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第2話:『秋葉原ハウスシッター』
◆06:スイカとともに一夜を過ごし−2
しおりを挟むクランビール株式会社。世界的にも著名な企業である。日本人にもっとも愛飲されるブランドの一つ『クランビール』を主軸とし、ワイン、ウィスキー各種も販売する大手飲料メーカー。取り扱うのはアルコール類だけにとどまらず、炭酸飲料やジュース、はたまたその原料でもあるフルーツの輸入や栽培も行っている。一部ではそれらの食材を使ってレストランのチェーン店の経営まで手がけている。
ちなみになぜおれがこんなに詳しいかといえば、クランビールは大学生(とくに女性)にとっては人気の高い企業であり、一年生の頃、就職活動中の先輩に頼まれて昼飯と引き換えに色々と調べて周ったことがあったからだったりする。
『クランビールは日本と世界の各地に工場を持っているんだけどね。農場や果樹園も企業として所有して、お酒やジュースの原料となる麦や果物そのものの品種改良にも力を入れているの。都内にも研究所を建てていて、彼はそこで技術者として採用されているわ』
ふうむ。おれは独りごちた。
「所長。うちって知財の方に伝手ありますよね」
もちろん見えるわけも無いが、電話口の向こうで所長がにやりと笑った気がする。
『当然。今、来音ちゃんに当たってもらってるわ。何か判ったらすぐ知らせてくれるはずよ』
「了解です。となると、やはり研究所が怪しいかな?」
とは言いつつもおれは首を捻る。新種のスイカを巡って争いがある。それはわからんでもないが、殺し屋までやって来るというのはいくら何でもしっくりこない。それで殺されてやらねばならんほどおれの命は安くない、と思う……のだが。最近おれのブランド相場が下がっているからなあ。
『研究所に関してのデータもそれなりに集めてあるわ。だけど、正直な話これと言って面白い話は無かったわねえ』
「なんか変な研究をしてたとか。他人には言えない秘密があったとかは?」
『さっきも言ったけど、職場での彼の評価はごく上々よ。仕事もいくつかのプロジェクトを兼任していたみたいだけど、いずれも内容はともかく、主旨はハッキリしたものだったわ』
内容が明かせないのは企業秘密なのだから当然だろう。その反面、主旨がハッキリしているのはまっとうな仕事なのだからこれも当然だ。特に不審な点は無い、か。おれが電話越しにしばし考えていると、所長が言う。
『どうせそこに居たって落ち着かないんでしょ?こっちでも可能な限りデータを集めてるから、まずは事務所に戻ってきなさい』
それもそうか。おれは珈琲をすすり、直樹と真凛にその旨を告げる。二人とも頷いた。
「部屋の留守番はどうしましょうかね」
『話を聞く限りでは、おおっぴらに昼間から暴れられる手合いでもないみたいだし。直樹君一人でも大丈夫でしょう』
「直樹さん、いいですか?」
「俺は一向に構わんよ」
おれも流石に少し外に出たかったので異存はなかった。何しろエアコン効かせ過ぎ、かつ野郎と同室ではゆっくりごろ寝も出来ないというもの。おれと真凛は荷物をまとめて部屋を出ることにした。と、直樹が声をかけてきた。
「亘理」
「何だよ」
琥珀の瞳が異様な真剣味を帯びている。どうもコイツのこういう顔は苦手だ。
「貴様に一つ、頼みがある」
「……わかったよ。聞いてやる」
こう言わざるを得ないあたり、腐れ縁も極まれりというものだ。と、直樹はおもむろに自分のカバンと、あの大箱をスイカの海から掘り出してきやがった。
「いつ乱戦になるとも知れぬ場所だ。我が姫君達の護衛を頼むぞ」
「……今度昼飯オゴれよ」
「ああ。先日オープンしたばかりのいい店を知っている。貴様も連れて行ってやろう」
結局異存ありまくりのまま、部屋を引き揚げるハメになった。ちなみに後日、奴の紹介で秋葉原の某ビルにオープンした某メイド喫茶を訪問し、そこでまた神経が磨り減るような思いをすることになるのだが。それはまた機会があれば語ることもあるだろう。
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