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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆02:出版業界お家騒動−1
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『月刊少年あかつき』。
それが『えるみかスクランブル』の掲載雑誌の名前である。
決してメジャーどころではないが、タイトルは若い世代なら大抵知っているマンガ雑誌だ。ただし読んでいる人はそれ程多くなく、コンビニでもなかなか見かけない。
そのくせ掲載されているマンガの中でトップの人気を誇る作品――『えるみか』はまさにその一つだ――は、誰もが一度はアニメくらいは見た事がある。そんな微妙なバランスを保ったこの月刊誌の存在が、今回のお仕事のそもそもの発端である。
『少年あかつき』を刊行しているのは、大手出版社ホーリック。実用書や文芸小説、ビジネス雑誌を中心としてシェアを確保している、いわゆる『お堅い』会社である。そんなホーリックが突如月刊の、しかも少年マンガ雑誌などと言う畑違いのジャンルに進出したのが十数年前。
噂によれば、何でも叩き上げの当代の社長が『現代の少年達が、世間に蔓延る有害な漫画に触れて育てば、必ず二十年後の国家に深刻な悪影響を及ぼす』と息巻いたのがきっかけなのだとか。おれからしてみれば、ならそんな有害なマンガなんぞに関わらなければいいじゃないか、と思うのだが、一代で出版社を立ち上げた傑物の考えることは違った。
彼の出した結論とは、『然らば、我々が率先して良質な漫画を供給し、以って少年達を啓蒙し健全な精神を育ませるべし』だったのだそうだ。――世間ではこういうのを『大きなお世話』と言う。君、テストに出るから覚えておくようにね。
……当然と言えば当然なのだが、そんな社長が提起した『良質な漫画』――お堅くて品行方正で説教臭い――ばかりが集められた創刊号は、そりゃあもう致命的なまでに売れなかったらしい。当時の業界では「殿、ご乱心」なんて陰口が無数に飛び交ったのだそうだ。
だが、当の社長はそんな逆風にめげることなく、他部門の利益を注ぎ込んで販促を行い、各誌から一昔前のいわゆる『旧き良き』時代の人気作家を招聘し、この『あかつき』を保護し続けた。土が悪くても肥料と水を与え続ければなんとか苗木が育つように、『あかつき』はそれなりには雑誌として成長を遂げていったのだ。……ところが。おれは依頼を受けるに至った経緯を思い返した。
それが『えるみかスクランブル』の掲載雑誌の名前である。
決してメジャーどころではないが、タイトルは若い世代なら大抵知っているマンガ雑誌だ。ただし読んでいる人はそれ程多くなく、コンビニでもなかなか見かけない。
そのくせ掲載されているマンガの中でトップの人気を誇る作品――『えるみか』はまさにその一つだ――は、誰もが一度はアニメくらいは見た事がある。そんな微妙なバランスを保ったこの月刊誌の存在が、今回のお仕事のそもそもの発端である。
『少年あかつき』を刊行しているのは、大手出版社ホーリック。実用書や文芸小説、ビジネス雑誌を中心としてシェアを確保している、いわゆる『お堅い』会社である。そんなホーリックが突如月刊の、しかも少年マンガ雑誌などと言う畑違いのジャンルに進出したのが十数年前。
噂によれば、何でも叩き上げの当代の社長が『現代の少年達が、世間に蔓延る有害な漫画に触れて育てば、必ず二十年後の国家に深刻な悪影響を及ぼす』と息巻いたのがきっかけなのだとか。おれからしてみれば、ならそんな有害なマンガなんぞに関わらなければいいじゃないか、と思うのだが、一代で出版社を立ち上げた傑物の考えることは違った。
彼の出した結論とは、『然らば、我々が率先して良質な漫画を供給し、以って少年達を啓蒙し健全な精神を育ませるべし』だったのだそうだ。――世間ではこういうのを『大きなお世話』と言う。君、テストに出るから覚えておくようにね。
……当然と言えば当然なのだが、そんな社長が提起した『良質な漫画』――お堅くて品行方正で説教臭い――ばかりが集められた創刊号は、そりゃあもう致命的なまでに売れなかったらしい。当時の業界では「殿、ご乱心」なんて陰口が無数に飛び交ったのだそうだ。
だが、当の社長はそんな逆風にめげることなく、他部門の利益を注ぎ込んで販促を行い、各誌から一昔前のいわゆる『旧き良き』時代の人気作家を招聘し、この『あかつき』を保護し続けた。土が悪くても肥料と水を与え続ければなんとか苗木が育つように、『あかつき』はそれなりには雑誌として成長を遂げていったのだ。……ところが。おれは依頼を受けるに至った経緯を思い返した。
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