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第2話:『秋葉原ハウスシッター』
◆04:絶世のダメ人間−2
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「同時に二つの質問をするとは、相変わらず性急な男だな貴様は。順番に答えよう。まず一つ目、この箱の中身だが――」
「あ、いいやっぱ聞きたくねえ」
「――明日発売、『サイバー堕天使えるみかスクランブル』ブルーレイBOXと、初回特典のコンプリートフィギュア十三体コレクションだ。ブルーレイの方は放送時にカットされた映像の完全版と監督および声優陣によるオーディオコメンタリーを収録。フィギュアは長いこと立体化が望まれていたサリっちこと第十一堕天使サリエルとナス美こと第十二堕天使サルガタナスがついに出揃っている。当然ながら凄まじい人気でな。予約を逃したために本日開店前から並ぶ羽目になった」
ワケの解らない単語を並べるな。っていうかサリっちだのナス美というのは誰がつけた愛称なんだ。そもそもどこが当然なんだ。
「で、てめえはそれを買うために夏の朝っぱらから秋葉原の店頭に並んでいた、と」
「朝ではない。昨夜からだ。さすがに日差しがきつくなってくると堪えたが、何、苦労に見合うだけの成果はあった」
阿呆だ。阿呆がここにいる。
「そして二つ目の質問だが――。包装紙から判るように秋葉原の某大手電気店ということになる。そしてここは同じ千代田区。購入後ここまで歩いてくることなど造作も無い」
「物理的には造作も無いだろうよ。で、お前はそんなもんぶら下げて天下の公道を歩いてきたというわけだ」
「正確には日没まで一日中秋葉原を散策していたわけだがな。戦利品も中々のものだぞ」
良く見れば左肩に下げた鞄はみっちりと膨れている。おれには良くわからんが本やらポスターやらをまたぞろ大量に買い込んだのだろう。そう、これがコイツと並んで街を歩きたく無い理由。ほとんどの女性が嘆息する外見とは裏腹に、コイツはアニメや漫画、ゲームの美少女にしか興味がないのであった。
おれ以上に稼いでいるくせに、こいつの生活レベルはおれより低い。稼いだ給料をこいつは惜しげもなくこの手のグッズに投入しているせいだ。
「お前の戦果報告なんぞどうでもいい。そんなもん職場に持ち込むなよてめえ」
「留守番任務に関しては、私物の持ち込みは認められているだろう。始終小物を事務所に置きっぱなしにしている貴様には言われたくないな」
「おれが持ち込んでいるのはせいぜいが健康グッズの類だ。ちゃんと職場にだって貢献しているだろうが」
しがない貧乏人たるおれのささやかな趣味は健康グッズの収集である。足のツボを刺激するサンダルとか、目元を冷やすジェル型のシートとか、そういったものをときどき買い込んでは事務所に並べている。人間健康第一ですよ?小うるさいコイツや、もともと健康馬鹿の真凛あたりには事務所が散らかると不評なのだが、他の連中には概ね好評なのだった。ちなみに「腕の引き締め」「肌をキレイに」などとサブタイトルがついているグッズはだいたい一週間を過ぎた辺りで行方不明になる。現場をつかんではいないが、所長あたりが持ち帰っているだろう事は想像に難くない。
「とにかく。次の交代の時には自分の部屋に持って帰れよ」
このスイカの海にそんなクソでかい箱と何かがみっちり詰まったバッグを置かれては、ますます足の踏み場も無い。ていうかそんな密室状態でこいつと同じ部屋に居たくねえ。
「了解した。俺としても大切な姫君たちをこのようなスイカの海に眠らせておくのは忍びない」
うげ。姫君ってまさかその人形の事か。
「直樹さん、お久しぶりです」
帰り支度をしていた真凛がおれ達のほうにやってくる。
「やあ真凛君。先日貸した『決戦竜虎』は読み終わったかい?」
「うん。凄く面白かったですよ~。ボクはやっぱり竜の英俊さんですね。虎の涯もかっこいいけど」
スイマセン、君らの使う単語が理解デキマセン。
「あ、『サイバー堕天使』のブルーレイ買ったんですね。これってひょっとしてラファエルの最終奥義発動のシーンも入ってます?」
「無論。この話だけちゃんと延長されているそうだ」
「わかってるなあスタッフ」
「……あの。それってそんなにメジャーなアニメのか?」
おれは恐る恐る尋ねる。
「「常識だ(だよ)」」
ソウナンデスカ。何時の間におれは世間の常識人から外れてしまったのだろう。ちなみにそれから四十分ほど、真凛と直樹の二人がかりで『サイバー堕天使』のシナリオとキャラクターの魅力について懇々と諭されてしまった。結果、そのアニメに登場する十三体のロボットの形をした堕天使と、それぞれを守護天使に持つ女の子の名前を覚えた事が、本日唯一のおれの成果であった。
