46 / 368
第2話:『秋葉原ハウスシッター』
◆06:スイカとともに一夜を過ごし−2
しおりを挟むクランビール株式会社。世界的にも著名な企業である。日本人にもっとも愛飲されるブランドの一つ『クランビール』を主軸とし、ワイン、ウィスキー各種も販売する大手飲料メーカー。取り扱うのはアルコール類だけにとどまらず、炭酸飲料やジュース、はたまたその原料でもあるフルーツの輸入や栽培も行っている。一部ではそれらの食材を使ってレストランのチェーン店の経営まで手がけている。
ちなみになぜおれがこんなに詳しいかといえば、クランビールは大学生(とくに女性)にとっては人気の高い企業であり、一年生の頃、就職活動中の先輩に頼まれて昼飯と引き換えに色々と調べて周ったことがあったからだったりする。
『クランビールは日本と世界の各地に工場を持っているんだけどね。農場や果樹園も企業として所有して、お酒やジュースの原料となる麦や果物そのものの品種改良にも力を入れているの。都内にも研究所を建てていて、彼はそこで技術者として採用されているわ』
ふうむ。おれは独りごちた。
「所長。うちって知財の方に伝手ありますよね」
もちろん見えるわけも無いが、電話口の向こうで所長がにやりと笑った気がする。
『当然。今、来音ちゃんに当たってもらってるわ。何か判ったらすぐ知らせてくれるはずよ』
「了解です。となると、やはり研究所が怪しいかな?」
とは言いつつもおれは首を捻る。新種のスイカを巡って争いがある。それはわからんでもないが、殺し屋までやって来るというのはいくら何でもしっくりこない。それで殺されてやらねばならんほどおれの命は安くない、と思う……のだが。最近おれのブランド相場が下がっているからなあ。
『研究所に関してのデータもそれなりに集めてあるわ。だけど、正直な話これと言って面白い話は無かったわねえ』
「なんか変な研究をしてたとか。他人には言えない秘密があったとかは?」
『さっきも言ったけど、職場での彼の評価はごく上々よ。仕事もいくつかのプロジェクトを兼任していたみたいだけど、いずれも内容はともかく、主旨はハッキリしたものだったわ』
内容が明かせないのは企業秘密なのだから当然だろう。その反面、主旨がハッキリしているのはまっとうな仕事なのだからこれも当然だ。特に不審な点は無い、か。おれが電話越しにしばし考えていると、所長が言う。
『どうせそこに居たって落ち着かないんでしょ?こっちでも可能な限りデータを集めてるから、まずは事務所に戻ってきなさい』
それもそうか。おれは珈琲をすすり、直樹と真凛にその旨を告げる。二人とも頷いた。
「部屋の留守番はどうしましょうかね」
『話を聞く限りでは、おおっぴらに昼間から暴れられる手合いでもないみたいだし。直樹君一人でも大丈夫でしょう』
「直樹さん、いいですか?」
「俺は一向に構わんよ」
おれも流石に少し外に出たかったので異存はなかった。何しろエアコン効かせ過ぎ、かつ野郎と同室ではゆっくりごろ寝も出来ないというもの。おれと真凛は荷物をまとめて部屋を出ることにした。と、直樹が声をかけてきた。
「亘理」
「何だよ」
琥珀の瞳が異様な真剣味を帯びている。どうもコイツのこういう顔は苦手だ。
「貴様に一つ、頼みがある」
「……わかったよ。聞いてやる」
こう言わざるを得ないあたり、腐れ縁も極まれりというものだ。と、直樹はおもむろに自分のカバンと、あの大箱をスイカの海から掘り出してきやがった。
「いつ乱戦になるとも知れぬ場所だ。我が姫君達の護衛を頼むぞ」
「……今度昼飯オゴれよ」
「ああ。先日オープンしたばかりのいい店を知っている。貴様も連れて行ってやろう」
結局異存ありまくりのまま、部屋を引き揚げるハメになった。ちなみに後日、奴の紹介で秋葉原の某ビルにオープンした某メイド喫茶を訪問し、そこでまた神経が磨り減るような思いをすることになるのだが。それはまた機会があれば語ることもあるだろう。
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
極東奪還闘争
又吉秋香
経済・企業
ウラジオストクへ農業進出した時に巻き起こった農地の争奪戦を小説としてリポートする。韓国が国ぐるみで巨大農場を建設したり、中国企業の暗躍。
将来の食料不足に備え農地を獲得すべく各国が入り乱れて「ランドラッシュ」を繰り広げる中で、日本はこの現実にどう向かい合うべきなのか。「食料問題」という観点から人類の未来を検証する。
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる