人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
上 下
40 / 368
第2話:『秋葉原ハウスシッター』

◆04:絶世のダメ人間−1

しおりを挟む
 時刻も午後七時を回ると、真夏とはいえ辺りは暗い。散々日本全土に熱線をばら撒いた太陽が退場しても、熱気どもは相変わらず傍若無人の限りを尽くしている模様だ。

「さて。そろそろ交代だな。直樹の野郎が来るはずだ」

 おれは呟く。もともとこんな留守番の任務を一人二人で延々とこなしていては気が詰まってしまう。昼夜交代しつつ張り込むというのが典型的なパターンだ。もっとも、おれのように自室より居心地が良かったりする場合はまた別なのだが。

「もうそんな時間かぁ」

 ようやく『ガラスの仮面』を読み終えた真凛が肩をまわす。この部屋に入ったのは午後三時ごろだから、おれ達は他愛ない話と文庫本で四時間をつぶしたことになる。

「おなかすいたなあ」
「夕飯は実家だったか?」
「そうだよ。陽司の麻婆豆腐が食べられないのはザンネンだけど」
「抜かせ。お前の家なら豪華和食がてんこ盛りじゃないか」

 一度事務所の冷蔵庫の残りもんを処分するために麻婆豆腐を作ったことがあるのだが、どうもウチの連中には好評だった模様。中華は一人暮らしの強い味方です。炒めれば多少食材が古くたってわからないしね。それはさておき、未成年を泊り込みで働かせるのは何かと不味いので、真凛はここで交代。明日の朝に再合流ということになる。

「最近は変なのが多いからな。気をつけて帰れよ」
「心配しなくても大丈夫だよ。ここからなら地下鉄で一本だし」
「そうか。もし変なのにからまれても、病院送りまでに留めとけよ」
「ボクは今リアルタイムでからまれてるわけだけど、病院送りでいいのかな?」

 おれ達がそんなくだらないやり取りをしていると、玄関のインターホンが再度鳴った。どうやら交代要員が到着したらしい。


 
「で、だ。当然予想は出来たことだが。いい加減に何とかならんのか、それ」

 おれは部屋に入ってきた男を一瞥するなり、初弾を放って迎撃した。

「ふむ。雅を解さぬ貴様には到底理解は出来ぬであろうな」

 腹の立つ男だ。歳の頃は二十歳前後。一応戸籍上は十九歳だったはずだ。すらりとした長身、一見華奢に見えるがバレエダンサーのように絞られた体格。そしてモデルのような小さな顔にシャープな輪郭と白い肌。なにより印象を決定付けるのが、星が流れるかのような長い銀髪と、インペリアルトパーズを思わせるやや吊り気味の茶色の瞳。ついでに鼻に乗せてるメガネが理知的なイメージをより強化している。要するに非の打ち所のない色男というわけだ。っていうかムカツク。服装はというと、薄手とはいえこのクソ暑いのに長袖のタートルネックなんぞを着込んでいる。

 笠桐かさきりリッチモンド直樹なおき。自称日英ハーフのこの男が、おれ達『フレイムアップ』のメンバーの一員にして、今回のミッションの三人目のメンバーなのであった。十人近く居る事務所のメンバーの中でも、こいつとおれは特に昔から因縁が深い。とにかく一緒に並んで街を歩きたくない男なのである。老若の女性をひきつけてやまない顔立ちもそうだが、主だった原因は、

「それにしても何なんだその馬鹿でかい箱は。というかてめえ、そんなものをどこから持ち込んできやがったんだ」

 玄関口からスイカの海を乗り越えてきた直樹が右手にぶら下げているのは、長期海外旅行用のスーツケースに匹敵するほどの馬鹿でかい箱である。大手電気店兼サブカルチャー品取扱店の包装紙で厳重に梱包されており、『そういった類』のものであることを雄弁に物語っている。

しおりを挟む
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
感想 1

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『五十年目の理解』

小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...