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第1話:『副都心スニーカー』
◆09:企業の傭兵、『派遣社員』-1
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結論から言ってしまえば、だ。
世の中は生真面目な方々が考えるよりは遥かにいい加減に出来ているし、夢見がちな方々が想像するよりは遥かに味も素っ気もありゃしない、ということになる。
機械化人間。超人的な戦闘力を持つ武術家。魔法使い。陰陽師。超能力者。吸血鬼。狼男。一人で一部隊を壊滅させるような凄腕の傭兵。特A級ハッカー。天才ドライバー。マッド・サイエンティスト。およそアクション系、ファンタジー系、伝奇系のコミックやら小説やらを見れば、まずこの中のどれか一つくらいは混じっているだろう。で、こういう連中が現実に存在するか、と問われれば、実は割とホイホイ実在してたりする。それも結構な割合で。
では、そういった連中、一般人とは質、あるいはレベルが異なるひとびと、すなわち『異能力者』達にはすべて、愛憎交差する復讐劇の主人公や、あるいは冷酷無比の悪役、世界を支配する野望に燃えた黒幕、あるいは滅び行く世界の救世主といった役割が与えられるのか?と問われれば、答えは明確に”否”である。
文明が未熟だった頃はいざ知らず、科学と情報が発達した現代においては、個人に備わる異能力が周囲にもたらす影響は恐ろしく小さい。例えば物理的な戦闘では、人狼や吸血鬼が如何に戦闘に秀でており、ヤクザや不良を容易に叩きのめす事は出来るといっても、武装した軍隊を正面きって相手に出来るほど強くは無い。空を飛べることは出来ても飛行機にはかなわない。力が強くても重機には及ばない。
スーパーハッカーやドライバー、武道家はあくまでも人間の限界であり、それ以上ではないのだ。機械化人間やマッドサイエンティストも同義。彼らは現代文明の先端、もしくは異質なベクトルではあっても、決してそのカテゴリーを逸脱することは無い。
そして呪術や魔術、陰陽術。これらはもともと人類の歴史と裏表の関係にあり、『一般に理解されてはいないが、知っているべき人はちゃんと知っている』ものに過ぎない。術法で出来ることは、大概が現代科学でもっと効率よく実現することが可能なのだ。実在しないとされるからこそ、世間様は魔術や呪術に憧れと畏れを抱くのである。
実在を知り、その効能と限界を弁えている人間にとっては――実際のところ、長い時間をかけて修得するほど魅力のあるトピックスではないのだ。たとえば『時速百キロで移動する魔法』があるとしても、それを身につけるための修行期間や、儀式を行うための手間暇コストを考えれば、普通車の免許を取って中古車でも買った方が遥かに効率良く確実なのである。
これらを総合すれば、こうなる。
『異能力者は珍しくはあっても、さして貴重ではない』
彼らの存在は一般人にはあまり知られてない。出会えば珍しいし、個別には憧れや嫉妬を抱かれる存在ではある。だが、彼らの能力のほとんどは、設備、資金、時間さえあれば充分に代替可能であり、社会的に大して影響を持ってはいないのだ。まれに世界征服の野望に燃える吸血鬼や選民主義を掲げる超能力者など、ベンチャー魂に燃えるカリスマが現れることもあるが、大概が一般世界の権力者達に潰されて終わってしまっている。特殊な人間が内包する百の力は、一の力を持つ凡人一万人が百年かけて積み上げた文明には決して打ち勝つことは出来ない、ということ。
こうなってしまうと異能力者達の立場というのは非常に微妙なものとなってしまう。彼らは一般社会から逸脱した存在でありながら、そこから独立して己の世界を築けるほど強力ではないのだ。かつて彼らが小さな社会で絶大な影響力を持つことが出来た神話と迷信の時代が終わり、中世あたりになるとこの流れは顕著になり、多くの異能力者は己の居場所を追い出され、あるいは見つける事に苦慮することとなった。
だが、それが近代を経て現代に到ると、彼らにも、そして一般社会にも変化が訪れる。両者をつなぐ受け皿の登場である。
居場所の無い異能力者に仕事と生活基盤を与える。そして社会に対しては、『設備や資金、時間が充分ではない』状況で発生する難問を解決するための切り札を提供する。それはかつては魔術師達の秘密結社、あるいは邪悪な同朋を討つ吸血鬼達の連盟、正義の超能力戦士グループだったそうだが、二十一世紀に入っての現在は、より包括的に様々な異能力者を取りまとめる組織へと統合されつつある。それがおれ達『フレイムアップ』や、あのスケアクロウが所属する『シグマ』のような『人材派遣会社』なのだ。
