人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第2話:『秋葉原ハウスシッター』

◆10:その研究者−3

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「会社からの帰り道、駅を歩いていたらひったくりに合ってしまって。愛用していたカバン一式を取られちゃいました。まあ、仕事の資料はほとんど会社に置きっぱなしなので文房具くらいしか実害がなかったんですけどね。それからしばらくして、今度は会社のロッカーに置いてあった出張用カバンがどっかいっちゃったんですよ。緊急時に備えて着替えと歯磨きセットが入っていたんですけど」
「はあ……」
「それで、ついこの間起こったのが会社のシステムチェックですね。なんでも私たちの会社のLANにハッキング攻撃があったらしくて。幸い事前に突き止められたので実害は無かったんですが、結局その日は総点検だの追跡だののてんやわんやで仕事になりませんでしたよ。おかげで次の日徹夜をする羽目になりました」

 困ったものですよねえ、などとため息をつく笹村さん。おれと直樹はさっきから口を開けっ放しの阿呆面を継続中である。っていうか、いくらなんでも気付くだろうよ。

「そんなこんなで縁起の悪いことが立て続けに起こりました。だからちょっと気分を変えたくなりまして。会社も夏季休業に入ったことだし、妻の実家に厄介になって、スイカに関する論文を一気に終わらせてしまおうと思ったのです」
「……あのう、つかぬことを伺いますが」
「何ですか?」
「今回ついに完成され、その論文にまとめられているスイカって……あの部屋に大量に植わっていたアレですよね?」

 笹村さんは子供のように表情を輝かせた。

「そうなんですよ!だから実家にしばらく厄介になるにしても、アレを放っておくことは出来なかったんです。私の研究の集大成、誰かに面倒を見ていてもらわなければいけないですからね」
「ということは。そのために我々を雇われた、とそういうことですか?」
「ええ!こういう事をやってくれる便利屋さんをタウンページで探したら、フレイムアップさんが載ってたんですよ。一覧の中から適当に選んで直接訪問したんですけど、受付の女性の人かなあ、感じのいい人だったんで一発で決めちゃいましたよ」

 ず、頭痛が。

「それで所ちょ……いや、受付の女性とはどういった対応をされたのですか?」
「ええと。どういったお仕事ですかと聞かれたので、留守番をお願いって言ったんですね。その後、多少料金は張りますが事情を一切聞かずに対応するか、事情を聞いた上で通常料金で対応するプランがあるとか言ってましたね。細かい事情を説明するのがわずらわしかったから一切聞かない奴にしてくれ、って言いましたよ」

 ……さいですか。

「料金等の提示はなかったのですかな?」

 直樹が言う。たしかに、何と言うかその、うちは派手なことをやる分料金もちょっとお高いはずなのだが。

「ええ、料金表を渡されましたよ。忙しかったんで見ないでとりあえずOKで返事をしておきました。まあ、便利屋さんの相場ってそう劇的に変わるものでもないでしょうし」

 変わるんですよ。頼むから見てくださいよ。っていうか、この人絶対に近い将来クレジットカードとか通信販売とかでトラブル起こすぞ。金を支払いする前には必ず情報は確認しような!おれからのお願いだぜっ。
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