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第1話:『副都心スニーカー』
◆11:鉄騎兵と戦闘少女-2
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銃弾が無数の弾痕を穿つ――天井に。
「なっ……」
スケアクロウが驚愕の叫びを上げる。真凛を捕らえたのは最初の一発のみ。後はまるで素人がオートマチックを撃ったかのように、反動で上に跳ね上がってしまったのだ。
「いったあ~~。覚悟したとはいえ、やっぱりそう何発も食らうものじゃないなあ」
肩を押さえて真凛がうめく。気をめぐらして防御し、インナー越しに受け止めたものの、拳銃弾を叩き込まれれば無傷のはずがない。だがそんな声もスケアクロウには届いていなかった。己の右腕が、その強さの拠り所となるはずの右腕が、無様にもげて地面に転がっていたのだから。
「右でツイてた。左だったらまだ『壊して』なかったもんね」
真凛が掌を開くと、硬い音がして、幾つかの金属部品と樹脂で出来た肉片が地面にこぼれ落ちた。それはまさしく、スケアクロウの肘を構成していたパーツだった。
「まだこっちは名乗ってなかったよね。人材派遣フレイムアップアシスタント。『殺捉者』七瀬真凛」
『七瀬式殺捉術』。それが真凛の実家に伝わる武術の名称である。戦国時代に端を発して江戸、明治の時代を経て醸成された日本の古武術の一派。その特徴は徹底した実戦主義にある。戦国時代での戦闘においての格闘技とは、あくまでも武器を失った時のものであり、そこに展開されるのは相手を傷つけて戦闘不能にする殴り合いや蹴りあいよりも、早々と地面に引き倒した方が勝ち、という戦い、いわゆる取っ組み合いである。確かにこの思想から、投げ技や関節技、急所への当て身を根幹とする古流の柔術が日本各地で発生した。だが、七瀬流の開祖はどうやら思い切った考えの転換を行ったようだ。
おおよその投げの開始となり、乱戦でもっとも多い「取っ組み合い」そのものを攻撃とする。一度相手の体をつかめばそこがどこであろうと握り潰し、砕き、引き千切ってしまえばいい。「捉えれば即ち殺す」、殺捉術の思想である。その要諦は強力な握力と、触れた構造の脆いポイントを一瞬のうちに探り出す繊細な指先の感覚にあるというが、そこらへんは門外不出の秘伝なのだそうだ。
たしかに原始的だが、それだけに応用範囲は広い。押え込まれても指一本相手に触れる事が出来ればそこから身体を抉る事が出来るし、先ほどのように敵の攻撃を捌きつつ関節を破砕する、などという荒業も可能だ。以上はすべて、当人からの受け売りだから、どこまで本当かはわからないが、実力の方はごらんの通り。
真凛が正統後継者として伝承した古武術とは、この凶悪極まりない戦闘技術である。聞くところによれば、家系の中でも特に秀でた才能だとかで、中学生時分において既に免許皆伝。後のストリートファイトはより実戦向けの調整を兼ねていたそうである。
ちなみに、世の中には愚かというか無謀というか、とにかく哀れな人間がいるもので、かつて彼女の同級生が電車で痴漢被害に遭ったそうな。その娘に相談された真凛はその痴漢の……つまり、あれを……引きちぎったとかちぎらないとか。あくまで噂だけど。少なくとも、真凛が女子高の同級生にやたらとモテることは事実である。こんな物騒な娘がアシスタントについている、ってだけでも、おれって同情してもらう価値が十分にあると思うんだけどなぁ。
既に破壊されていた腕は銃弾の反動に耐え切れず、ちぎれて落ちた。
「……っ」
間髪いれず左腕で攻撃態勢を取ったのは賞賛に値する。だが今度は真凛の方が早かった。ふらつく足に活を入れ懐に飛び込み、すくいあげるようにその左腕を押さえている。けたたましい金属音が鳴り響き、火花と共に今度は左腕が千切れ飛んだ。
「本当に強かった。スケアクロウ。あなた達みたいな強い人と、もっともっと戦いたい」
降り注ぐ金属部品の雨を抜け、そのまま後背に回り込む。衝撃波は、……もう間に合わない。スケアクロウが、観念の呟きを漏らした。
「……オミゴト。ヤングヤマトナデシコ」
真凛の指が、スケアクロウの背骨に伸び触れる。まるで繊細な場所を愛撫するかのようにつ、とその掌が僅かにその表面をなぞり、瞬く間に構造を看破する。
「『胡桃割』」
