人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第1話:『副都心スニーカー』

◆11:鉄騎兵と戦闘少女-1

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 飛び交う銃弾をかいくぐり、滑り込むように地面すれすれに放たれた真凛の回し蹴りがスケアクロウの腓腹ふくらはぎを捕らえる。

「くっ!」

 だが、その声は真凛のものだった。足払いとしての威力は充分だったのだろうが、鋼の体の防御力とその足自体の重量が相まって、姿勢を崩すには到らない。攻守一転、振り下ろされる銃身を、まるでストリート系のダンサーのように回転、跳躍してかわす。しかしそれで終わりではない。右腕が振り下ろされると同時に、左腕の銃身がすでに真凛に向けられている。
 
 浮かび上がる『線』を咄嗟に身を捻って避ける。と、その一瞬後に空間をフルオートの掃射が走り抜けてゆく。間合いを離して再度仕切りなおし。真凛は大きく一つ、呼気を吐き出す。一撃離脱を繰り返すこと十数度。未だ目の前の鋼の塊には有効打を与えきれてない。

「まいったなあ。いくら弾道が見えるって言っても、これじゃ手詰まりだよ……」

 真凛の視界に銃口が移ったその時、彼女の脳裏に浮かぶ映像には、敵の銃器が形作る射線が、まさしく『光の線』となって描きこまれる。そして銃弾が放たれる前にこの『線』から身を外していれば、決して弾丸に当たることはない。

 五体を武器として戦う彼女が銃器に対抗できるのは、この銃弾を見切る能力があればこそである。それは決して超能力の類ではない。銃相手の戦闘で重要な要素は、銃口の角度と距離、銃と込められた弾丸によって決まる初速と弾道のバラツキ、敵の挙動から推定される狙撃ポイント、そして発射のタイミングである。真凛はそれを五感で捕らえつつ、そこから弾道を予測しているに過ぎない。

 だが、その過程を極限まで高速化した結果、予測は無意識の世界で行われ、その結果のみが『線』という情報の形で意識野に出力されているのだ。かつて一握りの武道の達人がたどり着いたという境地。だが彼女、七瀬真凛の流派では、最初からこれを目標として鍛錬する。それでこそ現代における武術である、とは七瀬の当主の弁だとか。

「全くタフなレイディデス……!ワタシの銃弾をコウモカイクぐってくれるトワ」

 スケアクロウは余裕ぶった発言をしようとしたが、端々に登る苛立ちがそれを裏切っている。接近戦型と見て、初弾でカタをつけようと放った最大火力の一撃をかわされ、あまつさえこうまでいいように一方的に打撃を叩き込まれているのだからそれも当然か。相手は生身、そして機動力が命だ。一発銃弾なり銃身の打撃が当たってしまえば自分の勝ちだと言うのに、その一発をどうしても当てることが出来ない。

 すでに初回のナパームによる炎は、スプリンクラーの散布もあり収まりつつある。まとわりつく水蒸気の中、恐らくスケアクロウの心中を占めるのは焦燥感だったろう。おれ達『フレイムアップ』が乗り出してくるからこそ、セキュリティをオフにしてこの正面からの戦いに持ち込んだのだ。このまま失敗でもすれば減俸どころか懲戒モノのはずだ。

 何としてもココでコイツを仕留める――そう決意したのか、義手のギミックが駆動し、新たな弾丸が装填される。その目に宿る光の色が、『当たり所が悪かったら死ぬかも』から、『当たり所がよければ生き残るかも』へと、わずかに、だが決定的な変化を見せ――

「ゲームセットでスヨ!!」

 スケアクロウの両腕が突き出される。弾種は……ナパーム!真凛の脳裏で、予測された『帯』が空間を切り裂く。その線に己の身を添わせるようにギリギリまで引き付けながら突進。己のわずか数センチ先の空間を炎の塊が抉り取り、大気が容赦なく振動となって皮膚に叩き付けられる。ここまでは先ほどまでの展開の焼き直しだ。後方の爆発をよそに疾走。みるみる距離が詰まり、一足一刀の間合いを突破。突き出された銃身を潜り、その肘を掌で捌いた。近接戦の間合い。敵は両腕の武器を使い切った。

 ――ここで、真凛は仕留めにかかった。必勝を期し、さらに一歩踏み込み、その脇を抜け跳躍。狙いは頭部。よもやここまで機械化されてはいまい。延髄に向けて研ぎ澄まされた手刀を振りぬこうとした、その時。スケアクロウと目が合う。そこに宿るは……改心の笑み!真凛の視界が突如危険な色で染まる。奴が想定するのは……『線』ではなく、巨大な『球』の攻撃。まさか。

「あぐっ……!!」

 人間離れした反射神経で咄嗟に急所を庇ったものの、スケアクロウから迸った『何か』は容赦なく真凛の体を貫いた。たまらず着地、後退する。

「ヤレヤレ……。コンナ裏技マデ使ワセテクレルトハ」

 じゃきん、と9mmを装填する金属音。銃口が真凛をまっすぐ見つめていた。対衝撃システム。精密機械を体内に埋め込む彼らにとって、時として、堅牢な装甲に受ける着弾や爆発のダメージよりも、その衝撃による内部の精密部品の損傷が深刻となる時がある。このシステムはそのような損傷を回避するため、衝撃を受ける際に自分からも小さな衝撃波を発生させて相殺させるという、一種の防御装置である。先ほどの一瞬、奴はこれを限界を超えた出力で稼動させ、真凛を叩き落としたのだ。こんなことをすれば奴自身もただでは済まないが、生身の真凛の被害はそれを遥かに上回る。

「か、はっ……」

 敢えて言うなら、巨大なスピーカーから至近距離で重低音を浴びた衝撃。あるいは車に乗っていて急停車したときに感じる圧迫感。それらの数倍のものを体内に叩き込まれたようなものだろうか。それでも転倒しないあたりはこの娘の積み上げてきた研鑚の賜物だった。だが、結局は立っているだけということだ。これでは先ほどの華麗な回避など望むべくもない。

「ちぇ……。この業界に強い人は多いって聞いてたけど。これからはこういう武器のことも考えておかなきゃならないのかな」

 必死に呼吸を整えてはいるが、その両足は思うように動かないということがありありとわかる。

「貴方に次ハアリマセン……」

 視線が交錯する。銃身から無数の弾丸が撃ち出された。
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