30 / 368
第1話:『副都心スニーカー』
◆14:仕事は終わって
しおりを挟む
「『ゲームショウ、大盛況のうちに終了。今後の注目株はなんと言ってもルーンストライカーセカンドエディション!』か」
学校の講義が終わった週末。おれは今回の案件の給料を受け取るべく事務所を訪れていた。今週の土日は突発の事件もなかったようで、仕事の片付いた事務所の中、おれは学校の生協で買った週刊のゲーム雑誌を広げて、真凛と、先日豚のジョナサン君をどうにかとっつかまえた立役者である直樹らとのんびりだべっている、という次第。
「『同時発表のゾディアック・デュエル2にも大期待』だって?」
「こら、覗き込むなって」
おれと真凛があーだこうだと騒いでいると、書き上げた書類を処理済のトレーに放り込み、所長が自分の机から大きな伸びを一つしつつ立ち上がった。
「ま、それにしてもまたまた派手にやったもんねえ。ウチもたまには『人災』って呼ばれないようなスマートな仕事をしたいものだけど」
「そう思うならもうちっとまともな仕事回してくださいよ」
時間に余裕があればこんな強行突破はせずに済んだはずだし、だいたい今回は相手から喧嘩を売られたわけで、暴れたくて暴れたわけではない、はずだ。
「いやーでも今回は、事件を表沙汰に出来るはずもないザラスの渉外の連中を散々つつき回してやったから大分スッキリしたわよ。あそこのお抱え弁護士、法律を盾にとっていちいち煩いのよねえ」
たっぷりミルクを落とし込んだ珈琲を飲み干し、邪悪な笑みを所長は浮かべた。まさか最初っからこれが目当てだったんではあるまいな。
「そうそう、亘理君。貴方宛にメールが届いているわよ」
「おれ宛に?」
事務所に届くというのもヘンなものだが。
「今転送したわよ」
携帯端末を確認し、納得した。差出人は門宮さんだった。名刺交換したわけでもないのだから、事務所に送るしかなかったのだろう。そこには簡単な挨拶と、今後は味方だと良いですね、との旨が添えてあった。
「スケアクロウの奴も、幸か不幸かすぐに業務復帰できるとさ」
「便利だなあ。ボクなんかまだ撃たれた肩が痛いのに」
ま、いつ敵と味方が入れ替わるかわからないこの業界だ。個人レベルで交流を深めておくのも、そう悪いことではないだろう。
「おっと。これから食事でもどうですか、だってさ~。ひょっとして意外と脈アリ??」
「……どうせウチの情報を色々教えてほしいってことじゃないの?」
なにやら冷たい気配が背後でするが、務めて無視。と、所長の携帯がメールの着信音を奏でた。あら、と液晶画面をみやる所長が、しばし沈黙する。
「……あ。じゃあおれ、これから金曜日の夜を満喫しますんでそれじゃ」
ほとんど草食動物の本能で腰を浮かす。
「亘理君。実は貴方向けの依頼が一件、たった今入ったんだけど」
「いやだってほらおれ以外にも今は直樹がいるわけだしってアレいねぇー!?」
「ん、直樹さんはついさっき帰ったよ」
あの薄情者。
「しょうがないね陽司。今日は諦めたほうが良いよ。ボクが付き合ってあげるからさ」
「そういうセリフはあと三年経ってから言おうな」
「いや別に一人で行ってきてもらってもかまわないんだけど?今度の依頼は、満月の夜に新宿の歓楽街で狼男が暴れまわってるから取り押さえて欲しいんだって。どうにも凶暴らしいわね」
「あのう見捨てないでください真凛サマ」
「いやボクこれから帰って宿題やらないと」
「ってえかマジでやるんですか?」
「今OKの返事を送っといたわ。担当名はあなたで。安心しなさい。これで滞納してた貴方のアパートの家賃もちゃんと払えるでしょ?」
何故におれの口座内容も把握しているのか。
「カンベンしてくださいよぉ」
おれの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
【1話完】
学校の講義が終わった週末。おれは今回の案件の給料を受け取るべく事務所を訪れていた。今週の土日は突発の事件もなかったようで、仕事の片付いた事務所の中、おれは学校の生協で買った週刊のゲーム雑誌を広げて、真凛と、先日豚のジョナサン君をどうにかとっつかまえた立役者である直樹らとのんびりだべっている、という次第。
「『同時発表のゾディアック・デュエル2にも大期待』だって?」
「こら、覗き込むなって」