ごぎん、とイヤな音がして、スケアクロウの人造の脊髄は握りつぶされた。下半身への情報伝達機能を失った鋼の体が、重い音と共に倒れこんだ。
「なっ……」
スケアクロウが驚愕の叫びを上げる。真凛を捕らえたのは最初の一発のみ。後はまるで素人がオートマチックを撃ったかのように、反動で上に跳ね上がってしまったのだ。
「いったあ~~。覚悟したとはいえ、やっぱりそう何発も食らうものじゃないなあ」
肩を押さえて真凛がうめく。気をめぐらして防御し、インナー越しに受け止めたものの、拳銃弾を叩き込まれれば無傷のはずがない。だがそんな声もスケアクロウには届いていなかった。己の右腕が、その強さの拠り所となるはずの右腕が、無様にもげて地面に転がっていたのだから。
「右でツイてた。左だったらまだ『壊して』なかったもんね」
真凛が掌を開くと、硬い音がして、幾つかの金属部品と樹脂で出来た肉片が地面にこぼれ落ちた。それはまさしく、スケアクロウの肘を構成していたパーツだった。
「まだこっちは名乗ってなかったよね。人材派遣フレイムアップアシスタント。『殺捉者』七瀬真凛」
『七瀬式殺捉術』。それが真凛の実家に伝わる武術の名称である。戦国時代に端を発して江戸、明治の時代を経て醸成された日本の古武術の一派。その特徴は徹底した実戦主義にある。戦国時代での戦闘においての格闘技とは、あくまでも武器を失った時のものであり、そこに展開されるのは相手を傷つけて戦闘不能にする殴り合いや蹴りあいよりも、早々と地面に引き倒した方が勝ち、という戦い、いわゆる取っ組み合いである。確かにこの思想から、投げ技や関節技、急所への当て身を根幹とする古流の柔術が日本各地で発生した。だが、七瀬流の開祖はどうやら思い切った考えの転換を行ったようだ。
おおよその投げの開始となり、乱戦でもっとも多い「取っ組み合い」そのものを攻撃とする。一度相手の体をつかめばそこがどこであろうと握り潰し、砕き、引き千切ってしまえばいい。「捉えれば即ち殺す」、殺捉術の思想である。その要諦は強力な握力と、触れた構造の脆いポイントを一瞬のうちに探り出す繊細な指先の感覚にあるというが、そこらへんは門外不出の秘伝なのだそうだ。
たしかに原始的だが、それだけに応用範囲は広い。押え込まれても指一本相手に触れる事が出来ればそこから身体を抉る事が出来るし、先ほどのように敵の攻撃を捌きつつ関節を破砕する、などという荒業も可能だ。以上はすべて、当人からの受け売りだから、どこまで本当かはわからないが、実力の方はごらんの通り。
真凛が正統後継者として伝承した古武術とは、この凶悪極まりない戦闘技術である。聞くところによれば、家系の中でも特に秀でた才能だとかで、中学生時分において既に免許皆伝。後のストリートファイトはより実戦向けの調整を兼ねていたそうである。
ちなみに、世の中には愚かというか無謀というか、とにかく哀れな人間がいるもので、かつて彼女の同級生が電車で痴漢被害に遭ったそうな。その娘に相談された真凛はその痴漢の……つまり、あれを……引きちぎったとかちぎらないとか。あくまで噂だけど。少なくとも、真凛が女子高の同級生にやたらとモテることは事実である。こんな物騒な娘がアシスタントについている、ってだけでも、おれって同情してもらう価値が十分にあると思うんだけどなぁ。
既に破壊されていた腕は銃弾の反動に耐え切れず、ちぎれて落ちた。
「……っ」
間髪いれず左腕で攻撃態勢を取ったのは賞賛に値する。だが今度は真凛の方が早かった。ふらつく足に活を入れ懐に飛び込み、すくいあげるようにその左腕を押さえている。けたたましい金属音が鳴り響き、火花と共に今度は左腕が千切れ飛んだ。
「本当に強かった。スケアクロウ。あなた達みたいな強い人と、もっともっと戦いたい」
降り注ぐ金属部品の雨を抜け、そのまま後背に回り込む。衝撃波は、……もう間に合わない。スケアクロウが、観念の呟きを漏らした。
「……オミゴト。ヤングヤマトナデシコ」
真凛の指が、スケアクロウの背骨に伸び触れる。まるで繊細な場所を愛撫するかのようにつ、とその掌が僅かにその表面をなぞり、瞬く間に構造を看破する。
「『胡桃割』」
ごぎん、とイヤな音がして、スケアクロウの人造の脊髄は握りつぶされた。下半身への情報伝達機能を失った鋼の体が、重い音と共に倒れこんだ。
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