。だがゲームの上ではまさしく相討ち。二人とも今夜中にこの舞台に戻ってくる事は出来ないだろう。『貫影』はいともあっさりと、うちの切り札を見事に無効化したのだ。

「まだまだまだ正調査員への昇格は遠い。戦闘中に優先順位を見失うようじゃ、な」

 おれは独創性あふれるコメントを返す。

『ごめんなさい……』
「でもま、良くやったさ。まだカードはお互い三枚ずつ。後はおれ達に任せとけ」

 ヤセ我慢ヤセ我慢。実際のところ、戦闘能力に乏しいおれと見上さんで玲沙さんのフォローをやりきれるか、と問われれば返答に詰まる。だが一度オカネをもらってしまった以上、その程度の悪条件で降りるわけにもいくまいて。それに、もうちょいキツイ条件で仕事をこなしたことも無いわけではないのだ。

『人災派遣』は伊達じゃない、ってところか。まったく困ったものである。
『……わかったよ。じゃあまた後で』
「おう、お前もきっちり勝負つけてこい。おれ達が勝った後、お前だけひとり負けなんて認めねーかんな」
『りょーかい!『人災派遣』のアシスタントが伊達じゃないってところを見せてあげるよ!』

 それで通信が切れる。おれはメットの中で苦笑した。

『いいコンビですね』

 通信を聞いていた玲沙さんが苦笑混じりにコメントする。

「お恥ずかしい。どうにも詰めが甘いアシスタントなモノで。ご迷惑をおかけしますよ」

 それを聞いた玲沙さんが堪えきれないと言った態で笑い出す。

「な、なんかヘンな事言ったっすかね、おれ?」
「い、いえ……。ただ、任務の開始前に七瀬さんを配置場所に送ったとき、『どうにも詰めが甘いウチの担当がご迷惑をかけると思います』って言ってたものですから」

 憮然とした表情で頬をかく、のはメットをかぶっていたので出来ず、おれは微妙な沈黙を保つより他なかった。咳払いを一つ、気持ちを切り替える。

「……えー、おほん、さて」
『ええ』
「『このまま一気に勝負をかけましょう!』」

 ここで急加速。保っていたラインを一気に詰める。再び先程同様の激しいラインの鬩ぎ合いが繰り広げられる。だがもはや妨害をしかけてくる『貫影』はいない。必定、おれと玲沙さんの注意は残り一人、『カミキリムシ』を駆るライダーへと向く。おれは『隼』から振りおとされないように務めつつ、隙あらばパンチの一発でも叩き込んでやろうと身構えた。

 と、敵のライダーが唐突に間合いを取った。敵意のなさを表すかのように、左手を上げてこちらに顔を向ける。……何か仕掛けてくるのか?緊張するおれの視界の中、やつは大胆にもバイクから身を乗り出してこちらを覗き込んでくる。暗闇と水銀灯に照り返されたフルフェイスヘルメットでは中の表情など見分けがつくはずもないが、やがてその仕草、体型から、おれの脳が一人の気に食わない人物の名前を思い浮かべた。

「おまえ……!?」
『真凛くんが居たからまさかとは思ったが。貴様とはな』

 突如メットの中に響き渡る、ノイズキャンセリングされたクリアな音声。もう一つの『アル話ルド君』から繋がれた敵の声は、まさしくウチの同僚、笠桐・R・直樹のキザったらしいそれだった。
しおりを挟む
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
感想 1

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『五十年目の理解』

小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...