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第2話:『秋葉原ハウスシッター』
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「一応俺も貴様の話は聞いていたからな。ほれ」
直樹がひょいと投げて寄越したのはうちの事務所の小道具の一つ。全体から突き出た無数のコネクタでありとあらゆる回線から貪欲に情報を吸い上げるマルチ録音録画システム『シャー録君』である。
「インターホンのジャックにかましておいたから、映像は撮れているはずだ。見るか?」
そういうことなら異論は無い。おれはさっそくシャー録君内臓のUSBケーブルを引っ張り出すと、断り無しで直樹のノートPCに接続した。
「ああ。こりゃ昨日も来た宅配便のおじさんだな」
録画されたインターホンの画像はまさしく昨日来た、やたらと元気のいいあのおっさんであった。これならば取り立てて騒ぐことでもない。
「昨日、また後日伺います、って言ってたからなあ。また今日来てみたんじゃないのか」
「それもそうだな。では我々も奥方の実家に赴くとしようか」
「ちょっと待ってくれませんか?」
異議を申し立てたのは真凛だった。
「なんか気になるところでもあったか?」
「もう一回巻き戻してみてよ」
おれが見た限りでは特に不審な動きはなかったが。ともあれおれは画像再生ソフトをクリックして映像を巻き戻した。それを食い入るように見やる真凛。そういや昨日はおれが応対に出たから、こいつは直接宅配便のおっさんを見てはいなかったな。
「この人、本当に宅配便の人かな」
「どういう意味だよ」
真凛の頬が緩んでるということは、結果はだいたい想像できるが。
「軍人の歩き方をする宅配便の人って、日本にはそうは居ないと思うな」
「兵隊の歩き方って。お前そんなもんわかるのか」
「昔良く大会に飛び入りで参加してくる元軍人の外人さんたちがいて。そういう人に共通する歩方だった。歩幅がかっちりしてるからすぐわかるよ」
ドコノ大会デスカ。
「ははあ。じゃあマシンガンでも持って攻め込んでくるとか?宅配便のおっちゃんが」
冗談のつもりだったのだが。
「陸軍の人とはちょっと違うと思う。どっちかって言うと、もっと身軽な武装を前提にしてるかも」
「軽装と言うと、ナイフ、拳銃といった所かな」
横から口を出す直樹。
「ええ。それとあんまり表に出てくる人じゃないみたいですね」
「と言うと?おい亘理、拡大して見ろ」
「へいへい」
どうでもいいが三人いると狭くてしょうがない。
「……やっぱり。歩行に癖があります。意図的に隠しているんだろうけど、歩くたびに足の裏に重心が移動してる。これ、忍び足の要領ですよ」
「忍び足が日常化しているような生活を送っている、という事か」
「んで歩調は軍隊調、だろ。と言うと……」
どっかの特殊部隊、というところだろうか。
「あるいはどこかの秘密警察とか、な」
直樹が苦々しげに呟いた。どうもこいつはこの種の手合いと反りが合わないらしい。
「どこかの軍人が足を洗って宅配便会社に勤めてる、って線を期待したいところだがなあ。まあ無いだろうな。要注意人物、以後は来ても応対しない方が良いな」
「真凛君。一つ聞くが。その男の歩き方から、得意そうな間合いとかはわかるかい?」
間合い、とくればこいつの得意領分だ。何と言っても相手の体勢から弾道すら見切る娘である。と、真凛の顔がふと曇る。
「どーした?」
「うん。この人の腰の入れ方だと明らかに一足一刀以上の遠間を想定した攻撃を繰り出してくるはずなのに。歩き方はほとんど武器を携行しないものに近いんだよ。癖をここまで消せるものなのかな、だとしたら相当な強者だけど」
んー。よくわからん。ちょっと整理。
「つまりこういうことか。槍みたいな長い間合いで攻撃するのが得意のはずなのに、普段は槍なんて持ち歩いていない、ってわけか」
「うん。そんな長いものをぶら下げてれば必然的にどこかバランスが歪むはずなんだけど」
「そりゃ、誰だって昼日中から槍なんぞぶらさげて歩いている奴はいないよ」
「そう。忍び歩きが習性になっているような人だし。だからこそ、長い槍を扱うことが信じられないんだ」
ふぅむ。
「何、そう悩むこともあるまい。事態はもう少し簡単なのではないかな」
「え、どういうことですか?」
「ンだよ、言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「そうだな。例えば、そいつの攻撃方法が『手から何かを槍のように伸ばす』だとかな」
