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第1話:『副都心スニーカー』
◆14:仕事は終わって
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「『ゲームショウ、大盛況のうちに終了。今後の注目株はなんと言ってもルーンストライカーセカンドエディション!』か」
学校の講義が終わった週末。おれは今回の案件の給料を受け取るべく事務所を訪れていた。今週の土日は突発の事件もなかったようで、仕事の片付いた事務所の中、おれは学校の生協で買った週刊のゲーム雑誌を広げて、真凛と、先日豚のジョナサン君をどうにかとっつかまえた立役者である直樹らとのんびりだべっている、という次第。
「『同時発表のゾディアック・デュエル2にも大期待』だって?」
「こら、覗き込むなって」
おれと真凛があーだこうだと騒いでいると、書き上げた書類を処理済のトレーに放り込み、所長が自分の机から大きな伸びを一つしつつ立ち上がった。
「ま、それにしてもまたまた派手にやったもんねえ。ウチもたまには『人災』って呼ばれないようなスマートな仕事をしたいものだけど」
「そう思うならもうちっとまともな仕事回してくださいよ」
時間に余裕があればこんな強行突破はせずに済んだはずだし、だいたい今回は相手から喧嘩を売られたわけで、暴れたくて暴れたわけではない、はずだ。
「いやーでも今回は、事件を表沙汰に出来るはずもないザラスの渉外の連中を散々つつき回してやったから大分スッキリしたわよ。あそこのお抱え弁護士、法律を盾にとっていちいち煩いのよねえ」
たっぷりミルクを落とし込んだ珈琲を飲み干し、邪悪な笑みを所長は浮かべた。まさか最初っからこれが目当てだったんではあるまいな。
「そうそう、亘理君。貴方宛にメールが届いているわよ」
「おれ宛に?」
事務所に届くというのもヘンなものだが。
「今転送したわよ」
携帯端末を確認し、納得した。差出人は門宮さんだった。名刺交換したわけでもないのだから、事務所に送るしかなかったのだろう。そこには簡単な挨拶と、今後は味方だと良いですね、との旨が添えてあった。
「スケアクロウの奴も、幸か不幸かすぐに業務復帰できるとさ」
「便利だなあ。ボクなんかまだ撃たれた肩が痛いのに」
ま、いつ敵と味方が入れ替わるかわからないこの業界だ。個人レベルで交流を深めておくのも、そう悪いことではないだろう。
「おっと。これから食事でもどうですか、だってさ~。ひょっとして意外と脈アリ??」
「……どうせウチの情報を色々教えてほしいってことじゃないの?」
なにやら冷たい気配が背後でするが、務めて無視。と、所長の携帯がメールの着信音を奏でた。あら、と液晶画面をみやる所長が、しばし沈黙する。
「……あ。じゃあおれ、これから金曜日の夜を満喫しますんでそれじゃ」
ほとんど草食動物の本能で腰を浮かす。
「亘理君。実は貴方向けの依頼が一件、たった今入ったんだけど」
「いやだってほらおれ以外にも今は直樹がいるわけだしってアレいねぇー!?」
「ん、直樹さんはついさっき帰ったよ」
あの薄情者。
「しょうがないね陽司。今日は諦めたほうが良いよ。ボクが付き合ってあげるからさ」
「そういうセリフはあと三年経ってから言おうな」
「いや別に一人で行ってきてもらってもかまわないんだけど?今度の依頼は、満月の夜に新宿の歓楽街で狼男が暴れまわってるから取り押さえて欲しいんだって。どうにも凶暴らしいわね」
「あのう見捨てないでください真凛サマ」
「いやボクこれから帰って宿題やらないと」
「ってえかマジでやるんですか?」
「今OKの返事を送っといたわ。担当名はあなたで。安心しなさい。これで滞納してた貴方のアパートの家賃もちゃんと払えるでしょ?」
何故におれの口座内容も把握しているのか。
「カンベンしてくださいよぉ」
おれの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
【1話完】
学校の講義が終わった週末。おれは今回の案件の給料を受け取るべく事務所を訪れていた。今週の土日は突発の事件もなかったようで、仕事の片付いた事務所の中、おれは学校の生協で買った週刊のゲーム雑誌を広げて、真凛と、先日豚のジョナサン君をどうにかとっつかまえた立役者である直樹らとのんびりだべっている、という次第。
「『同時発表のゾディアック・デュエル2にも大期待』だって?」
「こら、覗き込むなって」
おれと真凛があーだこうだと騒いでいると、書き上げた書類を処理済のトレーに放り込み、所長が自分の机から大きな伸びを一つしつつ立ち上がった。
「ま、それにしてもまたまた派手にやったもんねえ。ウチもたまには『人災』って呼ばれないようなスマートな仕事をしたいものだけど」
「そう思うならもうちっとまともな仕事回してくださいよ」
時間に余裕があればこんな強行突破はせずに済んだはずだし、だいたい今回は相手から喧嘩を売られたわけで、暴れたくて暴れたわけではない、はずだ。
「いやーでも今回は、事件を表沙汰に出来るはずもないザラスの渉外の連中を散々つつき回してやったから大分スッキリしたわよ。あそこのお抱え弁護士、法律を盾にとっていちいち煩いのよねえ」
たっぷりミルクを落とし込んだ珈琲を飲み干し、邪悪な笑みを所長は浮かべた。まさか最初っからこれが目当てだったんではあるまいな。
「そうそう、亘理君。貴方宛にメールが届いているわよ」
「おれ宛に?」
事務所に届くというのもヘンなものだが。
「今転送したわよ」
携帯端末を確認し、納得した。差出人は門宮さんだった。名刺交換したわけでもないのだから、事務所に送るしかなかったのだろう。そこには簡単な挨拶と、今後は味方だと良いですね、との旨が添えてあった。
「スケアクロウの奴も、幸か不幸かすぐに業務復帰できるとさ」
「便利だなあ。ボクなんかまだ撃たれた肩が痛いのに」
ま、いつ敵と味方が入れ替わるかわからないこの業界だ。個人レベルで交流を深めておくのも、そう悪いことではないだろう。
「おっと。これから食事でもどうですか、だってさ~。ひょっとして意外と脈アリ??」
「……どうせウチの情報を色々教えてほしいってことじゃないの?」
なにやら冷たい気配が背後でするが、務めて無視。と、所長の携帯がメールの着信音を奏でた。あら、と液晶画面をみやる所長が、しばし沈黙する。
「……あ。じゃあおれ、これから金曜日の夜を満喫しますんでそれじゃ」
ほとんど草食動物の本能で腰を浮かす。
「亘理君。実は貴方向けの依頼が一件、たった今入ったんだけど」
「いやだってほらおれ以外にも今は直樹がいるわけだしってアレいねぇー!?」
「ん、直樹さんはついさっき帰ったよ」
あの薄情者。
「しょうがないね陽司。今日は諦めたほうが良いよ。ボクが付き合ってあげるからさ」
「そういうセリフはあと三年経ってから言おうな」
「いや別に一人で行ってきてもらってもかまわないんだけど?今度の依頼は、満月の夜に新宿の歓楽街で狼男が暴れまわってるから取り押さえて欲しいんだって。どうにも凶暴らしいわね」
「あのう見捨てないでください真凛サマ」
「いやボクこれから帰って宿題やらないと」
「ってえかマジでやるんですか?」
「今OKの返事を送っといたわ。担当名はあなたで。安心しなさい。これで滞納してた貴方のアパートの家賃もちゃんと払えるでしょ?」
何故におれの口座内容も把握しているのか。
「カンベンしてくださいよぉ」
おれの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
【1話完】
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