神の自分探し

コトナガレ ガク

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第十三話 到着

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 エージェントに襲われることも無く二日後、甲板に立つ俺の目にソドムゴモラが見えてきた。
 流石都市国家、辺境の街などとは規模が違う。10メートルは超す高い街壁に囲まれ左右の端は視界に入らない。そしてその高い外壁から抜き出る街の中央にある丘の上に建つ金色の巨城が見える。
 街の正門には商隊が長い行列を作って内部に入る順番待ちをしているのが見える。
 活気の桁が違うな。これは楽しみだ。
「嫌な匂いがする」
 俺の傍に控えるイーヌが呟くのが聞こえたが、俺には特に何も感じない。まあ、これから向かう街の住人のいる前で問い糾す事じゃないと流した。
「シーノレ、このまま街に入るのか?」
「いえ防衛上この船が入れるような門は設置していません。代わりに此方から見えない東門が港になっており、そこに停泊します」
「そうか」
 シーノレの言う通りほどなく東側に回ると、そこには陸の上に海の上の港の様な施設が作られていた。桟橋が幾つかあり、この船以外にも陸上艦が2隻ほど停泊して荷物の積み卸しを行っているのが見えた。
 少なくてもこのような陸上艦を3隻もオーク族は所有していることになる。ファンタジーのオーク族と言えば脳筋絶倫のイメージが強いが、この世界のオークは街を作り船を所有し富を溜め込む。イーヌのドッガー族は主神を滅ぼされ没落する一方だというのに、オーク族は滅ぼされることなく栄え栄華を極めている。ドッガー族とオーク族、一体何が明暗を分けたのか? 単純に主神の力か、種族としての強さか。この世界で覇権を狙う以上知る必要がある。
 そういった意味では没落する一族と栄華を極める一族を一度に見ることが出来るのは幸運とも言える。
 考え事をしている内に船は桟橋に着き、俺達はタラップを伝って陸に上がる。まあ、元々陸の上にいたのだが。
 降り立つ桟橋の上には荷下ろしされる荷物に混じって、鎖に繋がれた人間が列を作って歩かされている。年頃は十代後半から三十代くらいと労働力や性的玩具にと適した男女、極端な年寄りや子供はいないのが救いなのか。それとも価値も無いと既に・・・。あまり考えるのはよそう、これから会うベヒモスにあまり先入観を持ちたくない。
 彼等は一糸纏わぬ裸にされ手枷と首輪を嵌められ鎖で連結させられている。裸にしたり互いに鎖で繋げたりして屈辱を与えつつも逃亡防止も計る、下手に恩情を掛けない徹底したもの扱い。
 ぎゅっ、突然服の端を握られるのを感じた。
 見ればイーヌが俺の服の裾を握っている。顔を見れば辛そうな表情で奴隷達から目を背けている。この光景を見て心を痛め、飛び出そうとする己の正義感を必死に抑えているのがありありと読み取れる。
 対して俺は、そういうものかと簡単に割り切れてしまった。野生動物がどういう生態をしてもそういうものかと思えてしまう感覚に似ている。人間の頃だったら、力の無い己を恥じて口を閉ざしていただろうが、多分心は痛めていた。やっていることは同じでも中身は違う。
 イーヌが何かを期待するように俺を見ているが、俺は敢えて気付かないふりをする。
「あれは?」
 俺はシーノレに聞く。
「敵国の街を襲って攫ってきた人間共です。彼等は商品として売買されます」
 どこか誇らしくシーノレは言う。まあ神々が争う戦国時代じゃ、奴隷を狩るのは強さの証とも言えるか。別に邪悪な精神とは思わない、元の世界だって300年くらい前に戻れば、これが普通の世界だったことだし。
「そうか」
「ようよう」
 近付いてきた何やらじゃらじゃら宝石で飾ったオークが俺とイーヌを交互に見ながらシーノレに話し掛けてくる。
「そいつはお前が捕らえてきた奴隷か? 女も男も極上じゃないか、何処で狩ってきた?」
 此奴俺を捕まえて奴隷と言ったのか?
「息が臭いぞ、口を閉じろ豚」
 俺は無礼なオークに寛大なる心で慈悲を持って命じる。
「ああ、この奴隷面白いこと言いやがったぞ」
「よせ、その方は・・・」
「二度言ったな」
「なまい・・・・うぎゃああああああああああああああああああああああああああ」
 無礼なオークは絶叫を上げ、俺の手には引き抜いたオークの舌が摘ままれていた。
 元の世界、豚タンは結構好きだったが、これは食えるのか? 流石に生は無理か、豚は寄生虫が怖い。俺は舌を放り投げた。
