人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第3話:『中央道カーチェイサー』

◆03:出版業界騒動顛末記-1

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 社長が死神に愛想を尽かされて現職にカムバックしてからと言うもの、『あかつき』の編集部内は宗教弾圧真っ盛りの中世さながらだったそうだ。

 まず最初に行われたのが、主要連載マンガ陣の打ち切りである。人気の無くなったマンガがいきなりストーリーを急速に進め、それから三、四話後に打ち切り、というパターンはどこでも良くある話だ。だが、これを『あかつき』では人気連載が唐突に行ったのである。

 そして困惑する読者を尻目に次に行われたのが、同じく人気マンガの他誌への移籍。ホーリック社は『あかつき』の他に、四ヶ月に一回刊行する季刊『あかつきSEASON』を持っている。本来は新人の読み切りや『あかつき』本誌連載の外伝を掲載したりする、いわば二軍的役割の雑誌だったのだが、この『SEASON』にいきなり主力連載が移管されたのである。

 当然これらの処置に連載のファンと、そして当の作家達は怒り狂った……のだが、自らの信念を以って進む社長にとってはそんなものは打破すべき有害図書の怨嗟に過ぎず。ますます『あかつき』から『あかつきマンガ』は排除されていったのだった。

 そしてその穴を埋めるべく大量に投入されたのが、円熟したベテラン作家による一昔、いや、三昔前の『清く正しい』王道少年漫画の群れだった。そりゃもう、スポ根、青春、熱血、努力、勝利、下手すりゃ愛国なんて言葉も大真面目に飛び出すような連載陣。それはまさに、創刊当時の『あかつき』の復刻だった。

 
 
「当然、私達編集や作家も大いに困惑したのですが、一番の被害者は読者でした」

 まあ、可愛いオンナノコやカッコいいオトコノコの活躍を楽しみにページをめくった読者が、劇画調のオッサンがぎっしり詰まったコマを見せられたらそりゃ詐欺だと思うだろう。結果として、『あかつき』は十年に渡って開拓して来た読者を多く失う事になった。

 
 社長がいない間にこの十年を築き上げてきたマンガ家達、そしてかつての若手にして今の中堅どころの編集者達の気持ちは到底収まるものではなかった。彼等はやがて一つの決断を行う。――我々が育ててきたこの『あかつきマンガ』の芽を、あの社長の独善で潰させるわけにはいかない、と。

 そして叛乱が始まった。

 当時の編集長が資金を調達し、出版社『ミッドテラス』を設立。そして現『あかつき』の主要スタッフと、『SEASON』に追いやられていた作家陣を引きつれ集団でホーリック社を離脱したのである。そしてミッドテラス社は月刊誌『ルシフェル』を設立。『あかつき』で辛酸を舐めた連載陣を、一部タイトル名を変えた程度でほとんどそのまま復活させたのだ。

 
 もともとホーリックが『あかつき』を創刊し、今また強引な方針転換を推し進めたのは、社長の独善的とも言える思い込みによるものである。だが、いや、だからこそ、か。社員とマンガ家の大量離脱という裏切り行為は事態は社長にとって許せるものではなかったようだ。例えそれが『あかつき』から彼の嫌う異分子が出て行く事を意味していたとしても。

 そしてホーリック社はミッドテラス社を提訴。『ルシフェル』における連載陣はすべて『あかつき』の連載の続編であり、明確な著作権違反だと指摘。対するミッドテラス社はホーリック社の横暴な振る舞いを訴え、また、自社の連載陣はあくまで同一作者の別の連載である、と主張し……作品の著作権や作家の所属、はたまた著作権の解釈そのものを巡って、両社は激しく争う事になった。半年以上経過した今もこの騒動は法廷で継続しており、時々テレビや新聞を賑わせている。
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