人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第1話:『副都心スニーカー』

◆03:大人気ゲーム、その業界裏事情−1

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 減速したライトバンが駐車スペースにすっぽりと収まる。サイドブレーキを引き上げハンドルから手を離し、おれは一息ついた。隣では助手席に座った真凛が静かに調息をはかっている。

「着いたぞ」

 キーをオフにしてシートベルトを外す。

「……ああ、怖かった」
「何が?」

 後部座席のバックを引きずり出し、車を降りる。

「アンタの運転だよ!?何アレ!?本当に免許取れたの!?」
「失礼な。ちゃんと路上で六回も念入りに試験受けたんだぞ。しかも取れ立て新鮮だ」
「うっはあ、そんなので『おれが運転するよ』なんて言うなぁー!!」
「しゃーないだろ。ここまで来るにゃあ電車じゃちときついし、おまえは免許ないんだから」

 言いつつ、おれ達はエレベーターを使って立体駐車場を抜けた。そこは空中歩道につながっており、周囲の景色を一望することが出来た。おれは手すりに組んだ腕を乗せ、街並みを一望する。

 どうにも非現実的な街である。つい先ほどまでごみごみした都内に居たから余計にそう感じるのかもしれないが、車幅の広い道路が三車線敷設されていると本当にここは日本なのか、などと思ってしまう。そしてその上に張り巡らされた空中歩道と鉄道、モノレール。海を四角く切り取ったその地形はただただ平たい。そしてその大地を早い者勝ちで奪いあったように存在するだだっぴろい駐車場と、何かの冗談のように広くてでかいビル、何に使われるのかもわからない奇妙なデザインの建造物。住む街ではなく、訪れる街。それがここ、東京の東部に広がる臨海副都心に対するおれの印象だった。

「うーん。ボクここってあんまり来たことないんだよね。涼子が時々イベントで行くとか言ってたけど」

 夏の日差しとかすかに潮を含んだ風を浴びながら、おれ達は歩道を進み始めた。

「涼子ちゃんが?歌の方で?」
「うーん。違うと思う。何かマンガを買いにいくとか言ってた」
「そりゃ多分直樹と同類かな。おれも去年の末はなにやら手伝わされたっけ」

 ちなみに涼子ちゃんというのは事務所に時々顔を出す真凛の同級生である。お嬢様なのだが裏の顔はバリバリのメロディック・メタルのボーカルで、アマチュアながら最近はちょっと有名なんだとか。普段は凄く大人しくていい子なんだがなー。

「ま、お前が行くとこっつったら新宿の裏通りだしな」
「失礼だなあ。ちゃんと渋谷に買い物とかも行ってるよ?」
「東急ハンズのプロテインとかか?」

 真凛の貫手が脇腹を抉り、おれはそのまま悶絶した。口で詰まると手を出すのは何とかならんかこの娘っ子は。そんな会話を続けながら五分も歩くと、おれ達はやがて目的のビルにたどり着くことが出来た。

 広大な駐車場の真ん中に、ニョッキリと聳え立つ四十三階建て総ガラス張りの高層ビル。ガラスに反射した西日がおれ達を容赦なく炙っている。その敷地面積は郊外に出展されるスーパーマーケットのそれを恐らく上回っていると思われた。おれ達が今いる空中歩道がそのまま二階のエントランスへ直結しており、一階にはメインエントランスの他、裏にはビル内のショップの品物用だろう、大型トラック用の資材搬入口がある。ビルの前には庭園が広がっており、遠隔制御された噴水が流体力学のアートを描きあげていた。その側には名のある芸術家が作ったのだろうか、怪しげな形状のオブジェクトが複数。オフィス機能は無論のこと、商業スペース、外食、憩の場、ホテル、アミューズメント等の機能をすべて取り込んだその姿は、もはや一企業の本社ビルというより、ひとつの庭園都市である。

 ――外資系アミューズメント総合企業『ザラス』日本法人本社ビル。

「ここに、目的のものが眠っているってことだよね」
「情報戦でヘタ打ってなきゃ、な。さてどうしたものか」

 芸術性に富んだ高層ビルを見て、堅牢な城砦の攻略法を考えなきゃいけない大学生は、今日びおれくらいのものだろう。行動開始にあたっておれは携帯端末に収めたドキュメントをチェックし、先日の任務の内容を再度思い起こした。
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