「あ、いいやっぱ聞きたくねえ」
「――明日発売、『サイバー堕天使えるみかスクランブル』ブルーレイBOXと、初回特典のコンプリートフィギュア十三体コレクションだ。ブルーレイの方は放送時にカットされた映像の完全版と監督および声優陣によるオーディオコメンタリーを収録。フィギュアは長いこと立体化が望まれていたサリっちこと第十一堕天使サリエルとナス美こと第十二堕天使サルガタナスがついに出揃っている。当然ながら凄まじい人気でな。予約を逃したために本日開店前から並ぶ羽目になった」
ワケの解らない単語を並べるな。っていうかサリっちだのナス美というのは誰がつけた愛称なんだ。そもそもどこが当然なんだ。
「で、てめえはそれを買うために夏の朝っぱらから秋葉原の店頭に並んでいた、と」
「朝ではない。昨夜からだ。さすがに日差しがきつくなってくると堪えたが、何、苦労に見合うだけの成果はあった」
阿呆だ。阿呆がここにいる。
「そして二つ目の質問だが――。包装紙から判るように秋葉原の某大手電気店ということになる。そしてここは同じ千代田区。購入後ここまで歩いてくることなど造作も無い」
「物理的には造作も無いだろうよ。で、お前はそんなもんぶら下げて天下の公道を歩いてきたというわけだ」
「正確には日没まで一日中秋葉原を散策していたわけだがな。戦利品も中々のものだぞ」
良く見れば左肩に下げた鞄はみっちりと膨れている。おれには良くわからんが本やらポスターやらをまたぞろ大量に買い込んだのだろう。そう、これがコイツと並んで街を歩きたく無い理由。ほとんどの女性が嘆息する外見とは裏腹に、コイツはアニメや漫画、ゲームの美少女にしか興味がないのであった。
おれ以上に稼いでいるくせに、こいつの生活レベルはおれより低い。稼いだ給料をこいつは惜しげもなくこの手のグッズに投入しているせいだ。
「お前の戦果報告なんぞどうでもいい。そんなもん職場に持ち込むなよてめえ」
「留守番任務に関しては、私物の持ち込みは認められているだろう。始終小物を事務所に置きっぱなしにしている貴様には言われたくないな」
「おれが持ち込んでいるのはせいぜいが健康グッズの類だ。ちゃんと職場にだって貢献しているだろうが」
しがない貧乏人たるおれのささやかな趣味は健康グッズの収集である。足のツボを刺激するサンダルとか、目元を冷やすジェル型のシートとか、そういったものをときどき買い込んでは事務所に並べている。人間健康第一ですよ?小うるさいコイツや、もともと健康馬鹿の真凛あたりには事務所が散らかると不評なのだが、他の連中には概ね好評なのだった。ちなみに「腕の引き締め」「肌をキレイに」などとサブタイトルがついているグッズはだいたい一週間を過ぎた辺りで行方不明になる。現場をつかんではいないが、所長あたりが持ち帰っているだろう事は想像に難くない。
「とにかく。次の交代の時には自分の部屋に持って帰れよ」
このスイカの海にそんなクソでかい箱と何かがみっちり詰まったバッグを置かれては、ますます足の踏み場も無い。ていうかそんな密室状態でこいつと同じ部屋に居たくねえ。
「了解した。俺としても大切な姫君たちをこのようなスイカの海に眠らせておくのは忍びない」
うげ。姫君ってまさかその人形の事か。
「直樹さん、お久しぶりです」
帰り支度をしていた真凛がおれ達のほうにやってくる。
「やあ真凛君。先日貸した『決戦竜虎』は読み終わったかい?」
「うん。凄く面白かったですよ~。ボクはやっぱり竜の英俊さんですね。虎の涯もかっこいいけど」
スイマセン、君らの使う単語が理解デキマセン。
「あ、『サイバー堕天使』のブルーレイ買ったんですね。これってひょっとしてラファエルの最終奥義発動のシーンも入ってます?」
「無論。この話だけちゃんと延長されているそうだ」
「わかってるなあスタッフ」
「……あの。それってそんなにメジャーなアニメのか?」
おれは恐る恐る尋ねる。
「「常識だ(だよ)」」
ソウナンデスカ。何時の間におれは世間の常識人から外れてしまったのだろう。ちなみにそれから四十分ほど、真凛と直樹の二人がかりで『サイバー堕天使』のシナリオとキャラクターの魅力について懇々と諭されてしまった。結果、そのアニメに登場する十三体のロボットの形をした堕天使と、それぞれを守護天使に持つ女の子の名前を覚えた事が、本日唯一のおれの成果であった。
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