あ、とおれと真凛の声が重なった。
直樹がひょいと投げて寄越したのはうちの事務所の小道具の一つ。全体から突き出た無数のコネクタでありとあらゆる回線から貪欲に情報を吸い上げるマルチ録音録画システム『シャー録君』である。
「インターホンのジャックにかましておいたから、映像は撮れているはずだ。見るか?」
そういうことなら異論は無い。おれはさっそくシャー録君内臓のUSBケーブルを引っ張り出すと、断り無しで直樹のノートPCに接続した。
「ああ。こりゃ昨日も来た宅配便のおじさんだな」
録画されたインターホンの画像はまさしく昨日来た、やたらと元気のいいあのおっさんであった。これならば取り立てて騒ぐことでもない。
「昨日、また後日伺います、って言ってたからなあ。また今日来てみたんじゃないのか」
「それもそうだな。では我々も奥方の実家に赴くとしようか」
「ちょっと待ってくれませんか?」
異議を申し立てたのは真凛だった。
「なんか気になるところでもあったか?」
「もう一回巻き戻してみてよ」
おれが見た限りでは特に不審な動きはなかったが。ともあれおれは画像再生ソフトをクリックして映像を巻き戻した。それを食い入るように見やる真凛。そういや昨日はおれが応対に出たから、こいつは直接宅配便のおっさんを見てはいなかったな。
「この人、本当に宅配便の人かな」
「どういう意味だよ」
真凛の頬が緩んでるということは、結果はだいたい想像できるが。
「軍人の歩き方をする宅配便の人って、日本にはそうは居ないと思うな」
「兵隊の歩き方って。お前そんなもんわかるのか」
「昔良く大会に飛び入りで参加してくる元軍人の外人さんたちがいて。そういう人に共通する歩方だった。歩幅がかっちりしてるからすぐわかるよ」
ドコノ大会デスカ。
「ははあ。じゃあマシンガンでも持って攻め込んでくるとか?宅配便のおっちゃんが」
冗談のつもりだったのだが。
「陸軍の人とはちょっと違うと思う。どっちかって言うと、もっと身軽な武装を前提にしてるかも」
「軽装と言うと、ナイフ、拳銃といった所かな」
横から口を出す直樹。
「ええ。それとあんまり表に出てくる人じゃないみたいですね」
「と言うと?おい亘理、拡大して見ろ」
「へいへい」
どうでもいいが三人いると狭くてしょうがない。
「……やっぱり。歩行に癖があります。意図的に隠しているんだろうけど、歩くたびに足の裏に重心が移動してる。これ、忍び足の要領ですよ」
「忍び足が日常化しているような生活を送っている、という事か」
「んで歩調は軍隊調、だろ。と言うと……」
どっかの特殊部隊、というところだろうか。
「あるいはどこかの秘密警察とか、な」
直樹が苦々しげに呟いた。どうもこいつはこの種の手合いと反りが合わないらしい。
「どこかの軍人が足を洗って宅配便会社に勤めてる、って線を期待したいところだがなあ。まあ無いだろうな。要注意人物、以後は来ても応対しない方が良いな」
「真凛君。一つ聞くが。その男の歩き方から、得意そうな間合いとかはわかるかい?」
間合い、とくればこいつの得意領分だ。何と言っても相手の体勢から弾道すら見切る娘である。と、真凛の顔がふと曇る。
「どーした?」
「うん。この人の腰の入れ方だと明らかに一足一刀以上の遠間を想定した攻撃を繰り出してくるはずなのに。歩き方はほとんど武器を携行しないものに近いんだよ。癖をここまで消せるものなのかな、だとしたら相当な強者だけど」
んー。よくわからん。ちょっと整理。
「つまりこういうことか。槍みたいな長い間合いで攻撃するのが得意のはずなのに、普段は槍なんて持ち歩いていない、ってわけか」
「うん。そんな長いものをぶら下げてれば必然的にどこかバランスが歪むはずなんだけど」
「そりゃ、誰だって昼日中から槍なんぞぶらさげて歩いている奴はいないよ」
「そう。忍び歩きが習性になっているような人だし。だからこそ、長い槍を扱うことが信じられないんだ」
ふぅむ。
「何、そう悩むこともあるまい。事態はもう少し簡単なのではないかな」
「え、どういうことですか?」
「ンだよ、言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「そうだな。例えば、そいつの攻撃方法が『手から何かを槍のように伸ばす』だとかな」
あ、とおれと真凛の声が重なった。
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