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第2話:『秋葉原ハウスシッター』
◆04:絶世のダメ人間−1
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時刻も午後七時を回ると、真夏とはいえ辺りは暗い。散々日本全土に熱線をばら撒いた太陽が退場しても、熱気どもは相変わらず傍若無人の限りを尽くしている模様だ。
「さて。そろそろ交代だな。直樹の野郎が来るはずだ」
おれは呟く。もともとこんな留守番の任務を一人二人で延々とこなしていては気が詰まってしまう。昼夜交代しつつ張り込むというのが典型的なパターンだ。もっとも、おれのように自室より居心地が良かったりする場合はまた別なのだが。
「もうそんな時間かぁ」
ようやく『ガラスの仮面』を読み終えた真凛が肩をまわす。この部屋に入ったのは午後三時ごろだから、おれ達は他愛ない話と文庫本で四時間をつぶしたことになる。
「おなかすいたなあ」
「夕飯は実家だったか?」
「そうだよ。陽司の麻婆豆腐が食べられないのはザンネンだけど」
「抜かせ。お前の家なら豪華和食がてんこ盛りじゃないか」
一度事務所の冷蔵庫の残りもんを処分するために麻婆豆腐を作ったことがあるのだが、どうもウチの連中には好評だった模様。中華は一人暮らしの強い味方です。炒めれば多少食材が古くたってわからないしね。それはさておき、未成年を泊り込みで働かせるのは何かと不味いので、真凛はここで交代。明日の朝に再合流ということになる。
「最近は変なのが多いからな。気をつけて帰れよ」
「心配しなくても大丈夫だよ。ここからなら地下鉄で一本だし」
「そうか。もし変なのにからまれても、病院送りまでに留めとけよ」
「ボクは今リアルタイムでからまれてるわけだけど、病院送りでいいのかな?」
おれ達がそんなくだらないやり取りをしていると、玄関のインターホンが再度鳴った。どうやら交代要員が到着したらしい。
「で、だ。当然予想は出来たことだが。いい加減に何とかならんのか、それ」
おれは部屋に入ってきた男を一瞥するなり、初弾を放って迎撃した。
「ふむ。雅を解さぬ貴様には到底理解は出来ぬであろうな」
腹の立つ男だ。歳の頃は二十歳前後。一応戸籍上は十九歳だったはずだ。すらりとした長身、一見華奢に見えるがバレエダンサーのように絞られた体格。そしてモデルのような小さな顔にシャープな輪郭と白い肌。なにより印象を決定付けるのが、星が流れるかのような長い銀髪と、インペリアルトパーズを思わせるやや吊り気味の茶色の瞳。ついでに鼻に乗せてるメガネが理知的なイメージをより強化している。要するに非の打ち所のない色男というわけだ。っていうかムカツク。服装はというと、薄手とはいえこのクソ暑いのに長袖のタートルネックなんぞを着込んでいる。
笠桐・R・直樹。自称日英ハーフのこの男が、おれ達『フレイムアップ』のメンバーの一員にして、今回のミッションの三人目のメンバーなのであった。十人近く居る事務所のメンバーの中でも、こいつとおれは特に昔から因縁が深い。とにかく一緒に並んで街を歩きたくない男なのである。老若の女性をひきつけてやまない顔立ちもそうだが、主だった原因は、
「それにしても何なんだその馬鹿でかい箱は。というかてめえ、そんなものをどこから持ち込んできやがったんだ」
玄関口からスイカの海を乗り越えてきた直樹が右手にぶら下げているのは、長期海外旅行用のスーツケースに匹敵するほどの馬鹿でかい箱である。大手電気店兼サブカルチャー品取扱店の包装紙で厳重に梱包されており、『そういった類』のものであることを雄弁に物語っている。
「さて。そろそろ交代だな。直樹の野郎が来るはずだ」
おれは呟く。もともとこんな留守番の任務を一人二人で延々とこなしていては気が詰まってしまう。昼夜交代しつつ張り込むというのが典型的なパターンだ。もっとも、おれのように自室より居心地が良かったりする場合はまた別なのだが。
「もうそんな時間かぁ」
ようやく『ガラスの仮面』を読み終えた真凛が肩をまわす。この部屋に入ったのは午後三時ごろだから、おれ達は他愛ない話と文庫本で四時間をつぶしたことになる。
「おなかすいたなあ」
「夕飯は実家だったか?」
「そうだよ。陽司の麻婆豆腐が食べられないのはザンネンだけど」
「抜かせ。お前の家なら豪華和食がてんこ盛りじゃないか」
一度事務所の冷蔵庫の残りもんを処分するために麻婆豆腐を作ったことがあるのだが、どうもウチの連中には好評だった模様。中華は一人暮らしの強い味方です。炒めれば多少食材が古くたってわからないしね。それはさておき、未成年を泊り込みで働かせるのは何かと不味いので、真凛はここで交代。明日の朝に再合流ということになる。
「最近は変なのが多いからな。気をつけて帰れよ」
「心配しなくても大丈夫だよ。ここからなら地下鉄で一本だし」
「そうか。もし変なのにからまれても、病院送りまでに留めとけよ」
「ボクは今リアルタイムでからまれてるわけだけど、病院送りでいいのかな?」
おれ達がそんなくだらないやり取りをしていると、玄関のインターホンが再度鳴った。どうやら交代要員が到着したらしい。
「で、だ。当然予想は出来たことだが。いい加減に何とかならんのか、それ」
おれは部屋に入ってきた男を一瞥するなり、初弾を放って迎撃した。
「ふむ。雅を解さぬ貴様には到底理解は出来ぬであろうな」
腹の立つ男だ。歳の頃は二十歳前後。一応戸籍上は十九歳だったはずだ。すらりとした長身、一見華奢に見えるがバレエダンサーのように絞られた体格。そしてモデルのような小さな顔にシャープな輪郭と白い肌。なにより印象を決定付けるのが、星が流れるかのような長い銀髪と、インペリアルトパーズを思わせるやや吊り気味の茶色の瞳。ついでに鼻に乗せてるメガネが理知的なイメージをより強化している。要するに非の打ち所のない色男というわけだ。っていうかムカツク。服装はというと、薄手とはいえこのクソ暑いのに長袖のタートルネックなんぞを着込んでいる。
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「それにしても何なんだその馬鹿でかい箱は。というかてめえ、そんなものをどこから持ち込んできやがったんだ」
玄関口からスイカの海を乗り越えてきた直樹が右手にぶら下げているのは、長期海外旅行用のスーツケースに匹敵するほどの馬鹿でかい箱である。大手電気店兼サブカルチャー品取扱店の包装紙で厳重に梱包されており、『そういった類』のものであることを雄弁に物語っている。
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※
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