 さて舌を引き抜かれたオークは未だ地面をのたうち回っている。
「おい、謝罪はまだか?」
「おごっごごごご」
 オークは神である俺の問いに答えない。神が命じているんだ、舌を引き抜かれた程度の激痛など言い訳にならない。
 そんな不遜なる輩は。
「お待ち下さい」
 シーノレが俺の前に立ち塞がる。
「なんだ。まさか、俺があの無礼なオークに罰を下すのを邪魔する気か?」
「慈悲を頂けませんか」
「慈悲だと。俺は一度与えたぞ。それを無視したのは彼奴だ。なぜ俺が二度も与えてやらなければならない?」
「クノヌはこの街で一二を争う奴隷商です。後でムジョウ様に気に入った奴隷50人をお譲りします」
「お前俺を舐めているのか?」
「いえそんなことは」
 俺の凄みに全身から脂汗を流しながらもシーノレはちゃんと答える。
 そうそれこそが神に対する態度、あそこの豚に此奴同様の神を敬う気持ちがあればこんな事態には成らなかっただろうに。
「なら桁が違うだろ?」
「100人お渡しします」
「ほう~。本当にそれでいいのかクノヌとやら?」
 俺の最後の問い掛けにクノヌは口を手で押さえならが地面に頭を打ち付けるように頷いた。
「よかろう。供物を捧げるというなら神として怒りは治めてやろう」
「ありがとうございます」
 シーノレは深々と頭を下げた、つくづくオークらしくない苦労性な奴だ。クノヌとか言う奴の方がよっぽど俺の知るオークらしい。
 しかし、今の行為元の世界なら完全に因縁を付けて金を市民から巻き上げるヤクザだな。元の世界もこの世界も、力があれば何でも出来る大して変わらないものだ。
「もう良い。早く案内しろ」
 ほとんど労力を使わずに奴隷百人を手に入れた。気分も高揚するというものだが。
「直ぐに馬車を用意します」
「いやいい。折角だ歩いて観光したい」
「ですが」
「問題あるのか?」
「いえ。では私が護衛します」
「監視などいなくても逃げないぞ」
「護衛です」
 シーノレはまじめに護衛と言い張る。
 まあいい、此奴のオークラらしからぬ仕事に対する実直さに免じてやるか。
「おっそうだいけない、思い出した。ルミナスはどうした?」
「はっ私の部下が」
 シーノレが指差す方には駕籠を持つように二人のオークの肩に担がれた棒に裸で括り付けられたルミナスがいた。エージェントにまで上り詰めた女が、街中でこの格好を晒すのはさぞや耐えがたい屈辱だろうな。
 そう思いまた新たな責め手を思い付いた。
「ルミナス、俺を様付けで呼んでみろ。そうしたら裸で晒し者にするのは勘弁してやるぞ」
 俺はルミナスの隠せない裸体を見下ろしながら言う。
「巫山戯るなっ」
 棒に括り付けられ逆さに向けられながらも俺を睨み付けてくる顔は凜々しかった。
 この女まだ折れていないか。寧ろそれでこそ神に選ばれしエージェントか。
「そう尖るな。俺に反抗心を向けると神罰が疼くだろ」
「んはあっ。このくらい」
 可愛い吐息を一瞬出したがルミナスは直ぐさま耐える。
「俺を様付けで呼ぶだけだぞ。なにもミネルヴァ軍の陣容を教えろと言っているわけじゃない。この程度当たり前のこと、神を様付けで呼ぶだけのことだぞ」
「くううう」
「いいのか。そんな発情している姿をオーク共に晒されて、女として終わってしまうぞ?
 俺はそんな可哀想なことをしたくないんだ。俺を助けると思って」
 優しく優しく俺は囁く。
 実際問題こんないい女を裸で晒してオークの街を練り歩いたらどうなるか? ちょっと考えただけでトラブルがうようよ寄ってくるのが分かる。
「お前を助けるため」
「そう自分の為じゃない。俺の為に、ね」
 俺は譲り受けたこの肉体の可愛いショタ顔で微笑む。
「そうだ私が助かりたいためじゃない、お前を助けるために呼んでやる」
 そうそう。しかし大分思考が麻痺してきているな。俺の為だなんて、邪神のために何かをするなんて、それこそあってはならないことだろうに。
「ムジョウ様」
「よしよしいい娘だ」
 俺は褒美とばかりに呼ばれた瞬間そのツンと天に向かって尖る乳房を軽く愛撫してやる。
「はうんん」
 ルミナスは俺に愛撫された絶頂で気を失った。
 俺を様付けした俺を敬愛した瞬間に褒美を貰えた。この二つが躰の中で結びつくようになれば、もうこの女は俺に逆らえなくなる。
 上手くすれば敵のミネルヴァのエージェントを此方に寝返らせられる。
 くっく。
「さて時間を食ったな。街の見学と行こうじゃ無いか」
 こうして俺はオークの街に入るのであった。
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