世の中は生真面目な方々が考えるよりは遥かにいい加減に出来ているし、夢見がちな方々が想像するよりは遥かに味も素っ気もありゃしない、ということになる。
機械化人間。超人的な戦闘力を持つ武術家。魔法使い。陰陽師。超能力者。吸血鬼。狼男。一人で一部隊を壊滅させるような凄腕の傭兵。特A級ハッカー。天才ドライバー。マッド・サイエンティスト。およそアクション系、ファンタジー系、伝奇系のコミックやら小説やらを見れば、まずこの中のどれか一つくらいは混じっているだろう。で、こういう連中が現実に存在するか、と問われれば、実は割とホイホイ実在してたりする。それも結構な割合で。
では、そういった連中、一般人とは質、あるいはレベルが異なるひとびと、すなわち『異能力者』達にはすべて、愛憎交差する復讐劇の主人公や、あるいは冷酷無比の悪役、世界を支配する野望に燃えた黒幕、あるいは滅び行く世界の救世主といった役割が与えられるのか?と問われれば、答えは明確に”否”である。
文明が未熟だった頃はいざ知らず、科学と情報が発達した現代においては、個人に備わる異能力が周囲にもたらす影響は恐ろしく小さい。例えば物理的な戦闘では、人狼や吸血鬼が如何に戦闘に秀でており、ヤクザや不良を容易に叩きのめす事は出来るといっても、武装した軍隊を正面きって相手に出来るほど強くは無い。空を飛べることは出来ても飛行機にはかなわない。力が強くても重機には及ばない。
スーパーハッカーやドライバー、武道家はあくまでも人間の限界であり、それ以上ではないのだ。機械化人間やマッドサイエンティストも同義。彼らは現代文明の先端、もしくは異質なベクトルではあっても、決してそのカテゴリーを逸脱することは無い。
そして呪術や魔術、陰陽術。これらはもともと人類の歴史と裏表の関係にあり、『一般に理解されてはいないが、知っているべき人はちゃんと知っている』ものに過ぎない。術法で出来ることは、大概が現代科学でもっと効率よく実現することが可能なのだ。実在しないとされるからこそ、世間様は魔術や呪術に憧れと畏れを抱くのである。
実在を知り、その効能と限界を弁えている人間にとっては――実際のところ、長い時間をかけて修得するほど魅力のあるトピックスではないのだ。たとえば『時速百キロで移動する魔法』があるとしても、それを身につけるための修行期間や、儀式を行うための手間暇コストを考えれば、普通車の免許を取って中古車でも買った方が遥かに効率良く確実なのである。
これらを総合すれば、こうなる。
『異能力者は珍しくはあっても、さして貴重ではない』
彼らの存在は一般人にはあまり知られてない。出会えば珍しいし、個別には憧れや嫉妬を抱かれる存在ではある。だが、彼らの能力のほとんどは、設備、資金、時間さえあれば充分に代替可能であり、社会的に大して影響を持ってはいないのだ。まれに世界征服の野望に燃える吸血鬼や選民主義を掲げる超能力者など、ベンチャー魂に燃えるカリスマが現れることもあるが、大概が一般世界の権力者達に潰されて終わってしまっている。特殊な人間が内包する百の力は、一の力を持つ凡人一万人が百年かけて積み上げた文明には決して打ち勝つことは出来ない、ということ。
こうなってしまうと異能力者達の立場というのは非常に微妙なものとなってしまう。彼らは一般社会から逸脱した存在でありながら、そこから独立して己の世界を築けるほど強力ではないのだ。かつて彼らが小さな社会で絶大な影響力を持つことが出来た神話と迷信の時代が終わり、中世あたりになるとこの流れは顕著になり、多くの異能力者は己の居場所を追い出され、あるいは見つける事に苦慮することとなった。
だが、それが近代を経て現代に到ると、彼らにも、そして一般社会にも変化が訪れる。両者をつなぐ受け皿の登場である。
居場所の無い異能力者に仕事と生活基盤を与える。そして社会に対しては、『設備や資金、時間が充分ではない』状況で発生する難問を解決するための切り札を提供する。それはかつては魔術師達の秘密結社、あるいは邪悪な同朋を討つ吸血鬼達の連盟、正義の超能力戦士グループだったそうだが、二十一世紀に入っての現在は、より包括的に様々な異能力者を取りまとめる組織へと統合されつつある。それがおれ達『フレイムアップ』や、あのスケアクロウが所属する『シグマ』のような『人材派遣会社』なのだ。
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