おれと真凛があーだこうだと騒いでいると、書き上げた書類を処理済のトレーに放り込み、所長が自分の机から大きな伸びを一つしつつ立ち上がった。
「ま、それにしてもまたまた派手にやったもんねえ。ウチもたまには『人災』って呼ばれないようなスマートな仕事をしたいものだけど」
「そう思うならもうちっとまともな仕事回してくださいよ」
時間に余裕があればこんな強行突破はせずに済んだはずだし、だいたい今回は相手から喧嘩を売られたわけで、暴れたくて暴れたわけではない、はずだ。
「いやーでも今回は、事件を表沙汰に出来るはずもないザラスの渉外の連中を散々つつき回してやったから大分スッキリしたわよ。あそこのお抱え弁護士、法律を盾にとっていちいち煩いのよねえ」
たっぷりミルクを落とし込んだ珈琲を飲み干し、邪悪な笑みを所長は浮かべた。まさか最初っからこれが目当てだったんではあるまいな。
「そうそう、亘理君。貴方宛にメールが届いているわよ」
「おれ宛に?」
事務所に届くというのもヘンなものだが。
「今転送したわよ」
携帯端末を確認し、納得した。差出人は門宮さんだった。名刺交換したわけでもないのだから、事務所に送るしかなかったのだろう。そこには簡単な挨拶と、今後は味方だと良いですね、との旨が添えてあった。
「スケアクロウの奴も、幸か不幸かすぐに業務復帰できるとさ」
「便利だなあ。ボクなんかまだ撃たれた肩が痛いのに」
ま、いつ敵と味方が入れ替わるかわからないこの業界だ。個人レベルで交流を深めておくのも、そう悪いことではないだろう。
「おっと。これから食事でもどうですか、だってさ~。ひょっとして意外と脈アリ??」
「……どうせウチの情報を色々教えてほしいってことじゃないの?」
なにやら冷たい気配が背後でするが、務めて無視。と、所長の携帯がメールの着信音を奏でた。あら、と液晶画面をみやる所長が、しばし沈黙する。
「……あ。じゃあおれ、これから金曜日の夜を満喫しますんでそれじゃ」
ほとんど草食動物の本能で腰を浮かす。
「亘理君。実は貴方向けの依頼が一件、たった今入ったんだけど」
「いやだってほらおれ以外にも今は直樹がいるわけだしってアレいねぇー!?」
「ん、直樹さんはついさっき帰ったよ」
あの薄情者。
「しょうがないね陽司。今日は諦めたほうが良いよ。ボクが付き合ってあげるからさ」
「そういうセリフはあと三年経ってから言おうな」
「いや別に一人で行ってきてもらってもかまわないんだけど?今度の依頼は、満月の夜に新宿の歓楽街で狼男が暴れまわってるから取り押さえて欲しいんだって。どうにも凶暴らしいわね」
「あのう見捨てないでください真凛サマ」
「いやボクこれから帰って宿題やらないと」
「ってえかマジでやるんですか?」
「今OKの返事を送っといたわ。担当名はあなたで。安心しなさい。これで滞納してた貴方のアパートの家賃もちゃんと払えるでしょ?」
何故におれの口座内容も把握しているのか。
「カンベンしてくださいよぉ」
おれの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
【1話完】
0
よろしければ、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです!感想とか頂けると踊り狂ってよろこびます
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。


『五十年目の理解』
小川敦人
経済・企業
70歳を過ぎた主人公は、雨の降る土曜日の午後、かつての学生時代を過ごした神田神保町の古書店街を訪れる。偶然目にした「シュンペーター入門」と「現代貨幣理論(MMT)の基礎」に心を惹かれ、店主と経済理論について語り合う。若き日は理解できなかった資本主義の成長メカニズム――信用創造と創造的破壊――が、今では明確に見えるようになっていた。商社マンとしての45年間の経験を経て、理論と現実がつながる瞬間を迎えたのだ。MMTの視点を通じて、従来の財政観念にも新たな理解を得る。雨上がりの街に若者たちの笑い声を聞きながら、主人公は五十年越しの学びの価値を実感する。人生には、時間を経なければ見えない真理があることを悟り、新たな学びへの期待を胸に、静かにページをめくり始める。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる